ウチらには向かない職業

五十嵐史

第3章:発端(脚本)

ウチらには向かない職業

五十嵐史

今すぐ読む

ウチらには向かない職業
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇ホテルの部屋
  イェンは、これまでのことを話し始めた。
イェン「名前はさっきも言ったけど、アタシがイェンで、こっちがスイね」
イェン「アタシたちは、双子の姉妹なの」
麻生東亜「双子か・・・そのわりには似てないな」
麻生東亜「二卵性か?」
イェン「そうそう!」
麻生東亜「なるほど・・・年齢も聞いていいか?」
イェン「うん・・・二人とも14歳だよ」
麻生東亜「となると、だいたい中学生ぐらいか・・・」
麻生東亜「たしか出身は、ヴェナンと言ってたな?」
スイ「ヴェナン共和国の、ホイファン省の出身です・・・」

〇海辺の街
イェン「ホイファンは、ヴェナンの真ん中あたりにある海辺の街なの」
スイ「わたしたちは、そこで生まれました・・・」
イェン「今もウチらはそこの中学に通ってるんだけど・・・」
イェン「先々月ぐらいかなあ、学校の帰りにスイが誘拐されかけたのね」
  イェンの話によると、スイの運転するスクーターの前に、黒いワンボックスカーが進路をふさぐように幅寄せしてきたらしい。
イェン「そのときは、後ろにいたアタシが大声を上げて周りの大人を呼んだから、ソイツらはすぐ逃げちゃったんだけど・・・」
イェン「それから、変なヤツラがウチらの周りをうろうろするようになったんだよね・・・」
スイ「うん・・・」
イェン「で、お父さんが心配して、ボディガードがわりに、会社の部下の人に家に住んでもらうことにしたのね」
  部下の名はグエン=ヴァン=ミンと言った。よく日に焼けた物静かな青年だった。
父「今日から娘たちのこと、よろしく頼むな!!」
ミン「はい、任せてください」
  彼はファム家に寝泊まりするだけではなく、学校の行き帰りにもバイクでついてきてくれたのだという。
イェン「ウチらは、大きいお兄ちゃんが出来たみたいでうれしかった」
スイ「四人でティエンレン(ヴェナンのトランプ遊び)なんかもよくやったよね・・・」
イェン「そうそう、ミン兄ちゃんが一番弱かったよねー」
  それからしばらくは平穏な日々が続いた。
  そんな、ある夜のこと・・・

〇海辺の街
  ある日の深夜のことだった。
  ミンが、2階で寝ているイェンとスイを起こしに来た。
ミン「イェン、スイ、起きてください・・・」
イェン「ふぇ・・・なに・・・? こんな時間に・・・?」
ミン「襲撃です。ヤツラが来ました!!」
イェン「え? なになに? どういうこと!?」
ミン「敵の人数はわかりませんが、すでに1階は囲まれているようです!!」
イェン「スイ、起きるよ!!」
スイ「ふぇー・・・なにー?」
ミン「すぐに着替えて支度してください!!」
  イェンたちは言われるままに着替え、バックパックに日用品を詰めた。
イェン「用意できたよ!」
ミン「では、上にあがりましょう。屋上から屋根伝いに脱出します」
イェン「え? お父ちゃんは!?」
ミン「お父様は『ここに残ってヤツラを足止めする』とのことです」
イェン「えっ! 嫌だよ! お父ちゃんも一緒じゃなきゃ!!」
ミン「無理を言わないでください。四人全員が一度にここを抜け出すのは無理です」
イェン「じゃあ、私も一緒に戦うよ!!」
ミン「無理です。今のあなた方では足手まといになるだけです」
ミン「それに、あなたたちがいると、お父様は思い切って戦うことができない」
イェン「でも・・・」
ミン「わかってください。これが最善の策なんです」
  ――タタタン・・・
  階下から、サブマシンガンのような発射音が聞こえてくる。
ミン「始まったようです!! 早く!!」
イェン「でも・・・」
ミン「大丈夫です。あの人なら必ずここを切り抜けて、私たちのところに合流します」
ミン「私が保証します」
イェン「・・・・・・」
  イェンとスイは、ミンについてしぶしぶ屋上へと上がった

〇学校の屋上
  三人は自宅の屋上に上がった。
  ホイファンの家の多くは平らな屋根になっている。
  特にここらへんの民家は、だいたい同じ高さの2階建てのため、屋根を伝っての脱出は比較的簡単だった。
ミン「行きますよ・・・」
ミン「私、イェンさん、スイさんの順で飛びます」
イェン「こ・・・こわい・・・」
イェン「これホントに行けるの?」
ミン「以前にお父様と私でリハーサル済みです」
ミン「家と家の間は1メーターあるかないかなんで、幅跳びの要領で行けますよ」
イェン「でも・・・落ちたら大ケガするか、最悪は死ぬよね・・・」
スイ「それに、落ちたらアイツらにつかまっちゃうし・・・」
ミン「まあ、悪いことは考えないでおきましょう」
ミン「成功をイメージすれば、きっと大丈夫ですよ」
ミン「じゃ、私から行きますね・・・」
ミン「えいっ!!」
  ミンは家の間を軽々と飛び越え、隣家の屋上に着地した。
ミン「さあ、次はイェンさん・・・」
  イェンは、覚悟を決めた。
イェン「ひぃーーっっ・・・えいっ!!」
ミン「うまいっ!!」
ミン「・・・次、スイさん!!」
イェン「スイ・・・思い切っていけば大丈夫だよ!!」
スイ「うう・・・えひゃいっ!!」
ミン「よし、上手上手!!」
  こうして三人は、自宅から屋根づたいに二軒となりの家までたどり着いた。
  ミンが、バックパックから縄バシゴを取り出している。
ミン「この家は空き家になっています。ここから縄バシゴで1階まで降ります」

〇新興住宅
  ミンが縄バシゴを下におろした。
ミン「私が先に降りて安全を確認します」
  そう言うとミンはスルスルと縄バシゴを降りた。
ミン「・・・・・・」
ミン「大丈夫そうです」
ミン「あわてずにゆっくりと降りてください」
  イェンたちはこわごわ、縄バシコを伝って1階に降りた。
イェン「こ、怖かったぁ・・・」
ミン「こっちです。早く!!」
  いたぞ! こっちだ!
  家の裏手に回っていた敵に見つかったらしい。
  LEDライトの強い光が一斉にこちらを照らし始める。
ミン「急いで!!」
  ミンが家の前に止めてあった小型車に乗りこんだ。
  イェンとスイもあわてて後部座席にすべりこむ。
ミン「出します!!」
ミン「シートベルトをしっかりしめてください!!」
  モーターを始動させ、ミンがアクセルを荒々しくベタ踏みする。
  ブゥゥゥン!!
  キキキキーーーッ!!
  タイヤをきしませながら車が急発進する。
  タン!!
  タラララララン!!
  車の後ろから銃声が追いかけてくる。
  カン! カン! カン!
  車体に弾丸が当たった音がした。
イェン「ひっ!!」
スイ「いやぁぁ!!」
ミン「頭を下げて身をかがめてください!!」
  スピードを緩めずに、ミンが右に左にジグザグと車を走らせる。
  ガタン!! ゴトン!!
  道路の起伏がひどいところで、車体が一瞬宙に浮いた。
イェン「うーわ、うわうわうわ!!」
スイ「いーやぁあああ!!」

次のエピソード:第4章:追撃

成分キーワード

ページTOPへ