剣か?弦か?(2)(脚本)
〇荒廃した市街地
『去る日』
バロン「異人の血を宿し貧民窟で過酷な運命を強いられながらも健気に生きる」
バロン「たとえそれが危うい道と分かっていながらも突き進まざるを得ない」
バロン「そんな純度100パーセントの」
バロン「ヒロインの中のヒロイン」
バロン「でてこいや!」
バロン「・・・」
バロン「異人の血を宿し貧民窟で過酷な運命を強いられながらも健気に生きる」
バロン「たとえそれが危うい道と分かっていながらも突き進まざるを得ない」
バロン「そんな純度100パーセントの」
バロン「ヒロインの中のヒロイン」
バロン「でてこいや!」
バロン「・・・」
同じシーンが繰り返されておりますが入力ミスではありません
バロン「異人の血を宿し貧民窟で過酷な運命を強いられながらも健気に生きる」
バロン「たとえそれが危うい道と分かっていながらも突き進まざるを得ない」
バロン「そんな純度100パーセントの」
ヒナ「なによもうウルサイわね!100パーセント100パーセントって!」
ヒナ「あたまオカシイんじゃないの?」
バロン「そろそろ配給の時間だぞ」
ヒナ「よばれなくても、勝手にとりにいくわよ!アンタよりもここでの生活ながいんだから」
バロン「でもよ、真昼間ずっとそうやって壁の間に挟まって暮らすのは如何なもんかと思うぜ」
バロン「虫じゃねえんだからよ」
ヒナ「雨の日は御堂組にいってるわ」
バロン「壁の間と組事務所での生活か。どんな人生歩んでんだお前」
ヒナ「大きなお世話よ」
ヒナ「こないだ、ちょっと変態オヤジからたすけだしたからって父親面しないでよね」
ヒナ「あんなのなれてんだから」
ヒナ「男なんてキ○○○けりあげりゃ一撃で」
バロン「まあ、元気そうで何よりだ」
バロン「配給取り行くぞ」
ヒナ「えらそーに・・・」
〇荒れた小屋
『去る日』
お蝶親分「そりゃあまあ、ウチとしては銭の種になるんなら何でもいいけどさ」
お蝶親分「ヒナに楽器なんて出来るとは思えないね」
バロン「まあ一応教えてはみるつもりだ」
バロン「遊女に身をやつすよりはマシだろう」
お蝶親分「道化風情が遊女を馬鹿にすんじゃないよ」
お蝶親分「宵闇の住人にだって、誇りってもんがあるのさ」
バロン「当然だ。ヒナが進んでその道を望むなら」
バロン「だけどよ、子供にはもっと色んな道があるってのを教えてやりたいんだ」
バロン「頭ん中で考えるのは自由じゃねえか」
バロン「頭で考えたことが体を通して動くんなら、せめて楽しいことばかり考えられるようになればいいんじゃねえかってな」
バロン「辛い人生歩んで来たなら尚更だ」
お蝶親分「・・・」
〇簡素な部屋
ヒナ「・・・」
ヒナ「えらそーに」
〇荒廃した市街地
『去る日』
ヒナ「どおりゃあああああ!」
バロン「待てこらあああああ!」
ヒナ「さわんな!すけべい!けいさつよぶぞ!」
ヒナ「たすけてー!たすけてー!おーそーわーれーるー!」
オイサン「おう二人とも。今日も元気いいな」
バロン「全く、その手癖の悪さ、どうにかなんねえのか」
ヒナ「アンタ、わたしのおとうさんになりたいんでしょ」
ヒナ「だったらお小遣い頂戴よ」
ヒナ「ねえーん。パパーん。うっふーん」
蓬莱合唱団「おう、そいつ『お父さん』の意味間違って覚えてるぜ。気をつけな」
バロン「だから俺は親父じゃねえ。仲間だ」
ヒナ「そうやってじんちくむがいをよそおってちかづきこのあおいかじつをむさぼるきなんでしょうけどそーはいかないわよ」
ヒナ「わたしに手をだしたら、お蝶親分がただじゃおかないんだからね!」
ヒナ「なにせわたしは金の卵らしいんだから」
バロン「それ、どういう意味か分かってるのか?」
ヒナ「知らなーい」
〇川沿いの原っぱ
バロン「悪くない」
ヒナ「うそつけ!」
バロン「最初は誰もそんな音しか出せないもんだ」
バロン「根気よく練習すればきっと・・・」
ヒナ「わたし、こっちのが好きだなー」
ヒナ「ヘイへーイ!かかってこーい!」
ヒナ「おりゃああああああ!」
バロン(いかん、このままじゃ猿になる)
バロン(まあ、体を動かすのは好きみたいだな)
〇廃倉庫
バロン「ハッ!」
バロン「ハッ!」
ヒナ「すごい。それもおどりなの?」
バロン「ノイエタンツと呼びたまえ」
バロン「心のおもむくままに体を動かせば、それが踊りになる」
バロン「やってみるか?」
ヒナ「お、おう。やってみるからあっちいけ」
ヒナ「のぞいたら、お蝶親分に」
バロン「はいはい」
バロン「ただし、これだって自分の望むように踊るには訓練が必要だ」
バロン「自由にやるってのは、そういうこった」
ヒナ「えらそーに」
ヒナ「はっ!」
ヒナ「ちがう・・・」
ヒナ「よっ!」
ヒナ「かっこわるい・・・」
バロン「とりあえず、笑顔からだな」
ヒナ「お蝶おやぶーーーーん!」
〇廃倉庫
『去る日』
ヒナ「いち、に、さん!」
ヒナ「1、2、3!」
ヒナ「ワン、ツー、スリー!」
ヒナ「どんなもんでえ!べらぼうめ!」
バロン「踊りは上手くなったが口は悪くなったな」
ヒナ「父ちゃんの喋り方がうつったんじゃねーか」
バロン「父ちゃんじゃなくて」
ヒナ「へいへいバロンバロンバロンバロンバロン」
バロン「人の芸名を雑に扱うな」
バロン「まあ、それだけ踊れりゃ夜の街でも身を売らずにやっていけるだろうよ」
バロン「それじゃあ、いよいよ逆襲だぜ。純度100パーセントのヒロイン君」
ヒナ「へ?」
バロン「その青い目と金色の髪のおかげで、今お前は誰よりも目立ててる」
バロン「舞台の上じゃ、目立てるってことは稼げるってこった」
バロン「てめえの姿を笑った連中から、今度はどんどん金を巻き上げてやれ」
バロン「その踊りこそが、この世界に対するお前の逆襲なんだ!」
ヒナ「踊りこそが・・・復讐」
バロン「逆襲だ」
バロン「復讐っていうと何か暗いじゃねえか・・・」
バロン「Revengeってヤツだな」
ヒナ「そうか!父ちゃん、オイラ燃えてきたぜ!」
ヒナ「がるるるるるる!」
バロン「お、おう。ほどほど冷静にな」
ヒナ「あとあれだ、バイオリンの方も上達したぜ」
ヒナ「せっかく自分専用のヤツこさえてくれたんだからさ」
ヒナ「いくぜい。耳の穴かっぽじってよく聴きやがれ」
バロン(またチューリップ・・・)
バロン(まあ、ボチボチでいいか)
ヒナ「・・・」
義孝「ど、どうだ?」
ヒナ「チューリップばっかり上達してもしょうがねえんだけど」
義孝「すまんな。今の所はこれくらいしか思い出せん」
ヒナ「そっか。まあ、ボチボチな・・・」
義孝「・・・」
義孝「て、帝都節!」
ヒナ「え?」
義孝「あの曲なら出来るかも・・・いや思い出すやも知れん」
ヒナ「意外と難しいぞあれ。テンポ早いし」
義孝「ちょっと歌ってみてくれ」
ヒナ「・・・」
〇黒
ヒナ「帝都よいとこ凄いとこ♪一度住んだら帰れなーい♪」
義孝「早い早い早い早い!」
〇廃倉庫
義孝「そんな早い歌だったか?」
ヒナ「現代のアレンジってのがあるんだよ」
義孝「出来ればアレンジなしで頼む」
ヒナ「帝都よいとこ凄いとこ♪一度住んだら帰れない♪」
義孝「す、すまん。もうちょっと元気よく頼む」
ヒナ「帝都よいとこ凄いとこ♪一度住んだら帰れない♪」
義孝「もうちょっとゆっくり頼む」
ヒナ「ていとよいとこすごいとこ♪いちどすんだらかえれない♪」
義孝「凄いとこ~と一度住んだらの間をもう少しはっきりと」
ヒナ「うるせえなもう!」
ヒナ「注文が細かいんだよ!ネチネチネチネチ!憲兵かてめえ!」
義孝「え?」
ヒナ「・・・チッ、しゃあねえな。マンキンでいくぜ」
ヒナ「しっかり音、取りやがれ」
義孝「お、おう!」
〇川沿いの原っぱ
〇荒廃した市街地
〇路面電車
〇ファンタジーの学園
〇華やかな裏庭
〇廃倉庫
ヒナ「よし!今日はここまで!」
ヒナ「まあ、ざっとこんなもんかな」
義孝「疲れた・・・」
ヒナ「そりゃこっちの台詞だ。踊りにくいったらありゃしねえ」
義孝「お前が勝手に踊ったんだろう」
ヒナ「しょうがねえだろ。体が勝手に動いちまったんだから」
ヒナ「あ!」
義孝「何だ?」
ヒナ「そっか。これが・・・自由」
義孝「・・・?」
ヒナ「やっぱバロンはバロンだな」
ヒナ「教えてくれて、ありがとよ」
義孝「そうか」
義孝「ならば良かった」
これもまた、後に聞いた話である。
バロン義孝とヒナ。
二人が心から笑い合ったのは、それが最初で最後となった。