傭兵Blues

星野栞

傭兵Blues(脚本)

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星野栞

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〇荒廃した市街地
  小隊の連中はとっくに退却しちまった
  ここに残っているのは俺と俺の親友の二人だけだ
  敵の砲撃により破壊されたかつての司令部
  その建物の残骸に身を寄せた俺たちは、上空を飛び交う偵察ドローンから隠れていた
  発見されるのも時間の問題だ
  レーザーで撃ち抜かれた右足の裂け目からは内部の焼け焦げたサイバネティック構造が覗き、さらに漏れ出たオイルが止まらない
  とても歩ける状態じゃない
  親友は親友で腹と肺を撃たれて大破した
  いくら頑丈なサイボーグ体でも長くはもたないだろう

〇荒廃した市街地
「俺を置いて行け」
「うるさい 黙ってろ!」
親友「俺はもう駄目だ おまえだけでも逃げろ」
俺「そう言われてもこの足じゃあ逃げられねえよ、相棒」
  死にかけている親友を置いて自分だけ逃げるなんてあり得ない
  俺とこいつは共にいくつもの戦場を駆け抜け、何度も死地を脱してきた
  助けたり助けられたり、そうやって今まで生きてきた
  それも今日で終わりだ

〇荒廃した市街地
親友「なあ。タバコを吸っても構わねえか」
俺「ああ、いいぜ」
親友「すまねえ。俺がミスったばっかりに」
俺「仕方がねえさ。装備も戦力もあちらさんの方が上だからな」
俺「今回ばかりはどうしようもねえよ」
  くわえたタバコに火をつけてやる
  隠れていたってどうせ見つかる
  タバコぐらい吸わせてやるさ

〇荒廃した市街地
  疲れ切った顔でタバコをふかしていた親友が、傷だらけのヘルメットを脱ぎ捨てた
  何をするのかと見ていると、地面に投げ出されたバックパックから薄汚れたよれよれのハンチング帽を引っ張り出して被った
  見慣れたそれは、俺たちが初めて会った時からの親友のお気に入りだ
親友「俺が死んだら、こいつをおまえにやるよ」
俺「そんな汚ねえ帽子なんていらねえさ」
親友「こいつは俺の親父の形見なんだ」
俺「そうなのか。そりゃあ初耳だな」
親友「親父も傭兵だった。お袋とまだ幼かった俺を置いて死んじまったがな」
俺「ふん」
親友「だから俺は親父の顔を知らん。くそ親父愛用だったというこのハンチングしか知らん だから・・・」
  それに気づいた相棒が何か言いかけて黙った
  振動がだんだん強くなる。遠くから何かがやっくる
  やって来るのは敵しかいない!!

〇荒廃した市街地
  腹這いになり、クソ重いMSAキャノンを肩に乗せ、スコープを覗く
  砲撃によって大地に穿たれた丸い窪地の向こう。歩兵運搬用の装甲車がやって来るのが見えた
  どうやら俺たちをすべて駆逐したと思い込んでいるようだ
  オート追尾システムはとっくにぶっ壊れているから手動でやるしかない
  弾はあと残り一発。外したら終わりだ
  スコープの照準を慎重に合わせる
  息を止め、俺はトリガーを引いた!!
  スコープの中の装甲車が炎に包まれ爆発する
  赤銅色の空がさらに赤く染まる
俺「やったぜ。やっつけてやった!! もっとも装甲車一両破壊しても何ともならん・・・」
  返事がないのに気づいた俺は、相棒を振り返った

〇荒廃した市街地
  目を閉じてタバコを咥えたままのその顔は、笑っているように見えた
  よれたハンチングを相棒の頭から取り、長い戦いを終えた男へ話しかける
  俺の唯一の親友だった男へ・・・
俺「行っちまったか相棒」
俺「俺もすぐにそっちに行くから、地獄でまた楽しくやろうぜ」

コメント

  • この世で最後の時間を共に過ごす相手が親友だったことが唯一の救いでしょうか。親友が残したハンチングも、二度と誰にもかぶられることなく塵になるかと思うと切ないです。

  • 戦いというのは本当に無意味です。
    昔は戦争は国を豊かにする、なんて言われていましたが、それは一部の国であって…。
    こうして、親友や大切な人を失う以上に必要なことか?!と私は思ってしまいます。

  • 戦場という悲劇の時空間が、この二人の男性のやりとりを通して、束の間でも穏やかな時が流れたという雰囲気を感じ取りました。地獄で再会しよう・・というセリフは彼らの置かれた状況をとても意味深く表現していると思います。

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