第10話「視野」(脚本)
〇おしゃれな居間
5日後。1月7日、夕刻。
児玉優美「心配させてしまって、ごめんなさい」
北畠真弘「優美さん・・・!」
高倉隼人「大丈夫、なんですか・・・?」
児玉優美「うん。もう、だいじょうぶ」
児玉優美「人間って不思議ですね。2日も泣いたら涙が涸れて、3日目にはおなかが空いて」
児玉優美「5日目には決心ができちゃった」
北畠真弘「決心、ですか?」
児玉優美「はい。わたしは、ジェイクさんを忘れずに生きます。そして、仇を討ちます」
北畠真弘「仇・・・道満ですか・・・?」
児玉優美「はい。道満は、わたしが必ず、この手で・・・」
北畠真弘「優美さん。正直に言います。それは、かなり難しいかと思います」
北畠真弘「憑坐同士の戦闘となった場合に道満は、僕が知る限り最強の部類でしょう」
北畠真弘「伝承具現に依存せず、強力な術の数々を連発できる・・・あれは反則的です」
北畠真弘「僕と隼人が協力して、三人がかりで挑んでも、正攻法では勝ち目はないと思います」
北畠真弘「遠野さんが対策を練っています。道満に関しては、遠野さんに任せた方がいいかと」
児玉優美「・・・・・・」
高倉隼人「優美さんは、それじゃ納得できないんですよね」
児玉優美「・・・うん」
高倉隼人「いいですよ。俺は協力しますよ。正攻法がダメなら、奇襲でも不意打ちでも」
高倉隼人「どんな卑怯といわれる手段でも、手を貸します」
児玉優美「・・・いいの?」
高倉隼人「仇討ちって行為自体が、今の日本じゃ認められないことぐらい、俺でも分かります」
高倉隼人「でも、優美さんの決心の方が、俺には分かりやすい」
高倉隼人「もともと例外な俺たち憑坐が、例外な力で大切な人を殺された・・・」
高倉隼人「その時、選ぶ手段も例外なものになるのが自然だと俺は思う」
児玉優美「・・・ありがとう」
北畠真弘「二人の気持ちは分かりました。しかし、即座に賛同はできません」
北畠真弘「ここは一旦、保留としましょう。そもそも事の発端は、螺旋機関の分裂と対立」
北畠真弘「政治的な駆け引きが絡む事案です。どう行動するにしても、遠野さんの協力が不可欠」
北畠真弘「そこは納得してもらえますか?」
児玉優美「・・・はい。分かりました」
北畠真弘「ありがとうございます。では、食事にしましょう。生きることは食べることです」
児玉優美「はい。そうですね」
〇闇カジノ
同日、深夜。都内某所
遠野篤志「この闇カジノに岸村が?」
瀧上正臣「ああ、3日前に相当な額を勝って、わざわざ印象を残してる」
瀧上正臣「昨夜のガサ入れを知っているかのようなタイミングでな」
遠野篤志「捕まえてみろという示威行為か?」
瀧上正臣「だろうな。奴は尻尾を敢えて隠さない」
遠野篤志「我々を見くびっているのか」
瀧上正臣「この状況を愉しんでる。そういう男なんだろう。ある種のサイコパスなんだろうさ」
遠野篤志「その後の足取りは?」
瀧上正臣「掴めん。尻尾を出したかと思えば、次の瞬間には足跡も匂いも残さず姿を消しやがる」
瀧上正臣「愉しんでいるとしか考えられん」
遠野篤志「厄介な男が異能の力を持った結果か・・・」
瀧上正臣「ああ、これまでよくも教職になんて収まっていたもんだ」
瀧上正臣「妻子がいないのが、奴に残った唯一の良心かもしれん」
瀧上正臣「まあ、あの年齢まで、孤独に牙を研いでいたのかと思うとゾッとするがね」
遠野篤志「・・・短絡的だったオジマンディアスよりも格段に質が悪いな」
瀧上正臣「ああ・・・で、件のお嬢さんは大丈夫なのか?」
遠野篤志「どうやら岸村、いや、道満に対する復讐心を支えに、持ち直したようだ」
瀧上正臣「危ういな。なまじ憑坐としての力を持っているが故に、そうなったんだろうが・・・」
遠野篤志「ああ・・・なればこそ早急に処理する必要がある」
〇飛行機内
1月21日、昼過ぎ。成田発ドバイ行の機内
エドワード「政治的判断とはいえ、このような形になって申し訳ないです」
岸村英憲「構いませんよ。私は快楽を追求できれば、どこでも良いのです」
エドワード「その点は安心してください。螺旋機関の中東支部は極東支部とは違います」
エドワード「ほぼ我々が掌握している。その上、中東のヨリマシは多種多様」
エドワード「キシムラ先生には、存分に愉しんでいただけると私が保証します」
岸村英憲「それは実に愉しみですな」
〇おしゃれな居間
同日、夜半。遠野のセーフハウス
遠野篤志「児玉さんに報告することがあります」
児玉優美「はい。なんででしょうか・・・」
遠野篤志「本日、岸村が出国しました」
児玉優美「え・・・? 出国・・・?」
遠野篤志「事後報告となってしまいました」
児玉優美「出国って・・・どこに? どこに行ったんですか?」
遠野篤志「中東ということ以上は、私も知りません」
児玉優美「そんな・・・」
遠野篤志「急進派と漸進派の政治的な駆け引きの結果です。私も結果しか知らされていません」
児玉優美「そう、ですか・・・」
遠野篤志「納得いかないでしょうが、ここは、受け入れていただくしかありません」
児玉優美「・・・はい・・・分かり、ました」
遠野篤志「急進派は、日本国内での実験と称した活動を打ち切ります」
遠野篤志「児玉さんには、元の生活に戻っていただきます」
児玉優美「そう、ですか・・・」
遠野篤志「私からは、以上です」
児玉優美「はい・・・」
〇中東の街
2年後――2032年1月23日
イランの首都、テヘランの郊外
蘆屋道満「劫劫炎竜、急急如律令!」
アーラシュ「ヘザール・パラサング・シバティール!」
蘆屋道満(そうか・・・やはり私は、星には敵わぬか)
〇テーブル席
2032年2月14日
児玉優美「急に、ごめんね」
高倉隼人「謝ることなんかないですよ。優美さんの誘いなら、いつでも大歓迎ですから」
児玉優美「ありがと」
児玉優美「そうだ、忘れないうちに・・・これ」
高倉隼人「チョコですか。ありがとうございます」
児玉優美「バレンタインで土曜日だもんね。先約あったんじゃない?」
高倉隼人「優美さんが最優先です。知ってるでしょ」
児玉優美「うん・・・ごめん。そこに甘えた・・・」
高倉隼人「だから、謝ることなんかないんですよ。好きなだけ利用してください」
児玉優美「ありがとう・・・」
児玉優美「道満のこと、聞いた?」
高倉隼人「ええ、聞きました。死んだらしいですね」
児玉優美「うん・・・あれから2年。そろそろ、わたしもけじめを付けないとなって思って」
高倉隼人「そうですか・・・」
児玉優美「わたしね、デートらしいデートって一回しかしたことないの」
高倉隼人「・・・ジェイコブさんと、ですか?」
児玉優美「うん。そう・・・きょうは、その時のコースを辿りたいの・・・」
高倉隼人「分かりました。とことん付き合いますよ」
児玉優美「ごめんね。こんなこと頼めるの、隼人くんしか・・・」
高倉隼人「優美さん。俺から一つだけ条件を出していいですか?」
児玉優美「なに?」
高倉隼人「謝るのは禁止です」
児玉優美「うん・・・分かった。ありがと・・・」
高倉隼人「じゃあ、デートの再現をしましょうか」
〇ゲームセンター
高倉隼人「意外と難しいですねコレ・・・」
児玉優美「うん。わたしなんか不器用だから、全然ダメ」
高倉隼人「でも、最初がゲームセンターってのは、ちょっと意外でしたね」
児玉優美「わたしって、子供っぽいんだよ。こういう場所でわくわくするんだ」
児玉優美「一人だとなんだか怖いから、そんなに来たことはないんだけどね」
高倉隼人「そうですか・・・いやあ、コレ難しいや」
児玉優美「だよねえ・・・わたしも、取れる気がしないもの」
高倉隼人「きょうは再現だから遠慮せずに訊きますね」
高倉隼人「ジェイコブさんは、どうでしたか?」
児玉優美「・・・すっごく上手だった」
高倉隼人「そうですか・・・」
高倉隼人「さて、次に行きましょうか。次はどこですか?」
児玉優美「カラオケ」
高倉隼人「分かりました。じゃあ行きましょう」
児玉優美「うん」
〇カラオケボックス
児玉優美「隼人くんってば、すごい上手なんだね歌・・・」
高倉隼人「上手かどうかは自分では分かりませんが、歌うのは好きですね」
児玉優美「・・・!」
高倉隼人「どうかしましたか?」
児玉優美「ううん。ジェイクさんも同じこと言ってたなって・・・」
高倉隼人「そうでしたか・・・」
児玉優美「わたしね、ここで告白したんだ・・・」
高倉隼人「えっ・・・! 優美さんからなんですか?」
児玉優美「そうだよ。ジェイクさんは、私を受け入れてくれたの」
高倉隼人「そうだったんですね・・・」
児玉優美「今はね、分かっちゃうんだ・・・当時の、わたしは子供で、不安で心細くて・・・」
児玉優美「頼りがいを感じさせてくれるジェイクさんに惹かれたの・・・」
児玉優美「ジェイクさんは、それを承知の上で、わたしを受け入れてくれた・・・」
児玉優美「きっと男女の愛情ではなくて、父性愛に近いものだったんじゃないかって・・・」
児玉優美「その証拠に、ジェイクさんは自分からは決して距離を詰めようとはしなかった・・・」
高倉隼人「優美さん。ジェイコブさんは、優美さんを愛していたと思います」
高倉隼人「そうじゃなきゃ、自分の命をかけて優美さんを護るなんて、できっこない」
高倉隼人「自分から距離を詰めなかったのは、優美さんを大切に思っていたからです」
高倉隼人「そこだけは、俺も同じだから分かるつもりです」
児玉優美「隼人くん・・・」
高倉隼人「さあ、せっかくのカラオケです。歌いましょう!」
児玉優美「うん・・・!」
〇ラーメン屋のカウンター
児玉優美「はああ、やっぱり美味しいなあ・・・ここのラーメン・・・!」
高倉隼人「ほんと美味しいですね」
児玉優美「でしょ?」
高倉隼人「ゲームセンターからカラオケ、そしてラーメン・・・」
児玉優美「はい。素直に思ったことを言いなさい」
高倉隼人「なんだか中高生っぽいですね」
児玉優美「だよねえ・・・自分でも、どうかと思う。でも、好きなんだよね、こういう場所」
高倉隼人「俺も好きですよ。気取った場所より」
児玉優美「ふふっ、気が合うね。よしっ! じゃあ次に行こう!」
高倉隼人「はい!」
〇居酒屋の座敷席
高倉隼人「美味しいですね、この店」
児玉優美「だよねえ。あの時以来だけど、変わってなくて嬉しい」
児玉優美「隼人くん。きょうは、ありがとね。この店でラストだよ」
高倉隼人「どうですか。思い出を巡ってみて」
児玉優美「うん・・・隼人くんのおかげで、なんだか視界が明るくなった気がする」
高倉隼人「そりゃあ良かった」
児玉優美「わたし・・・前に進めるかな」
高倉隼人「進めますよ優美さんなら。もし必要になったら、きょうみたいに俺を使ってください」
児玉優美「ありがとう」
完結お疲れ様でした🎉
ちょっと最後、隼人が不憫かなとも思ったのですが、本人も納得してるようだったので良かったです😊
あの展開からどうなることかと思っていたら、こうまとめましたか! ジェイクさんの父性と愛情の混じった雰囲気、頼りたくなるのすごくわかります。お疲れ様でした!\(*^▽^*)/