Part4:覚悟なき非行(脚本)
〇コンサートの控室
瀬田維尾奈「・・・じゃ、なんで先輩は、 いつまでもこんな業界で生きてんスカ?」
要紗羅「・・・言っとくけど、私は別に、あの頃に未練なんかないよ? ただ・・・償ってるだけ」
瀬田維尾奈「・・・”償う”・・・?」
要紗羅「アイドル人生で、今まで蹴落としてきた人間が掴むはずだった未来の分まで、ここに居座らなきゃいけないっていう責務、かな」
瀬田維尾奈「・・・げ・・・ なんか、よくわかんないすけどソレ、生き地獄っぽいすね」
要紗羅「・・・ま、否定はしないけど。 地獄に身を捧げてたみたいなもんだし」
瀬田維尾奈「先輩、もしや、フツーにイオよりもエグいことしてきたんじゃないスカ・・・?」
要紗羅「こっから先は事務所NG」
要紗羅「・・・ね、ツアー最終日のこと、”オーラス”っていうじゃん?」
瀬田維尾奈「オーラス?」
要紗羅「・・・オーラスってさ、やっぱすっごい特別だよね。アイドルとファンがあんなに一つになれる瞬間って、なかなかないよ」
要紗羅「あの頃さ・・・私の人生のオーラスには、 こんな風にアンコールを必死で唱えてくれる人がいるのかなぁって、たまに考えてた」
瀬田維尾奈「・・・なんか、不毛な話っすね」
要紗羅「ふはっ・・・」
要紗羅「アンタなんかまだまだ新人みたいなもんだから、言ったってわかんないだろうけどさ。 ま、続けるなら、覚悟して続けなよ?」
瀬田維尾奈「・・・・・・・・・」
瀬田維尾奈「・・・覚悟・・・」
瀬田維尾奈「あるわけないだろ。 そんなの」
〇黒背景
「イ・・・タイ・・・もう・・・ ヤメ、テ、ヨ・・・」
栞「・・・・・・・・・」
栞「・・・ダメ・・・ だって、こんなに楽しいし、まだ、気が済んでいないもの・・・」
「・・・どうして・・・どうして、イオが、知らないオバサンに、ボッコボコにされなきゃいけないの・・・?」
栞「・・・どうしてって・・・」
栞「・・・フッ・・・フフッ・・・」
栞「アナタ、アナタだって・・・ワタシの夫のこと、散々弄んでたクセに・・・」
〇レトロ喫茶
アンネ(イオちゃん・・・大丈夫かな・・・ さっきの血まなこのオジサン、まさか・・・)
アンネ(ううん、イオちゃんのことまで、知るはずがない、よね・・・ きっと、生放送で疲れちゃって、スマホ見てないだけ・・・)
「オジサン釣り」ゲームは、
私とイオちゃんだけの、
とっておきの遊びだもん。
眞仁「・・・ごめん、お待たせ、アンネちゃん」
アンネ「・・・ちゃんづけ・・・」
眞仁「勤務先の先輩からの電話だった。 ようやく移動先の詳細が聞けたところ」
アンネ「・・・マヒト・・・さん、は、何の仕事をしているの?」
眞仁「えっと、なんだと思う?」
アンネ「・・・え・・・? えーっと・・・」
アンネ「あっ、もしかして、役者さん? あのヘンテコ演技、上手だったし」
眞仁「あははっ。 ヘンテコなのに、上手だった?」
アンネ「うん。その辺のアイドルがドラマとかで見せる棒の演技より、ずっとリアルだったっていうか・・・私、まんまと騙されたし・・・」
眞仁「人ってさ、見慣れた日常を切り取る演技より、非日常かつ突拍子のない言動に惹かれて、信憑性も抱きやすいんだろうね」
アンネ「・・・うん・・・?」
眞仁「正解は、しがない貨物運送業者でしたっ」
アンネ「へぇ・・・意外・・・」
眞仁「あっ、そういえば、話変わるんだけど・・・ アンネちゃんってもしかして、冬生まれ?」
アンネ「え・・・」
アンネ「・・・そ、そうだけど・・・ どうしてわかったの・・・?」
眞仁「安心のアンに、丁寧のネイで、安寧って言葉があると思うんだけどさ」
アンネ「あん・・・ねい・・・? そんな言葉、初めて聞いた・・・」
眞仁「その安寧って、”冬の別称”とも言われてるらしいから」
アンネ「ふぅん・・・」
眞仁「あと、”平穏で心安らかである” っていう意味にも使われてるね。 優しそうなアンネちゃんにピッタリだよね」
アンネ「・・・あ・・・ありがとう・・・?」
アンネ「ま、お母さん頭良くないし、私に興味ないし、そんな意味考えず適当に名付けたんだと思うけどねっ」
眞仁「冬ってことは・・・ 今は11月の半ばだし、もしかして、もうすぐ誕生日だったりするのかな?」
アンネ「・・・・・・・・・」
アンネ「・・・来月・・・」
眞仁「そうなんだ。 それじゃ、アンネちゃんのこと、もっと知るのに、来月までは猶予があるってことだね」
アンネ「・・・へっ? あっ・・・え、えっと・・・」
眞仁「もしもまだ、時間があったらだけど、お店変えれないかな・・・?」
〇黒
〇店の事務室
花純「お金、用意しました」
花純「彼女の自宅はもう、知ってるんです。 ”入れる状態”にしておいてくれたら、それでいいです」
花純「・・・あと、”大事に扱って”、”優しく送り届けてくれる人”で、お願いします」
〇黒
〇ホテルの部屋
眞仁「・・・・・・・・・」
アンネ「・・・お待たせっ・・・」
眞仁「お帰りっ、アンネちゃん」
アンネ「・・・・・・あの・・・」
眞仁「どうした?」
アンネ「ご、ごめん・・・その、トイレ行ったら・・・やっぱし・・・ アレ、きちゃってたみたい・・・で・・・」
眞仁「そっか。全然気にしてないよ? それにボクはただ、アンネちゃんとゆっくり話せるところを探したかっただけだし」
アンネ「お話・・・?」
眞仁「そう、お喋り」
アンネ「・・・・・・」
アンネ「・・・ははっ、やっぱ頭良さそーなイケメンの考えることなんか、なんもわかんないやっ」
眞仁「・・・アンネちゃん?」
アンネ「あのね、オジサン達だったらココで、露骨にヤな顔するの。 本当に?じゃあ見せて? とかって、キモイこと言う人もいるし」
アンネ「・・・マヒトさん、財布ん中も身分のわかりそうなもの一つもなかったし、カードだって一枚もない。お手上げ状態でした」
眞仁「・・・見たの? いつの間に?」
アンネ「えへへっ。私、アイドルやるまでタダの非行少女だったから、超手グセ悪いんだ」
眞仁「・・・ま、いっか」
眞仁「その話、聞きたいな」
アンネ「・・・どの、話・・・?」
眞仁「非行少女が、推しのアイドルに出会って、人生を変えていくストーリー」
アンネ「・・・・・・」
眞仁「もちろん、無理にとは言わないけれど」
アンネ「・・・ううん・・・ 聞いてほしい・・・」
アンネ「私が初めて、 「キラキラした最強の女の子」に出会って、 世界が変わったお話・・・」
〇教室
『お前、そんなにそのアイドル好きなの?
彼女とドッチが好きなんだよ』
『あの子と付き合えるなら、彼女は捨てる』
『マジかよ! あんな可愛い瀬田ちゃん捨てるとかヤベーな(笑)』
『ヤバくねーって。アイドルと一般人はレベル違い過ぎだろ!』
──きっかけなんて、
そんなくだらないものでしかなかった。
〇小さな小屋
栞「・・・やっと、私好みの可愛い顔になってきたようね? イオにゃチャン」
瀬田維尾奈(・・・ぅ・・・顔・・・きっと、メチャクチャ腫れてる・・・ はやく・・・冷やさなきゃ・・・)
栞「その手首の縄、解いてほしい?」
瀬田維尾奈(全身ボコられて・・・自由になったところで、動く力も出そうにない・・・)
瀬田維尾奈「・・・オバサン、そろそろ気が済んだ・・・?」
栞「アナタって、本当に気丈な子なのね? ひょっとして、このままどうにか助かるとでも、思っているの?」
瀬田維尾奈「・・・イオ、アンタに何かした覚えない。 アンタの夫だって、知らない、絶対に、」
栞「・・・・・・そう・・・・・・」
栞「そう。 私の夫のことを、アナタは知らない。 知らないからこんなにムカつくの」
瀬田維尾奈「・・・は?」
瀬田維尾奈「・・・ッ・・・!!!!」
栞「私の夫は、アナタのタダのファン。 夫は、二回りも年の離れたアナタに、 恋をしているの」
栞「すっごく、キモチワルイでしょ・・・?」
──だから、私は、
私を幻滅させるアナタ達アイドルのことが、
大っ嫌いなの。
各キャラクターの負の感情がぐるぐると渦巻いており、読んでいて取り込まれそうになります。そんな中、1人だけ別世界の住人のような空気感を纏う眞仁くん、ミステリアス感がMAXですね!