第14話 背負わされた家名(脚本)
〇オタクの部屋
テツヤ「ソルーナ。書籍化の話がなくなったって、どういうことだ?」
ソルーナ「正確に言うと、テーマを変えなければ出版はしないと言われたのだ・・・」
テツヤ「よければ詳しく聞かせてくれないか」
ソルーナ「編集者から突然一方的に『今時ファンタジーなど流行らない』と言われてな」
ソルーナ「プトレマイオス朝を舞台にした本格歴史大河を書けなど無理難題を突きつけられた」
アン=マリー「その編集者とやらの居場所をお教えいただけますか? 私がこの手で粛正を──」
テツヤ「待て! 早まるな!!」
テツヤ(とはいえ、あまりに勝手な話だ)
テツヤ(普通なら編集者とよく話し合ったほうがいいって言うところだけど──)
ソルーナ「我の渾身の小説が『今時流行らない』か・・・ふ、ふふふ・・・」
テツヤ(うつろな目で壁を見つめるソルーナが、まともに編集と話し合うのは難しいだろう)
テツヤ「よし。俺が編集者のところに行って、しっかり話を聞いてくるよ」
アン=マリー「であれば、私も同行させてください。ソルーナ様の従者として、このまま指をくわえて見ているわけにはいきませんので」
〇繁華な通り
アン=マリー「テツヤ殿、何から何までありがとうございます」
テツヤ「なんだよ、改まって」
アン=マリー「これまで親身にソルーナ様の相談に乗り、力になってきてくださったこと・・・その全てに感謝申し上げたいのです」
テツヤ「そんな大層なことはしてない気がするけどな」
アン=マリー「いえ。あちらの世界でもテツヤ様のように親身になってくださっている方が居れば」
アン=マリー「ソルーナ様の人生も少しは変わっていたかもしれません・・・」
その言葉は独り言のように聞こえたが、このままスルーする気にはなれなかった。
テツヤ「今の、どういう意味だ?」
アン=マリー「──ソルーナ様はお生まれになった時から、家名のため生きることを決定づけられた存在でした」
テツヤ「そういえば、前に名家の生まれだとかなんだとか聞いたような」
アン=マリー「はい。あの方は名門サルミネン家の長子。幼少の頃より既に自由はありませんでした」
アン=マリー「普通の子供として過ごせないソルーナ様を救ったのが、小説などの物語だったのです」
テツヤ「そうか・・・空想の世界は自由だもんな。じゃあこっちでソルーナは自分の好きなことを自由に楽しめてたんだな」
アン=マリー「ええ。今回のことが起こるまでは、ですが」
マリーの心情はよく理解できた。だが、改めて1つ気になることがある。
テツヤ「前から思ってたんだけど、そもそもなんで名家出身のソルーナが守(もり)に選ばれたんだ?」
アン=マリー「選ばれたのではなく、無理矢理『選ばせた』のです」
テツヤ「ん? もうちょい詳しく」
アン=マリー「ソルーナ様は最年少で宮廷魔術師になられたお方」
アン=マリー「その名誉は計り知れないほど大きいものでしたが、寝ても覚めても仕事の生活に疲れ、あの方は遂にお怒りになったのです」
アン=マリー「自分を守に選ばないのであれば研究成果を燃やす。そう脅した結果──」
テツヤ「守の地位を手に入れたってことか。でもそんな強引に話を進めたら、反発もあったんじゃないか?」
アン=マリー「ええ、それはもう家の中はひっくり返ったような騒ぎになりました」
アン=マリー「アパートに引っ越した当初は、ソルーナ様を連れ戻そうとひっきりなしにサルミネン家の者や宮廷の者が訪ねて来たものです」
テツヤ「それも全員追い払っちまったのか?」
アン=マリー「ええ。ソルーナ様は徹底的に部屋に閉じこもり、誰にもお会いになりませんでした」
アン=マリー「説得は不可能と判断されたのか、ここ半年は誰も顔を見せていませんが」
マリーはそこで言葉を切り、突然足を止めた。
アン=マリー「テツヤ様、編集部があるのはあのビルですね?」
怒りに燃えるマリーの目は、高いビルを射貫くように見つめていた。
〇雑誌編集部
編集者「ソルーナ先生からうちに来るとご連絡があったので、ようやくご本人に会えるかと思ったのですが・・・」
編集者「そうですか、代理人の方でしたか」
テツヤ「ようやく会えると思ったって、本人と会ったことはないんですか?」
編集者「ええ。移動時間を惜しむくらい執筆に励まれているようで」
編集者「これまでのやりとりは全て電話かメールでした」
テツヤ(そういえばここ最近ソルーナはほとんど部屋から出ず執筆に励んでいた)
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