#3 宵闇のデート(脚本)
〇廃墟と化した学校
エイジとキョウは、校舎四階にある音楽室を目指した。
キョウ「私たち以外にも、音楽やりたいって人がまだ残ってるのかも」
エイジ「いや・・・でもこの音は・・・」
聞こえてくるピアノの音は、めちゃくちゃにかき鳴らしているだけの不協和音だ。
キョウ「そうだね・・・これは、壊そうとしている音だ」
〇音楽室
二人が音楽室をのぞくと、暴徒たちが数人たむろしている。
エイジ「しっ、静かに・・・! いるのは暴徒たちだ・・・! あそこに隠れよう」
キョウ「う、うん」
二人はカーテンの裏に身を潜め、暴徒たちの行動を見守る。
暴漢A「くそ、なかなか見つからねえなあ」
暴漢B「誰かが暴れてる音聞いたんだろ? じゃあどこかにはいるだろ」
暴漢A「どうせ世界はもうすぐ終わるんだ。みんな殺してやる!」
暴徒のひとりが、持っていた鉄パイプでめちゃくちゃにピアノを殴りはじめる。
不協和音が校舎に響いた。
キョウ「ひどい・・・! 止めなきゃ」
エイジ「ダメだ。ぼくたちが騒いでて集まってきた奴らだぞ。出ていったらどんな目に遭うか」
キョウ「でも・・・あんなの・・・許せないよ・・・っ」
キョウ「せっかく楽器見つけたのに、全部壊されちゃう・・・っ」
エイジ「キョウ、頼む。ガマンしてくれ」
エイジの言葉に、キョウはハッとエイジを見つめる。
すぐ近くで目が合い、エイジは思わず目を逸らした。
キョウ「今、私の名前・・・」
キョウ「ん・・・? 変なにおいが・・・これって」
エイジ「あいつら・・・火をつける気だ」
暴徒たちがガソリンをばらまきはじめていることに気づき、二人は顔を見合わせる。
エイジ「これはさすがに逃げるしかないな・・・」
キョウ「う、うん」
火の手が上がりはじめ、二人は慌ててその場から逃げ出した。
〇荒れた倉庫
二人は、エイジが拠点としている楽器屋に戻ってきた。
必死に走り抜けてきたので、二人してその場にへたりこむ。
エイジ「はぁ・・・ここまで来ればもう大丈夫だろ」
キョウ「うー残念だったね・・・楽器全部ダメになっちゃっただろうなぁ」
エイジ「これでわかったろ。こんな世界で楽器を探すなんて、土台無理な話なんだよ」
キョウ「そうかなぁ? いっぱい音楽見つけたし、何より、エイジさんと一緒にいるのすっごく楽しかったよ!」
エイジ「楽しかった・・・?」
キョウ「明日はまたほかの場所探してみようよ! まだまだ音楽はあるよ、きっと」
エイジ「ほんと、きみ前向きだよな・・・」
キョウ「そうかな? あっ・・・」
キョウのお腹が盛大に鳴ったので、エイジは思わず苦笑してしまう。
エイジ「食糧や水の備蓄はある程度してるから。 好きに食べていい」
エイジ「ぼくは一度寝る・・・今日は疲れた」
キョウ「わ、ありがとうエイジさん・・・!」
キョウ「しばらくまともなもの食べてなかったから助かるぅ」
キョウ「明日も、たくさん音楽探そうね!」
エイジ「・・・・・・」
〇荒廃した街
翌朝。エイジとキョウは準備を整え、再び外に出てきていた。
キョウ「さぁ、今日も元気に音楽を見つけにいくぞぉ!」
エイジ「今日は少し離れたデパートに行ってみよう」
エイジ「荒らされて物はほとんど残ってないだろうけど、楽器屋があるかもしれない」
キョウ「了解です!」
エイジ「いいか、これで見つからなかったら、もうほんと諦めろよ」
キョウ「うんうん」
エイジ「ほんとにわかってんのか・・・」
キョウ「えへへ、なんだかこうやって二人で出かけるの、デートみたいだね」
エイジ「デート・・・」
エイジ「バカなこと言ってないで、さっさと行こう」
キョウ「あ、今照れたでしょ。ねえねえ、照れたでしょ?」
エイジ「うるさい」
〇古びた神社
しばらく歩いたところで、キョウが何かを見つけたらしく、立ち止まった。
キョウ「お寺がある・・・」
エイジ「ああ、そうだな」
キョウ「お寺って鐘があるよね。鐘も楽器の一種・・・」
エイジ「じゃない」
キョウ「えー、一回お寺の鐘ついてみたかったのにな」
エイジ「そんなことしてみろ。すぐに暴徒が襲いに来る。ほら行くぞ」
〇荒廃したショッピングモールの中
エイジ「やっとついた・・・」
キョウ「お腹空いちゃったね。何か残ってないかな」
エイジ「こういう場所は最初に標的になるし食糧系は残ってやしない」
キョウ「そうだよね・・・でもでも、ほら、せっかくだし、レストランの中で持ってきた食糧食べよ」
レストランの中で椅子に向き合い、持ってきたビスケットを口にするキョウとエイジ。
キョウ「えへへ、やっぱデートみたい」
エイジ「・・・食ってるもんがしょぼすぎだけど」
キョウ「ねえ、エイジさんは世界最後の日、なんでも好きなものが食べられるとしたら、何が食べたい?」
エイジ「なんだろうな・・・ずっとまともなもの食べてないし、腹いっぱい食えればなんでも」
キョウ「私も! バイキングとか行きたいよね。ケーキ吐くまで食べたい」
エイジ「ぼくは甘いものより辛いものだな。激辛ラーメン食いてえ」
キョウ「あーいいねそれ! 私も食う!」
エイジ「きみはケーキだろ」
キョウ「ケーキも激辛ラーメンも食べる! あー夢がふくらむなぁ・・・!」
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