第4章:追撃(脚本)
〇外国の田舎町
ブォォォォン!!
ギュギュギュギュギュギュッ・・・!!
撃ち出された砲弾のようなスピードで、車は街を走り抜けて郊外に出た。
イェン「ひぃぃぃん!!」
スイ「いやぁぁぁん!!」
スピードを少し緩めたミンが、ルームミラーの角度を変えて後部座席を見る。
ミン「二人とも、大丈夫ですか?」
イェン「大丈夫じゃなぁぁぁい!!」
スイ「し、死にそう・・・」
ミン「え!?・・・どこかケガでも!?」
イェン「ケガはしてないけどーっ!!」
スイ「怖くて死にそう・・・」
ミン「ああ・・・なら良かった」
イェン「よぐないよぉぉーーっ!!」
ミン「しかし、おかしいな・・・」
ルームミラーを調整しながら車の背後を見ていたミンが、けげんそうにつぶやく。
イェン「なにが?」
ミン「いや、ヤツラ、追ってくる様子がないですね」
イェン「お父ちゃんが引きつけてくれてるのかなぁ・・・」
ミン「それもあるかもしれませんが・・・」
ミン「とりあえず・・・」
ミン「このまま距離をかせぎます!!」
そう言うと、ミンは再び勢いよくアクセルを踏み込んだ。
ブォンッ!!
ギュギャギャギャギャギャギャッ!!
イェン「にゅわぁぁぁーん!!」
スイ「いにゃぁぁぁぁーーん!!」
〇海岸線の道路
ガタン・・・ゴトン・・・
顔に当たる光のまぶしさでイェンが目覚めると、朝日が窓から差し込んできていた。
いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
朝焼けの中、車は海沿いの道を走り続けていた。
イェン「ん・・・あれ・・・ここどこ・・・?」
ミン「起きましたか?」
運転席のミンが、前を向いたままミラー越しにイェンに声をかける。
イェン「ほわぁぁぁ・・・ミンさんおはよう・・・」
ミン「おはようございます。・・・ゆうべはよく眠れましたか?」
イェン「うん、おかげさまで・・・」
ミン「そうですか。なら良かったです」
イェン「もしかして、夜どおし走り続けてくれてたの?」
ミン「ええ、まあ・・・」
ミン「自動運転(オートモード)のままだと、あまり飛ばせませんからね」
イェン「今、どこを走ってるの?」
ミン「もうクイニュンの近くまで来てます」
クイニュンはホイファンから南に300キロほど下ったところにある海辺の町だ。
ミン「クイニュンに着いたら、いったん車を乗り換えます」
ミン「ついでにそこで朝食にしましょう」
イェン「お父ちゃん大丈夫かな・・・?」
ミン「連絡はまだですが、きっと大丈夫ですよ」
ミン「ヤツらの狙いがあなたがた二人にあるのなら・・・」
ミン「逃げられた時点であそこにとどまる理由はないですからね」
イェン「やっぱりウチらが狙われてるの・・・?」
ミン「確かなことは言えませんが、恐らく・・・」
疲れと眠気でイェンはそれ以上会話を続けられず、またうとうとしてしまった。
〇商店街
イェンが次に目を覚ましたとき、車は小さな中古車屋の前で停まっていた。
ミンは車の外で、でっぷり太った男と話している。
ディーラーのオーナー「ほな、これが新しい車のキーです」
ミン「ありがとう」
ディーラーのオーナー「ああ、あちらの車はアシがつかないように、こっちで処分しときます」
ミン「よろしく頼む」
ミンが車のドアを開けてイェンとスイに声をかける。
ミン「二人とも、起きてください」
イェン「スイ、起きてー!!」
イェン「起きてってばー!!」
スイ「むにゃあぁ・・・」
イェン「車を乗り換えるんだって」
イェン「あと、朝ごはん食べるよ!!」
スイ「朝ごはん・・・起きるぅ・・・」
次の車はトヨタのランドクルーザーだった。
無骨なフォルムの四輪駆動車だ。
イェンたちの乗り込んだ後部座席からは、後ろの荷室が見える。
そこには防水布にくるまれた機械のようなものが積まれていた。
油とホコリの混ざったニオイが鼻をつく。
〇テラス席
車を乗りかえてしばらく走ると、ドライブインが見えてきた。
ミン「では、このへんで朝食にしましょうか」
イェン「さんせーい!!」
スイ「やったー!!」
三人はドライブインに入った。
ドライブインは、老婆とその息子らしい中年男の二人で切り盛りしているようだった。
中年「いらっしゃい・・・何にしますか?」
イェン「アタシはフォー・ガー(鶏肉乗せ麺)にする!!」
スイ「私はフォー・ボー(牛肉乗せ麺)!!」
ミン「じゃあ、私はコム・ガー(鶏肉飯)で」
中年「はいはい、フォー・ガー、フォー・ボー、コム・ガーね」
注文を取ると、店員の男は奥のほうに引っ込んでいった。
老婆の方は、料理を手伝うわけでもなく店の中をうろうろしている。
ミンがイェンに目配せを送った。イェンが口を開く。
イェン「ミンさん、お父ちゃん今ごろ大丈夫かなぁ?」
ミン「連絡は取れてないですが、恐らく大丈夫だと思います」
ミン「あんな、ロクに統制も取れてなさそうなチンピラにやられる人じゃありませんよ」
イェン「だといいんだけど・・・」
ミン「とりあえず、このまま連絡が取れない場合はカムルンの街で落ち合うことになっています」
カムルンは、ここから5時間くらいのところにある街だ。
イェン「今日のうちにはまたお父ちゃんに会えるかなあ?」
ミン「ええ、きっと・・・」
ミン「食べ終わったら、カムルンまで海沿いの道を走りましょう」
そのとき、店員が湯気のたった料理を持ってきた。
中年「はい、おまっとうさん・・・」
イェン「わーい、来た来た!!」
スイ「おいしそう・・・」
ミン「それじゃあ、いただきましょうか」
イェン「いただきまーす!!」
運ばれてきた料理を平らげ、三人は再び南への道を走り始めた。
〇海岸線の道路
車は海沿いの道をカムルンに向かって走る。
疲れが残っているのか、スイは朝食を食べた後、また眠り込んでしまった。
トゥルルル・・・!!
ミンの携帯端末が鳴った
車を自動運転(オートモード)に変え、ミンが電話を取った。
ミン「もしもし・・・はい、ミンです」
ミン「・・・ああ、あなたでしたか」
ミン「ええ、ええ、はい、やはり・・・・・・」
ミン「わかりました。プランBで山側に向かいます。では」
イェン「今の電話、お父ちゃん!?」
ミン「いえ・・・」
ミン「カムルンにいる協力者からでした」
ミン「カムルンに入る前の道端で、黒い大型車三台に乗った連中が待ち構えているようです」
イェン「あ、じゃあ、やっぱり・・・」
ミン「ええ、さっきのドライブインにもヤツラの手が回っていたみたいです」
イェン「偽の情報を流しておいて、よかったね」
ミン「そうですね。ヤツラの裏を書いて、カムルン手前のニャチュンから山の方へ向かいましょう」
〇外国の田舎町
車はニャチュンの分岐点に着いた。
ミンたちは、海沿いの道で待ち伏せしている敵の裏をかくため、西へ進路を変え山道に入った。
山道はまだ整備が行き届いておらず路面がデコボコしている。
車は派手にガクガクと揺れた。
イェン「うわぁぁぁ!!」
スイ「ゆゆ・・・ゆれる・・・」
ミン「はは・・・しばらくガマンしてくださいね」
山道に入って1時間がたった頃、ミンが緊迫した声を出した。
ミン「まずいですね・・・」
ミン「後ろから車が3台近づいてきます」
イェン「ええ!?」
後ろを振り返ると、黒い大型車が3台近づいてくるのが見えた。
ミン「カムルンの待ち伏せ組が、こちらのコース変更に気づいて追いかけて来たようですね」
イェン「や、やばいじゃん!!」
スイ「ここ・・・こわい・・・」
黒い車の窓からは派手な柄のシャツを来た男が身を乗り出してきた。
その手にはアサルトライフルが握られている。
タララララ・・・
軽快な音とともに弾丸がばらまかれ、何発かがこちらの車の後部にカンカンと着弾する。
イェン「きゃあああ!!」