マリッジ・テンタクル(脚本)
〇睡蓮の花園
いつかの未来 外宇宙へ移住する
人間たちがいた
ある人間のグループは
温厚で疑うことを知らない
触手たち(テンタクル族)が住む星を
占領した
アディラ「さようなら みにくい私」
アディラ「人間の上半身に テンタクル族の下半身」
アディラ「人間にもテンタクル族にも 属したくない私」
アディラ「テンタクル族か人間か どちらか選べと言われたら 人間を選ぶかもしれない」
アディラ「でもどうせ人間も みにくい 人間は にくい テンタクル族を奴隷にするから・・・」
アディラ「私だってこんな脚だから テンタクル族の居住区から 出るのは危険よ」
アディラ「ああなんてきもちわるい触手 切っても切っても生えてくる」
アディラ「・・・もういいわどうせしぬもの」
アディラ「上半身も下半身も美しく、 決して醜くないものに、 差別されないものに、 生まれ変われますように」
アディラ「・・・いや、生まれ変わりたくもないわ」
アディラ「全くみにくくないものなんて あるのかしら・・・」
アディラ「・・・」
恨むように
さっき切った自分の触手を
首に結んだ
〇華やかな広場
オパール「夜の散歩は気持ちいいな〜」
オパール「誰もいなくて静かで 落ちつ」
オパール「?! 誰かが奥にいる」
〇睡蓮の花園
オパール「君!! 何してる?!!」
アディラ「あっ」
触手はすべすべしていて
あまり強く結べていなかったらしい
身体の重みで 触手首吊りロープは
すぐに解けた
アディラ「落ちる──」
アディラ「痛い 尻もち付いた・・・」
アディラ「あっ ごめんなさい ごめんなさいごめんなさい」
アディラ「見なかったことにして! さよなら!」
オパール「ああ待って! 責めないから!!」
〇海辺
オパール「追いついた、・・・」
オパール「僕は君に何も聞かないし、 責めたりはしないけど、 ただここでそのまま帰したら よくない気がして、」
オパール「それで・・・」
アディラ「・・・・・・」
アディラ「うっ・・・」
アディラ「うっ・・・・・・あああっ・・・・・・」
アディラ「知らない人の前で泣くなんて・・・・・・ みにくい・・・・・・」
アディラ「見ないで・・・」
オパール「・・・・・・」
〇朝日
オパール「朝日だ きれい」
アディラ「本当に何も聞かなかったね・・・ありがとう」
オパール「うん」
オパール「一つ聞いていい? なんでウエディングドレス着てるの?」
アディラ「死ぬ前に、一回着てみたくて・・・」
オパール「素敵! ちょっとまってて いいこと思いついたの」
オパール「おまたせ!」
オパール「僕も一回着てみたかったの。 タキシード。 似合う?」
アディラ「カッコイイね!」
オパール「一緒に写真を撮ろう!」
アディラ「はずかしい・・・」
オパール「いいじゃん 記念に撮ろうよ こんなこと もう二度とないかも!」
アディラ「そうだね」
オパール「じゃあとろうか。 もうちょっと寄って? ピースピース」
オパール「はい、チーズ」
オパール「わー!映える! あ、SNSでシェアしたり しないから安心して」
アディラ「いいよ シェアしても 顔は隠してね」
オパール「おっけー」
オパール「海でウエディング女子会! イエ~イって投稿したわ」
オパール「最高」
アディラ「テンション高いね」
オパール「はは、夢がかなったからね! 海で結婚式する夢! とても嬉しい」
オパール「ありがとう!」
アディラ「お礼なんて・・・ 私は何も・・・ むしろ迷惑かけてごめんなさい」
オパール「いいのよー 僕はオパール 君の名前は?」
アディラ「アディラ」
オパール「アディラ、また話そうよ てか、ラインやってる?」
アディラ「いいけど・・・ わたし半分テンタクル族よ 関わっても平気なの?」
オパール「そんなのどうでもいいよ 君とは気が合いそうだし」
アディラ「優しいのね ありがとう」
〇朝日
オパール「朝日の海、好き 天国みたい ずっと、このままでいたい」
アディラ「・・・そろそろ帰らなきゃね」
オパール「つまんないの なんで帰らなきゃいけないんだろ」
アディラ「帰巣本能?」
オパール「生きるため?」
オパール「はあ・・・」
オパール「お別れのハグしてもいい?」
アディラ「ええっ」
オパール「いや?」
アディラ「嫌じゃないけど・・・」
アディラ「私にこれ以上 近付かないほうがいいわ テンタクル族だから・・・」
アディラ「我を忘れるかもしれない」
アディラ「そんな私をみたらあなたは・・・ きっと・・・」
アディラ「いけないことだわ これは・・・」
オパール「いいのよ 僕はアディラに帰りたいの」
オパール「そんな気分なの」
アディラ「・・・・・・」
アディラ「本当にいいんだね 丸呑みにしても」
ぱくん
ぺーっ(はきだすおと)
アディラ「やめた」
オパール「なんで」
アディラ「私を生かしたんだから 君も生きなさい オパール」
オパール「ちえっ 消化してくれないのか」
オパール「こんな美人さんになら 消化されたかったのに」
アディラ「おだてても 食べないわ」
アディラ「一生私といなさい」
アディラ「首を縦に振らなきゃ 触手で縛り上げるわ」
オパール「なんか、怒ってる?」
アディラ「カンカン! でも 私もおんなじだわ」
アディラ「ごめんなさい」
オパール「あはははっ」
アディラ「ふふふふ」
オパール「はーぁあ また遊ぼうね アディラ」
オパール「今度は一緒に駆け落ちの 作戦でも考えようよ」
アディラ「また楽しいこと考えるのね 君は」
アディラ「オパールといると 退屈しないわ」
アディラ「ありがとう またあしたね」
自分で自分が嫌になっても、そんな自分のままでいいと思ってくれる人がそばに一人いるだけで世界は存続するんだなあ、とこの二人を見てしみじみ思いました。アディラにとっては過去の自分と決別し、新たな自分になる儀式のマリッジだったのかもしれません。
自分が持っているコンプレックス、誰しもがありますよね。
人間には触手はないので、種族が違えばまた違う悩みもあるよなぁと改めて考えました。
けどこんな風に優しい子に出会えたことが宝になればいいなぁ。
オパールが彼女に与えた静かであたたかいエールがとても素敵でした。たとえ家族でも、長く付き合いのある友人さえも、大きな壁にぶち当たったとき、自身を全部さらけ出すことができないこともありますよね。