第1話 ババア達の攻防(脚本)
〇温泉旅館
山奥にひっそり佇む古旅館。むせ返る血
の臭いの中で、一人の女が悲鳴を上げた。
若女将「ひいいいいっ!! ま、まさか本当に!?」
???「あっはっはっはっ! 望み通りだろ おおっ!? ありがたく思いなああっ!」
〇旅館の受付
若女将「だから、大女将の考えは古いんです!」
大女将「由緒ある木皿儀旅館のやり方に文句あるって言うのかい!?」
大女将「いつまで経っても跡取りの一人も産めないくせに、口ばっかりは達者だねっ!!」
大女将「私のやり方が気に食わないなら、サッサと尻尾巻いて都会に帰んな!」
若女将「なっ・・・!?」
仲居A「あーあ。またやってるよ。若女将が来てから、この旅館空気悪くなったよねー」
仲居B「まあ、新婚初夜に寝室覗き見するような姑と仲良くしろってのも無理な話よ」
仲居A「え、毎晩覗いてるって噂だけど?」
大女将「ちょっとアンタら! 無駄話してないで仕事しなっ!」
「はいはーい」
〇露天風呂
若女将は、若旦那と一緒に露天風呂の掃除をしている。
若女将「何なのあの老害ババアっ!! 一体何様のつもりよっ!!」
若旦那「まあまあ、別に母さんも悪気があるわけじゃ・・・」
若女将「若旦那だって悔しくないの!? 経営方針だって。大女将の言いなりで・・・!」
若旦那「そ、それは・・・その・・・」
若女将「もう! 若旦那がそんなだから・・・!」
若旦那「ぼ、僕だってちゃんと考えてるさ。 今日だって・・・す、すごい人を呼んでるんだからね!」
若女将「・・・すごい人?」
〇旅館の和室
笹川「どうも初めまして。私、経営コンサルタントをしています笹川と申します」
若女将「は、初めましてっ!」
若女将(誰っ、このイケメン!?)
若旦那「笹川さんはSNSを中心に活動をしている凄腕のコンサルタントなんだ」
若旦那「僕のアカウントにたまたま声をかけてくれて!」
笹川「こんな素晴らしいカモ・・・じゃない旅館があるなんて驚きました」
笹川「ぜひ、この笹川と一緒に経営を立て直しましょう!」
若女将「は、はい・・・!」
若旦那「どう? これで僕もちゃんと考えてるって、分かったでしょ?」
若女将「あ、うん・・・」
若女将(笹川さんがイケメン過ぎて・・・若旦那がただのブタに見えちゃう)
笹川「さて・・・こちらの旅館は本当にボロ・・・ではなくて趣があって素晴らしいです!」
笹川「ただ現状では大きな『売り』がない」
笹川「なので、この雰囲気を活かし、『泊まれるお化け屋敷』として売り出しませんか?」
「『泊まれるお化け屋敷』!?」
笹川「はい。幽霊が出るという噂を広めれば、きっとB級ホラーや都市伝説などが好きな客層をひっぱってこれると思うんです」
若旦那「で、でも、母さんが何て言うか・・・」
若女将「笹川さんの言う通りにしましょ! 若旦那が選んだ方なんですもの、絶対に大丈夫よっ!」
若旦那「う、うーん・・・」
若女将「これからの木皿儀旅館を作っていくのは、若旦那、あなたなのよ!」
若旦那「・・・ああ、そうだね! 僕の目に狂いはないはずだっ!」
〇温泉旅館
〇旅館の受付
大女将「泊れるお化け屋敷!? そんな馬鹿みたいな話、アタシャ許さないよっ!」
若旦那「だけど母さん、笹川さんは凄腕のコンサルタントで・・・」
大女将「ふん、どうせ若女将の入れ知恵だろ?」
若女将「なっ・・・! 私はそんなこと・・・!!」
大女将「だまらっしゃい! アンタみたいなよそ者に、この旅館は好きにさせないよ!」
若女将「よそ者って・・・そんな・・・!」
大女将「若旦那! お前も、本当はこんな計画、反対なんだろ!?」
若旦那「そ、それは・・・その・・・」
大女将「はっきり言いな! 反対だって!」
若旦那「えっと・・・反対っていうか・・・ その・・・」
大女将「若女将が怖いのかい!? ああ嫌だ! 旦那を尻にひくなんて、これだから都会の女は!」
若女将「!!」
〇旅館の受付
若女将(ああ、もう!! 本当に嫌っ!! あのクソババアも、優柔不断なクソ若旦那も!!)
若女将(せめて、あのババアがいなければすべて上手くいくのにっ!!)
若女将(・・・そうだ!)
若女将(あのババアが死ねばいいのよ!)
若女将(不慮の事故に見せかけてババアを殺して、それでババアの霊が出る旅館っていう触れ込みにすれば一石二鳥じゃない!)
若女将(やだ! 私ってば冴えてるっ!)
若女将(そうと決まれば・・・あのクソババアをこの手で・・・!!)
〇風流な庭園
その日から、若女将の大女将殺害計画が始まった。しかし──
若女将(よし、石階段の所にロープを張って・・・あとはババアが転ぶのを待つだけ・・・!)
大女将「さ~て、今日も仕事するぞ~い!」
若女将(さあ、ロープに足をひっかけろ! そして転んで頭を打って死ね!!)
しかし、大女将はロープを軽々とスキップで飛び越えて行ってしまった。
大女将「ふんふーん。まだまだ現役じゃーい」
若女将「なっ・・・!?」
〇温泉旅館
若女将(ロープが駄目ならワックスをたっぷりかけた廊下はどう!? さあ来いババア!)
大女将「さあて、掃除でもしようかねえ♪」
若女将(来た! さあ、滑って転んで死ね!)
大女将「おおっと!?」
大女将は、廊下にまかれたワックスで足を滑らせた。
しかし、空中で三回転し、見事に無傷で着地した。
若女将「じゅ、10.00――じゃないっ、何であのババアあんなに身軽なの!?」
若女将(くっ・・・かくなるうえはっ・・・!)
〇露天風呂
大女将「若旦那ー? こんな所に呼び出して何のようなんだい?」
若旦那「あ、母さん。実は──」
その時、隠れていた若女将が、大女将の頭めがけて思い切りバットを振り下ろした。
若女将「死ねっ! クソババア! 転ばせるのが無理なら頭を勝ち割ってやる!」
大女将「おっとお?」
しかし、大女将は見事なイナバウアーを決め、若女将の攻撃をかわした。
大女将「やっぱり全部若女将の罠だったんだね! でも、このアタシを殺そうだなんて一億年早・・・っああああっ!?」
「!!」
大女将は足を滑らせ、イナバウアーの姿勢のまま、露天風呂へ頭から落下した。
大女将「ひいっいいいいい!? し、しまった!?」
若女将「やった! 若旦那、今よ! そこの湯かき棒で、ババアの頭を押さえて!」
若旦那「ひいいいっ!! ど、どうしてこんな!?」
若女将「いいから! 早くしないとババアを殺せないでしょ!」
若旦那「こ、殺す!? そこまでするなんて聞いてないよおっ!」
若女将「ほら! 早く! 早くして!」
若旦那「で、でも、そんなこと・・・!!」
若女将「役立たず! もういい、私がやる!!」
若女将は若旦那の手から湯かき棒をひったくり、溺れる大女将の頭へ打ちつけた。
大女将「ぎゃっ!? な、何をす・・・ぐあああ!?」
若女将「早く死になさいよ! クソババア!」
大女将「ぐふあっ!? この・・・ぶあっ!! 必ず、必ず、必ず!! 化けて出てやるからねえ!!」
大女将「そ、それが・・・お、お前達の望みなんだろおおお!? あーひゃっひゃっゃっっ!!」
こうして断末魔の悲鳴を上げながら、大女将は露天風呂の底へと沈んでいった・・・。
途中までコメディだと思ってたら本当に殺しちゃったんですね。
続きが気になります。
表紙がブキミでホラーかと思ったら、コメディ要素が多くてギャップに笑えました
キャラも個性的!
若女将の口の悪さがクセになります