第13話 エルフのお悩み(脚本)
〇古いアパートの廊下
アン=マリー「テツヤ様。ソルーナ様が是非とも相談したいことがあると仰っています。 一度、部屋まで足を運んで頂けませんか?」
テツヤ(ソルーナが俺に? 珍しいこともあるもんだな)
〇オタクの部屋
アン=マリー「失礼します、ソルーナ様。テツヤ様を連れて参りました」
テツヤ「邪魔するぞ──って、なんだこりゃ!?」
床に置かれた本が天井スレスレまで積み上げられタワーになっている。
テツヤ(全部漫画とかラノベだ・・・!)
テレビからは深夜アニメが流れ、甲冑やローブを着た女の子たちが巨大な魔物と戦っている。
テツヤ(なんだこの部屋。まるでオタ──)
ソルーナ「よく来たな・・・」
テツヤ「うわっ!?」
ソルーナがいきなりぬっと現れる。
テツヤ「えっと・・・マリーから相談があるって聞いたんだけど」
ソルーナ「自力で解決できると思っていたが、打開策は見つからずただ焦りが募るのみ。 我の精神も限界を迎えている」
テツヤ「その悩みって、いったい──」
ソルーナ「1年間、ネットで自作の小説を連載しているのだが・・・実はまだ1人のファンもついていないのだ」
テツヤ「・・・はあ?」
アン=マリー「そこで僭越ながら、提案させて頂いたのです」
アン=マリー「この世界の住人であるテツヤ様に小説を読んで頂き、助言をもらうのはどうかと」
テツヤ「あー、そうだな。色々ツッコミたいところはあるんだが、まず俺は小説とかにアドバイスできるほどそういうのに詳しくな──」
アン=マリー「・・・・・・」
断る方向に話を持って行こうとした瞬間、マリーから刺すような視線が飛んでくる。
テツヤ「詳しくない、が──まあ、何か協力出来ることもあるかもしれないしな!」
テツヤ「1回ソルーナの小説を読ませてもうらうよ! うん、きっとそれがいい!!」
ソルーナ「おお、そなたの協力に感謝するぞ。ではさっそくこれを読んでくれ!」
渡されたのは分厚い分厚い紙の束だった。
〇オタクの部屋
テツヤ「ソルーナには悪いが・・・ぜんっぜんわからん」
ソルーナ「ふむ。何が理解できないか、もっと具体的に教えてくれぬか?」
テツヤ「まず一番最初の『第七の雫の涙で月が満ちるとき、ゴルメドの街近くで小さな変化が起こった」
テツヤ「静かなるマンチェレット草原をウンバルに乗って駆けるニェレットの姿を──』って部分だな」
アン=マリー「物語の始まりを詩情豊かに感じられる名文かと思いますが」
テツヤ「いやまず第七の雫の涙ってなんだ!? ウンバルとかニェレットとかも全然わかんねえし・・・」
テツヤ「面白いとか面白くない以前に、理解できない言葉がありすぎて話が頭に入って来ないんだ」
ソルーナ「それは問題だな」
テツヤ「これ、結局どういうストーリーなんだ?」
ソルーナ「五つの国が存在する大陸での国盗り物語だ」
ソルーナ「長らく均衡が保たれて来たが、大陸の中で最も偉大な魔法使いが何者かによって殺されたことによりバランスが崩れ」
ソルーナ「大きな戦争が始まる」
テツヤ「それだけ聞くと面白そうだな」
ソルーナ「本当か・・・!?」
テツヤ「ちゃんと内容が理解できるように書けば、ファンも付くんじゃないか?」
アン=マリー「具体的にはどのようにすれば?」
テツヤ「例えばこの『第七の雫の涙で月が満ちるとき』とか、よくわかんねえから普通に『満月の夜』って書くとか―」
〇オタクの部屋
ソルーナ「テツヤ、そなたの助言に従い序章の改稿を行った。もう一度読んでみろ」
テツヤ「どれどれ。『それは満月の夜のことだった。ひとりの少年が馬に乗り、静かな草原を駆け抜けていく』」
テツヤ「おお、読みやすさが段違いだな! これなら話も頭に入ってくるし、ストーリーの面白さが伝わるんじゃないか?」
ソルーナ「真か。ではこれにあわせ、小説全てを改稿しようではないか!」
アン=マリー「テツヤ様、ご協力ありがとうございました」
ソルーナ「できればでよいのだが、また折を見て我の小説を読んでもらえないだろうか? そなたの助言をもらいたい」
テツヤ「たいしたことはできないと思うけど、俺でいいなら喜んで」
ソルーナ「うむ、恩に着るぞ、テツヤ」
〇古いアパートの廊下
元々外出することがほとんどなかったソルーナだったが、最近はアパートどころか部屋からも出ず改稿作業を続けている。
その甲斐あってか──
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