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きせき

エピソード36-鴇色の刻-(脚本)

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〇神社の本殿
  明石家の分家である物部家。
  だが、元々、物部家の方が力を持っていて、
  明石家は物部家よりも格下の家だった。

〇貴族の部屋
物部トキ「勿論、明石家にも時を遡る力を持った人はいたし、」
物部トキ「その人達のうちの1人があの蝋燭の製法を作ったと言われている」
物部トキ「それで・・・・・・って訳じゃないかも知れないけど、」
物部トキ「物部家は次第に明石家にとって代わられて、明石家の分家みたいになっていったみたい」
黒野すみれ「じゃあ、貴方は自分が当主になるのが当然だと思ってるとか?」
物部トキ「・・・・・・。それは違うよ」
物部トキ「というより、私はそもそも、当主になんてなりたくなかった」
黒野すみれ「当主に・・・・・・なりたくなかった?」
  なりたくなかった。
  それは「なりたくない」と思いながらも、
  「なってしまった」人間の言葉だった。
物部トキ「私はすみれちゃんから見て、刻世様から当主の座を受け継いだ世界が来た物部トキ」
物部トキ「とでも言えば良いかな?」
黒野すみれ「当主の座を受け継いだ世界から来た?」
物部トキ「そう・・・・・・私は当主を受け継いで、」
物部トキ「何年もしないうちに自分の死期が迫っていることを感じた」
黒野すみれ「死期?」
物部トキ「うん、刻世様と同じだね」
物部トキ「50歳・・・・・・ううん、30歳まで私も生きることはできなかった」
黒野すみれ「そんな・・・・・・じゃあ、貴方は一体?」
  足もあるし、身体も透けてはないから
  幽霊の類ではないだろうが、
  死んだ人間が時を遡ることができるのだろうか。
  しかも、30歳手前で亡くなったにしては
  彼女はその・・・・・・若いというか、幼く見えていた。
物部トキ「すみれちゃん。凄く失礼なこと、考えてそうだけど、」
物部トキ「厳密に言えば、私の使える力と明石家の秘術とは少し違うんだ」
黒野すみれ「違う?」
物部トキ「まぁ、何がどう違うかはおいておいて」
物部トキ「まず、私はまだ死んでしまった訳ではないんだ。ただ、もう長くは生きられない状態でね」
物部トキ「それで、死を悟った時、つまりこの今に戻る前、凄く後悔していたことがあったんだ」
黒野すみれ「後悔ってやっぱり、当主の座を受け継いだこと?」
物部トキ「うーん、確かにね。それも、ないとは言えないけど、それはすみれちゃんのことだよ」
黒野すみれ「え! 私のこと?」
物部トキ「うん、私達はあの林で出会ったけど、私はすみれちゃんに声をかけなかったんだ」
物部トキ「あの時の私は凄く臆病で、誰かに声をかけるなんてできなかった」

〇森の中

〇土手

〇豪華な客間

〇城の会議室

〇兵舎

〇シックな玄関

〇貴族の部屋
物部トキ「すみれちゃんと友達になりたかった」
物部トキ「すると、そこから凄く不思議なんだけど、私は過去に、あの日のあの時に戻っていた」
黒野すみれ「あの日のあの時・・・・・・」
  それは彼女の言いようだとあの初めて私達が出会った日。
  私達が知り合うことができた時なのだろう。
物部トキ「そこで、私の力と明石家の秘術の違いなんだけど・・・・・・」
物部トキ「私の力は明石家の秘術とは幾つか違いがあって、1つが私の方は年齢も戻ってしまうんだ」
黒野すみれ「年齢も戻るってことは?」
物部トキ「うん、例えば、すみれちゃんが30歳になった時に」
物部トキ「明石家の秘術で今日のこの日に戻ったら、すみれちゃんは30歳の姿で戻るんだけど、」
物部トキ「私の力で戻ったら、30歳の姿じゃなくて21歳の姿で戻るんだ」
黒野すみれ「ということは凄く前の過去に戻る時は物部家の力で戻った方が良いってこと?」
黒野すみれ「例えば、80代で20代の頃に戻れたとしても、そのままやり直すってできないし」
黒野すみれ「(多分、刻世さんが妹さんを助けた時も2人は10歳以上、違っていたのだろうな)」
物部トキ「うーん、それはそうなんだけど、」
物部トキ「それだと自身が生まれていない過去とかには行けないんだよね」
黒野すみれ「成程。確かに、私は21歳だから22年前とかそれ以上の前の過去には行けないのか」
物部トキ「うん。その辺りは良し悪しなんだけどね」
物部トキ「って、話はそれたんだけど、私の力はもう尽きかけているんだ」
黒野すみれ「つ、尽きかけているって・・・・・・」
  それは、つまり・・・・・・
物部トキ「うん。私は多分、本当に死ぬんだと思う。この今という過去から未来に戻って」
黒野すみれ「・・・・・・」
物部トキ「・・・・・・」
  重い重い沈黙。
  私は何とか目の前の友人が死なない方法を考える。
黒野すみれ「この事実を確定することはでき・・・・・・」
物部トキ「ないかな?」
物部トキ「これも明石家の秘術とは違う点なんだけど、明石家は蝋燭を折るか壊すかして」
物部トキ「やり直した過去を確定させるよね?」
物部トキ「でも、私は過去をやり直した時点で媒介にした品物をある箱の中に保管して、確定させる」
物部トキ「そして、それには力が必要なのだけど、もう私にはその力は残っていない」
黒野すみれ「それは・・・・・・もしかして、私が関係してる?」
物部トキ「・・・・・・どうして、そう思うの?」
黒野すみれ「・・・・・・ずっと、不思議だったことがあるから」

〇土手
物部トキ「ごめんね。すっかり、引き止めちゃって」
「いや、私も色々、見れたから良かったよ。えーと、次のバスは・・・・・・」
物部トキ「どうしたの? すみれちゃん」
「いつも乗るバスが事故を起こしたって・・・・・・」
物部トキ「え? すみれちゃんがいつも雨が降る時に乗るバスだよね」
「うん。幸い、怪我人はいなかったけれど、」
「私がいつも乗っている席はぐちゃぐちゃだったみたい」
物部トキ「そう・・・・・・良かった」
物部トキ「すみれちゃんがそのバスに乗っていなくて」

〇貴族の部屋
黒野すみれ「バスの事故の時だけじゃない」
黒野すみれ「通り魔がうちの近所でうろついていた時もだし、」
黒野すみれ「たまたま行こうとしていた店が崩落事故に遭った時も・・・・・・」
黒野すみれ「何度か、私は死にかけたけど、助かった。それは、貴方が・・・・・・」
  私がそこまで言うと、トキに首を振る。
物部トキ「死にかけた・・・・・・そんなの、偶然だよ。すみれちゃんのせいじゃないし、」
物部トキ「もし、仮に私がすみれちゃんを死なせないように力を使って、」
物部トキ「それを全て回避してたとしてもさ。それもすみれちゃんが気に病むことじゃない」
物部トキ「私がしたくてしたことなんだから」
  そう言うと、トキは私の方に手を伸ばす。

〇魔法陣2
物部トキ「私、どうしても、ある人にすみれちゃんを会わせたかった」
黒野すみれ「ある人?」
物部トキ「うん。約束したし、そうすることが望みだった」
黒野すみれ「望み・・・・・・」
  目の前の友人の言い分だとそれは叶わないことなのだろう。
物部トキ「そう、私の自慢の友達だって紹介したかったんだ」
物部トキ「でも、ものは試しだよね。もう私は何も諦めたくない」
物部トキ「だって、もう何度も諦めてしまったんだから・・・・・・」
  トキは私を抱きしめると何かの呪文を唱え出す。
  古語なのか、私が分かるのはただ一文だった。
物部トキ「我は時。我は刻。この者を我の定める時へ連れ立て」

〇貴族の部屋
物部トキ「すみれちゃん」
黒野すみれ「と、トキ?」
  私は恐る恐る目を開けると、そこにはトキがいた。
  だが、その姿形は次第に薄くなっていく。
物部トキ「一応、すみれちゃんを過去に送る呪文を唱えてみたんだけど、」
物部トキ「やっぱり、力がもう足りないみたいだね」
物部トキ「でも、ありがとう。私と友達になってくれて・・・・・・」
物部トキ「あと、」
黒野すみれ「あと?」
物部トキ「ちゃんとお祝いできなかったけど、誕生日、おめでとう!」

〇貴族の部屋

〇貴族の部屋
黒野すみれ「トキ・・・・・・」
  私は呆然としながら、スマートフォンの画面をタップする。
  アドレス帳やSNSを見ても、
  彼女の名前が見つけれなくて、
  私は彼女のことが書かれた封筒を手にする。
  『物部トキについて』
黒野すみれ「・・・・・・」
  そこには書かれている筈だろう交友関係はなく、
  現在も特に親しい友人はいないようだった。
黒野すみれ「友人であることの方が現実じゃないなんて・・・・・・」
  しかも、友人だった彼女は
  この先の未来へ死ぬ為に戻るなんて
  あまりにもバッドエンドではないだろうか。
黒野すみれ「(ただ、立ち止まってる訳にもいかない。気になることはあるから)」
  私はリエさんに持ってきてもらった夕食と
  ケーキをつまみながら
  資料を読んでいく。

〇西洋風のバスルーム
  風呂に入り、
  服も着替えたが、

〇貴族の部屋
  私は資料を読み続けた。

〇宮殿の門

〇宮殿の門
「・・・・・・」
「(やっとこの時が来た)」
「(明石家の秘術を我がものにできる日)」

〇城の廊下
「(あの時は流石に絶望してしまった・・・・・・)」
「(あの日の絶望やあの時の絶望以上の絶望なんてないと思ってたのに)」

〇貴族の応接間
「(やっと、手に入れられる。いや、取り戻すことができると言うべきか)」
  コンっ、バーン。

〇黒
  ヒュォー!!

〇ダクト内
「(彼女を生き返らせる・・・・・・)」

〇昔ながらの一軒家
「あの過去をなかったことにできる」

次のエピソード:エピソード37-夕色の刻-

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