読切(脚本)
〇公園の砂場
─── ある春の夜
僕は彼女に告白し、僕達はカップルになった
そして今日は、付き合って丁度1年になる
そして今日、僕は彼女にプロポーズをする
彼女「・・・彼氏君に告白された日もこんな桜が舞っていたね 今日はどうしたの? 改まっちゃって」
彼氏「・・・彼女さん! ぼ、僕と・・・・・・! け、けっk」
事の発端はその時だった
???「HAHAHAHAHA」
彼氏「なんだ!?」
怪盗 鼻溝「私の名前は”怪盗 鼻溝”!! あなたの鼻の下の溝を盗ませてもらったわよ!!」
彼女「は、鼻の下の溝ですって!?」
彼氏(えぇ・・・ 鼻の下の溝って・・・ あ、いつの間にか彼女さんは盗まれてないけど僕のが盗まれてる・・・)
彼女「彼氏君の鼻の下の溝を奪うなんて・・・」
彼氏「か、彼女さん・・・?」
彼女「絶対許さないわ!!!!」
彼氏「ええーーーッ!!! なんでたかが鼻の下の溝程度怒ってるの!!?」
怪盗 鼻溝「HAHAHAHAHA では さらば!!」
彼女「待ちなさーーい!!!!」
〇川に架かる橋
彼女「はぁ・・・はぁ・・・ 逃げ足が早いわね」
彼氏「はぁ・・・はぁ・・・ 彼女さん もういいよ 鼻の下の溝がなくなった所でそんなに困らないよ」
彼女「それは困るよ! だって・・・鼻の下の溝がない彼氏くんなんて・・・」
彼女「私の好みじゃないもん!!!!」
彼氏「(それは困る!!!!)」
彼氏「そ、そうか・・・ でももう怪盗の人の手がかりはないし、明日また探そう・・・」
彼女「そうね 分かったわ また明日一緒に探しましょう! ”鼻の下の溝がない”彼氏君!」
彼氏「(ちょっと・・・遺憾だ・・・)」
〇開けた交差点
明くる日、僕達は街の中で”怪盗 鼻溝”の調査を始めた
調べてみるとどうやら”怪盗 鼻溝”の被害は特に”男性”に多いらしい
何故鼻の下の溝を狙うのか?
何故男性に多いのか?
そもそも鼻の下の溝は必要なのだろうか?
だけど彼女さんに嫌われたくないし今は全力で手がかりを探すしかない!!
彼女「はぁー・・・ 全然手がかりが見つからないね 鼻の下の溝を盗られた男性はたくさんいるのに・・・」
???「お困りかね?ご両人」
彼女「あ、あなたは!」
彼女「花野下刑事(でか)!!」
彼氏「(有名な・・・人?)」
花野下刑事「ほぉー 俺の名前を知っているのか お嬢ちゃん」
彼女「はい! 毎週水曜日にやってる”ハナデカッ24時”毎週見てます!!」
彼氏「(え?何その番組? どこでやってんのそれ? というか鼻なんて毎週24時間映さなくていいよ?)」
花野下刑事「君たちはもしかして例の”怪盗 鼻溝”を探しているのかね?」
彼女「そうなんです! 私の彼が昨日”怪盗 鼻溝”に溝を盗まれて溝がないただの鼻の下になっちゃったんです!」
花野下刑事「なるほど どれどれ おー これは酷い 溝が無くなってまるで平野のようになってるではないか」
彼女「はい! だから今、街中を廻って調査してるんです! 刑事さん! 何か情報はありませんか?」
花野下刑事「うむ! 実は丁度テレビ局に奴の予告状が届いてな・・・ 今夜、かの有名俳優”溝の口 大介”の溝を奪いに来る!」
彼女「あの有名な”溝の口 大介”さんが!?」
彼氏「(また鼻の下の溝が大きそうな名前だな)」
〇お台場
━━━という訳で夜になり、なぜか僕達も捕まえるのを協力する事になりました。
”怪盗 鼻溝”の新たな手がかりとしては
1.奴は手をかざしただけで溝を盗むことができるまるで悪○の実の能力者みたいであること
2.奴は変装が得意であること
3.奴は水溜まりで溺れるほど泳ぎが苦手であること・・・・・・
って能力者じゃないって!!
彼女「遂にこの時が来たね! 彼氏君の鼻の下の溝、絶対取り戻そう!!」
彼氏「(そもそも鼻の下の溝って戻せるものなのか・・・?)」
花野下刑事「よし!君たち準備はいいか? そんな装備で大丈夫か?」
彼女「大丈夫だ 問題ない」
花野下刑事「よし!中に入るぞ!」
〇テレビスタジオ
彼女「わぁ── 私テレビ局の中に入るのって初めて──」
監督「花野下刑事ですね 本日はよろしくお願いします」
花野下刑事「こちらこそ! 今日こそ奴を捕まえてみせます!」
〇テレビスタジオ
俳優「皆さん!今日はよろしくお願いします! 俳優の”溝の口 大介”です!」
「キャ〜〜 かっこいい〜〜」
「素敵〜〜 鼻の下の溝が〜〜」
彼氏「(この人達 どんだけ溝が好きなんだ・・・)」
スタッフ「本番入りまーす! 3.2.1」
ガタン!!
〇テレビスタジオ
花野下刑事「なに!?電気が落ちただと!? まずい! どこにいやがる!!」
彼氏「真っ暗で何も見えない! ”怪盗 鼻溝”の仕業か!?」
彼女「・・・・・・・・・」
〇テレビスタジオ
俳優「うわああああああ!!! 俺の鼻の下の溝がーー!!!」
花野下刑事「くそ!やられた! 探せ!! まだ近くにいるはずだ!! 逃げ足が早いから外にいるヤツらにも伝えろ!!」
彼女「待ってください!!」
花野下刑事「どうしたんだ お嬢ちゃん!?」
彼女「犯人は、このスタジオの中にいます!!」
花野下刑事「な、なんだと!? 一体誰が!?」
彼女「犯人は・・・・・・あなたですね!」
彼女「花野下刑事!!!」
全員「ええええええええ」
花野下刑事「おい 冗談はよせよ お嬢ちゃん だって、今日俺たちずっと一緒にいたんだぜ」
花野下刑事「それになんで俺を疑うんだ? 証拠はあるのか?」
彼女「まずはあなたが伝えてくれた手がかりです あなたは怪盗が水溜まりで溺れると言っていましたね 普通溺れないでしょう!!」
彼氏「(そりゃーそうだ・・・)」
彼女「そして!何よりも確なる証拠は!」
彼女「登場した時に、このジャジャーーン!!が流れる事です!」
彼氏「いや そこ引っ張るのーー!!??」
花野下刑事「く、くくく HAHAHAHAHA」
〇テレビスタジオ
怪盗 鼻溝「HAHAHAHAHA どうやら失敗したようね さすがだわ 我が妹」
彼女「お、お姉ちゃんだったの・・・!?」
彼氏「(お姉さん!?)」
怪盗 鼻溝「そうよ 私はあなたと違って鼻の下の溝はこの世で1番嫌いなの」
怪盗 鼻溝「そう 今でも思い出すわ」
怪盗 鼻溝「最近 私の推しの絵師が、私の大好きだった男性キャラに鼻の下の溝を描くようになって」
怪盗 鼻溝「それから鼻の下の溝を強い憎悪を持った事で、この力が発現したわ」
彼氏「どういうことーッ!?」
彼女「お姉ちゃんにそんな力があったんだね! でももう悪用しちゃだめだよ」
怪盗 鼻溝「いいえ! 私はこの世の男性鼻の下の溝を、私好みの平地にし尽くす!」
怪盗 鼻溝「彼氏君のはなおしてあげるね 絶対に好みにならなそうだから じゃあねぇ──」
彼氏「最後に余計な一言を・・・!!」
〇公園の砂場
──僕達の鼻の下の溝事件は終わった
その後、彼女さんのお姉さんは男性の鼻の下の溝を埋めながら、色んな夫婦の溝を埋めながら世界を飛び回ってるらしい
事件当時の花野下刑事はというと、
有給を取っていて、娘と一緒に遊園地に来た所、鼻の下を伸ばしまくって警察に事情聴取されたらしい
こうして、僕は鼻の下の溝を取り戻した。
危うく彼女さんに嫌われる所だった。
彼女「そういえば、彼氏君 あの時私になんて言おうとしたの?」
彼氏「!?!? そ、それは・・・!!」
僕は、溝の部分に春の風を感じながら、精一杯の声で彼女にプロポーズした──
鼻の下の溝って「なくても機能的に困らないものランキング」で1位じゃないけどトップ10に入りそうな絶妙なセレクトですね。怪盗鼻溝は夫婦の溝も埋めてくれるらしいけど、マリアナ海溝より深い溝もありそうだから埋めるのは鼻の溝だけにした方がいいですね。
すごい、ここまで花の下の溝に愛着と情熱を持った作品は初めてです!さらっとイイ話風にまとめられたラストも含めて、楽しすぎます!
面白かったです😂明日から皆の鼻の下が盗まれてないか気にしてしまいそうです😅