いかないで、私の王子さま

蒸気

1話 王子の妊娠(脚本)

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〇劇場の舞台
  これまで私は色々な男を演じてきた
  百年も孤独に生きる死神
  本当の愛を知らない詐欺師
  呪いと共に生きる陰陽師
  全ての役を愛し、その役になりきるために台本を毎日読み込んだ
  多くのファンも私が演じた〈男〉たちを愛してくれた
  しかし、そんな日々ももうすぐ終わる

〇コンサートの控室
  終演後の楽屋
速水 千明(ふー・・・終わった・・・)
速水 千明(今日も何事もなく終演して良かった・・・)
速水 千明(千秋楽までこの調子でいけるといいけど)
蓬莱まどか「千明さん!お疲れさまです!」
速水 千明「まどかちゃんも、お疲れさま!」
蓬莱まどか「良かったら一緒に写真を撮りませんか?」
蓬莱まどか「舞台の衣装を着ている千明さんとの写真を残したくて・・・」
夢咲 すみれ「やめなさい、まどか!」
夢咲 すみれ「千明だって、疲れてるのよ!」
蓬莱まどか「で、でも・・・」
  夢咲すみれ
  彼女は僕と同い年で、娘役トップスターだ
  現在上演している演目は有名な恋愛映画が元になっていて、わたしは男性記者役、彼女は女王役を演じている
  彼女のソプラノは美しく、彼女のダンスは観た者を魅了する。名実共にトップスターだ
  しかし、思ったことをそのまま言ってしまう悪い癖がある
  特に女だけの世界の〈桜丘歌劇団〉では敵も多い
速水 千明「すみれ、僕のことを心配してくれてありがとう・・・」
速水 千明「でも、僕もせっかくならみんなとの思い出を残しておきたいんだ」
速水 千明「あと、僕自撮りが苦手だから、まどかが写真を撮ってくれると助かるな」
速水 千明「撮った写真あとで僕にも送ってくれる?」
蓬莱まどか「もちろんです!」
夢咲 すみれ「千明ったらほんと周りに甘いわね」
夢咲 すみれ「でも千明って確かに自撮りしないわよね? SNSとかに写真あげればもっと反応してもらえるのに」
夢咲 すみれ「公式のアカウントもずっと放置じゃない」
速水 千明「なかなか忙しいと更新できなくて・・・すみれはよく見ているね!」
夢咲 すみれ「べ、別にそんなわけじゃ・・・!」
速水 千明「隠さなくても大丈夫。 すみれは僕の大切な人だよ・・・」
夢咲 すみれ「そっ・・・!」
蓬莱まどか「ぎゃー!」
蓬莱まどか「千明さんかっこよすぎます!」
蓬莱まどか「これが噂の〈あきすみ〉ですね!」
夢咲 すみれ「ちょっと!なんであなたが照れるのよ!」
夢咲 すみれ「・・・それに〈あきすみ〉ってなによ?」
蓬莱まどか「理想的な二人のことファンの人たちが〈あきすみ〉呼んでるですよ!知りません?」
速水 千明「理想的な二人だって!良かったね!」
夢咲 すみれ「まあ、そうね」
夢咲 すみれ「・・・」
夢咲 すみれ「けど、わたしは、そんな貴方が・・・」
速水 千明「ごめん、聞こえなかった! なにか言った?」
夢咲 すみれ「ううん・・・なんでもないわ」

〇高層ビルの出入口
  着替えを終えて、劇場を出るとたくさんのファンが劇場前で出待ちをしていた
ファンクラブ会員A「千明様、お疲れさまです!」
ファンクラブ会員B「千明様が今回の公演で退団されると聞いてショックで・・・ わたしずっと千明様を応援しています!」
速水 千明「みんな、ありがとう!」
速水 千明「僕もみんなのことずっと愛してるからね」
  ファンクラブの熱烈な歓迎に迎えられた
  ファンクラブに属する彼女たちは終演後も一時間近く僕が出てくるのを待ってくれる
  そんな彼女たちに疲れた顔は見せられない
速水 千明(あ、あれは・・・)
速水 千明(ロリータちゃん今日もいる・・・)
  ファンクラブとは離れたギャラリーにロリータちゃんの姿があった
  ファンの子たちには等しく接したいと思っている
  しかし、何度か目にする顔はやはり覚えてしまう
  ちなみにロリータちゃんという名前も僕が勝手に着けた名前だ。彼女はいつも可愛いロリータ服を着ている
  彼女はいつも出待ちしてくれるが、ファンクラブには入ってはいない
  ギャラリーの中で無表情に僕を見つめてる
  その表情から感情は読み取れない
速水 千明(不思議な子だな・・・)
  僕はタクシーを捕まえ、乗り込んだ
  銀座に住むおばさまと会う約束をしていた

〇劇場の座席
  『桜丘歌劇団』
  それは東京都中央区に本拠地を構える劇団である
  歴史は長く今年で創立90周年になる
  団員は全て未婚の女性のみで、男性役も女性が演じている
  私がそんな桜丘歌劇団の劇を初めて観たのは小学生の時だった
斎藤亜紀(幼少期)(なんて綺麗な世界なんだろう!!)
  美しいドレスに目映いアクセサリー
  美しい女性に、かっこいい男性
  私はその世界に圧倒された

〇教室
  これまでボーイッシュな格好が多かったが、娘役に憧れて、学校でも可愛い服を着るようになった
  しかし、小さい頃からわたしは背が高く男の子のように髪が短かった
  そのため、同級生の男の子達からは男女とからかわれた
  けど、彼だけは・・・
田淵 優斗(幼少期)「斎藤さん、その服似合ってるね」
斎藤亜紀(幼少期)「あ、ありがとう!」
  彼だけはわたしのことをバカにしないでいてくれた
  そうして私は桜丘歌劇団の団員になるために、桜丘音楽学校を目指すようになった
  ・・・まあ、憧れていた娘役ではなく男役になったわけだが

〇立派な洋館
  銀座にある邸宅
速水 千明「いつ見てもすごい建物だな・・・」
  真梨子おばさまのご主人は、日本で知らない人がいないんじゃないかと思うほど有名な通信業者の社長だ
  豪華なお屋敷でご主人とおばさまの二人で暮らしている。二人の間に子供はいない
  おばさまと呼んでいるが実際に血縁関係にあるわけではない
  世間的にいうとパトロンというやつだ
  おばさまはたくさんチケットを購入してくれたり、食事に招待してくれる
  そのお返しとして常におばさまにはよい席で観れるように座席を確保してある
  いつかこの関係をやめるべきだと思うものとだらだらと続けていた
速水 千明(真梨子おばさまの話ってなんなんだろう)
速水 千明(随分前からおばさまには退団の話はしてある)
速水 千明(退団のこと止められないといいけど・・・)

〇豪華な客間
銀座の真梨子おばさま「いらっしゃい、千明さん」
速水 千明「お邪魔します。宜しければこれを。 おばさまが好きなチョコの新作を偶然見かけたので・・」
  おばさまの好きなブランドのチョコレートを差し出した
銀座の真梨子おばさま「まあ!ありがとう!」
銀座の真梨子おばさま「あなたは本当に気配りができる子ね」
速水 千明「桜丘音楽学校で鍛えられましたから」
銀座の真梨子おばさま「音楽学校の上下関係が厳しかったでしょう?」
速水 千明「そうですね。入学当初は下町の娘って散々からかわれました」
銀座の真梨子おばさま「そんな貴方がまさかトップスターになるなんてね・・・娘の成長を見守る親とはこんな気持ちなのかしらね・・・」
銀座の真梨子おばさま「まあ私はあなたがトップスターになるのは「ロミオとジュリエット」の時からわかってましたけどね・・・」
銀座の真梨子おばさま「私には先見の明がありますから」
速水 千明「ははは・・・そうですね・・・」
銀座の真梨子おばさま「冗談よ!冗談。もっとまともな演技なさい」
銀座の真梨子おばさま「あなたがトップスターになったのは、あなたの努力の賜物でしょう?」
速水 千明「・・・ありがとうございます!」
銀座の真梨子おばさま「今回の演目をもって退団するのね?」
速水 千明「はい・・・」
銀座の真梨子おばさま「もったいないわ・・・」
速水 千明「桜丘以外の舞台で学んで、もっと演技の幅を広げたいと思いまして・・・」
銀座の真梨子おばさま「たくさんのファンの方が惜しんでいるんでしょうね・・・」
銀座の真梨子おばさま「噂で聞いた話だから、信憑性がないかもしれないですけど・・・」
速水 千明「なんですか?」
  嫌な予感がして笑顔が強張る
銀座の真梨子おばさま「あなたもしかして妊娠しているんじゃないでしょうね?」
速水 千明「まさか!」
速水 千明「そんなわけないじゃないですか!」
銀座の真梨子おばさま「そうよね・・・」
  嘘だ・・・
  本当に私は妊娠している

次のエピソード:2話 忍び寄る悪意

コメント

  • 王子の妊娠…そういう事だったんですね!
    相手が誰か気になりますね!😆

  • こんばんは!
    男性役で女性ファンも多くて、どこからどう見ても成功を納めたイケメン!ですがまさか妊娠してたなんて!続きが気になります!

  • えーって最後叫んでしまいました!宝塚歌劇団の女優が期を熟して退団するようなことかと思っていたら、妊娠したからとは。ファンはどのようにこの事実を受け止めるのか・・心配になりました。

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