異世界アパート

金村リロ

第11話 懲りないストーカーと怒れるメイド(脚本)

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〇ビルの裏通り
  作戦決行日。俺とリリムは忍び足で路地裏に足を踏み入れた。
リリム「いた、カノンのストーカーよ。 今日も懲りずに待ってるみたいね」
テツヤ「よし、最後にもう1回作戦確認しとくぞ」
リリム「まずあんたがストーカーに話しかける」
テツヤ「俺が気を引いた隙を突いて、お前があいつに抱きついて接触」
リリム「チャームをかけて、カノンへの「好き」を「嫌い」に変える」
テツヤ「できるか?」
リリム「当たり前でしょ。 全部上手くいく・・・絶対ね」
テツヤ「よし。作戦開始だ」
  俺とリリムは二手に分かれる。
テツヤ(リリムは横道を使ってあいつの背後に回るから、それまでしっかり気を引かないと)
  俺はわざと足音を立てながら、ストーカーへと近づいた。
テツヤ「あの~、道に迷っちゃったんですけど、ここってなに町ですかね?」
ストーカー「は?」
テツヤ「スマホの電池も切れちゃって、ほんと困ってて」
ストーカー「あっそ」
  さっさとよそに行けと言わんばかりに背中を向けてくる。
テツヤ(どうやって気を引いたら・・・)
テツヤ(そうだ!)
テツヤ「あ、あの! この近くに有名なメイド喫茶がありますよね?」
ストーカー「・・・だから?」
テツヤ「俺、その店に行きたいんですよ! カノンちゃんにどうしても会いたくて!」
ストーカー「は? カノンのファン? マジでないわ・・・」
  無表情から一転。ストーカーはじろりと俺をにらんだ。
ストーカー「ガチ恋してんなら言っといてあげるけど、あいつ付き合ってるやついるから──」
リリム「捕まえた!」
  横道から出てきたリリムが後ろからストーカーに抱きつく。
  そして何かを念じるように、目を閉じる。
ストーカー「!?」
  ストーカーは驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐとろんと眠そうな目つきになり虚空を見つめた。
テツヤ「成功したのか・・・?」
リリム「え、ええ。たぶんだけど──」
カノン「ハルト! なんであんたがリリムさんと一緒にいるわけ!?」
  メイド喫茶のあるビルの裏口。そこからカノンさんが出てくる。
リリム「うそ!? 退勤まであと30分はあるはずなのに・・・カノンこそ、なんでここに!?」
カノン「今日こそこいつと話つけようと思って、中抜けして来たんです!」
カノン「てかマジで何やってんの!?」
  チャームにかかりぼんやりとしていたストーカーが、はっと意識を取り戻す。
ストーカー「カノン・・・!」
カノン「ほんっと信じらんない! カノンだけじゃなくて、バイト先の人にも付きまとうとか!」
テツヤ「ま、まあまあ。落ち着いて」
  カノンさんを宥めるよう声をかけるが、俺の言葉は届いていないようだった。
カノン「あのさあ、揉めたくないからずっと違うって言ってたけど・・・」
カノン「あんたと別れたの、他に好きな人が出来たからだから! だからマジさっさと諦めてくんない!?」
ストーカー「は?」
カノン「いい機会だから紹介もしてあげる! この場にいるし!!」
テツヤ「えっ!?」
  突然の発言にドキリと心臓が跳ねる。
テツヤ(俺、まだこの子と喋ったこともないのに──)
カノン「この人があたしの好きな人!!」
  カノンさんがびしっと指さした先にはリリムの姿があった。
リリム「あ、あたし!?」
カノン「マジ面倒見良くてカノンのこと超気にかけてくれるし、仕事も完璧で顔も可愛くて、カノンはガチラブだから!」
カノン「あんたのこととかマジもうどうでもいいから!」
テツヤ(えっ、なに!? お前カノンさんとそういう関係だったの!?)
  目だけでそう訴えかけると、リリムは何も知らないというようにブンブンと首を横に振った。
ストーカー「お、俺だってお前のことなんてどうでもいいっつーの! 付き合ったの、マジ時間の損だったわ!」
カノン「はあ? じゃあなんで今日も待ち伏せしてたわけ?」
ストーカー「お、お前の顔なんて二度と見たくねえくらい嫌いって言いに来たんだよ! だからぜってー二度と連絡してくんなよ!!」
  そう言って、ストーカーは半ば走るようにして立ち去った。
テツヤ「あいつ、最後に「嫌い」って言ってたな」
リリム「ええ・・・!!」
  チャームの成功を悟り、俺たちは顔を見合わせて満足げに笑った。
カノン「あいつ、最後までマジ意味不明だったんだけど・・・」
テツヤ(ストーカーの態度の変わりように驚いているのだろう)
  カノンさんはぽかんとした表情で、ストーカーが走り去った方向を見ていた。
リリム「ごめん。ストーカーの件放っておけって言われたけど、手出ししちゃった」
カノン「え?」
リリム「でも、あたしたちでしっかり説得しといたから」

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