〇おしゃれな教室
　　ス ポーツテストでも好成績を残した梢と蒼は、前にも増してクラスメイトからの反感を買うことになっていた。
辻村蒼「・・・・・・」
内田梢「そんなキョロキョロしてどうしたの？」
辻村蒼「いえ・・・私たちへの敵意が剥き出しだなぁって・・・」
内田梢「放っておけばいいよ。私たちは、やらなきゃいけないことをやるだけ」
内田梢「将来の夫の年収とか、そんなことばっか気にしてる人達負けるつもりないし」
辻村蒼「・・・そう、ですね」

〇屋上の入口
　　昼休み。梢と蒼はいつものように、誰も通らない北階段の踊り場でパンを頬張っていた。
辻村蒼「え、何ですか、それ」
内田梢「ん？」
辻村蒼「そのジュース、ラ・フランスティー？」
内田梢「ああ、なんか体育館前の自販機のラインナップが新しくなってて、そこで買った」
辻村蒼「へえ、明日買ってみます」
内田梢「一口飲んでみる？」
辻村蒼「え・・・!?」
内田梢「はい、どうぞ」
内田梢「なんかね、想像してたラ・フランス味じゃないんだよね。駄菓子っぽい」
辻村蒼「・・・・・・」
内田梢「あ、いらなかった？」
辻村蒼「あの・・・」
内田梢「ん？ ああ・・・気にするタイプか」
桜田「きも・・・女同士でいちゃついてんの？」
　　唐突に桜田とクラスメイト数名が現れた。
辻村蒼「あ、桜田さん・・・」
桜田「それとも、蒼ちゃんが男だって噂は本当なのかな？」
辻村蒼「えっ・・・!?」
　　蒼の手からラ・フランスティーが滑り落ちた。
　　横倒れになった紙パックの飲み口から、芳醇な香りのする液体が零れ出る。
辻村蒼「今、なんて・・・」
内田梢「あーあ、これ床ベタベタになるよ」
　　梢が緩慢な動作で後片付けを始めた。
　　梢のハンカチがラ・フランスティーを含んでいく。
桜田「梢とか言ったっけ？ お前さ、なんなの？」
桜田「そんなに御曹司の嫁になりたいんだ？」
桜田「いい加減キモいから、さっさと不登校になってくれないかな」
内田梢「私は行きたい大学のために勉強してるだけって最初に言ったはずだけど」
辻村蒼「ちょ、ちょっと待ってください。私の噂って──」
桜田「蒼ちゃんはちょっと黙っててくれる？」
辻村蒼「え・・・」
　　桜田が屈んでいる梢に蹴りを入れた。
　　それほどの強さではなかったものの、梢が尻餅をつくぐらいの勢いはあった。
辻村蒼「ちょ・・・な、なんてことするんですかっ！」
内田梢「いてて・・・」
桜田「軽く蹴っただけなのに、尻餅ついてんじゃん。ださ」
内田梢「私だって蹴られたら尻餅ぐらいつくよ」
桜田「・・・うっざ」
桜田「そういう態度がうざいって言ってんだよ！」
桜田「私は何にも負けませんみたいな態度でカッコつけてるけど、結局一位を取って結婚したいだけじゃん！」
桜田「きめえんだよ！ ブス！」
内田梢「うーん・・・桜田さんが私のことをどう思ってるかなんて、どうでもいいんだよね」
内田梢「だからもう二度と、私に話しかけないでくれるかな？」
辻村蒼「あ、あの・・・せ、先生呼んできますっ！」
桜田「捕まえて」
　　走り出そうとした蒼が、桜田の取り巻きに囲まれる。
辻村蒼「くっ・・・」
桜田「蒼ちゃんさ、男って本当？」
辻村蒼「ち、違いますっ！ そんなわけない！」
桜田「じゃあ脱いでよ」
辻村蒼「えっ・・・」
桜田「女同士なら別に問題なくない？ 恥ずかしいの？」
辻村蒼「・・・・・・」
桜田「そうだね、恥ずかしいんだよね？ だっていつも、着替えの時に教室にいないもんね？」
辻村蒼「そ、それは、たまたまタイミングが──」
桜田「蒼ちゃんってどこのトイレ使ってるの？」
辻村蒼「トイレ・・・？」
桜田「蒼ちゃんがトイレに行ってるところを見たって人、一人もいないんだよね」
桜田「もしかしてだけど、来客用の男子トイレに行ってない？」
辻村蒼「い、行ってませんっ！」
桜田「そうなんだ。じゃあ脱いで」
辻村蒼「なんで──」
桜田「脱げばわかるじゃん。男か女か」