〇研究所の中
ネイト「・・・」
梨夢（りむ）「──それで私は走り去ったの。どうすれば家に帰れるか一緒に考えてくれない？」
ネイト「・・・」
梨夢（りむ）「どう思う？」
ネイト「いっ・・・」
ネイト「いやなんでそれを僕に相談する!?!?」
梨夢（りむ）「ネイトと結婚はしたくないし、家に帰りたい。どうすればいい？」
ネイト「あ、ああ。そうか・・・」
ネイト「諦めたらどうだ？」
梨夢（りむ）「はあーーっ・・・分かってないなあ・・・」
ネイト「でかい溜め息を吐かれた・・・」
梨夢（りむ）「ぶっちゃけさあ、家に帰れるの？そこだけ教えてくれない？」
梨夢（りむ）「私、ネタバレ見ても忘れるタイプだから気にせず言っていいよ」
ネイト「見ても忘れるだろうが、聞いたら覚えてるんじゃないのか・・・？」
ネイト「・・・まあ、正直に言ってしまうと」
梨夢（りむ）「ドキドキ」
ネイト「帰る手段はないッッッ!!」
梨夢（りむ）「うっ・・・一瞬でハネムーンの幻覚が・・・」
ネイト「観念して僕と添い遂げるがいい」
梨夢（りむ）「本当に帰れないの？実はちょっとだけ帰れるとかない？」
ネイト「ない」
ネイト「だから変な生き物を召喚しても取り返しがつかない。困って部屋に詰め込んだらすごい空間になってしまった」
梨夢（りむ）「ああ・・・あれか」

〇魔物の巣窟
モンスター？「キシャーッ!!」
梨夢（りむ）「うわーっ！なんだここ!?」

〇研究所の中
梨夢（りむ）「帰す手段があったら放置しないよあれは・・・」
ネイト「あんな空間はどうでもいい」
梨夢（りむ）「どうでもいいと言える胆力はすげえや」
ネイト「僕は君と結婚をするために準備を進めていたんだ」
ネイト「これを見てくれ」
梨夢（りむ）「どれどれ」
梨夢（りむ）「おお・・・向こう八十年にわたる家族計画が詳細に書かれている・・・」
ネイト「まず結婚をする。一週間後に子供が生まれる」
梨夢（りむ）「さっそく計画通りにいかない予感」
ネイト「その一週間後にもう一人生まれる」
梨夢（りむ）「単細胞生物じゃないと無理なやつ」
梨夢（りむ）「そもそもネイトはどうして結婚したいの？」
ネイト「それは・・・」
ネイト「家族がいれば一人じゃないからだ」
ネイト「家族は多ければ多いほどいい。僕はもう、一人きりで過ごすことにうんざりしてるんだ」
ネイト「寂しい一人暮らしから解放されたい」
梨夢（りむ）「なるほど・・・」
梨夢（りむ）（母親を失くし、父親も亡くして寂しかったってことか）
ネイト「だから、頼む。僕と結婚して一緒に暮らして欲しい」
ネイト「君の望みはできるだけ叶えるつもりだ。僕は父さんとは違うからな・・・」
梨夢（りむ）「動機は分かった。しかし貴方と結婚はできない」
梨夢（りむ）「しない方がいい。その理由は私の過去とも関係する」
ネイト「なに？過去に一体何が・・・」
梨夢（りむ）「そう・・・あれは私がまだ小さかった頃・・・」
ネイト「・・・」
梨夢（りむ）「・・・」
梨夢（りむ）「懐かしいな、昔のこと」
ネイト「一人で回想するな。共有しろ」
梨夢（りむ）「──昔の私はそれはそれは可愛い女の子だった。両親とも仲が良かった」
梨夢（りむ）「でも私は出会ってしまった。イクラに」
ネイト「・・・？」
梨夢（りむ）「回転寿司でイクラを食べた私は、その魅力にすっかり取り憑かれてしまった」
梨夢（りむ）「毎日毎日イクラを求め続け・・・」
梨夢（りむ）「両親はノイローゼ気味になり、夫婦喧嘩が絶えなくなった」
梨夢（りむ）「”やべえ”と思った私はイクラへの欲求を封印して生きることを決めた」
梨夢（りむ）「苦しい日々だった。姿を見るだけで辛くなった」
梨夢（りむ）「晴れて社会人になった今は、痛風に気をつけながらイクラライフを楽しんでいる」
ネイト「・・・つまり？」
梨夢（りむ）「この欲求を、貴方は受け止められるのか？」
梨夢（りむ）「身近な人を苦しめるほどの強い欲求だ」
梨夢（りむ）「私は例え貴方と結婚をしても、家に帰る手段を探し続けるだろう。イクラのために」
ネイト「・・・」
梨夢（りむ）「これは私の愛なんだ」
梨夢（りむ）「苦しい時を乗り越えてなお変わらない愛・・・私は、イクラがどんな高級食材になっても買うつもりだ」
梨夢（りむ）「ネイト、貴方は私のことをよく知らないままで結婚をしようとした。今はどう思う？」
ネイト「・・・」
ネイト「・・・また誰かを召喚しろと言うのか。理想の相手を求めて」
梨夢（りむ）「貴方は一人が嫌だと言った。それなら、一人じゃなくなればいい」
ネイト「僕は一人だ。家族がいないんだぞ」
梨夢（りむ）「家族じゃなくてもいい。誰かと何かを一緒にすれば、一人じゃない」