秘密の恋の行く先は

ゆんゆん

エピソード1 スパイス(脚本)

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〇ファミリーレストランの店内
  近所のファミレスでパートで働き出して早くも8ヶ月経った。
  仕事にも慣れてきたし、毎日充実している。
  ・・・ただ、なんだろう。何か足りないような・・・。
  昨日作ったカレーライスにスパイスを追加した様に・・・。
  こんな事考えるなんて私、どうしちゃったのかな・・・。
あい「お疲れ様でした。 最後のお客様も帰りました。 お先に上がりますね」
たいち「お疲れ様。 俺も上がりなんだ。 店閉めるから一緒に出ようか」
あい「はい。 お先に着替えてきますね」
たいち「更衣室、凍えそうだったわー。 窓から外みたら、かなり吹雪いてるね」
あい「女子更衣室もすごい寒かったです。 この降りかただと、明日は積もりそうですね」
たいち「凍らないといいけどね。しかし、今日は結構混んだね。金曜日だからファミリーも多かったし・・・滑らない様に気をつけて帰ってね」
あい「本当寒くなりましたね。 ありがとうございます。 店長もお気をつけてください」
たいち「ありがとね。俺は大丈夫。 一人もんだしね。 寒い部屋で一人寂しくビール飲みますよ」
あい「そうなんですね。 あまり飲みすぎないでください。 また明日」
たいち「ありがとね。 相楽さんも旦那とハメ外しすぎないように。 また明日」
あい「はーい。 ありがとうございます」
  なんだろう。
  このまま終わりたくない様な・・・
  もう少しここにいたい様な変な気持ち
  ・・・
  多分、追求したらダメなやつ・・・
  
  そう言い聞かせて、ドアを開けて吹雪の中、
  家路に着いた。

〇アパートのダイニング
  少し雪が積もってうっすらと白くなった道路を小走りに、あっという間にアパートの玄関前に着いた。
  寒さで震える両手に息を吹きかけて
  カバンの中からアパートの鍵を探す。
  思ったより体が冷えている。慌てながらドアを開ける。
あい「まだ帰ってないや・・・ 今日こそは一緒に夕飯食べれると思ったのに・・・」
  寒い玄関で思わず出てしまった言葉・・
  まぁいいや、いつものことだし・・・
  そう言い聞かせてリビングの灯りと暖房をつけた。
  その間に、お風呂場に向かい部屋が暖まるまでシャワーを浴びることにした。
  連絡のない夫に、メールをしようか悩みながら・・・
あい(確か、昨日のカレー余っていたよね。 今夜も一人なら、それで済ましちゃおうかな)
  冷蔵庫からカレーが入った鍋を取り出し火にかける。その合間に携帯を眺め、夫にメールを送った。
あい(えーと・・・何時頃帰宅するの、夕飯はいるの、これでいいか・・・)
  夜11時。カレーを温めながら、ため息が漏れる。文面は昨日と全く同じだから。
あい(もういつからこんな状態かな・・・ 連絡もなくて、私が寝てから帰ってくる・・・)
  悲しくて思わず涙が流れる。涙を拭いて、グツグツと温まったカレーをお皿によそいながら、椅子に座る
あい「美味しい」
  温かいカレーを食べて安心したのか言葉が漏れた。いつの間にか涙も止まっている。
  
  でも、何か足りない・・・
  そう思って、既読にならないメールを見返しながら、何種類かスパイスを追加した。

〇ファミリーレストランの店内
あい「おはようございます。雪結構積もりましたね。今日もよろしくお願いします」
たいち「おはよう。相楽ちゃん、今日も元気だねー。土曜日で混むと思うけどよろしくね」
あい「はーい。頑張ります。 支度してきますね」
  夫から返信が来たのは夜中の2時。
  急な出張で連絡できなくてごめん。明日も帰れない、という内容だった。
  本当は寝不足だし、なんだかモヤモヤする気持ちは晴れない。
  仕事に来たから、と切り替えて笑顔で過ごそう。
あい「いらっしゃいませー。4名様ですね。 お席のご案内しますので、少しお待ちください」
あい(お昼の時間が近づいてきて、混み出したな。もう少しで満席になる。 ご案内気をつけないと)
客A「12時に予約していた田村ですけど・・・」
あい(予約・・・?今朝確認したかな・・・)
あい「はい。確認致しますので少々お待ちください」
  慌ててレジ横のメモを確認する。
  一昨日電話で席の予約を受けたメモ用紙が貼ってあった。
  12時 田村様 8名 席のご予約
あい(どうしよう・・・一昨日私が電話を受けたのにすっかり忘れていた・・・満席前で今から8名の席なんて確保できない・・・)
あい(お客様に謝罪をして、今からお席取れないことをお伝えしよう・・・)
あい「田村様誠に申し訳ありません。 お席のご予約を頂いていたにも関わらず、こちらの手配ミスでお席がご用意できておりませんでした」
あい「大変申し訳ないのですが、テーブルを2つに分けさせて頂きますので、4名様ずつ分かれてしまいますがご利用いただけ・・・」
客A「どういうことだ。 一昨日電話で予約したじゃないか」
あい「・・・はい、大変申し訳ありませんが、」
  男の怒声に店内がざわつき始める。
  
  あいの額にも、汗が流れてくる。
たいち「どうされましたか。お客様」
客A「どうしたもこうしたも、席の予約を事前に予約していたのに、席がないと言われたんだ。この店はどうなってるのかね」
たいち「大変申し訳ありませんでした。 今お席の確保いたしますのでしばらくお待ちいただけますか」
客A「全く、また待てというのか・・・」
たいち「田村様、今お席のご用意が出来ました。 ただ、誠に申し訳ありませんが、4名ずつ別れてのお席のご案内となってしまいますが・・」
客A「だから、それはさっきも言っただろう。 何回言えば気がすむのかね」
たいち「奥様のお誕生日なのですよね。昨年も当店をご利用して頂きまして誠にありがとうございます」
客A「えっ・・・なぜそれを・・・」
たいち「お席が分かれてしまうお詫びに、ささやかですが当店から、誕生日のホールケーキを各席にお1つずつご用意させて頂きます」
たいち「メッセージカードも添えられますので、もしよろしければ奥様に内緒でメッセージをお伺いしたいと思います。こちらへどうぞ」
客A「あぁ・・・分かった。家族には先に席に行ってろと伝えるから。それから行くから」
たいち「かしこまりました。ご家族のお席のご案内をさせて頂きたいと思います。相楽さん、ご案内お願いできるかな」
あい「は・・・はい!かしこまりました!すぐご案内いたします!」
客A「今年も女房の誕生日が家族みんなで祝えたよ。席ごときで騒いで申し訳なかったね」
あい「いえ、田村様。ご利用頂きまして誠にありがとうございました」
たいち「奥様もお喜びになっていったようで、私達も大変嬉しく思いました。またのご利用を心よりお待ちしております」
客A「またよろしく頼むよ。 来年も席の予約ぜひ忘れてくれ。 なんてな。 ご馳走様でした」
たいち「ありがとうございました」
あい「ありがとうございました」
あい「あの・・・店長、すみませんでした。それに、フォローして頂いて、本当に・・・」
あい(あれ・・・おかしいな・・・ホッとしたら 涙が出そうになってきた・・・)
たいち「相楽ちゃん、お昼休憩遅れちゃったね。 ご飯食べておいで。今日俺のおごりだから好きなの食べちゃって」
たいち「ゆっくり美味いもんでも食べてさ。 午後も忙しくなるよ。 よろしく頼むね〜」
あい「は・・・はい。ありがとうございます。 お先に休憩いただきます」
  涙目になってたの気づかれなかったかな・・・
  そんなことを思いながら休憩室に向かった。

〇ファミリーレストランの店内
あい「店長!今日は本当にありがとうございました」
たいち「あれ、相楽ちゃん。夕方帰ったよね。 どうしたの?」
あい「あの・・・忘れ物しちゃったんです。・・・あと、今日のお礼を言いたくて・・・」
たいち「そんなのいいよ。 店閉めるけど、途中まで一緒に帰ろうか」
あい「はい。ぜひ!」

〇開けた交差点
たいち「寒いね〜。 雪今朝で、止んでよかったね。 道路びちょびちょだけどね」
あい「本当ですね。 防水の靴履いてきて良かったです」
たいち「まじで。相楽ちゃんって、しっかりしてるよね。俺なんてもうすでに、靴下までグッチョリだよ」
あい「本当ですか。 そんなことないです。 うっかりしてますよ」
たいち「そうかなぁ。 若いのに結婚していて、旦那さん大手某社の営業マンなんでしょ。 自慢の旦那さんもいるんだしさ」
たいち「俺なんて寒い部屋に、冷蔵庫に酒しか入ってないからね。スーパーでも寄って、割引の惣菜でも買って寒い部屋に帰るその辺の男です」
あい「いいじゃないですか。 お惣菜。 私も好きでよく買いますよ」
たいち「じゃあ、これから俺の家で一緒にお惣菜食べる?酒ぐらいなら出せるけど」
あい「・・・えっ・・・」
たいち「やだな。あからさまに固まらないでよ。 冗談に決まってるでしょ。 いくら俺でも旦那がいる人には手を出せません」
あい「・・・びっくりしました・・・」
たいち「ごめん、ごめん。 じゃあ、閉店間際のスーパーが呼んでるから俺はここで。 忘れ物、見つかった?今度は忘れないようにね」
あい「はい!店長も遅くまでお疲れ様でした。 近くまで送って頂いてありがとうございました」
たいち「またね。お疲れ様」
  忘れ物なんて嘘。
  私、店長に会いたかったんだ。もっと話したかったんだ。
  
  急に恥ずかしくなった。
  熱くなった頰を夜風で冷やすように、赤くなってしまった顔をコートの襟で隠すように、私も暗く寒い部屋に向かって走った。

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