鎖女の話をするな

鳥谷綾斗🎩🦉(たまに風花ユク❄️)

第10話/鎖女の話をするな(脚本)

鎖女の話をするな

鳥谷綾斗🎩🦉(たまに風花ユク❄️)

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〇黒
莉々子「ここは・・・どこ?」
莉々子「真っ暗で何も見えない・・・」
莉々子「あたし、寝転がってるの・・・?」
莉々子「ユウナと、柏木先輩は・・・?」
莉々子「二人とも、どこ──」
莉々子「!?」
莉々子「鎖女っ、どうして・・・!?」
×××「・・・ハァ──・・・」
  ・・・ジャラッ・・・
  鎖女が、近づいてくる
  真っ暗闇なのに、鎖女の姿だけハッキリ見えた。
莉々子「嫌だ、来ないで」
莉々子((逃げなきゃ!))
莉々子「・・・体が動かない!?」
莉々子((標本みたいに磔にされてる感じ・・・  嘘でしょ嫌だ))
莉々子「来ないで来ないで来ないでぇ!!」
  錆びた金属の臭いが近づてくる。
  鎖女があたしの体にまたがって、顔を寄せてきた。
  ジャラ、と垂れ下がる鎖が、あたしの額に触れた。
×××「・・・やめろ・・・」
×××「・・・やぁ、めぇ、ろぉ・・・!!」
莉々子「やめたよ!!」
莉々子「もうあたしは、鎖女の話なんてやめた!! 一生しない!!」
莉々子「なのに、なんで!!」
  ガッ!!
  鎖女の両手があたしの頭をつかむ。
  鎖女があたしの頭に爪を立てて、
  ギリッ・・・と掻きむしる。
  ブチッ、と髪ゴムが切れた。
  まとめ髪が肩に落ちる。
莉々子「痛い!! やめて離して!!」
  鎖女の両手があたしの頬を挟む。
  鎖が巻かれ、枯れ枝のように痩せこけた腕。
  体温なんかなかった。
  暗闇の中で、毛虫に這われたような感覚・・・
莉々子「いやぁああ!! 助けて、先輩!!」
  鎖女の顔面が近づいてくる。
  長い前髪が流れ、その全貌が露わになる。
  そしてあたしは、小さな誤解に気づいた。
莉々子「ああ・・・そうだったんだ」
莉々子「鎖女は、【体の外部】に鎖が巻きついているんじゃない」
莉々子「【体の内部】から鎖が出ているんだ・・・」
  鎖女の、まっくろな眼窩から鎖が飛び出している。
  鼻の穴から、耳から、そして口から、
  いくつもの鎖が出ている──
莉々子「あ・・・あぁ・・・」
  よせばいいのに、あたしは口をあんぐりと開けてしまった。
  鎖女の口から出た鎖が、あたしの口に入り込む。
莉々子「んぐぅ!!」
  舌に冷たいものが触れたかと思うと、
  一気に口内が鎖で満たされた。
  金属臭が鼻をつく。
  いやこれは血? 血の臭い?
  ・・・あたしの血!!
×××「・・・やめろ、やめろ・・・」
×××「おまえのせいでぇ・・・!!」
  鎖が喉の奥を突き、ゆっくりと食道に入り込む。
  えずく間もなく、目と鼻から体液が出る。
  ・・・ジャラッ・・・
  次は耳。
  耳かきの棒がゆっくりと入ってくるような、ゾワゾワとした悪寒。
  次は鼻。
  もう呼吸なんてできない。
  そして、
  鎖女の空っぽの眼窩から、鎖が伸びてくる。
  それは、あたしの両目を目掛けて──
  ブチュッ
  眼球が押し潰される感触が、した。

〇流れる血
  来るよ 来る来る 鎖女
  じゃらり 口から奏でて
  目に鎖 耳に鎖 手にも足にも
  話をすれば おまえの元に鎖女

〇鏡のある廊下
莉々子「痛い・・・痛いよ」
莉々子「体中が痛い・・・!!」
莉々子「ここ、学校の廊下・・・だよね」
莉々子「あたし、どうなっちゃったの・・・?」
莉々子「なんでさっきから・・・」
莉々子「鎖の音がするの・・・?」
  ジャラッ、ジャラッ
  耳元で、鎖が擦れ合う、あの金属音がする。
ユウナ「莉々子ー! どこにいるのー?」
  空き教室からユウナが出てきた。
  あたしを探してる。
莉々子「ユウナ!!」
  名前を呼ぼうとしたけど、
  声が出なかった。
ユウナ「きゃああああ!!」
  こっちを向いたユウナが悲鳴を上げる。
莉々子「どうしたのユウナ!」
莉々子「なんであたしの顔を見て叫ぶの!?」
ユウナ「やだ! 来るな来るな!!」
  ユウナが逃げていく。
  何が何だか分からない。
  ズキッ
  頭に強い痛みが走った。
  目も痛くて開けられない。
  鼻も口も痛くて、呼吸すらつらい。
  体中が・・・重い
  まるで──
  何かが、巻きついたみたいに
  廊下奥の姿見を見て、あたしの息が止まった。

〇鏡のある廊下
莉々子「鎖女・・・!?」
  え、どういうこと、なんで鏡の中に鎖女がいるの、あたしが映るはずなのに、どうして鎖だらけの真っ赤な女が、なんでなんでどうし
莉々子「あたしが・・・鎖女・・・?」
莉々子「!?」
柏木「鎖女! まだいたのか!!」
莉々子「柏木先輩!!」
莉々子「違う、あたしです莉々子です!! 鎖女じゃない──」
莉々子「ギャアアアアアア!!」
莉々子「これ・・・先輩の浄化の水!」
莉々子「いやっ、体が溶ける! 溶ける!!」
  浄化の水は硫酸のように肌を焼き、煙を立てた。
  地面に倒れると、叩きつけられるような金属音がした。
  あたしの腕! 足! 胴体!
  体中に巻きついた鎖が鳴る!
  手のひらで顔を覆う・・・
  目と鼻と口から鎖が生えている・・・
  あたしは、バケモノになっていた。
  鎖女の話をすると、
  鎖女がやってきて、
  恐ろしい目に遭う。
  『恐ろしい目』って
  鎖女になることだったんだ・・・

〇鏡のある廊下
ユウナ「あの・・・さっきの鎖女は、浄化されたんですか?」
柏木「ああ・・・」
ユウナ「莉々子はどこに行ったんでしょう・・・」
ユウナ「それに、莉々子のアカウントは消したのに、 どうして鎖女が・・・」
  そうだよ。どうして?
ユウナ「ああっ! 見てください、先輩!」
ユウナ「莉々子の鎖女の話のツイート、 スクショを撮られて拡散されてる!!」
柏木「なんだと!?」
柏木「こんなことで『鎖女の話を広めた』に該当するのか・・・!?」
  うわぁ・・・何それ
  まるでデジタルタトゥーじゃないですか・・・
  過去の不謹慎な発言を、
  何度も掘り起こされるってやつ・・・
  一度犯したあやまちは、
  決して消えない・・・ってこと?
  あはは、何それ
  もう笑うしかないじゃん・・・
柏木「とりあえず、スクショを拡散したアカウントに削除要求したが・・・」
ユウナ「これでもう鎖女は現れませんかね? 莉々子もすぐ見つかりますか?」
柏木「それは・・・」
  柏木先輩が、鎖女(あたし)が消えた場所を見つめる。
柏木「もう戻ってくるな、鎖女」
柏木「いい加減つらいだろう・・・」
莉々子「そうですね、先輩・・・つらいです」
莉々子「突き刺されたみたいに、全身が痛いです」
莉々子「体中に鎖が食い込んで、苦しい」
莉々子「内臓が締めつけられて、吐きそう・・・」
莉々子「死んだ方が・・・マシだよこんなの」
莉々子「死んじゃうのは嫌だけど、 パパやママや、ユウナや先輩と別れるのは嫌だけど」
莉々子「この痛いのが終わるんなら・・・」
莉々子「それに・・・最期に二人に会えた」
莉々子「それだけで、もう充分だよ・・・」
  あたしは力を抜いて、鎖が邪魔だけど目を閉じた──
莉々子「え・・・あれ?」
莉々子「あたし・・・消えてない──」
莉々子「痛い!!」
莉々子「痛い痛い!! 鎖が巻きついてる!!」
莉々子「何なのこれ! あたし浄化されて・・・死ぬんじゃないの!?」
柏木「鎖女、おそらく当分は消えない」
柏木「いや、『消えられない』んだ」
ユウナ「どういうことですか!?」
柏木「何度祓っても鎖女がすぐに戻ってきたのは、」
柏木「『戻らされている』、からだ」
  ──え!?
柏木「幽霊、妖怪、いわゆる怪異の類は、 人々が意識をしなければ存在できない」
柏木「つまり逆に言えば、 人々が意識している限り、 ──決して消えないということだ」
柏木「人々の意識に鎖のように縛られて、 現世に留めさせられる」
  ・・・それって・・・
柏木「救われないんだ、鎖女は。 噂が消えない限り、永遠にさまよう」
柏木「鎖女本人がどんなに苦しくても、 どんなに消えたいと願っても、」
柏木「何度でも復活させられて、 永遠に地獄の苦痛を味わう──」
ユウナ「そんな・・・」
ユウナ「早く莉々子を探さないと!」
柏木「ああ!」
  二人が、あたしを探しに走り去っていく──
莉々子「待って! 行かないで!!」
莉々子「痛いよぉ!!」
  ジャラジャラジャラジャラ!!
  口から鎖が勢いよく出てきて、
  あたしの体に巻きついた!
  ギュゥウウウウと鎖が強く強く縊り殺されそうなほど強く縛りつく!!

〇SNSの画面
  耳の奥で、いろんな声が。
  頭の隅で、いろんな字が。
???「鎖女って知ってる?」
???「知ってる、SNSで流れてきたー」
???「有名人や企業の公式アカのリプ欄に貼られた怪談だよね」
???「スゲーくだらねー都市伝説だよな」
???「話をしちゃダメなんて、ありがちよね」
???「恐ろしい目って、何?(笑)」
???「つまんない怪談、ちっとも怖くない」
???「鎖女」
???「鎖女」
???「鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女」
???「鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女鎖女」
莉々子「やめて・・・」
莉々子「みんなが鎖女の話を忘れない限り、」
莉々子「あたしはずっとこのままなの?」
莉々子「あたしが広めた・・・鎖女の話を」
  やめて
  やめてやめてやめて
  やめろ!!!!!!!!!!!!!!

コメント

  • 今までの恐怖感が圧縮されて詰まった最終話ですね。これまでの謎と恐ろしさを全て回収。凄まじいラストに震えそうになりました。

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