第三章 「Ego」(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
第三章
『Ego』
結婚式を終えて、太陽との結婚生活が始まりました。
飯田 太陽(いいだ たいよう)「なぁ孔雀」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「お願いがあるんだけど」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「なぁに?太陽さん」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「孔雀には仕事を辞めて専業主婦になってもらいたいんだ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「え!?」
予想もしていなかったお願いでした。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「べ、別に共働きでもいいんじゃない!?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「まだ子供もいないんだし・・・」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「いや、駄目なんだ」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「男が外で稼いできて女が家を守る」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「これが理想の完璧な家庭だろ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「・・・」
決して今の医療事務の仕事に強い愛着があるワケではありませんでしたが
居心地のいい職場ではあったので少し戸惑いました。
何より有無を言わさぬ太陽の態度が
少し・・・怖かったのです。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「で、でも家にいても暇だし」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「暇じゃないさ」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「これを見て」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「これは・・・」
それは料理教室や美容に関するチラシでした。
飯田 太陽(いいだ たいよう)「もちろん金は俺が出すからさ」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「孔雀には自分磨きに時間をかけてほしいんだ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(え!?)
最初は戸惑ったものの
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(まぁ、でも・・・)
自分磨きをするという太陽の提案も悪くないと思い
退職を受け入れました。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「わかったわ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私立派な妻になるわね」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「さすがは孔雀だ」
〇事務所
袴田 雲雀(はかまだ ひばり)「えー、孔雀辞めちゃうの!?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「うん、突然ゴメン・・・」
袴田 雲雀(はかまだ ひばり)「まあでも太陽さん、あの『鵬翼商事』勤務のエリートだもんね」
袴田 雲雀(はかまだ ひばり)「そりゃ専業主婦でも全然いけちゃうよねぇ」
袴田 雲雀(はかまだ ひばり)「ま、気が向いたら私とも遊んでよ!!」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「気が向いたらって・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「当然よ!!色々とありがとね雲雀!!」
雲雀は私にとって本当にかけがえのない友人でした。
なのに・・・
この後ほとんど会うことはありませんでした。
〇おしゃれなキッチン
それから私の自分磨きの日々が始まりました。
二輪 兜(にわ かぶと)「料理とは一種の化学であり調合が重要だ」
二輪 兜(にわ かぶと)「かのアメリカの二大コーラも、生みの親は薬剤師だ」
二輪 兜(にわ かぶと)「ココでは他とは一味違う料理体験をしてもらうよ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「は、はい!!」
少し風変わりな料理教室に通い
〇貴族の部屋
エステティシャン「飯田様は大変きめ細かい肌をされてます」
エステティシャン「同性として羨ましい限りです」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「いえいえ、そんな・・・」
定期的なエステで身体のメンテナンスを行いました。
〇怪しいロッジ
休日には太陽の友人とのレジャーに一緒に行きました。
太陽の友人 原野「しかし孔雀さん・・・ ほんとお綺麗ですよね!!」
太陽の友人 原野「太陽にはもったいないよ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「いやそんな・・・」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「原野!!調子のいいやつだなぁ!!」
仕事は辞めましたがむしろ今まで以上に多忙な日々でした。
自分の時間というものはほとんどなく
私のスケジュールは実質的に太陽に管理される日々が続きました。
その極め付けが・・・
〇ダブルベッドの部屋
夫婦の夜の営みでした。
飯田 太陽(いいだ たいよう)「孔雀・・・そろそろ排卵日だよな?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「うん・・・」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「よし!!今日から1週間は毎日しよう」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「わかったわ・・・」
太陽は子供を欲しがっていました。
もちろん私も欲しく、年齢も30に達した事での焦りはありましたが
新婚の2人きりの時間を楽しみたいと思っていたのもあり
太陽ほどの思いが私にはありませんでした。
どこか機械的な性行為は
あくまで”子供を作るためにしているもの”と
感じずにはいられませんでした。
うっ
〇ダブルベッドの部屋
ある意味、その思いは太陽も一緒だったと思います。
果てて眠る彼を横目に私は思いました。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(私・・・)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(結婚してから何か一つでも・・・)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(自分で決めたこと・・・あったっけ・・・)
気づくと、私は太陽の提案にしたがってばかりでした。
ただ、当時はそれを贅沢な悩みと思い、充実した生活を送らせてもらっているのにおこがましいと
思ってしまっていました。
〇おしゃれなリビングダイニング
そんな多忙な日々に疲れていた私でしたが
一念発起して太陽に秘密で、ある活動を始めました。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ふぅー、今日の分の洗濯も終わったし」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ご飯も作ったから」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「まだ少し時間があるわね」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「始めようかな」
それは小説の執筆活動でした。
ずっと本を読んできた私でしたが
もちろんそんな経験は無く
一つの挑戦でした。
どこか窮屈な日々を送る私の
一種の反抗だったと思います。
タイトルは・・・
『Eden's Deficient Dreamer』
〇大樹の下
物語のあらすじはこのような形です。
通称”楽園”と呼ばれる教育機関で幼少期から暮らす才能ある子供達
最高の環境が整えられていたが
そのうちの1人、『パヴォーネ』は
ある日楽園に対して疑問を抱き
まだ見ぬ外の世界に思いを馳せる
だが、それは抱いてはならない禁忌の感情だと
楽園では教育されてきた
〇豪華な部屋
そのため教師たちは彼の考えを認めず
『Deficient』の烙印を押した
だが
〇大樹の下
パヴォーネは諦めない
狭い楽園を飛び出して
外の世界へ羽ばたいていく日を夢見て
〇おしゃれなリビングダイニング
この話は・・・
当時の私の状況を『パヴォーネ』に投影したものでした。
表面上は納得していると自分に言い聞かせていても
どこか感じていた不満が・・・
『パヴォーネ』を・・・
『EDD』を生み出したんだと思います。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「もう、こんな時間!? 早く準備しないと!!」
〇おしゃれなリビングダイニング
会社の後輩 浅山「先輩の奥さんの料理!! 抜群に美味いです!!」
会社の同期 添田「ホントよね!!並の料理上手じゃないわよ!!」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「いえいえ、とんでもないです」
料理教室に通うことで私の料理の腕前は格段に上がっていました。
会社の同期 添田「これは太陽君も自慢しちゃうわぁ」
飯田 太陽(いいだ たいよう)「だろぉ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「このお皿下げますね」
〇L字キッチン
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ふぅ・・・」
太陽は会社や自分の所属コミュニティで私の自慢ばかりしており
『完璧な妻』像を植え付けられていました。
その期待を裏切らないようにする日々に私は・・・
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(今日もなんとか乗り切った・・・)
正直・・・疲れていました。
そして、ある日・・・
〇おしゃれなリビングダイニング
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(う・・・ なんだか体調が悪い・・・)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(今日は太陽さんの自転車仲間がいらっしゃるのに・・・)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(ご飯の準備が間に合わない・・・)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「は、はぁーい」
〇おしゃれなリビングダイニング
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「す、すみません」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「料理、今作っているとこなので」
太陽の自転車仲間 佐野「いえ、もう全然お構いなく」
太陽の自転車仲間 高原「俺らこれで全然大丈夫っていうか」
太陽の自転車仲間 佐野「一瞬ガッカリした顔見せちゃって申し訳ないです」
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うわぁ、嫌な予感してたけど、やっぱりDV夫だった…… それも絶対しんどいタイプのやつ……
まだ離婚という選択肢もありそうなもんですが、既に『夫の死』という結末が確定している以上…… やっぱり嫌な予感しかしないっす!
太陽ついに正体現したり!ですね。こういう人に限ってめちゃめちゃ外面が良いのが、何ともリアルです。
一筋の光がラストで見えたようですが、1話でそんな人物の紹介はなかった気がしますし、嫌な予感しかしませんね…。
Eの続く各話タイトルのこだわりも楽しみにしてます^^
これはひょっとして約束のネバ…いや、気のせいか。
逃げ道ないなぁ。閉塞感が半端ない。
子供ができなければまた違ったでしょうけど。仕事を奪われ、期待され、外堀がどんどん埋まっていく過程が恐怖です。