閉じられた世界(脚本)
〇交番の中
警官「少しは落ち着いたかい?」
貴石(たかし)「はい、おかげさまで・・・」
警官「作神村に戻ってはダメだよ。 あの村は呪われているんだ」
貴石(たかし)「・・・何かご存じなのですか?」
警官「君のために言っている。 これ以上、深入りしてはダメだ」
貴石(たかし)「はぐらかさないでください!」
警官「・・・・・・」
警官「ワシは作神村の出身なんだ。 生き残った三人のうちの一人さ」
警官「だから、あの村で何が起きているのかは 把握しているつもりだよ」
貴石(たかし)「だったら教えてくれませんか? もう、何が何だか・・・」
警官「ハナさんの霊力が暴走し、 村を結界のように覆っているんだ」
警官「いきなり突拍子もないことを 言い出したと思うだろうが、 これは事実なんだ」
警官「死してなお、 ハナさんの力は衰えを知らぬようだね」
貴石(たかし)「そんなはずが・・・ だって、彼女は行方不明なんでしょ?」
貴石(たかし)「実は生きている、 ってコトもあり得るんじゃないですか?」
警官「行方不明といっても、 要は「土砂に埋もれて見つかっていない」 という意味だからね」
貴石(たかし)「僕はそんな与太話、信じない。 だってこの目で見たんだから・・・」
警官「あっ、こらっ。 どこに行くつもりだい!」
〇林道
ハナちゃんが既に亡くなっている?
メイコさんやヒロト君も?
そんなわけ、ないじゃないか・・・
あのお巡りさんの言うことを
真に受けちゃダメだ。
・・・とにかく村へ戻ろう。
匡利さんなら、
何か事情を知っていたのかな?
彼が井戸に落ちてから、
既に半日以上経過している。
もう彼から話を聞くことは
できないけど・・・
貴石(たかし)「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」
僕は作神村へと向かう道を登った。
相変わらずの荒れた道。
昨晩はあんなに苦労したのに、
今日はすんなりと
村へと辿り着くことができた。
〇広い和室
まずは、ハナちゃんの無事を
確かめないと・・・
嗣昭さんは「何もしない」と言ったけど、
あんな奴の言葉は信じられない。
この目で確かめるまで、
安心はできなかった。
貴石(たかし)「・・・ハナちゃん、いる?」
ハナ「貴石さん!! 無事だったのですね・・・」
貴石(たかし)「ただいま、ハナちゃん」
僕はそっと彼女の手を取った。
その手は柔らかく、温かい。
・・・やはり彼女は死者なんかじゃない。
僕は間違っていなかった。
ハナ「まだお兄様が戻ってこないの・・・」
ハナ「私、お兄様がいないと 生きていけない・・・」
貴石(たかし)「僕がいるから」
ハナ「えっ・・・」
貴石(たかし)「たとえお兄さんが見つからなくても、 僕が君を守ってあげる。 ひとりぼっちにはさせないよ」
ハナ「本当に・・・?」
貴石(たかし)「うん、約束する」
〇宇宙空間
晴れて僕たちは恋人同士となった。
しばらくはこの村に滞在し、
嗣昭さんの隙を見て彼女を連れ出そう。
まずは海を見せてあげたいな。
それから、港にあるショッピングモールへ
連れていこう。
2人暮らしになるんだし、
バイトも増やさないといけないね。
貴石(たかし)「見て! ペルセウス座流星群だよ」
ハナ「消える前にお願いごとをしなきゃ・・・」
ハナ「・・・いつまでも貴石さんと 一緒に居られますように」
貴石(たかし)「ハナちゃん・・・」
ハナ「ずっと一緒ですよ?」
貴石(たかし)「もちろんさ!」
もうすぐ大学が始まるが、
気にしないことにした。
だって僕には、
それ以上に大切な人がいるのだから。
〇黒
そして数日後──
〇広い和室
匡利(まさとし)「遅かったか・・・」
ハナ「お、お兄様! ひどい怪我だわ」
貴石(たかし)「匡利さん、生きていたんだ・・・」
匡利(まさとし)「憎まれっ子 世にはばかる、というだろ?」
匡利(まさとし)「まぁ、その命運も尽きそうなんだが・・・」
どうやら自力で井戸から脱出したらしい。
匡利さんの傷は深く、
どう見ても致命傷だ。
既に体力は尽き、
意志の力だけで、動き続けている・・・
匡利(まさとし)「貴石、あんたを巻き込みたくなかった。 だがもう無理だ」
匡利(まさとし)「俺の命はもうすぐ消える。 だから、 今度はお前がハナを支えるしかない」
匡利(まさとし)「既に「ずっと一緒」だと 約束してしまったみたいだからな・・・」
ハナ「ええ、私は貴石さんとずっと一緒です」
ハナ「何があっても、私は貴石さんから 離れませんからね?」
ハナ「世界が終わりを告げたとしても、 私たちは一緒です」
ハナ「約束ですよ?」
ハナ「もし、約束を破ったりしたら・・・」
ハナ「私はあなたを地の果てまで追いかけ・・・」
ハナ「呪うわ」
貴石(たかし)「は、ハナちゃん・・・ どうしちゃったの? なんか怖いよ?」
ハナ「うふふ、怖いだなんてひどいわ」
匡利(まさとし)「ハナは既に亡くなっている。 そして、自分の死を理解していない」
匡利(まさとし)「悪霊と化した彼女の霊力が この村を覆い、 在りし日の姿を俺たちに見せているんだ」
匡利(まさとし)「俺はハナを呪縛から解き放って やりたかった」
匡利(まさとし)「あと少しで・・・ 鎮魂の術が完成しそうだったのに・・・」
匡利(まさとし)「彼女を成仏させることができたのに・・・」
匡利(まさとし)「残念だよ・・・」
貴石(たかし)「あっ、匡利さんっ!?」
血を吐きながら、
匡利さんは畳の上に倒れ込んだ。
彼の苦しそうな表情から、
果たせなかった無念さが伝わってくる。
いくら声を掛けても、
彼はぴくりとも動かなかった。
ハナ「お兄様は逝ったわ」
ハナ「でも、私には貴石さんがいる・・・」
貴石(たかし)「・・・・・・」
貴石(たかし)「僕は診療所まで行って、 医者を呼んでくる。 このまま匡利さんを放置できないよ」
ハナ「分かりました。 ・・・待ってますね」
貴石(たかし)「う、うん。・・・すぐ戻ってくるよ」
〇林道
僕は隣町へ向かって駈けだした。
貴石(たかし)(ハナちゃんが悪霊?)
貴石(たかし)(そして、僕とずっと一緒に?)
貴石(たかし)(いやいや、無理だって! 悪霊なんて恐ろしすぎる!)
嗣昭(つぐあき)「どこに行くつもりかい? 君はもう、この村から出られないよ」
ヒロト「兄ちゃんはもう、 村の一部になっちゃったからね」
メイコ「ハナさんの世界からは出られませんわ」
嗣昭(つぐあき)「この閉鎖世界も悪くないよ? ほら、私はこんなに幸せだ」
嗣昭(つぐあき)「ハナちゃんの霊力のおかげで、 失ったはずの妻子が 戻ってきてくれたんだ!」
貴石(たかし)「ひ、ひぃ・・・」
貴石(たかし)「来るな・・・ 僕に近寄るな・・・」
貴石(たかし)「うわあぁぁぁぁ~!」
〇村に続くトンネル
貴石(たかし)(あのトンネルを抜ければ、 村から出られる・・・!)
貴石(たかし)(よし、行くぞ!)
ハナ「・・・・・・」
ハナ「貴石さんの嘘つき・・・」
貴石(たかし)「ハナちゃん、いつの間に・・・」
ハナ「私たちはずっと一緒よ。 そう誓ったじゃない?」
ハナ「あなたがお兄様を 退場させてしまったのだから、」
ハナ「ちゃんと責任を取って」
ハナ「逃げることは許さないわ」
貴石(たかし)「ご、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ!」
ハナ「貴石さんの嘘つき・・・嘘つき・・・」
貴石(たかし)(ま、まずい。 これ以上彼女を刺激してはダメだ)
貴石(たかし)「僕はハナちゃんを愛してるよ」
僕は取り繕うように愛の言葉を囁いた。
確かに僕は彼女を愛していた。
・・・悪霊だと知るまでは。
ハナ「本当!? 嬉しいわ・・・」
ハナ?「私がどんな姿でも、 変わらず愛してくれる?」
貴石(たかし)「ひっ・・・た、助けて・・・」
ハナ「そうだ、 2人きりで結婚式を挙げましょう」
ハナ?「神様の前で永遠の愛を誓うの」
ハナ「村の人たちも皆、祝福してくれるはずよ」
貴石(たかし)「あ、ああ・・・」
もう逃げられない。
匡利さんがそう発言した意味を
僕はようやく理解し始めた。
唯一、
ハナちゃんの魂を鎮めることができた
匡利さんはもういない。
このまま僕は、
ハナちゃんが作り出した幻の中で
生き続けるのだ・・・
〇村に続くトンネル
警官「これでよし、っと・・・」
警官「結局、あの若者は戻ってこなかったな」
警官「ワシの忠告を聞いていれば、 あんなことにはならなかったのに」
警官「すまん、 無力なワシにはどうすることもできん」
警官「願わくば、村へ迷い込む者が 二度と現れませんように・・・」
〇黒
BAD END
全4話の完結、おつかれさまでした。
呪われし作神村のかりそめの穏やかな日々、第一話から読み返してみるとゾワゾワとした恐怖感がさらに増しますね。ハナさんのカタカナ表記、新聞記事での漢字表記を見たときに違和感を感じていましたが、作中の登場人物全てですか。。それも意識して読み返すと一層、、、ですね!