エピソード10(脚本)
〇明るいリビング
小石川喜一「小石川喜一・・・? オレと同じ名前???」
「ああ。お前たちのおじいちゃんのそのまたおじいちゃんだ」
小石川哀史「おじいちゃんのおじいちゃんが、かくまってあげたその女の子が、マルチスレッダーか!」
「そうだな。 全治家、最後の独り」
小石川喜一「でもさ、日本征服を企む悪い連中なんだろ、その子も」
「いや・・・。 必ずしもそうとは言い切れなかったらしい」
〇古民家の居間
和夢「これまでいろんな人たちが、私たちの能力目当てに、近づいてきました。みんな、自分の頼みをきいてくれと言うのです」
小石川喜一「うん」
和夢「最初にやってきたのは、ナンバー2を名乗る男でした。自分のところのトップが極悪人だと言うのです」
和夢「厳しい年貢を取り立てて、村民を苦しめている。上に立つ者があれでは、ダメだ。どうにかしてトップを交代させてくれと言うのです」
小石川喜一「ふむ」
和夢「ナンバー2の男は、自分がトップになったら、そんなまつりごとは決してしない。村民が幸せに暮らせるようにすると言いました」
小石川喜一「そうか」
和夢「調べてみるとたしかにトップというのは、とても強欲な男でした。それで、失脚させることにしたのです」
小石川喜一「そうか・・・って、どうやって?」
和夢「簡単ですよ。たくさんの有力者たちの人差指から出ている怒りの白い糸を、トップの中指の糸に、一方通行もやい結びで結んで・・・」
小石川喜一「ず、ずいぶんむずかしい術式を使うんだね、和夢ちゃんて」
和夢「えっ?」
小石川喜一「ん? いいかな? 和夢ちゃんって呼んでも」
和夢「あ・・・はい」
小石川喜一「それでそのナンバー2が、トップの後釜に座った。そうなんだろう?」
和夢「はい。最初は熱く語っていた通りの理想のまつりごとをしていた元ナンバー2でしたが、すぐに袖の下を受けとるようになり、」
和夢「談合や癒着・・・。前のトップと同じ、悪い政治家になってしまったのです」
小石川喜一「なるほど。そういうこともあるんだろうな」
和夢「次にやってきたのは、ナンバー3の男でした。男は、トップの悪口を言い、自分をトップに替えてほしいと言ってきたのです」
小石川喜一「その男の頼みを聞き入れた・・・そうだろう?」
和夢「はい。でも結果は同じ。トップに立ったとたんに、男は悪い政治家になってしまうのです」
小石川喜一「次にやってきたのは、ナンバー4ってわけか」
和夢「はい。 ・・・本当にキリがなくて」
小石川喜一「たしかにキリがない」
和夢「それでも私の父は、今度こそは、今度の男は大丈夫と信じて頼みを聞いていたのです。そうしている内に嫌な噂が・・・」
小石川喜一「嫌な噂?」
和夢「私たち全治家が、人の心を操って、日本国を牛耳ろうとしているとか」
小石川喜一「ああ~。相手の失脚を依頼した自分が今度は失脚させられて、それで逆恨みしたんだな、きっと・・・えっ?」
小石川喜一「なんだよ~。じゃあ雅楽が今騒いでいる全治家討伐って、ガセネタに踊らされてるってことじゃん」
和夢「初めは本当に根も葉もないガセネタだったんですけど・・・」
小石川喜一「けど?」
和夢「あんまりにもその噂話がしつこくって、ある時、父のタガが外れちゃったんです」
小石川喜一「タガが外れた?」
和夢「陰謀だの、謀反だの、日本征服だの、うるさい! そんなに言うのなら、本当にやってやる、って」
小石川喜一「それはまた極端な」
和夢「それで・・・」
雅楽「やっぱりお前がかくまっていたのか! 表へ出ろ!!!」
〇草原の道
雅楽「己、この悪の化身! 正体を現しやがれ!」
和夢「・・・・・・」
雅楽「私の雅楽術、国風歌舞で打倒してくれようぞ!」
和夢「仕方ありませんね。 私としても無用な殺生はしたくはないのですが、売られたケンカは買ってさしあげます」
雅楽「おのれ~~~」
小石川喜一「待て、雅楽! 彼女はなにも悪くない! 誤解なんだ」
雅楽「五階も六階もあるか!」
小石川喜一「待てったら! 第一、彼女を殺したところで、なにが変わる?」
雅楽「なにって、日本征服を企む悪党がいなくなるんだから、変わるだろうよ!」
小石川喜一「すぐに別のヤツが出てくるぞ!」
雅楽「えっ?」
小石川喜一「似たような野望を抱くヤカラはこれからも出て来る。お前、そいつら全部、出て来たそばから退治できるのか?」
雅楽「・・・・・・」
小石川喜一「仮にその野望を叶えたヤツが出たとしよう。運よく日本を牛耳ることができたその先には、なにがある?」
雅楽「はあ? 日本をわが物にできて、そいつの願いは叶ったんだろう? その先なんてねぇよ」
小石川喜一「人間の欲望には、キリがない・・・」
和夢「・・・・・・」
小石川喜一「日本を征服したら、隣の国だ。隣の国を侵略したらさらにその隣の国」
小石川喜一「謀略は、果てしなく続く」
雅楽「うっ、 う~~ん」
小石川喜一「それによく考えてみろ! こんな島国のちっぽけな国民が抱くような野望を、他の国の人間が考えないわけがなかろうが!」
雅楽「へっ?」
小石川喜一「オレの予想では・・・」
小石川喜一「これから先、未来では、国対国のおおいくさが、始まる!」
雅楽「国と、国とが!?」
小石川喜一「ああ。 それも今まで以上のものすっごいエネルギー、想像もつかないような武器を使った戦いだ」
雅楽「そんな・・・大きな戦が?」
小石川喜一「そうなれば多くの人が死ぬ。そのほとんどはいくさと関係のない、善良な市民や子供たちだ!」
雅楽「そんなバカな・・・」
小石川喜一「バカなんだよ」
雅楽「はあ?」
小石川喜一「人間ってのはさ、バカなんだよ。 もちろん頭ではみんなわかっているんだ。いくさなんかじゃ、なんにも解決しない」
小石川喜一「暴力で国を支配したって、誰も喜ばない。喜ばないどころか、たくさんの人が死んで、たくさんの人が悲しい思いをするって」
雅楽「わかっているのなら、なぜそんなおおいくさをする!?」
小石川喜一「まあそこが人間の未熟さ、なんだよね~」
雅楽「はあ!?」
小石川喜一「たぶんこの先の未来では、世界のあちこちで大きないくさが繰り広げられる。なんかそんな気ぃ~するんだよね」
雅楽「じゃあなにか?大きないくさで互いに争ったあげく、その巨大なエネルギーの武器でもって、人類は滅びる!お前はそう言うのか!?」
小石川喜一「いや、そうはならない!」
雅楽「ならないのか!?」
小石川喜一「いや、ごめん、これはオレの願望!」
雅楽「なんだよ願望って!」
小石川喜一「たぶん・・・。 未来の世界では、なにか恐ろしい、人類にとっての強敵が現れると思うんだ」
雅楽「強敵だあ!?」
小石川喜一「うん。 それが宇宙人なのか、ウィルスなのかは、わからないけど」
小石川喜一「とにかくそこで人類は気付くんだよ。人間同士が争うなんて意味がない。みんなで協力して、巨大な敵を倒さなきゃならないって」
雅楽「ほお~」
小石川喜一「和夢ちゃん!」
雅楽「和夢ちゃんって! お前らいつの間にそんなに親しくなったんだよ!」
小石川喜一「人間の心は、未熟だ・・・」
和夢「えっ?」
小石川喜一「今の時代、人間も、その感情も未熟な状態なんだと思う。たとえここで君を逃がしても、君を利用しようとする人間が必ず出て来る」
小石川喜一「君はこの時代にいてはいけない人間なんだ」
和夢「えっ?」
雅楽「よし、ここは私がひとおもいに・・・」
小石川喜一「違う!!!」
雅楽「違うんか~い!?」
小石川喜一「この先の未来で、君の力が必要になる時代がくる。たぶんその時代になれば、人の心も成熟しているはずだ」
小石川喜一「みんなが成熟した感情を持ち、互いにリスペクトしあっている。私利私欲で動く人間なんて一人もいない」
小石川喜一「そういう理想的な世界が、できあがっているはずなんだ!そんな時代がきっとくる!約束する!!!」
和夢「約・・・束?」
小石川喜一「ああ、必ず!」
和夢「約束・・・」
小石川喜一「だから君には、その時まで待っていてほしい!」
和夢「待つって・・・どうやって?」
小石川喜一「雅楽! お前、冬眠の術が使えたよな?」
雅楽「いかにも」
小石川喜一「二百年! 今は西暦1822年だから、今から二百年後の2022年までの二百年間、彼女を冬眠させておくことはできるか?」
雅楽「やってやれないことはないとは思うけど」
小石川喜一「和夢ちゃん!二百年後の未来は、君を悲しませるような陰謀や、足の引っ張り合いのない楽しい世界になっていると約束する!」
和夢「約束・・・」
小石川喜一「だから信じて待っていて欲しい!」
和夢「・・・わかりました」
小石川喜一「頼む、雅楽!」
雅楽「乙女ども 乙女さびすも 唐玉を 袂に巻きて 乙女さびすも」
〇渋谷駅前
平社員「課長を貶められるんならオレ、なんだって差し出しますよ!」
平社員「一番大切なもの? じゃあ、ウチの奥さん! 妻をくれてやります」
和夢「そうですか。わかりました」
和夢「がんちゅうこしん、はちぐうはつき、ごようごしん、おんみょうにしょうげんしん。害気をゆずり払いし、四柱神を鎮護し、」
和夢「安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る~」
和夢「・・・嘘つき」
あちゃ〜200年経っても人間の本質は変わらない事を和夢ちゃんは身をもって体験しちゃったんですね。喜一さんも「人間の欲望にはキリがない」ってわかってたのに「未来人の心は成熟してる」って期待しすぎ〜。ただ、欲望は発展にも繋がるから、良い方に持って行けると信じてたのかな。そして喜一さんは、200年前には気づけなかった何かを和夢ちゃんに悟って欲しかった?なぁ〜んて色々考えてしまいました♪
和夢ちゃんは、200年前の人だったんですね。
複雑な対決になってきましたね。
続きが楽しみです!