第二話 秘密結社 錫のスプーンその成り立ち(脚本)
〇平屋の一戸建て
午前6時20分
アンは自転車を止める。
普通の民家だが、門の両脇に佇む背広を着た阿と吽の二体の青銅の像というのが住人の狂気を伝えていた。
吽像の手の上にある牛乳ボックスに牛乳と栄養補助ドリンクを入れながら玄関から出てくる老人を見つける。
アン・羅騎「おはようございます樽馬さん」
樽馬源兵衛「おお、おはようアンちゃん。そうじゃ頼まれていた軍配できたぞ」
老人は豪快に笑いながら手に持っていたものをアンの目線の高さに持ち上げる。
それは朝日を受けてきらりと光る凶悪な軍配。隆起する老人の腕の筋肉が軍配の重さを如実に語っていた。
アン・羅騎「わぉ!ありがとうございます」
重い軍配を平然と受け取るアンに樽馬はギョロリと目を剥く。
樽馬源兵衛「しかしアンちゃん。こんなの何に使うんじゃ?」
アン・羅騎「武器ですよ。これで寄ってくる敵を薙ぎ払うんです」
樽馬源兵衛「そ、そうか。なら歪んだりしたらいつでも持ってきなさい。修理してあげよう」
アン・羅騎「はい。そのときはよろしくお願いします」
アンが秘密結社「錫のスプーン」に所属する小隊長ヴィランであることは、知っている人は知っている公然の秘密だ。
そして、大多摩市民からは、有り得ない場面で有り得な失敗をするので「ドジっ娘マスター」とか、
色々な怪我をして絆創膏だらけな事から、「絆創膏姫」という愛称で呼ばれ慕われていたりする。
午前6時30分
町内の決められたコースを回って配達所に戻る。
連絡ノートに異常なしと書き込み彼女の朝のお仕事は完了した。
〇明るいリビング
午前8時00分
焼いたトーストにベーコンエッグ。グラスに一杯の牛乳というオーソドックスな朝食を取りながらテレビの占いコーナーをチェック。
素っ気なく化粧を済ませると、量販店の吊るしのグレーのスーツに身を固めてご出勤である。
〇大企業のオフィスビル
アンは、オフィス街の中心にある株式会社「平成乳業」と書かれた高層ビルに入る。
「平成乳業」というのは
彼女が所属する秘密結社「錫のスプーン」が社会的にもつ表の顔のひとつである。
ここで秘密結社「錫のスプーン」の成り立ちについて説明しておこう。
いまから20年前。
後の国際ヒーロー協会とデスデス団との間で一大決戦が勃発。
東京とデスデス団が壊滅した際に、デスデス団で異能者の遺伝子情報を解析し、人為的に異能を発現させる実験をしていた
クシュリナ博士が、自身と身内の身を守るために立ち上げたのが秘密結社「錫のスプーン」の始まりである。
まず彼女は、とある小規模乳製品の会社を買収。
本社を奥多摩町へと移し「平成乳業」と社名を変えて乳製品の会社をつくる。
クシュリナ・坂崎「私、牛乳が大好きだから、組織の隠れ蓑にするなら牛乳屋さんがイイな!」
謎の動機である。
チャン瀬葉須「ところでドクター。なぜ拠点を奥多摩町にしたのでしょうか?」
クシュリナ・坂崎「東京なのに秘境だから」
チャン瀬葉須「さすがに地元の人に怒られますよ」
クシュリナ・坂崎「冗談よ。 ここはね、更地になった都心の復興再開発の過程において巨大な学園都市になるの」
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