異世界でハーレム作るつもりだったのにゴーレム作ることになった

maru_tnm

第2話:『チェリゴの占星医術師』(脚本)

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〇大きな木のある校舎
  校門を出ると、雨が降り始めた。
  けっこう降りが激しい。
  家を出るとき迷ったけど、折りたたみ傘、持ってきてよかった。
カナ「〈すっぽかされたであるよ〉」
  バス停に向かって歩きながら、ナギちゃんにラインする。
ナギ「〈まじ? ありえん〉」
  秒でレスついた。
ナギ「〈気を取り直して、なんか食べ行く?〉」
ナギ「〈同人誌の相談しようぜ〉」
カナ「〈今どこ?〉」
ナギ「〈駅前の本屋。新刊物色中〉」
ナギ「〈『チェリ占』八巻、大量に平積みされてるよ〉」
  うん、そうだろうな。
カナ「〈すっごく行きたいけど、気持ち切り替えて、仕切り直すよ〉」
カナ「〈雨降ってきたし、バスで帰る〉」
ナギ「〈心得た。気をつけて帰られよ〉」
カナ「〈絶対に、ネタバレとか、なしな〉」
ナギ「〈そんな無粋なこと、しねーよ〉」
  ユウト先輩にすっぽかされたのはちょっとガッカリだったけど、そこまで腹は立ってない。
  ただ、不思議だった。
  アニ同の集まりで、約束の時間に遅れたりしたことないのに。
カナ「〈会室にいます。今日、来ますよね?〉」
  さっき送ったライン、まだ既読ついてない。もうすぐ一時間になる。
  電源ずっと切ったままなのか。はたまた親戚にご不幸でもあったか。
カナ「〈ごめんなさい。今日は先に帰ります〉」
  ひとまずこれだけ送って、目を上げると、もうバスが来てるのが見えた。
  目標:距離三十メートル。
  どうする? 間に合うか?
  とりあえず、走った。
  幸い「乗降中」のサインはついたままだ。
  時間調整なのか、待っててくれるなんて珍しいな。
カナ「ありがとうございます!」
  カードリーダーにタッチすると、すぐにドアが閉まって出発した。

〇バスの中
  車内は私だけ。窓の外はさっきより暗く、雨も強まってる。
  
  なんか、無駄に疲れたな。
  こんなことなら最初からナギちゃんと一緒に帰ればよかった。
  今日は、結城幻都(ゆうきげんと)先生の『チェリゴの占星医術師(イアトロマテマティクス)』、待望の第八巻発売日なのに!
  『チェリ占(せん)』を知ったのは、第一巻が出た直後だ。
  小学五年生が読むにはいろいろアレな内容だったけど、従姉のユミちゃんが「すっごく面白いよ」って教えてくれたのがきっかけ。
  面白いを余裕で通り越し、人生を変える一冊になった。
  十六世紀のヨーロッパを舞台に繰り広げられる、権力と欲望と秘術の物語。
  主人公のペトルス・リプシウス様は、私の初恋にして、最愛の人だ。
  矢嶋ミウ先生の耽美的なイラストが尊すぎて、中学時代は、ほとんど寝る間も惜しんで模写に明け暮れた。
  自分でもヘタクソなのはわかってたけど、描かずにいられない。
  中二のとき、渋る両親を拝みたおし、誕生日プレゼントに買ってもらったのが、今も愛用するペンタブレット。
  でも、だんだんと矢嶋先生のイラストを真似するだけではもの足らなくなり、私が見たいペト様を描き始めた。
  自分でも驚くほど上達し始めたのは、このころからだ。
  ほどなく自作のイラストを投稿サイトに載せるようになった。
  まったく知らない人から「よかった」という反応をもらうと嬉しいし、もっともっと描きたくなる。
  自分が描いたイラストというのはわりとどうでもよかった。
  一番大きいのは、推しの尊い姿を少しでも多くの人と分かち合いたいという強烈な想いだった。

〇教室
  去年の春──
ナギ「これ、奥菜さんが描いてるの?」
  奇跡的に進学できた高校の入学三日目。
カナ「よし、今日も家帰って描くぞ!」
  と席を立った瞬間、
  一人のクラスメートが私の投稿イラストをスマホに写して、眼の前に突き出した。
カナ「えっ! ええ~!?」
  ナギちゃんとの最初の会話だ。
  このころまでに、私の描くイラストは、『チェリ占』オタの妄想をふんだんに盛り込んだものになっていた。
  一番の変化は、ずっとペト様しか描かないできたのに、他のキャラも描くようになったこと。
  このころレパートリーはかなり広がり、描いたことのない主要キャラはほとんどいなくなった。
  もちろん、本当に描きたいのはペト様だけだ。
  でも、ひとえにペト様の美しさ、凛凛しさ、尊さを引き立てることが目的で、
  そこへ魅力的なサブキャラたちを絡ませることに快感を覚えはじめた。
カナ「まさか! 何言ってるの! 知らないよ!」
  こんな絵を、学校の教室で予告なしにクラスメートから突きつけられても
  「はい、私の絵です!」なんて、そうやすやすと認めるわけにはいかない。
ナギ「隠さなくていいよ」
ナギ「けっこう前から奥菜さんの絵、見てるんだ」
ナギ「私、ファンなの!」
カナ「え、『チェリ占』の?」
ナギ「ううん、奥菜さんの」
  心臓が止まりそうになった。
カナ「ちょっと待って!」
カナ「呼吸できない!」
  中学では『チェリ占』のこともイラストのことも、あまりクラスメートに話さないようにしてた。
  今でこそ世間の認知度も上がったけど、私のまわりには当時、ファンはおろか、知ってる人も少なかったと思う。
  だから、面と向かって自分のファンだなんて言われたのは、本当にこれが初めてだった。
カナ「ええと、大河内さん、だっけ?」
ナギ「大河内凪。ナギでいいよ」
ナギ「私も、カナちゃんでいい?」
  そこから、私たちが打ち解けるのは早かった。
  ナギちゃんは、結城先生のラノベ原作でなく、雪森F先生のコミカライズ版が入口だったらしい。
  私はもちろんどちらも大好きだし、ゲーム版も好きだ。
  自称「全方位型オタ」ナギちゃんの影響で、私は少しずつ、いろんなジャンルの作品を教えてもらうようになった。
  逆に、ナギちゃんは私から絵を描くためのコツを聞いて練習し始めた。
ナギ「カナちゃん、一緒にアニ同入ろうよ!」
カナ「アニ同?」
ナギ「アニメーション同好会」
カナ「アニメかぁ」
  『チェリ占』がアニメ化されるというウワサは、ずいぶん前から耳にしていた。
  一説には、作中にたびたび登場する瀉血(しゃけつ)の場面がエロすぎて、地上波の企画が通らないらしい。
  どちらにしても、ペト様が動く姿を見たいという願望は、私の中にも芽生えていた。
  第3話:「星の徴のもとにある運命」に続く

次のエピソード:第3話:「星の徴のもとにある運命」

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