命短し皇女は情熱の王子に抱かれ恋に落ちる

星野栞

エルランド王子の酔狂(脚本)

命短し皇女は情熱の王子に抱かれ恋に落ちる

星野栞

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〇宮殿の部屋
  午後になるまで寝室で休む。少し疲れたらしい
  日に日に体力が落ちていくのがわかる。それでもちょっと寝たら気分が良くなった

〇豪華な王宮
  夕方近くになってお客様がいらした
  今まで何度もここに来ているその御方を、金細工と象嵌があしらわれた豪奢な謁見用の椅子に腰掛けて出迎える。
エルランド「皇女アライシャさま」
エルランド「ご機嫌麗しく、こうしてお邪魔する無礼をお許しください」
アライシャ「それで、今日は何の御用でしょう!?」
  目の前にひざまずいた凛々しい青年を複雑な思いで見下ろす
  わたしの声は、自分でもそれとわかるほど、よそよそしい
エルランド「あなたさまに謁見を賜りたく、こうしてまた参りました」
  いつものように、涼しい顔でその人は答える
  こちらの殿方は王家の御子息にあらせられる
  王位継承権のある人が、なぜ、命が尽きようとしているわたしなどを構うのか!?
  その疑問をぶつけてみる
アライシャ「なぜここへいらっしゃるのですか!?」
エルランド「あなたにお会いするためです」
アライシャ「ですから、エルランド様になぜとお聞きしているのです!!」
エルランド「会いに来てはいけませんか?」
アライシャ「ですから・・・」
アライシャ「もういいです!!」
  らちがあかない。堂々巡りだ
  疲れてしまったので、それ以上追及するのは諦めた
エルランド「今日はアライシャさまに珍しいものを持参したのですよ」
アライシャ「珍しいもの?」
エルランド「はい」
  控えていた従者から受け取ったそれを、エルランド様は恭しくわたしの前に差し出してみせる
  それは今まで見たことがないものだった
アライシャ「これは、いったい何でしょう!?」
エルランド「孔雀です」
アライシャ「クジャク?」
アライシャ「あの、鳥の孔雀ですか?」
エルランド「はい」
エルランド「葉の形が孔雀の羽根に似ているからクジャク」
エルランド「これはその一品種の、宵待孔雀《よいまちくじゃく》です」
  そう言われて眺めてみれば、孔雀の羽根に見えなくもない
エルランド「宵待孔雀の花は夜に咲くのです」
アライシャ「夜に?」
エルランド「ええ」
エルランド「文字どおり宵のうちに開き始め、朝にはしぼんでしまう」
エルランド「一晩だけの花・・・」
  それは・・・ずいぶん儚い
  一晩だけの命なんて・・・
  そう思ったのも一瞬だけ、すぐにカッと血が登った
アライシャ「それはわたしへの当てつけですか!?」
アライシャ「もうすぐ命が尽きるわたしへの!!」
  何というひどい人なのだろう
  怒りのあまり立ち上がろうとしたら、クラっとめまいに襲われた
  倒れようとする身体を寸前で誰かに抱き止められる
  その誰かの声がすぐそばでこう言った
  静かな声だった
エルランド「あなたはここにいる 私はあなたに会いたくてここに来ました」
エルランド「私と、この宵待孔雀の花を一緒に見ませんか?」
エルランド「夜が明けるまで・・・」
エルランド「朝が訪れるまで・・・」
  なんだか不思議なことを言われている気がする。そう思った
  とにかく非礼を詫びなければならない
アライシャ「はしたない真似をしてしまいました どうぞお許しください」
エルランド「いいえ。あなたは悪くない」
エルランド「私が悪いのです」
アライシャ「あの・・・」
アライシャ「もう大丈夫ですから・・・」
  急に、男性に抱かれている自分が恥ずかしくなった
  身体が熱いのは、体調のせいだけじゃない
エルランド「ああ、これは失礼」
エルランド「でも本当に大丈夫?」
アライシャ「ええ・・・もう平気」
  彼の腕から身体を離し、肘掛けにつかまりながら椅子に戻る

〇豪華な王宮
  さてどうしよう
  エルランド王子の提案は魅力的だ
  一晩だけの花の命を、その花びらがほころびはじめる瞬間から終わりを迎えるまでを、この目で見届ける
  そんな体験など、なかなかできるものではない
  しかし花が終わる朝までは長い時間だ。体力がもつかどうか自信がない
  寝所で横になり、花を観察する自分の姿が浮かんだが、まさか殿方を寝室に迎え入れるわけにはいかない
  謁見室の隅でまるで影のようにひっそりと待機していたギリアスを呼び、どうしたらいいのか相談する
  が、のっけから反対されてしまう
ギリアス「いけません!!」
ギリアス「一晩中起きているなど問題外!! 言語道断ですぞ!!」
ギリアス「ご自分のお体をもっとお大事になさっていただかないと!!」
アライシャ「でもね、ギリアス」
アライシャ「こんな機会はきっと二度とない」
アライシャ「わたしは見てみたいの お願いだから・・・」
  ギリアスはエルランド様を鋭く睨みつけた。きっと、余計なことを言う若造めと思っているに違いない
  口に出さずともその目が雄弁に語っている
  尚も渋るギリアスをなんとか説得し、結局、別室にて、わたしのために横になれる長椅子が用意された
  そこで彼とわたしは宵待孔雀のつぼみが開いていくのを一緒に見守ることにした

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