エピソード1 スパイス 2(脚本)
〇アパートのダイニング
あい(あれ、部屋が暖かい・・・ カズくん帰ってきていたのかな・・・)
いつもは暗く寒い部屋が今日はほんのり暖かさが残っていた。
火照った頰は、部屋に着く頃にはいつもどうり戻っていた。
リビングに行き、鞄を椅子に置くと、お風呂場の電気が暗くなったリビングに漏れていた。
あい「カズくん?帰ってきたの?」
いつもより大きな声で話しかけると、
お風呂場のドアが開き、すぐ返事が返ってきた。
カズ「あい?帰ってきたの?」
あい「・・・うん。カズくん今日は帰ってこれたんだね」
カズ「・・・うん。急な出張でさ。俺も疲れてるから、先に休むね。あいもお疲れ」
あい「・・・わかったよ。出張お疲れ様でした。 ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
ふとテーブルを見ると、お土産のクッキーが置いてある。
あい(少しでも自分の事を考えてくれて、嬉しい。 でも結婚生活ってこんなに寂しいものなの?涙が出るものなの?)
あい(苦しいよ、カズくん・・・)
涙が溢れた。
寂しい気持ちも苦しい気持ちも一緒に洗い流すように、そのままお風呂場へと向かった。
〇繁華街の大通り
あい(暗い気持ちを切り替える為にも、買い物にでも出かけよう)
今朝もカズくんとは顔も合わせないままだった。
本当は、落ち込んでるけど・・・
あい(せっかくの休日で、貴重な晴れ間!今日は好きな事をするんだ)
たいち「あれ、相楽ちゃんじゃん」
あい「・・・店長!どうしたんですか」
たいち「ここ、俺のランニングコースなんだよね。偶然。休みの日に会うなんてさ。 運命かな」
あい「・・・そうなんですね。 私もこの道のカフェが好きで、よく通ります。今日もこれからモーニング行こうかと思って・・・」
たいち「誰かと待ち合わせ?」
あい「いいえ。今日は1人です」
たいち「じゃあ、一緒に行っていいかな。モーニング」
あい「はい。ぜひ」
〇テーブル席
あい「ここなんです。 春とか、夏場はテラス席もあるんですけど・・・冬場も窓が大きいから最高なんですよ」
たいち「ここが相楽ちゃんおすすめのカフェか・・・店内落ち着いてるね。うん。 いい感じ」
あい「はい。店内の雰囲気も、丁寧な接客も好きで、よく来ます。 落ち込んでる時とか、元気出したい時とかにも・・・」
たいち「落ち込んでるの?」
あい「いえいえ、今日はそういう訳じゃなくて・・・」
たいち「そっか・・・なら、いいんだけど・・・」
あい「座りませんか。窓際が、陽が当たって気持ちいいんですよ。モーニング食べながら、うっかりウトウトしてしまうくらい・・・」
たいち「あはは。相楽ちゃん、想像つくわ〜」
〇繁華街の大通り
あい「ありがとうございました。結局、ご馳走になってしまって・・・」
たいち「いいよ。俺も素敵な店でごはん食べれて楽しかった」
たいち「今更だけどさ、こんな格好で一緒しちゃってごめんね。本当オジさん丸出しでさ・・・」
あい「そんな事ないですよ。ご一緒できて楽しかったです」
たいち「相楽ちゃん、今日これからの予定は?」
あい「今日は自分の好きな事をしようと決めてましたけど、特に予定はないです」
たいち「実はさ、俺の家この辺なんだけど今日俺も相楽ちゃんの好きなことに付き合わせてよ。着替えてくるから、少し待っててくれるかな」
あい「むしろ貴重な休日を・・・いいんですか?」
たいち「全然。じゃあ決まり。少し待っててね」
あい「はい!待ってますね」
〇シックなバー
たいち「結局、1日付き合わせちゃったね」
たいち「疲れてない?大丈夫かな」
あい「はい。大丈夫です。 観たかった映画にも付き合って頂いて、ありがとうございました」
たいち「俺もちょうど観たいやつだったから、一緒に観れてよかったよ」
あい「そう言ってもらえると嬉しいです。 このお店も素敵。初めて来ました」
たいち「たまに来るんだ。俺だって落ち込む事や、1人になりたい時くらいあるからね」
あい「そうですよね・・・」
たいち「やだな、深刻に受け取らないでよ。 本当、相楽ちゃんてからかい甲斐あるわ〜」
あい「冗談だったんですか。からかわないでくださいね」
たいち「相楽ちゃんてさ、つい、からかいたくなるんだよね」
あい「も〜!」
マスター「いらっしゃいませ。 お好きなカクテルお作りしますよ。 お決まりでしたら、リクエストしてください」
あい「こういうお店初めてで・・・ お酒もあまり強くないんですが・・・」
たいち「相楽ちゃんには、甘口がいいかな。俺はいつもので」
マスター「かしこまりました。 ご用意いたします」
〇シックなバー
あい「どれも美味しくて・・・店長〜私少し酔ってきちゃったみたいです」
たいち「・・・少しじゃなくて、かなり酔ってきてるみたいだけど・・・」
たいち「少しペース落とそうか」
あい「大丈夫〜 まだ飲めますー」
たいち「マスターごめん。 次出すのお水にしてくれるかな」
マスター「かしこまりました」
たいち「ところで、今更なんだけどもうだいぶいい時間だけど、旦那さんには連絡してあるの?」
たいち「人妻をこんな時間まで連れ回す俺も本当どうかしてるんだけど・・・」
あい「・・・今はその話、したくありません・・・」
たいち「したくないって・・・大事な事でしょ。 連絡は入れた方がいいよ」
たいち「俺も帰せばいいんだけどさ・・・」
あい「カズくんとは・・・夫とは・・・ もう長い事話してません・・・」
たいち「・・・そうなんだ。何かあったの?話したくなければいいけど・・・」
あい「2ヶ月くらい前なんですけど、私、夫の携帯を見てしまったんです・・見るつもりはなくて、本当たまたま画面が見えて・・・」
あい「知らない女の人の名前で、メールがきていて・・・楽しかった、また会おうねって・・・」
あい「びっくりして見なかった事にしようって、今でも思うんですけど、夫が、出張とかで遅くなる度に、私、信じられなくなって・・・」
あい「夫には直接怖くて聞けない臆病な女なんです・・・」
たいち「・・・そうだったんだ・・・」
あい「・・・今日もどうせ接待だ、残業だって、 帰宅は深夜か、帰ってきません・・・私も寒くて暗い部屋に帰ってました」
あい「惨めで、悔しくて、悲しくて・・・誰にも言えなかった・・・苦しかった・・・」
あい「今日は、私、帰りたくありません・・・」
そう言った後、店長の肩にもたれかかった
お酒が回ったのもあるけど、半分は違った
たいち「・・・とりあえず、目の前のお酒少しでいいから飲んでみてよ」
あい「なんていうお酒ですか・・・味しないけど・・・」
たいち「素直になれる魔法のお酒かな。あと苦しみが半分になる魔法も入ってる」
あい「残りの苦しみ半分は残っちゃうんですか。 私、そんなの嫌です」
そういうと、店長は私の手からグラスを取り、グラスの残ったお酒を一気に飲んだ
たいち「これで半分こ。 俺も苦しみ半分もらってあげるよ」
そう言われて、胸の奥に溜まっていた涙が流れ出てきた気がした
あい「店長・・・どうしちゃったんだろう私・・・涙も止まらなくなってきました」
たいち「素直になれる魔法も入ってるって言ったでしょ」