ウチらには向かない職業

五十嵐史

第5章:反撃(脚本)

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五十嵐史

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〇外国の田舎町
  後ろから3台の大型車がどんどん近づいてきた。
  車から身を乗り出した男がアサルトライフルを乱射してくる。
  後部のフェンダーに、弾丸がカンカンと当たった。
イェン「や、やばいよこれぇえ!!」
ミン「ふむ・・・奴らはタイヤを狙ってきてますね」
ミン「どうやら殺すつもりは無いようです」
イェン「でも、このままじゃ捕まっちゃうよぉ!!」
スイ「ここ・・・こわいぃ・・・」
ミン「ふふ・・・」
ミン「ふふふふふ・・・」
イェン「な、なんで笑ってるの?」
ミン「いやあ、仕方ありませんね・・・」
ミン「レイ、出番だぞ。起きろ!!」
ミン「イェン、スイ、身をかがめて耳をふさいでください!!」
  そう叫ぶとミンは足元にあるレバーを引いた。
  バクン!!
  次の瞬間、車の後部ドアが跳ね上がり、荷室にあった機械が現れた。
  それは、三脚の上に機関銃と多数のセンサー類が載った、いびつで禍々しい複合機械だった。
ミン「レイ、後ろの3台、全部やっちまっていいぞ!!」
  『Ready・・・』
  ――ガキン
  合成音声の短い応答の後、安全装置が外れる音がした。
  ――ブラララララララ・・・
  機関銃は業務用の送風機みたいな轟音を上げ、おびただしい数の弾丸を敵の車に叩き込んだ。
  先頭車のボンネットが一瞬でボロクズのようになる。
ミン「わははははは・・・!!」
  先頭の車はコントロールを失い、フラフラと二台目の車に衝突する。
  二台はもつれあって道から外れ、道路脇の立木にぶつかって止まった。
  三台目は巻き込まれなかったようだが、戦意を喪失したようで、その場に停止した。
ミン「だっはっは、思い知ったかチンピラどもめーー!!」
イェン「ななななな、なに今のはーーーー!!」

〇停車した車内
ミン「ははっ・・・急ごしらえでしたが、どうにかうまく動いたようですね」
  ミンが再びレバーを引くと、後部ドアがバクンと閉まった。
  硝煙のニオイが車内に流れ込んでくる。
ミン「今回は、手が足りないのがわかってましたので、支援組織に頼んで武装を自動化してみました」
  『初めまして、イェンさんスイさん』
スイ「しゃ、しゃべった・・・」
  『ワタシはAI技術と各種センサーの複合により、敵を殲滅するまで自動で動き続けるシステムです』
  『リアクティブ・オート・インターセプター、略してRAI、レイとお呼びください』
  重機関銃に紐付いている丸い端末が、ホテルなコンシェルジュのような丁寧な口調で自己紹介を始めた。
ミン「う~ん。 ここまでしゃべれるようにしてくれと頼んだ覚えはないんだが・・・」
  『何をおっしゃいますか!?』
  『頼まれたオーダーより高機能なのに、文句を言われる筋合いはありませんよ!?』
ミン「いや、その・・・ 機械も高機能になればなるほど、メンテが大変だったり燃費が悪かったりするだろう?」
  『ふふ・・・そんな心配は無用です』
  『ワタシには定期的に自分の性能の正常性を自動チェックする機能がありますし』
  『軽微な損傷はその場で自己修復可能です』
  『また、1日2時間の太陽光を浴びれば充電され半永久的に活動が可能です』
スイ「す、すごい高機能・・・」
イェン「ちっちゃいルンバみたいな形なのにね・・・」
  『ななな、何たる侮辱!!』
  『ワタシをあんな掃除しか能のない機械と一緒にしないでいただきたいっ!!』
イェン「ごっ、ごめん・・・」
ミン「なんというか、機械のくせに短気なヤツだな。設計者の顔が見たいよ・・・」
  『ぬわっ、ワタシの悪口は許しても、親の悪口は許しませんよっ!!』
ミン「わーかったわかった、悪かった」
イェン「しかし、性格のことを言うのなら」
スイ「うん・・・」
イェン「さっきの攻撃してるときのミン兄ちゃん、妙に生き生きしてたよね」
スイ「た、たしかに・・・」
イェン「武器を持つと性格が変わるのかもしれないから」
イェン「あんまり怒らせないようにしよう!!」
スイ「うん、うん・・・」
ミン「うん? 二人で何か内緒話ですか?」
イェン「な、なんでもないですー!!」
スイ「な、な、なんでもないでごじゃります・・・」

〇停車した車内
  車はそのまま軽快に山道を走り続ける。
ミン「さて、このまま山側を抜けてサイグゥン市に向かい、空港から出国します」
ミン「空港から先の段取りは 先ほど説明した通りです。・・・大丈夫ですか?」
イェン「うん」
スイ「はい・・・」
ミン「じゃあ、そろそろ昼飯にしましょうか」
  イェンはカムランの道沿いの露店で買ったバインミーを紙袋から取り出した。
  バインミーはヴェナン名物のサンドイッチだ。
  フランスパンを上下で半分に割ってレバーペーストを塗り、ゆでた豚肉や酢漬けの野菜を挟んである。
  イェンは運転席のミンにバインミーを一つ渡す。
イェン「はい、ミンさん、どうぞ」
ミン「ありがとうございます」
  受け取ったバインミーをほおばりながら、ミンは運転を続ける。
  自分の分のバインミーをかじりながら、イェンは携帯端末で、ホイファンの昨日のニュースを何度か検索してみた。
イェン「やっぱり、どのニュースサイトにも昨日ウチの家が襲撃された事はのってない・・・」
ミン「ニュースには何も出てないでしょう?」
ミン「国が民主化されたとは言え、この国の警察は、まだまだワイロで動いていた頃の体質が抜けてません」
ミン「敵が誰だとしても、情報を握りつぶすなんて簡単です」
  『22世紀の今、AIはこんなにも進化しているのに、人間はなぜ愚かしいままなのでしょう・・・』
ミン「こればっかりは、お前の言う通りなのかもしれないな・・・」
イェン「・・・・・・」

〇外国の田舎町
  三人を乗せた車はサイグゥン市まであと少しのところまで来た。
  日差しが傾き、空が茜色に染まってきている。
  『ピピ・・・』
  電子音が鳴った。
ミン「どうした? レイ」
  『後方から敵が来ます。大型車1台にワンボックスカーが2台です』
ミン「なんだと!?」
  3台の車は、もの凄い勢いでこちらに近づいてくる。
ミン「レイ、殲滅だ!!」
  『Ready・・・』
  ――ブラララララララ・・・
  機関銃は再び轟音を上げ、弾丸の雨を撒き散らした。
  『むむ・・・!?』
ミン「どうした?」
  『弾丸が車体を貫通しません』
  『ワンボックスカーの内側から防弾複合材が貼られているようです』
イェン「うええ・・・やばいじゃん!?」
  ワンボックスカーはみるみるうちにこちらとの距離を詰め、ついには横に並んできた。
スイ「いやああああ!!」
  ワンボックスカーから、不審な男が身を乗り出している。
怪人「コー、ホー!!」
ミン「レイ、横のヤツをなんとかしろ!!」
  『無理です。近すぎます』
ミン「ええい!!」
  ミンがハンドルを思い切り回し、車体を相手にぶつける。
  ガァン!!
イェン「きゃああーあ!!」
スイ「いやあああ・・・」
  たまらず、相手の車が少し離れる。
怪人「グォォーーッ!!」
  不審な大男が車から身を乗り出し、自車の屋根に登った。
  『やばいです。乗り移るつもりのようです』
ミン「なんとかしろ!!」
  『近すぎて無理です。しかもワタシの射角は上方向には限界が』
ミン「クソッタレ!!」
  ミンが助手席に置いてあったアサルトライフルをつかんだ。
  ハンドルを左手で持ったまま、もう片方の手で相手に向けて引き金を引く。
  タタタタタタン・・・
怪人「グー、フー!!」
  しかし安定しない片手打ちのため、弾丸はまったく当たらない。
  ――ドン!!
イェン「わぁっ!!」
  並走していたワンボックスから、敵がこちらの屋根に飛び移った。
  ブィィーーン!!
  耳をつんざくような高周波の音が天井から聞こえる。
  イェンとスイは思わず耳をふさいだ。
  『やばい! 超振動ナイフです』
  天井からナイフの切っ先がのぞき、まるでバターを切るようにスムーズに、屋根の鋼板を切り裂いていく。
  『そんな! これを人間の手で扱えるわけが・・・』
  みるみるうちに屋根が四角く切り取られ、風が吹き込んでくる。
怪人「グフシュゥーー!」
  怪人が天井から車内を覗き込む。
イェン「キャアアーーーー!!」

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