19.過去とこれからの話をしよう。①(脚本)
〇黒
これは、狐守さん達が殺生石を調査しに行っている最中の話──
〇広い改札
俺──酒巻悠一は、須佐川さんの命令で茨木と共に京都に来ていた。
けど──
酒巻「・・・」
茨木「酒巻様、お荷物お持ちしましょう。さあ、スーツケースと手提げカバンをこちらに」
茨木「ところで、お腹はすいていませんか。近辺の有名店はチェック済みですので、食べたいものを言って頂ければご案内します」
通行人1「なんやなんや? ドラマの撮影でもしてはるん?」
通行人2「それとも、本物の執事やろか? でも、どっちにしろ──」
「イケメンやな~~~!!」
酒巻「うう・・・」
茨木「・・・あの。 顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
茨木「疲れていらっしゃるのでしたら、私が背負って──」
酒巻「ちがーーーーう!!!!」
茨木「はい?」
酒巻「あのさ! 何度も言ってるけど、いい加減それ、やめてくれない!?」
酒巻「ただでさえ模造刀持ってるだけで目立つのに、茨木の所為でさらに目立つじゃん!!」
酒巻「大体俺達はバディで対等な関係なの。こんな風に俺が主人で君が執事みたいに振る舞うのは間違ってる!」
茨木「なにも間違っていませんよ?」
茨木「貴方は私よりも気高く尊いお方。側に控える者として、お世話をするのは当然です」
酒巻「・・・・・・はぁ」
酒巻(毎度のことながら、話が通じない・・・)
酒巻(いいや、茨木の事は置いておこう。 今は──)
酒巻(ええっと・・・ 「京都で修行をしてこい。 場所はお前達に任せる」か)
酒巻(確かに茨木童子は京都の怪異だし、 源の本家も京都にあるから 理解はできるけど・・・)
酒巻「なんで修行場所は 指定してくれなかったのかなぁ」
茨木「須佐川様からの任務ですか?」
酒巻「そう。どこに行けばいいだろう、って」
酒巻(まさか茨木を連れて源の本家に行くわけにもいかないし)
茨木「・・・」
茨木「1つ、良い場所を知っています」
〇空
〇空
〇森の中
酒巻「はぁ、はぁ・・・」
茨木に促されるまま京都駅から電車、タクシーと乗り継ぎ、今俺達は延々山を登り続けていた。
いつの間にか日は傾き始めており、遠くからはカラスの鳴く声がもの悲しく響いてくる。
酒巻「茨木、まだつかないの?」
茨木「・・・もうすぐです」
酒巻(・・・茨木、山に入ってから全然しゃべってくれないな。ここがどこなのかも教えてくれないし)
酒巻(仕方ない。スマホ、繋がるかな)
酒巻(今の位置は・・・)
酒巻(──大枝山?)
酒巻(大枝山って言えば、確か酒呑童子が拠点にしていた「大江山」の候補とされている山の1つだよね)
酒巻(ということは、もしかしたらここで、 茨木達は源頼光に・・・)
酒巻(やっぱり一度、ちゃんと話しておかなきゃいけないよね)
酒巻「ねえ、茨木。 言っておきたいことがあるんだけど」
茨木「・・・はい」
酒巻「実はさ。僕、君の親友の 酒呑童子を殺した源頼光の末裔なんだ」
茨木「知っていますよ。貴方の纏う霊力は、 彼と似たものを感じていましたから」
酒巻「・・・やっぱり、気付いてたんだ」
酒巻「ねえ、俺の事──源家のこと、 憎くはないの? 俺達の先祖は、 君の大切な人をすべて奪っていったのに」
茨木「──憎んでなんていませんよ」
茨木「確かに源頼光とその仲間の事を考えると、 どうしようもない怒りに駆られます」
茨木「しかし、その子孫は私達と 直接関係ありませんから」
茨木「まして貴方に関しては── 生きて存在してくれていることに 感謝すらしています」
酒巻「──!?」
酒巻「どうして君は、そこまで俺の事を・・・」
茨木「それは──」
酒巻「──!!」
茨木「打ち合えば、分かるはずです」
酒巻「──っ!」
酒巻(修行、開始ってことか)
互いに模造刀を構えたまま、刻々と時間が過ぎていく。
一陣の風が吹き、周囲の木々をざわめかせた。
茨木「──黄昏時は、過去と未来、 彼岸と此岸のあわいが曖昧になるとき」
茨木「夢と現実の境界で── 貴方はきっと真実を手に入れるでしょう」
〇森の中
酒巻「くっ・・・!」
茨木「どうしたのです! 貴方の力はそんなものじゃないでしょう!」
茨木「もっと本気で── 私を殺すつもりできなさい!」
酒巻(──っ!? なんだか、頭が・・・)
〇けもの道
???「どうしたどうした!? てめぇの力はそんなもんじゃねぇだろ!」
???「鍛錬だからって手をぬいてんじゃねえ! 俺を殺すつもりでかかって来やがれ!」
〇森の中
酒巻(なんだ、今の)
酒巻(全然知らない光景・・・ なのにどうして懐かしく感じるんだろう)
茨木「よそ見は禁物ですよ!」
酒巻「──ッ!」
茨木「貴方は強かった。美しかった。 気高かった──」
茨木「あの頃の貴方を、本当の貴方を 思い出してください!」
酒巻「──!!」