誰が為の愛

米子

三話 普通(脚本)

誰が為の愛

米子

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〇黒

〇銀杏並木道
直人「夕飯、ラーメン行っちゃう?」
サヤカ「それいい、行くっ!」
  直人がいる
  あぁ、よかった
  よかったぁ

〇部屋のベッド
サヤカ「・・・ん」
サヤカ「あれ?」
サヤカ(夢・・・か)
サヤカ(そうだ、玄関で立ち眩みがして)
サヤカ(あれからどうなったんだっけ)

〇家の廊下
サヤカ(だるい)
サヤカ(頭も重い)
サヤカ(リビングの方、音がする)

〇綺麗な部屋
ミタカ「あぁ、起きれた?」
ミタカ「驚いたよ、急に倒れるから」
サヤカ(まだいた)
サヤカ(最悪)
ミタカ「ほら、座って」
ミタカ「ちょっと待っててね」
サヤカ「・・・・・・」
ミタカ「はい、どうぞ」
ミタカ「キッチン借りたよ?」
サヤカ「何のつもり」
サヤカ「作ったの?」
ミタカ「うん」
ミタカ「食事も睡眠も、ちゃんと とってなかったんでしょ?」
サヤカ「な・・・」
サヤカ「誰のせいだと思ってんのよ」
ミタカ「直人」
サヤカ「はぁ」
サヤカ「もういい」
サヤカ「あんたに聞いたのが間違いだった」
サヤカ「割り箸取って。そこのトレーの中」
ミタカ「これね、ハイ」
サヤカ「どうも」
  パキッ
ミタカ「へぇ、意外」
サヤカ「何が?」
ミタカ「毒でも疑って 食べないと思ってたから」
サヤカ「あぁ」
サヤカ「もう、毒入りなら毒入りで」
サヤカ「それでもいいかなって」
サヤカ「なんか・・・本当に」
サヤカ「疲れた」
  ズズッ、ズッ
サヤカ「・・・・・・」
  ズッズズ
サヤカ「・・・・・・」
ミタカ「残念」
ミタカ「毒なしでした」
ミタカ「まだ人生は続きそうだね」
ミタカ「事件について」
ミタカ「サヤカが悩む必要はないよ」
ミタカ「あの女は、死んで当然なんだから」
サヤカ「え?」
ミタカ「恐喝、ひき逃げ、結婚詐欺──」
ミタカ「彼女の被害にあった人は数しれない」
ミタカ「そして」
ミタカ「・・・僕の兄もその一人」
サヤカ「そう、だったの?」
ミタカ「まぁ」
ミタカ「僕は一人っ子だけどね」
サヤカ「はぁ? 何!? 嘘なの!?」
ミタカ「そう考えれば少しは気も楽でしょ?」
ミタカ「実際の性格なんて分かんないんだから」
ミタカ「極悪人って設定でいいんじゃない」
ミタカ「現にサヤカは直人取られてるんだし」
サヤカ「・・・・・・」
サヤカ「頭どうかしてる」
サヤカ「あんたと話してるとおかしくなりそう」
ミタカ「あははは、それはどうも」
サヤカ「・・・・・・」
ミタカ「少しは食べれたし、大丈夫そうだね」
ミタカ「じゃあ、僕はもう帰るから」
ミタカ「玄関、カギ閉めてね」

〇家の廊下
サヤカ「待って!」
サヤカ「何に、協力したらいいの?」
ミタカ「・・・へぇ」
ミタカ「やる気になったんだ?」
サヤカ「勘違いしないで」
サヤカ「私は、あんたとの関係を切りたいの」
サヤカ「本当は、今すぐにでも」
サヤカ「警察に通報するべきだって分かってる」
サヤカ「でも、正直」
サヤカ「騒ぎになって、偽の証拠で疑われて 真実を証明して」
サヤカ「それだけの出来事を乗り越える」
サヤカ「気力と体力が」
サヤカ「もう私には・・・ない」
サヤカ「直人と、死んだあの子には悪いけど」
サヤカ「事が収まるなら」
サヤカ「何でもいいやって、思ってる」
サヤカ「・・・あんたの言う通りだね」
サヤカ「私は、自分勝手だ」
サヤカ「・・・・・・」
ミタカ「・・・・・・」
ミタカ「リビングに戻ろうか」
ミタカ「そこで話すよ」

〇綺麗な部屋
ミタカ「サヤカにお願いしたい事は1つだよ」
ミタカ「僕には、どうしても許せない奴がいる」
ミタカ「”有坂憲剛”って男なんだけどね」
ミタカ「そいつを殺すのを手伝ってほしい」
サヤカ「・・・っ」
サヤカ「やっぱりそういう類の話か」
サヤカ「はぁ」
サヤカ「──断る」
サヤカ「すっごい嫌だけど」
サヤカ「人殺しに関わるくらいなら」
サヤカ「冤罪のほうがマシ」
ミタカ「・・・そっか」
サヤカ「交渉決裂、ね」
サヤカ「警察呼ぶ?」
ミタカ「まぁ、そう焦らないで」
ミタカ「うーん」
ミタカ「じゃあ、これならどう?」
ミタカ「直接的な事は何もしなくていいから」
ミタカ「半年間、有坂の情報収集に協力してよ」
サヤカ「情報収集?」
ミタカ「そう!」
ミタカ「奴を殺して捕まる気は毛頭ないからね」
ミタカ「現在の友好関係や生活パターンを調べて」
ミタカ「完璧な犯行計画をたてたいんだ」
サヤカ「私、情報網なんかないけど」
ミタカ「そこはサポートするから平気だよ」
ミタカ「有坂と関わりがないサヤカだからこそ」
ミタカ「得られる情報も多いと思うんだよね」
ミタカ「仮に有力情報が得られなくても」
ミタカ「半年たったら、金槌とメモは君に渡す」
ミタカ「更に、僕との接点が疑われないように」
ミタカ「犯行までは充分に時間を空ける」
ミタカ「どうかな、この案」
サヤカ(急に難易度が落ちた)
サヤカ(何? 罠?)
サヤカ(でも)
サヤカ(これなら、勝機はある)
サヤカ「わかった」
サヤカ「その話、乗るわ」
ミタカ「お」
ミタカ「よかったー」
ミタカ「じゃあこれから半年間は」
ミタカ「パートナーとして」
ミタカ「お互いの目的の為に協力していこうね」
サヤカ「・・・うん」

〇黒
  協力?
  絶対最後には裏切るくせに
  従って
  油断させて
  決定的な証拠を掴んだら
  警察に突き出してやる
  もう誰も殺させない
  思い通りにはさせない

〇綺麗な部屋
ミタカ「よし、そうと決まれば」
ミタカ「連絡先交換しよう」
ミタカ「今後の打ち合わせもしなきゃだね」
サヤカ「待って!」
サヤカ「協力にあたって」
サヤカ「ひとつだけ条件がある」
ミタカ「条件」
ミタカ「・・・サヤカが出すの?」
サヤカ「そう」
サヤカ「私達、今からパートナーなんでしょ?」
サヤカ「なら、お互いの情報も平等じゃなきゃ」
サヤカ「だから」
サヤカ「あなたの情報も教えてよ」
ミタカ「・・・・・・」
ミタカ「何が知りたいの?」
サヤカ「前に私の身分証、見たよね」
サヤカ「あなたのも、見せて?」
ミタカ「ふーん・・・」
ミタカ「いいよ」
サヤカ「いいの?!」
ミタカ「何その反応、自分で言ったくせに」
ミタカ「はい、どうぞ」
ミタカ「ただし写真は禁止、時間も1分ね」
サヤカ「・・・分かった」
サヤカ(──三鷹 愛)
サヤカ(ミタカって本名なんだ)
サヤカ(性別は、やっぱり女性)
サヤカ(生年月日・・・ん?)
サヤカ(この年数だと)
サヤカ「えっ!? 28歳!?」
サヤカ「あんた私より年下じゃない」
ミタカ「え、そうだけど」
サヤカ「年上をからかってんじゃないわよ」
サヤカ「あんたと違ってこっちは必死に 生きてんだからね?」
ミタカ「いや、そこに歳の差関係なくない?」
サヤカ「私より若い奴がそれを言うな!」
ミタカ「うわ、怖っ」
ミタカ「はい、1分」
サヤカ「あ」
ミタカ「気は済んだ?」
ミタカ「じゃあまた、連絡するよ」
ミタカ「おやすみサヤカ」

〇空

〇渋谷駅前
  新着通知:ミタカ
サヤカ「・・・来たか」

〇駅前広場
  1週間後
ミタカ「サヤカー! こっちだよ」
サヤカ「手なんか振らないで」
ミタカ「冷たいなぁ」
ミタカ「でも嬉しいよ」
ミタカ「連絡した候補日の中で 1番早い日を選んでくれるなんて」
ミタカ「やる気十分だね」
サヤカ「別に」
サヤカ「早く終わらせたいし、暇だったから」
ミタカ「予定ないの?」
サヤカ「ない」
サヤカ「なんか何したらいいかよく分かんない」
ミタカ「読書でもしたら?」
ミタカ「サヤカの部屋、本いっぱいあったよね」
ミタカ「自己啓発とか哲学とか」
ミタカ「好きなんでしょ?」
サヤカ「そうだけど」
サヤカ「今更自己啓発したとこでなぁって感じだし」
サヤカ「フリマアプリで売ろうかな」
ミタカ「うわぁ、卑屈」
サヤカ「いいから!さっさと案内して」

〇川沿いの公園
ミタカ「もうすぐ着くよ」
サヤカ「どこに向かってんの?」
ミタカ「有坂の家」
サヤカ「はぁ!?」
サヤカ「あんたもう殺る気!?」
ミタカ「違うって」
ミタカ「まずは奴の顔を覚えてもらいたくて」
ミタカ「写真がどう探してもないんだよねー」
ミタカ「SNSもやってなさそうだし」
ミタカ「仕方ないから、自宅まで出向こう」
サヤカ「それさぁ」
サヤカ「あんたが1人で写真撮ってくれば よくない?」
ミタカ「二人の方が楽しいでしょ」
サヤカ「楽しくない」
サヤカ「・・・ん」
サヤカ「待てよ、自宅を知ってるって」
サヤカ「有坂って、一体どういう関係なの?」
ミタカ「どうだろうね」
サヤカ「ひょっとして」
サヤカ「元彼!?」
ミタカ「ありえない」
サヤカ「そう」
サヤカ「──ねえ」
サヤカ「そもそも恋愛対象って、男?」
ミタカ「はぁ?」
サヤカ「だって”僕”とか言ってるし」
サヤカ「よく分かんないけど」
サヤカ「あんたって普通に女なの?」
ミタカ「・・・普通に女、ねぇ」
ミタカ「生物学だとそうなんじゃない?」
ミタカ「”ついて”ないし」
サヤカ「そういう事じゃなくって」
ミタカ「周りを見てよ、サヤカ」
ミタカ「今日は快晴」
ミタカ「祝日の日曜日」
サヤカ「それが何?」
ミタカ「サヤカは──」
ミタカ「普通?」
サヤカ「え・・・」
ミタカ「まさか自分が普通って思ってるの?」
サヤカ「そんなの当たり前──」

〇雑誌編集部
同期の恩田「全部仕上げたの?」
同期の恩田「真面目~」
同期の恩田「普通そんなに頑張んなくない?」

〇大会議室
部長「ははは!」
部長「藤堂さんくらいの女性なら普通は──」

〇結婚式場のレストラン
  普通──

〇ラブホテル
  普通

〇綺麗な一戸建て

〇綺麗な部屋
  私、普通?

〇川沿いの公園
サヤカ「──あ」
サヤカ「・・・ごめん」
ミタカ「ごめん?」
ミタカ「謝んないでよ、嫌みで言ったんだから」
サヤカ「いや、でも」
サヤカ「私の言葉」
サヤカ「無神経だった」
ミタカ「・・・殺人犯にも謝るんだ」
ミタカ「サヤカって、いつか」
ミタカ「騙されて水とか鍋、買うんだろうなー」
サヤカ「そんなの引っかかんないわよ」
ミタカ「どうだか」
ミタカ「・・・普通って」
ミタカ「残酷だよね」
サヤカ「え?」
ミタカ「大多数を占めるからこそ」
ミタカ「普通って言うんだろうけど」
ミタカ「そこにあてはまらない存在も」
ミタカ「確実にいる」
ミタカ「その人達の普通は」
ミタカ「世間の異端」
サヤカ「な、何? どういう話?」
ミタカ「大丈夫」
ミタカ「僕から見たら」
ミタカ「サヤカは充分普通だよ」
ミタカ「はい、急ぐよ」
サヤカ「どういう事よ」

〇空

〇マンション前の大通り
ミタカ「よし」
ミタカ「準備は完璧だね」
サヤカ「自信満々なところ、悪いけど」
サヤカ「野鳥観察の振りして部屋を覗くって」
サヤカ「無理があるでしょ」
サヤカ「こんな場所で双眼鏡見てる奴、怪しいわよ」
サヤカ「もっと人がいない所でやれば?」
ミタカ「それは逆だよ」
ミタカ「怪しまれそうな行動は」
ミタカ「大勢の前で堂々とやる方がいい」
ミタカ「仮に僕達が不審に思われたとしても」
ミタカ「大勢の目があると」
ミタカ「個人の責任感は霞むからね」
ミタカ「誰も通報したりしないと思うよ」
サヤカ「へぇ」
ミタカ「さぁ、やろう」
ミタカ「2階、左から3番目の部屋だよ」
ミタカ「楽しそうなふりも忘れずに」
サヤカ「はっ」
サヤカ「ははっ、鳥かわいい~」

〇空

〇マンション前の大通り
サヤカ「ねぇ」
サヤカ「一向に現れないけど?」
サヤカ「もう鳥もいないわよ」
ミタカ「うるさいなぁ」
ミタカ「僕が見る、貸して」
サヤカ「今日は一日留守なんじゃない?」
ミタカ「あれ?」
サヤカ「何?」
サヤカ「いたなら言って」
サヤカ「顔見て帰るから」
ミタカ「うーん、どうしようかな」
サヤカ「何が?」
サヤカ「もう、貸して!」
サヤカ「誰もいないけど」
ミタカ「隣だよ」
サヤカ「隣ぃ?」

〇豪華なリビングダイニング
  あ、人がいる
  ん?

〇マンション前の大通り
サヤカ「ねえ」
サヤカ「あの人、苦しそうじゃない?」
ミタカ「そうなんだよね」
ミタカ「毒でも飲んだかな?」
ミタカ「なーんて」
サヤカ「まさか」
サヤカ「あんたが!?」
ミタカ「いやいや、物理的に無理でしょ?」
サヤカ「──っ」
サヤカ「助けなきゃ」
ミタカ「はぁ、本気?」
ミタカ「もう」

次のエピソード:四話 中途半端な部屋

コメント

  • サヤカさんの常識の埒外で飄々と振る舞うミタカさん、ミステリアスで魅力的ですね!
    一方のサヤカさんも、常識とか普通といった概念が覆させられそうな気配が。ストーリー展開と彼女の思考の変化、どちらも見物ですね!

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