ウチらには向かない職業

五十嵐史

第2章:撹乱(脚本)

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五十嵐史

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〇応接室
  怪物は大きなうなり声を上げて右手を振りかぶった。
  俺は引き出しの中の閃光手榴弾のピンを抜き、相手の胴体めがけて投げた。
  手榴弾は相手の体に当たり、うまく足元に転がった。

〇白
  バァーーーーン!!
  きっかり3秒後に、閃光手榴弾が炸裂した。あたりを轟音と光が埋め尽くす。
怪人「グゴォォ・・・ グルルル・・・」
  ヤツはたまらず苦痛の声を上げ、頭を抱えて倒れた。
麻生東亜「今だ!! 逃げるぞ!!」
  部屋には煙とニオイがもうもうと立ち込めている。
  それらに耐えながら、俺は日用品の詰まったバックパックと上着をかき集めた。
  二人を連れて事務所を出る。
  途中、倒れたままケイレンしているヤツの脇を通り過ぎるときには、さすがに肝が冷えた。

〇寂れた雑居ビル
  俺は二人を連れて階段を降り、裏口からビルを出た。
麻生東亜(幸い、裏のほうには他の追っ手はいないようだ)
イェン「アレ・・・あのままでよかったの?」
麻生東亜「ああ、少なくとも数十分はアイツの視覚と聴覚は戻らないはずだ」
イェン「そうじゃなくて『トドメを刺さなくてよかったの?』っていう意味!!」
イェン「おじさん、銃の名手なんでしょ?」
麻生東亜「・・・こっちだ」
  質問には答えず、俺は駐輪場のほうに歩いた。
  そこには、愛用の白いベスパが置いてあった。
  ベスパは、20世紀風のクラシカルな外装をまとった電動スクーターだ。
麻生東亜「後ろに乗れ」
麻生東亜「メットは二人分しかないから、キミらがかぶれ」
  二人はおとなしくヘルメットをかぶった。
  俺はベスパにまたがり、モーターを起動した。
  二人は、慣れた様子で後ろに腰かける。
麻生東亜(三人乗りでノーヘルか・・・)
麻生東亜(警察に見つかったら、運転免許だけじゃなくて探偵のライセンスまで没収されそうだな・・・)
  不安をもみ消すために大きくかぶりを振り、俺はペスパを発進させた。

〇街中の道路
  雑居ビルの立ち並ぶ裏通りを、三人を乗せたベスパが疾走する。
麻生東亜「しっかりつかまってろよ!!」
イェン「へーきへーき!!」
イェン「ウチら、ヴェナンっ子だからー!!」
スイ「そ、そぅそぅ・・・」
麻生東亜「なるほど・・・」
  ヴェナンは東南アジアの国の一つだ。
  ヴェナンでは、今でも庶民の足はスクーターが中心だ。
麻生東亜「ってことは、キミらは日本への移民か?」
  数十年続く温暖化により、世界では海面上昇が進んでいる。
  人間が住める土地は減る一方だった。
  『気候難民』という新しい言葉が誕生し、各国への移民流入がさかんになっていた。
イェン「ブブーッ、違います!!」
イェン「ウチらは、今でもヴェナン国民だよー!!」
スイ「です・・・」
麻生東亜「じゃあ、観光か何かで?」
イェン「それも違いまーす!!」
イェン「ウチらは、アイツらから逃げてこの国に来たんだよ!!」
麻生東亜「どういう事だ?」
イェン「話せば長くなるから、どっか落ち着いたところで説明したほうが・・・」
麻生東亜「わかった・・・」
麻生東亜「じゃあとりあえず、キミらの名前だけでも聞いておこうか」
イェン「アタシは、ファム=イェン!!」
イェン「ファムが名字でイェンが名前だよ!」
スイ「わ、わたし、ファム=スイです・・・」
スイ「スイが名前です・・・」
麻生東亜「イェンと、スイか・・・」
麻生東亜「ヴェナンも日本と一緒で、名字が前に来るんだな・・・」
イェン「そうそう!!」
麻生東亜「俺は、麻生東亜(あそうトーア)だ」
麻生東亜「麻生が名字で、東亜が名前だ」
イェン「知ってるよー!!」
麻生東亜「そうだ。そう言えばなんで俺の名前を知ってたんだ?」
イェン「まあ、それもおいおい・・・」
麻生東亜「・・・・・・」
  無言のまま、しばらくベスパを走らせる。
  用心のために自動運転(オートモード)をオフにして、右へ左へ細かく進路を変えながら走った。
  荒い運転になったが、二人ともまったく動じない様子でシートに座っている。
麻生東亜(ここらへんは、さすがにヴェナン育ちって感じだな・・・)
  小1時間ほど走った後、ドヤ街にあるビジネスホテルの前に着いた。

〇荒廃したホテル
麻生東亜「・・・着いたぞ」
イェン「ここに泊まるの?」
麻生東亜「泊まるかどうかはわからんが、ここなら喫茶店よりも安全に話を聞ける」
麻生東亜「ま、コーヒーは無いが、そこはガマンしてくれ」
イェン「あ、それなら大丈夫だよ! ねっ?」
スイ「う、うん・・・」
麻生東亜(なにが大丈夫か、よくわからんが。まあいいか・・・)
  無人のフロントで自動チェックインを済ませ、部屋に入る。

〇ホテルの部屋
  部屋はビジネスホテルらしく質素なものだ。
  ドヤ街の中では比較的高級なホテルなので、部屋にはトイレもシャワーもある。
イェン「今、コーヒー入れるね!」
麻生東亜「・・・は?」
  イェンと名乗った少女は、自分のバックパックからいそいそと何かを取り出した。
  パックパックからは、コーヒー豆とアルミのフィルターが出てきた。
麻生東亜(え・・・? そんな物を持ち歩いてるのか!?)
  手慣れた様子で、部屋のコーヒーカップの上にフィルターをセットする。
  あっけにとられている間に、三人分のコーヒーが出来上がった。
イェン「はい、どうぞー!」
麻生東亜「あ、ああ・・・ありがとう」
スイ「ミ、ミルクは入れますか・・・?」
  スイが自分のバックパックからチューブ式のコンデンス・ミルクを取り出した。
麻生東亜「いや、俺はブラックでいい」
  墨汁のように漆黒の色をしたコーヒーに口をつける。
麻生東亜「ぶふぉ!!・・・苦っ・・・」
イェン「あはは・・・だから言ってるのにー」
スイ「ヴェ、ヴェナンでは、コーヒーをそのまま飲む人はいないですよ・・・」
麻生東亜「それを先に言ってくれよ!!」
  俺はスイからコンデンス・ミルクを受け取り、自分のカップにひねり入れた。
  ついでに上着のポケットから小瓶を出し、ウイスキーを少量注ぐ。
  スプーンでかき回してから一口すすると、強烈な甘味と苦味が口の中に飛び込んできた。
イェン「どう・・・おいしい?」
麻生東亜「うん、まあ、これはこれで悪くないな・・・」
イェン「よかった!!」
  ヴェナン流のコーヒーをすすりながら、俺は彼女らの話を聞くことにした。
麻生東亜「じゃあさっそくだが、キミらのことを詳しく教えてくれないか?」
  イェンはコクリとうなずくと、自分たちのことを話し始めた。

次のエピソード:第3章:発端

コメント

  • 2話まで読ませていただきました。
    舞台設定が独特で、読んでいてワクワクします。
    キャラクターの設定も作り込まれていて、そのキャラが実在している感じがします。
    トーアさん達がこれから何に巻き込まれるのか、さまざまな伏線も散りばめられていて、とても楽しみです!

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