エピソード1(脚本)
〇怪しい研究所
表札には『リアリティワールド研究所』。
そのすぐ下に『広川』の表札。
〇研究装置
青のラインの入ったヘッドギアをつけた久怜愛がキーボードを叩いている。
ギアを外す久怜愛。
広川久怜愛「先に帰っててパパ」
広川久怜愛「私、もう少しだけやっていく」
広川博人「あまり張り切りすぎるなよ」
広川博人「今日は継人の・・・」
広川久怜愛「わかってる」
広川久怜愛「私が愛する弟の誕生日、忘れると思う?」
広川博人「ならいい。パーティまでには帰って来なさい」
ドアに向かう博人。
広川久怜愛「パパ」
広川博人「ん?」
広川久怜愛「この研究がうまくいったら・・・」
広川久怜愛「継人、喜んでくれるよね?」
広川博人「もちろんさ」
再びヘッドギアをつける久怜愛。
〇研究装置
ハンス・ハンケ「えっと、鍵は・・・」
机の上の鍵を手に取るハンス。
ハンス・ハンケ「開発しながら寝ちゃったのかい?」
中央の円形モニターに文字コードが流れていることに気づくハンス。
ハンス・ハンケ「ん? どうなってるんだ?」
久怜愛の横にあるヘッドギアを装着する。
〇研究装置
ハンス・ハンケ「ワオ!」
ハンス・ハンケ「いったいなんだこれは!?︎」
広川久怜愛「ハンスさん!」
広川久怜愛「なんでここに。 帰ったはずじゃ・・・」
ハンス・ハンケ「鍵を忘れてしまってね」
ハンス・ハンケ「それより、これは君がやったのかい?」
広川久怜愛「え、ええ。まあ・・・」
辺りを見回すハンス。
ハンス・ハンケ「君の記憶を、この空間に移植しているのか」
広川久怜愛「・・・はい」
ハンス・ハンケ「こんな素晴らしい技術、なぜ隠してたんだい?」
広川久怜愛「皆さんには、ちゃんと技術を確立してからお伝えしようと思って・・・」
ハンス・ハンケ「ノー!」
ハンス・ハンケ「人間の記憶を仮想空間に移植するなんて、ノーベル賞物だよミス久怜愛」
広川久怜愛「いえ、そんな・・・」
ハンス・ハンケ「胸を張り給え!」
ハンス・ハンケ「さすがは博人の娘。 その歳で修士号を取得しただけのことはあるね」
広川久怜愛「・・・・・・」
ハンス・ハンケ「フハハハハッ!」
ハンス・ハンケ「でも、脇が甘いね」
広川久怜愛「え?」
〇黒
7年後
〇怪しい研究所
〇おしゃれな部屋
テレビからニュースキャスターの声が聞こえる。
「今、世界中で話題沸騰中のHIMAHAN-Zですが、いったい何がヒットの秘訣なんですか?」
手を止めてテレビに視線を移す継人。
リアリティワールド株式会社代表取締役CEO真泉マリーが答える。
「人は誰もが、日々、不満を抱えながら生活を送っています」
「HIMAHAN-Zは、現実そっくりの仮想世界で、もう一つの人生を送ることができるのです」
「そこには、何のしがらみもなく、本当の自由があります」
広川幸奈「継人! いい加減に起きない」
広川継人「わ! 母さん、勝手に入ってこないでよ」
ニュースキャスターの声が聞こえる。
「でも、本当に安全なんですか?」
真泉マリーが答える。
「それは全社をあげて保証します。 100パーセント安全です」
幸奈がテレビを消す。
広川幸奈「何が・・・安全よ」
広川継人「・・・・・・」
広川幸奈「久怜愛をあんな目にあわせておいて」
広川継人「きっと・・・ きっと父さんが何とかしてくれるよ」
広川継人「今だって姉さんを助けるために研究所にこもって・・・」
広川幸奈「あの人もあの人よ」
広川幸奈「あんな危険なもの作った張本人なんだから」
広川継人「・・・・・・」
広川幸奈「もう7年よ」
広川幸奈「7年も久怜愛は目を覚ましてくれないのよ」
泣き崩れる幸奈。
広川継人「母さん・・・」
〇曲がり角