シアワセの村

はやまさくら

鹿山兄妹(脚本)

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〇岩山の崖
  その日、僕は
  地質学のフィールドワークのために、
  ○○県にある断層群を訪れていた。
貴石(たかし)「この高さの断層から、 化石が出土するなんて・・・ これは良い土産になるぞ」
  夢中になって、断層を掘る僕。
貴石(たかし)「この成果を持って帰ったら、 教授もびっくりするだろうな」
  いつもは穏やかな教授が、
  子供のように大はしゃぎする様子が
  目に浮かぶ。
貴石(たかし)「よし、頑張ろう!」
貴石(たかし)「あっ、危なっ・・・!?」

〇黒
「大変だわ、人が倒れてる・・・!」
「ズタボロじゃないか。 上流から流されてきたのか?」
「とりあえず、ウチに連れて帰りましょ。 身体が冷え切ってて、 このままでは危ないわ」
「・・・やむを得んな」
  どのくらい時間が経ったのだろう・・・?
  僕は額に当てられた、
  ひんやりとした布の感触で目を覚ました。

〇広い和室
貴石(たかし)「んん・・・」
ハナ「大丈夫ですか?」
貴石(たかし)「はっ! ・・・あれ、ここは?」
ハナ「ここは作神村(さくがみむら)です。 あなたが河原で倒れていたので、 私たちがここまで運びました」
匡利(まさとし)「・・・・・・」
貴石(たかし)「助けて下さってありがとうございます。 僕は久城 貴石(くじょう たかし)と いいます」
ハナ「私は鹿山 羽菜(かやま はな)です。 よろしくね」
匡利(まさとし)「・・・鹿山 匡利(かやま まさとし)だ」
貴石(たかし)「○○断層を調査していたんですけど、 足を滑らせちゃったみたいで・・・」
ハナ「まあ、では随分と川に流されたのですね。 ご無事で良かったですわ」
貴石(たかし)「昔から悪運だけは強くて。あはは・・・」
匡利(まさとし)「身体の調子はどうだ?」
貴石(たかし)「大丈夫・・・」
貴石(たかし)「・・・っつ、痛ぇ!」
匡利(まさとし)「ひどい打ち身だ。 しばらくは動けそうにもないな」
ハナ「幸い骨折はしていないみたいだし、 少し休めばまた動けるようになりますよ」
貴石(たかし)「不幸中の幸いですね」
貴石(たかし)「無理せず、しばらく静養します。 この村に宿泊施設なんかはありますか?」
ハナ「以前は民宿が一軒あったのですが、 今は廃業していて・・・」
貴石(たかし)「そうですか。 では、空き地にテントを張って・・・」
ハナ「いえいえ、そんなことなさらなくても! この家で休めばよいですわ」
匡利(まさとし)「・・・おい、ハナ。 見知らぬ男を安易に滞在させるんじゃない」
ハナ「ひどいですわ、お兄様! 困っている人を見捨てろと おっしゃるのですか!」
ハナ「幸い、我が家は広いから、 余っている部屋だってたくさんあるのに!」
匡利(まさとし)「そういう問題じゃないだろ?」
貴石(たかし)(あの2人は兄妹なのか。 あまり似てないな・・・)
  匡利とハナは言い争いをしている。
  余所者を家に入れたくない兄、
  困っている人を助けたい妹、
  匡利は理路整然と妹の説得を試みるが、
  情に訴えるハナの勢いに押され気味だ。
  結局、ハナの勢いに飲まれ、
  兄も貴石の滞在を認めた──
匡利(まさとし)「・・・確かに怪我人を放り出すのは、 夢見が悪い」
匡利(まさとし)「お前のことは気に食わんが、 しばらくは目をつぶってやる」
ハナ「ゆっくり怪我を癒やして下さいね、 貴石さん」
貴石(たかし)「スイマセン」
匡利(まさとし)「長居はさせないからな?」
貴石(たかし)(何でこの人、こんなに手厳しいんだろ? 僕は何もしてないのに・・・)
  「僕もあなたのことが気に食わない」と、
  言い返しそうになったが、
  ぐっと我慢した。

〇広い和室
  ハナちゃんは
  僕のことを懸命に看病してくれた。
ハナ「お口を開けて下さい。 ・・・はい、どうぞ」
貴石(たかし)「食べさせてもらうなんて、恥ずかしいな」
ハナ「仕方ないですよ、 利き腕がうまく動かないんですから」
貴石(たかし)「ハナちゃん、時間を取らせてごめんね」
ハナ「お気になさらず。 早く元気になって下さいね」

〇林道
ハナ「随分と歩けるようになりましたね」
貴石(たかし)「まだ右足の打撲が痛むけどね。 でも、少しは歩かないと、 脚の筋肉が衰えるからなぁ・・・」
ハナ「では、しっかり歩きましょうね♪」
  僕たちは他愛もない会話を楽しみながら、
  丘へと続く遊歩道を歩いた。
  ハナちゃんは優しくて、快活な子だ。
  自然と会話も弾む。

〇丘の上
ハナ「着きましたわ。 ここから村が一望できるんです」
貴石(たかし)「わぁ・・・コレは見事だね」
ハナ「でしょ? 是非貴石さんに見てもらいたくて」
貴石(たかし)「元気が出るね、ありがとうハナちゃん」
ハナ「どういたしまして」

〇宇宙空間
貴石(たかし)「おおっ、夏の風物詩といえば やっぱり花火だね」
ハナ「夏本番を感じますね」
貴石(たかし)「花火といえば・・・ ハナちゃん、○○河川敷の花火大会には 行ったことがある?」
貴石(たかし)「県下最大級と銘打つだけあって、 すごく豪華な花火大会なんだ」
ハナ「いいえ、私・・・ 花火大会どころか、 村から一歩も出たことがないんです」
貴石(たかし)「えっ、なんで?」
ハナ「私はこの村の巫女だから・・・」
  確かにハナちゃんの家は
  村のお社を守る神社の家系だ。
  長らくこの地を護ってきた、
  由緒ある一族なんだろう。
貴石(たかし)「巫女は村の外に出てはならない、 という決まりでもあるの?」
ハナ「いえ、そういうわけでは・・・ でも、お兄様が許してくださらないの」
ハナ「私は小さな時に両親を亡くし、 お兄様に育てられたの」
ハナ「だから、お兄様のいいつけは 常に守ってきた」
ハナ「お兄様が「村から出てはならない」と 言うのであれば、 私はそれに従うだけ・・・」
ハナ「以前、貴石さんの処遇を巡って、 お兄様と口論したでしょ?」
ハナ「あの時、お兄様は本当に驚いていたの。 いつも従順な私が お兄様に意見したから・・・」
貴石(たかし)「いいことだと思うよ」
ハナ「・・・えっ?」
貴石(たかし)「だって、ハナちゃんはハナちゃんという 一人の人間なんだし」
貴石(たかし)「お兄さんの言いなりになる必要は無いよ。 本当は外に出たいんだよね?」
ハナ「どうかしら・・・ 私、外の世界が怖いの」
ハナ「作神村で、平穏に生きていくのもいいと 思っているのよ。 この村は穏やかで心安らぐの・・・」
貴石(たかし)「確かにこの村は素晴らしいと思うよ。 でも今の時代、 外にも目を向けなきゃダメだ」
貴石(たかし)「何なら僕がお兄さんを説得してあげる」
ハナ「うふふ、ありがとう。 でも、もう少し考えさせて」
ハナ「私はお兄様と 喧嘩がしたいわけじゃないの」
  山奥で育った彼女は、
  海を見たことがないという。
  電車や飛行機も
  テレビでしか見たことがないそうだ。
  世界には美しいモノや興味深いモノが
  たくさんあるというのに、
  彼女はそれに触れることを許されない。
  僕はハナちゃんに
  それらを見せてあげたいと思った。

〇広い和室
貴石(たかし)(今日のご飯は何かな~? ハナちゃんが作る料理、美味しいんだよね)
貴石(たかし)「あっ、ハナちゃん! ・・・って、違った。匡利さんか」
匡利(まさとし)「ハナじゃなくて悪かったな」
匡利(まさとし)「お前、随分と元気になったな」
匡利(まさとし)「そろそろ大学に戻らないと いけないんじゃないのか? 夏休みも終わるぞ」
貴石(たかし)「もちろんそのつもりですよ」
匡利(まさとし)「だったら明日、村の出口まで送ってやる」
貴石(たかし)「あっ・・・いや、明日は結構です!」
匡利(まさとし)「そうやって、いつまでウチで タダ飯を食らうつもりなんだ。 この穀潰しが!」
貴石(たかし)「怪我が治ったら、 改めてご挨拶にうかがいますよ。 その際に謝礼はきちんと払います」
匡利(まさとし)「礼などいらん。 それよりもさっさと出て行って 欲しいんだが・・・」
貴石(たかし)「あなた、本当に失礼ですね。 僕が何をしたと言うんですか?」
匡利(まさとし)「君がハナに構うのが悪い」
匡利(まさとし)「今のうちに出て行った方が、 身のためだぞ?」
貴石(たかし)「ハナちゃんから聞きました。 あなたが親代わりとなり、 彼女を育てたんですよね」
匡利(まさとし)「ああ、そうだ。 だからこそ、妹に変な虫が 付くんじゃないかと心配している」
貴石(たかし)「僕はそんなやましいことは 考えていません」
貴石(たかし)「彼女には感謝しているけど、 その、男女のアレコレとは 関係ないというか・・・」
貴石(たかし)「とにかく、 僕は彼女をそういう目では見ていません!」
  ハナちゃんのことは正直、気になっている。
  だけど、それを馬鹿正直に匡利さんへ
  伝えるつもりはなかった。
匡利(まさとし)「なら、いいんだが」
匡利(まさとし)「いいか、絶対に変な気を 起こすんじゃないぞ!」
貴石(たかし)(とんだシスコンだな・・・)
  妹が大切、というのは分かる。
  それにしても、執着しすぎじゃないのか?
  あまり彼には関わりたくない、
  と僕は思った。

〇祈祷場
  同日 深夜23時
  鹿山神社 祭祀殿にて──
  匡利は姿勢を正し、
  緊張した面持ちで祭壇前に立っていた。
  鞘から日本刀を抜き、
  宙を一閃する。
  そして、厳かに祝詞を奏上し始めた。
匡利(まさとし)「高天原に神留まり坐す。 皇が親神漏岐神漏美の命以て 八百万神等を」
匡利(まさとし)「神集へに集へ給ひ。 神議りに議り給ひて」
匡利(まさとし)「我が皇御孫命は豊葦原瑞穂国を 安国と平けく知食せと事依さし奉りき。 此く依さし奉りし」
匡利(まさとし)「荒振神等をば神問はしに問はし給ひ」

次のエピソード:良き隣人

コメント

  • この兄弟には両親が亡くなったという他に、特別な秘密が隠されているのがよく伝わりました。偶然会った男女の意気投合、二人の関係が発展していくのか、そのことも含め、とても興味をそそるお話でした。

  • 穏やかな雰囲気の作神村で、助けてくれた巫女さんと仲睦まじくなり、、、これからどのように物語が展開するのか楽しみになります。ホラーでもミステリーでもヒューマンドラマでも、この舞台は個人的に大好きです。

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