シアワセの村

はやまさくら

生き証人(脚本)

シアワセの村

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〇枯れ井戸
匡利(まさとし)「・・・それで話とは何だ?」
嗣昭(つぐあき)「ハナちゃんのことだよ。 匡利君さ、 そろそろ妹離れした方が良いと思うよ?」
匡利(まさとし)「ふん、くだらん。 俺は本当に妹のことを考えているだけだ。 貴様の願いなど知らん」
嗣昭(つぐあき)「私もメイコやヒロトが大切だからね。 家族を想う気持ちは分かるよ?」
嗣昭(つぐあき)「そもそもさ、君の禰宜としての力より、 ハナちゃんの巫女としての力の方が 大きいんだから・・・」
嗣昭(つぐあき)「君にハナちゃんの代わりはできないよ。 無駄なことは止めなさい」
匡利(まさとし)「分かっている。 だから、俺は時間をかけて、 綿密な準備を行ってきたんだ」
匡利(まさとし)「俺は絶対に成し遂げる!」
嗣昭(つぐあき)「・・・迷惑なんだよ」
匡利(まさとし)「あなたにとっては、そうだろうな」
嗣昭(つぐあき)「匡利君も楽になればいいと思うよ。 ハナちゃんのことは 貴石君に任せれば良いじゃないか」
匡利(まさとし)「他人を巻き込むつもりはない」
嗣昭(つぐあき)「そう?」
嗣昭(つぐあき)「でも、ハナちゃんは貴石君のことを 気に入っているみたいだし、 きっとうまくいくよ」
嗣昭(つぐあき)「匡利君も妹の世話から解放されるんだよ?」
匡利(まさとし)「俺はハナのことを 面倒だなんて思ったことはない」
嗣昭(つぐあき)「美しい兄妹愛だね。 でも、そろそろおしまいにしようよ?」
貴石(たかし)「今だっ!!!」
匡利(まさとし)「うぅ・・・」
貴石(たかし)「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
嗣昭(つぐあき)「油断したね、匡利君。 敵は一人じゃないんだよ?」
嗣昭(つぐあき)「さて、仕上げに入ろう」
匡利(まさとし)「・・・・・・」
  嗣昭さんは躊躇することなく、
  古井戸へと匤利さんを突き落とした。
  抵抗することなく、
  匡利さんは落ちていった・・・
  嗣昭さんは井戸を板台で覆い、
  その入口を塞ぐ。
  そして、何事もなかったかのように、
  僕に微笑んだ。
貴石(たかし)「ちょ、ちょっと! 嗣昭さん、話が違いますよ!」
貴石(たかし)「匡利さんには少し痛い目を 見てもらって、」
貴石(たかし)「そのままロープで拘束するんじゃ なかったんですか!?」
嗣昭(つぐあき)「・・・ああ、そうしたかったんだけどね。 もう面倒になっちゃってさ。 どうせ匡利君とは意見が合わないし」
貴石(たかし)「この高さから落ちたら、 さすがに匡利さんも・・・」
嗣昭(つぐあき)「そうかもしれないね?」
貴石(たかし)「あ、あんた・・・狂ってる・・・」
嗣昭(つぐあき)「そうだよ。私はもう、狂っているんだ」
  僕の直感が告げている。
  この村はどこか変だ。
  暗闇の中、ケラケラと笑う嗣昭さん。
  僕は彼を置いたまま走り出した。

〇広い和室
  嗣昭さんが怖い。早く逃げたい。
  でも、ハナちゃんを
  この村に残すわけにもいかない。
  ありったけの勇気を振り絞り、
  僕は鹿山家へと向かった。
貴石(たかし)「ハナちゃん! 僕と一緒に来て!」
ハナ「えっ、貴石さん!? いきなりどうしたのですか?」
貴石(たかし)「確かこの村に交番はないんだよね?」
ハナ「ええ、隣町まで行かないと、 駐在さんはいないわ」
貴石(たかし)「匡利さんが大変なんだ。一緒に行こう!」
ハナ「お兄様が?」

〇農村
ハナ「待って、お兄様の身に何があったの?」
貴石(たかし)「話すと長くなるから・・・ とにかく行こう!」
ハナ「・・・分かったわ」
嗣昭(つぐあき)「おっと、ごめんよ」
ハナ「きゃっ・・・!」
貴石(たかし)「嗣昭さん、どういうつもりですか。 彼女を離してください!」
嗣昭(つぐあき)「悪いね、 彼女にはここに居てもらわないと いけないんだ」
貴石(たかし)「でも、あなたはハナちゃんを 連れて逃げろって・・・」
嗣昭(つぐあき)「そういえば、そんなことも言ったね。 おかげでうまく事が運んだな」
嗣昭(つぐあき)「君がコロリと騙されてくれたおかげで、 邪魔な匡利君を排除できた。 礼を言うよ」
ハナ「お兄様に何をしたのですか!」
嗣昭(つぐあき)「少し大人しくなってもらっただけさ」
貴石(たかし)「よく言うよ・・・」
  どうやら匡利さんを排除するために
  僕を利用した、という事らしい。
  正直、匡利さんのことは僕も苦手だが、
  だからといって、
  井戸に突き落とすなんて!
貴石(たかし)「相手にしちゃダメだ、行こう!」

〇林道
貴石(たかし)「たしかこの道をまっすぐ進めば、 隣町に出るんだよね?」
ハナ「ええ、そうですが・・・」
貴石(たかし)「今は一刻も早く、村から脱出するんだ!」
嗣昭(つぐあき)「先回り成功。・・・逃がさないよ?」
ヒロト「ハナ姉ちゃん、どこに行くつもり?」
メイコ「あなたの居場所はここにしかないのよ?」
嗣昭(つぐあき)「外の世界に出たら・・・ 分かっているんだろう?」
嗣昭(つぐあき)「貴石君にも 迷惑が掛かるんじゃないのか?」
ハナ「ごめんなさい、貴石さん・・・ 私、やはり行けないわ」
貴石(たかし)「大丈夫。ほら、僕が付いているから!」
ハナ「私のことはいいの。 それよりもお兄様を助けて、お願い!」
貴石(たかし)「ハナちゃん・・・」
嗣昭(つぐあき)「ハナちゃん、 この世界を壊さないでくれ」
ヒロト「姉ちゃんはこの村が大好きなんだよね?」
メイコ「さあ、村へ戻りましょう?」
  違和感をひしひしと感じる。
  先ほどまで僕は
  皆川一家と楽しい時間を過ごしていた。
  その時とはまるで別人だ。
  嗣昭さんだけでなく、
  メイコさんやヒロト君まで・・・
ハナ「分かりました、私は村に残ります。 だから、貴石さんにはこれ以上・・・」
嗣昭(つぐあき)「うん、君が残るなら問題ない」
貴石(たかし)「だ、ダメだよ。ハナちゃん! 嗣昭さんの言葉に耳を貸さないで!」
ハナ「ありがとう、貴石さん。 ・・・お兄様をお願いしますね」
  ハナちゃんは一礼し、
  村へと踵(きびす)を返した。
  僕と嗣昭さんはにらみ合ったまま、
  互いに動かない。
  そして、遂にハナちゃんの姿は
  夜の帳の中に消え、見えなくなった。
嗣昭(つぐあき)「これで一安心だ」
貴石(たかし)「嗣昭さん、 ハナちゃんをどうするつもりだ!」
嗣昭(つぐあき)「ん? 何もしないよ。 彼女が村に残る限りはね」
貴石(たかし)「危害を加えるつもりはない、と?」
嗣昭(つぐあき)「ああ、もちろん君に対しても」
嗣昭(つぐあき)「私が信じられない? だったら、さっさと逃げてもいいんだよ?」
貴石(たかし)「くっ・・・」
  僕は一目散に山道を駆け下りた。
貴石(たかし)(これは戦略的撤退だ。 逃げたんじゃない)
貴石(たかし)(隣町の駐在さんに応援を頼み、 一緒に来てもらうんだ・・・!)
  隣町へと続く道は一本道だ。
  迷うことはないが、
  道中には明かり一つない。
  僕は何度も木の根っこに足を取られ、
  地面に転がり込んだ。
貴石(たかし)(しかし、この道荒れているな・・・ あまり使われてないのか?)
貴石(たかし)(草くらいちゃんと刈ればいいのに)
  整備されていない道に悪態をつきながら、
  僕は隣町へと急いだ。

〇交番の中
  同日 深夜22時過ぎ──
  僕はようやく隣町の交番へと
  辿り着いた。
  交番内は真っ暗だが、
  奥にある扉からわずかに光が漏れている。
  どうやら当直の警官が
  待機しているようだ。
貴石(たかし)「すみません、 どなたかいらっしゃいませんか?」
警官「はいはい、どうしたの。 こんな時間に?」
貴石(たかし)「事件なんです! 嗣昭さんが匡利さんを 井戸に突き落として・・・」
警官「とりあえず落ち着いて。現場はどこ?」
貴石(たかし)「隣村の、作神村です」
警官「えっ、作神村・・・ 何を言ってんの、君? あそこは10年以上前に廃村になってるよ」
貴石(たかし)「そんなはずがありません。 だって、僕は今まで滞在していたし・・・」
警官「うーん、時々君のようなことを 言い出す観光客がいるんだよね」
警官「以前も大学生グループが そう言って騒いでたよ」
警官「・・・君たち、 もしかしてクスリでもやってるのかい?」
貴石(たかし)「そんなことしてませんってば!」
警官「・・・コレを見てごらん」
貴石(たかし)「えっ、嘘・・・」
  20××年8月△日
  ○○地方は記録的な豪雨に襲われた。
  ○○県××郡作神村では、
  大規模な土砂崩れが発生。
  死者67名、行方不明者13名という
  未曾有の大災害となった。
警官「生存者は3名のみ、凄惨な事件だったよ」
  死亡者の氏名が掲載されている。
  僕はその羅列の中に、
  見覚えのある名前を見つけた。
  皆川 芽衣子(43) 
  皆川 大翔(15)
貴石(たかし)「メイコさん、ヒロト君・・・」
  行方不明者
  鹿山 羽菜(17)
貴石(たかし)「えっ、ハナちゃんまで?」
警官「鹿山羽菜さん、か。 確か神社の巫女さんだったね」
警官「彼女は本当に力のある巫女さんで、 この辺りでも有名だったんだよ」
警官「そんな彼女の力を以てしても、 災害は防げなかった、ということだね」
貴石(たかし)「そんな・・・彼女が・・・」
警官「うん、君。 狐か狸に化かされたんじゃないのかい?」
警官「朝まで休んでいくかい? お茶くらいしか出せないけど」
貴石(たかし)「ありがとうございます・・・」
  何が何だか分からない。
  僕は一体、何を信じれば良いのだろう?

次のエピソード:閉じられた世界

コメント

  • 妹への異様な執着を見せる匡利さんの狂気、そしてそれを上回る嗣昭さんの狂気を見た後に、まさかのどんでん返しが!恐怖感が何倍にも跳ね上がりました、、、

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