第4話 他人が淹れたコーヒーうまい(脚本)
〇殺風景な部屋
深夜のコンピュータ室。
「シンデレラS01のマイクロメモリ」の中身を検分するために戻ってきた。
ビストライト「まって、このマイクロメモリでかくない?」
ビークル「ええ、何世代も以前の型です。最新式は12ミリですが、このマイクロメモリは4センチあります。厚みも1センチほど」
ビストライト「なんで? あのシンデレラS01って、わりと新しいよな」
ビークル「ええ。なのに、マイクロメモリだけが旧式。謎ですね」
ビストライト「なあ、これ、さっきの端子に入らないんだけど・・・」
ビークル「普通に考えて、旧式のパソコンでしか対応していませんね」
ビストライト「この部屋に旧式パソコンある?」
ビークル「旧式のパソコンは30年ほど前のものですからね、さすがにないですよ」
ビストライト「じゃあどうすんだよ」
ビークル「町に行きましょう。中古の電気屋などがあるはずです。探せば昔のパソコンを持っているご家庭もあるでしょう」
ビストライト「町かぁ」
ビークル「ご主人さまも、たまには人間とお話したいでしょう」
ビストライト「そうだな。移動時間が相当かかるけど行くかね」
シンデレラS01は激戦地に派遣された。被害が少なく済んだ町にはいないはずだった。
彼らはその跡地をたどってきたので、この仕事を始めてから町には一度も戻っていなかった。
一年間も、荒野ばかりを見てきた。
〇砂漠の滑走路
燃料も資材も不足しているこの惑星では、飛行機や電車などといったインフラは停止状態である。
ビストライトたちは、主に移動にバイクを使っている。
ただのバイクではない。地面から少し浮かぶ、ホバーボードだ。
ビークル「運転は私がします。ご主人さまは後ろで寝ていてください」
ビストライト「車や電車じゃないからな、寝るのは無理かなー」
ビークル「そうですか。人間は大変ですね」
ビストライト「俺も機械の体が欲しくなってきたよ」
ビストライト「・・・」
ビークル「寝てるじゃないですか」
〇西洋の街並み
ビストライト「町・・・町だ 一年ぶりの・・・町だ・・・・」
ビークル「泣くほどですか・・・」
八百屋さん「いらっしゃい! 今日は新鮮なトマトがあるよ」
ビストライト「トマト・・・!? トマト食いたい!買います!」
ビークル「野菜とはそんなに美味しいものなのですか?」
ビストライト「うまいよ。どっちかっていうと俺、前は野菜苦手だったんだけどな」
ビストライト「こうも食えないと野菜が恋しくなる。当たり前に食ってた頃が嘘みたいだよ」
ビークル「会えない時間が恋を育てるのですね」
〇カウンター席
ビストライト「あ、あ・・・ああ・・・・」
ビストライト「他人が淹れたコーヒー、うっっま・・・」
ビストライト「どうしよう。あの終末みたいな荒れ地に戻りたくない。ずっとここにいたい」
ビークル「コーヒーならわたしが淹れてさしあげますのに」
ビストライト「インスタントコーヒーをお湯で溶かしもせずに水とミルクに入れて出してきたお前には」
ビストライト「もうなにも頼まないよ」
ビークル「ご主人さま。わたしはお暇をいただきます」
ビストライト「いやそんなことで機嫌悪くする!?」
ビークル「しばらく点検していませんし、メンテナンスに数日かかるようです。その間、お一人で進めてください」
ビークル「わたしの目がないからといって、サボることのないように」
ビストライト「メンテナンスかよ! 誤解を招くような言い方するな」
ビークル「あなたとは話が噛み合わないのでストレスを感じます」
ビストライト「そっか。数日間、俺と離れて清々してくれ」
ビークル「そのようにいたします」
〇カウンター席
ビストライト「ふう。うるさいのがいなくなって快適だな」
???「お客さん、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
ビストライト「ちょうど頼もうと思っていたところだ」
ビストライト「気が利くね、お嬢さん。お嬢・・・」
シンデレラS01「おそれいります」
ビストライト「は!? あんた誰!」
シンデレラS01「ここで働いている機械人形です。どうぞ、コーヒーです」
ビストライト「いやいやいやいや・・・」
シンデレラS01「町ではとくに珍しくないかと。人に混ざって機械人形が暮らしていますよ。この宿も従業員はみな機械です」
ビストライト「あ、あんた、ミメイ博士の作ったシンデレラS01・・・だよな?」
シンデレラS01「ええ。製作者に会ったことはないのでなにも知りませんが」
ビストライト「昔のことは? 覚えているのか?」
ビストライト「いや、なんか悪い。急にプライベートなこと聞いて・・・」
シンデレラS01「構いませんよ。機械ですから。以前は戦場に出て成果を上げたそうです。記憶はリセットされたのでありません」
シンデレラS01「今は、宿屋のオーナーにお金で買われ、こうして労働用の機械人形として働いています」
ビストライト「記憶がリセット・・・戦闘用の命令は上書きされたってことか?」
ビストライト「そんなことできるの?」
シンデレラS01「首の後ろのボタンひとつで誰でも可能ですよ。今はオーナーが所有者ですから、ロックされていますが」
ビストライト「そのオーナーってここにいる?」
シンデレラS01「いいえ、ここの経営はすべてわれわれに任せていて、オーナーは遠くの快適な惑星に住んでらっしゃいます」
ビストライト「なるほど。憎たらしいほどの大金持ちってわけだ」
ビストライト「この「惑星」は快適でもなんでもない、ほぼ荒れ地だもんなぁ」
シンデレラS01「ええ。選ばれた小数の資産家しか、惑星間移動は無理でしょうね」
シンデレラS01「では失礼」
ビストライト「ちょっと待って待って行かないで」
シンデレラS01「まだ片付けがあるのですが」
ビストライト「君に用があるんだよ。3日・・・いや今日だけもいい、俺に付き合って」
シンデレラS01「ナンパですか? 噂には聴いていましたが、機械の体しか愛せない趣味の人間がいるとか」
ビストライト「ああもうそれでいい、そうなんだよ」
シンデレラS01「・・・」
シンデレラS01「さきほどのメイドの格好をした機械人形がメンテナンス中に浮気、というわけですか」