一発逆転

神社巡り

発見(脚本)

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〇競馬場の座席
前園裕子「行け──────────────っ!! 8-4-13!!」
  競馬場で小汚い格好で大声を張り上げる女性・・・私が初めて彼女を見た時、衝撃が走った・・・
  身なりを見ると、どうやらホームレスだ・・・
  私と同じ年頃の女性がこんなに落ちぶれている姿を見るとは、なんてショッキングな光景だろう・・・
  しかも彼女を良く見ると見た目は悪くは無い・・・おしゃれな格好で街を歩けば大抵の男達は振り返るくらいの容姿だった・・・
前園裕子「行けー!!そのまま!!そのまま!!」
  どんな理由があって彼女はここまで落ちぶれたのだろうか・・・?
  私は彼女の素性を知りたくなった・・・
前園裕子「あっ!・・・・・・・・・」
前園裕子「・・・・・・・・・・・・」
  何もかも失ったのか彼女は途方に暮れている・・・私は何気に彼女に声を掛けてみることにした・・・
井上かおり「ハ~イ!」
前園裕子「何だお前・・・」
前園裕子「金・・・金かせよ・・・!!」
  彼女は初めて会う人間に対し「金かせよ・・・」と言った・・・
  私は余りの衝撃に我を失った・・・
井上かおり「ハハハハハハ・・・」
  思った以上に凄い人間だ・・・
井上かおり「あなたはホームレス?」
前園裕子「悪いか・・・? 私は今晩から葉っぱを食べて過ごさなきゃならないんだ・・・だから金を貸せ・・・」
  葉っぱを食べる・・・?
  もしかして道端の雑草を食べるって事だろうか?
井上かおり「食べられるの・・・それ・・・?」
前園裕子「何だ・・・葉っぱの事か・・・? 食べられるか?じゃなく食べるんだよ!! じゃなきゃ死んじゃうだろ・・・」
  何という事だろう・・・
  彼女は生きる為に恥も外聞も無いのだ・・・
前園裕子「だから貸せよ・・・金・・・今度こそ当たる気がする・・・」
  何という事だろう・・・
  彼女は借りた金でもう一勝負する気だ・・・私はてっきり金を借りて今後を凌ぐのだと思っていた・・・
井上かおり「・・・・・・・・・」
前園裕子「そうだよなぁ・・・見ず知らずの人間に金なんか貸さないよなぁ・・・」
  驚きの回答だ・・・
  彼女は世間がそれほど甘くない事を知っていた・・・
前園裕子「じゃあ・・・私のパンツを買えよ・・・おっさんだった高く買い取ってくれるからさぁ・・・」
井上かおり「パ、パンツって・・・だったらオジサンに直接売ったら・・・?」
前園裕子「嫌だよ!! 気持ち悪い!! アンタだから売るんだ・・・」
  何て我儘な理屈だろう・・・
  衝撃的な事がありすぎて眩暈がする・・・
井上かおり「わ、わかったわ・・・」
  私は金を渡した・・・彼女がどうなるのか見たくなった・・・

〇競馬場の払い戻し機
前園裕子「良し!! 今回も大穴一点買いだ!!」
前園裕子「頼むぞぉー!!」
  私が彼女に与えたお金は瞬く間に消えた・・・パンツは受け取ったが正直迷惑だった・・・
前園裕子「アンタも私と同じ馬券を買ってみろ・・・儲けさせてやるよ・・・」
  かなり自信満々の様子だった・・・どんな根拠があるんだろうか・・・?
井上かおり「随分な自信ね・・・どういう理屈で選んだの?」
前園裕子「フフフフ・・・ 感だよ・・・私のセンサーがビビッときたのさ!!」
井上かおり「(この人・・・直感型のダメ人間だ・・・)」
井上かおり「貴女・・・勝率は!?」
前園裕子「20回に1回くらい当たるかな? 30回に1回か? いや、40回に1回?」
  彼女はちゃんとした分析すらしていない・・・思いのままつぎ込んで喜んだり悔しがったりするだけなんだろう・・・
  多分、当たった事は記憶に残しても外れた事は直ぐに忘れている・・・
井上かおり「ちゃんと馬体の仕上がりを見たり調教タイムを確認して選ばないと・・・」
前園裕子「バッキャヤロー!! そんなチマチマした買い方ができるかい!! 私はオッズの高い馬でドカーンと当てたいんだ!!」
前園裕子「私は一発逆転がしたいんだよ!! 私の夢は人生一発逆転!!」
井上かおり「す、凄い・・・」
  彼女は一発逆転と言っていながら、崖から転げ落ちるように人生をゴロゴロと転落している事に全く気が付いていない・・・
  今、ホームレスで落ちぶれていることが、何故なんだろうと過去を振り返えったりしないのだろうか?
井上かおり「そんなんじゃお金なんてスグに無くなっちゃうわよね・・・?」
前園裕子「ああ・・・だから今こんな生活をしている・・・」
前園裕子「けど、いつか当たると私は信じている!! 一発逆転で一気にセレブ生活だ!!」
前園裕子「しかも、それが今かも知れない・・・私を信じなさい・・・」
  何の根拠も無くこれだけ自信満々な人間を私は見たことがない・・・しかも私と同じ年頃の女の子だ・・・
  私は彼女が異世界の人間ではないかと疑った・・・

〇競馬場の座席
前園裕子「さあ、もう直ぐ出走の時間だぞ!!」
井上かおり「ところで・・・あなたこれが外れたらどうするの・・・?」
前園裕子「縁起でもない事を・・・外れる訳がないだろう・・・」
井上かおり「前のレースだって自身があったのでしょう?」
前園裕子「まあそうだが・・・その時はその時で何とかするさ・・・」
  まあ彼女ことだ、何とかするとは思うが・・・このままどこまで落ちぶれて行くのだろうか・・・?
井上かおり「私はもうお金は出さないわよ!!」
前園裕子「ああ・・・」
  申し訳ないが私は彼女が外れるのを望んでいた・・・これ以上落ちぶれて行く様をどこかで観察したかった・・・
前園裕子「さあ!出走だー!!」
  この彼女の事だ・・・これまでの生き方自体もかなり破天荒だったんだろう・・・
前園裕子「よし!行け───────────っ!! 6-3-7!!」
  私が思う常識では考えられない事を平然とやってきたに違いない・・・
前園裕子「行けー!!差せる!!差せる!!」
  これ以上のどん底人生を年頃の女の子がどう生きて行くのだろうか・・・?
前園裕子「そのまま!!そのまま!!」
前園裕子「あっ!・・・・・・・・・」
前園裕子「・・・・・・・・・・・・」
井上かおり「じゃあ・・・私は行くけど・・・またね・・・」
前園裕子「ちきしょう・・・」

〇古びた神社
  彼女の名前は前園裕子と言った・・・ホームレスになってから、この寂れた神社を根城にしているようだった・・・
井上かおり「ハ~イ!」
前園裕子「またお前か・・・良くここに居るのがわかったな・・・」
井上かおり「まあね・・・ それより良くこんな汚い所に居られるわね・・・」
前園裕子「大きなお世話だ・・・いずれ私はのし上がる!!」
井上かおり「どうやって・・・?」
前園裕子「一発逆転だ!! 昨日、なけなしの金でロト6を買った!!」
  なんと彼女は昨日の痛い目を全く学習できていなかった・・・
前園裕子「もう直ぐ私の元に大金が転がり込む!! そうなってからでは後の祭りだぞ!! 今すぐ私への態度を改めるのだ・・・」
井上かおり「ハハハハハハ・・・」
  末恐ろしい・・・彼女の根拠のない自信はいったい何処から来るのだろうか?
井上かおり「ところで今日はあなたに良い話を持ってきたわ・・・」
前園裕子「どんな儲け話だ!?」
井上かおり「違うわよ・・・働き口の話を持ってきたの・・・」
前園裕子「働き口・・・!? 断る!!」
前園裕子「私は何もしたくない!! ギャンブルをしながら面白おかしく生きていきたいんだ!!」
前園裕子「出来ればナメクジの様にウニョウニョしながら何も考えずに過ごしたい!! 私が何かするとすれば、それはギャンブルだけだ!!」
前園裕子「たとえ確実に玉の輿になれる話が来ようとも・・・そこまでの努力はしたくないし、その生活を維持する為に頑張るのも嫌だ!!」
  私は彼女の事を見誤っていた・・・一発逆転を狙っていたのは何もしたくないからだった・・・
  彼女の根底にあるのは、贅沢がしたい!!おしゃれがしたい!!では無い・・・
  死ぬまで何もせずに生きていたい!!だった・・・
  ギャンブルで大穴にデカく張るのも、それが大当たりしたら後は勝負をしなくても良いからだろう・・・
  その後は退屈な時にチマチマやってればいい・・・大金が転がり込めばお金の心配は無いのだから・・・
  彼女をそばに置いて観察しようとした私の目論見は見事に外れた・・・
井上かおり「凄い・・・想像以上の逸材だわ・・・」
井上かおり「わ、わかったわ・・・じゃあ、住む場所を提供するのはどう・・・?」
前園裕子「私は一銭も持っていないぞ・・・将来は金持ちだが・・・それにアンタに何のメリットがある!?」
井上かおり「実は私の知り合いのアパートの大家さんが困っててね・・・」
井上かおり「何年も空き部屋でずっと使われてない部屋があるそうなの 使わないと劣化して痛むし、誰かに暮らして貰いたいらしいのよ・・・」
前園裕子「事故物件か!? 事故物件っていうやつなのか!?」
井上かおり「実はそうなんだけど・・・あなたは気にしないでしょ?」
前園裕子「まあ・・・別に気にしないなぁ・・・それなら納得だ・・・」
井上かおり「そう!それは良かったわ! 今からでも行ける!?」
前園裕子「ああ・・・別に構わんが・・・」
  私は住処を用意して彼女を観察することにした・・・

〇古いアパート
前園裕子「ここで何があったかは聞かないが・・・いい雰囲気だなぁ・・・」
井上かおり「備え付けの家具なんかも使って良いそうよ・・・」
前園裕子「それ、事故にあった人物の残した物だろう・・・?」
井上かおり「そうだけど・・・あなた気にしないじゃない・・・」
前園裕子「まあ・・・気にしないけど・・・ ところで!! 家賃を払わないから出ていけと言うのは無いだろうな!?」
井上かおり「それは大丈夫よ・・・この契約書にだって書いてあるわ・・・読んでみたら?」
前園裕子「面倒だからいい・・・代わりに読んどいてくれ!!」
井上かおり「ハハハハハハ・・・相変わらず凄いわね・・・」
前園裕子「これでやっと風呂に入ることができる・・・」
井上かおり「なに!? お風呂にも入っていなかったの?」
前園裕子「当たり前だろう・・・寂れた神社にお風呂なんてない・・・」
井上かおり「そうだけど・・・街の銭湯に行くぐらいしてると思ってたわ・・・」
前園裕子「そんな金は無い!!」
井上かおり「だからちょっぴり臭かったのね・・・」
前園裕子「失礼な事は言うな!! ちゃんと毎日、河原で行水してるぞ!!」
井上かおり「行水って・・・河原で素っ裸になって水を浴びてるって事!?」
前園裕子「ああ・・・ちゃんと頭も、体だって洗っているぞ・・・」
井上かおり「よく・・・生きていられたわね・・・」
前園裕子「フフフフ・・・」
  彼女は誇らしげに笑っていた・・・今まで襲われずに済んでいた事がラッキーだったなんて思ってる様子は微塵も無かった・・・

〇アパートのダイニング
前園裕子「わぁっ・・・冷蔵庫に食い物が入ってる!!」
井上かおり「それは私からの餞別よ・・・中に入っているものは好きなだけ食べていいわ・・・」
前園裕子「ラッキー!!」
井上かおり「でも、生活は自分で何とかしなさいよ!!」
前園裕子「ああ・・・それは任せな!!」
  またしても根拠のない自信なのだろうか・・・?
  食べ物があったってお金を稼がなければ立ちい行かなくなってしまうのに・・・
前園裕子「電気も使って大丈夫なのか?」
井上かおり「ええ・・・使った分だけ来月に請求が来るけどね・・・」
前園裕子「じゃあ、テレビも見放題だな!!」
  何を言ってるんだろう・・・使った分の電気は来月に払わなければいけないと今言ったばかりなのに・・・
前園裕子「とりあえず酒でも飲もう!!」
井上かおり「えっ!昼間っから!?(しかもそれ買って置いたの私だし・・・)」
前園裕子「良いじゃないか・・・今日は脱ホームレスの記念日だ・・・」
前園裕子「ほら・・・こんなのも入ってたぞ・・・ 食え食え・・・」
井上かおり「い、いや・・・」
  彼女には感謝の気持ちや遠慮というものが一切なかった・・・
  まあ、それが彼女の持ち味なのだろうが・・・
前園裕子「さあ!今日はとことん飲むぞ!」
  彼女は散々、私に絡んだ挙句に酔いつぶれて眠ってしまった・・・

〇古いアパート
  暫く彼女の様子を観察していたが働こうという気配は全く見えなかった・・・
  どこからかお金を工面してきては競馬場に入り浸るそんな毎日の繰り返しだった・・・
  競馬場に出向く時には威勢が良いが、帰って来る頃には生気が無い・・・
  持っていたお金は全て外れ馬券に消えたのだろう・・・
  そろそろ行動パターンが読めてきた事もあって私は新たな燃料を投下することにした・・・
井上かおり「ハ~イ!」
前園裕子「何だまたお前か・・・」
井上かおり「何か今日は随分ギャルっぽい格好をしてるのね・・・?」
前園裕子「タンスに入ってたぞ・・・着ても良いんだろ?」
井上かおり「でも、それ故人のモノよ・・・」
前園裕子「私は気にしないぞ!!」
井上かおり「ああ・・・そうよね・・・」
井上かおり「ところであなたの部屋でこれを預かって欲しいの・・・」
前園裕子「なんだ・・・これは・・・?」
井上かおり「金の皿よ・・・時価数千万はする代物よ・・・」
前園裕子「な、なんだと!! なんでそんなものを・・・!!」
井上かおり「実はね・・・持ち主が言うには、この美術品が今怪盗に狙われているらしいの・・・」
井上かおり「あらゆる美術品をターゲットにする怪盗で一度狙った獲物は逃がさないらしいわ・・・」
井上かおり「厳重に保管しても警備を増やしても無駄みたいで・・・だったらこんな所にあるわけがないって所に隠そうって話になったのよ・・・」
前園裕子「それで・・・私の部屋・・・? わかった!!」
井上かおり「随分あっさり了承するのね・・・」
前園裕子「任せなさい!!」
井上かおり「くれぐれもお金に換えてどうこうしようなんて思わないでよね!?」
前園裕子「そ、そんな事するわけがないだろ・・・」
井上かおり「これを私に預けたのはマフィアのボスの奥様よ・・・無くなったら命を狙われるからね!!」
前園裕子「大丈夫・・・大丈夫・・・」
  その日、彼女は姿を消した・・・

〇競馬場の座席
  あの日から彼女の消息はつかめていない・・・競馬場に来ればバッタリ出くわす事があるかもと来てみたが彼女の姿は無かった・・・
前園裕子「は~い! やっぱりここにいらっしゃったのね・・・」
井上かおり「あっ!あなた・・・!!」
  競馬場になんて不釣り合いな格好での登場だろう・・・しかも今時そんなドレスをパーティー以外で着てる人なんていない・・・
井上かおり「どこ行ってたのよ!?」
前園裕子「ええ・・・ちょっと・・・ ところでこれお返ししますわ・・・」
前園裕子「それとこれは迷惑料ですわ・・・」
  何か話し方まで変わっている・・・彼女の身に何があったのだろう・・・?
井上かおり「こんなにどうしたのよ!?」
前園裕子「私にしたら、はした金ですわ・・・ それにあなたには散々世話になりましたからね・・・」
前園裕子「受け取って頂きますわ・・・」
  話し方から殺伐としていた彼女はここにはいない・・・心に大きなゆとりでも出来たかの様に内面から穏やかだ・・・
前園裕子「前にあなたをここで見た時に馬主さんじゃないかと思っていたんですよ・・・だったら競馬場に行ったら会えると思いまして・・・」
井上かおり「す、凄っ!!(最初から私の正体はお見通しだった訳・・・)」
  私は彼女が180度変わってしまった現場に立ち会わなかった事をひどく悔やんだ・・・
  あの欲にまみれた彼女がどんな風に変わっていったのか確認したかった・・・
井上かおり「ところであなたこれからどうするの?」
前園裕子「家も買ったし、もう何もしません・・・ 寝て暮らします・・・」
  何もしたくないから一発逆転を狙う!!
  彼女は宣言した通りにのし上がった・・・
  しかし直感で動く彼女の性格ではこのままの生活を維持できる筈がない・・・何かのはずみで転落の人生を再び辿るだろう・・・
  彼女への興味はまだまだ尽きることが無い・・・
  END

コメント

  • 前園裕子は変わり者だけれど行動パターンと理念が一定だから分かりやすい。むしろ、興味を持った相手の行動観察に飽き足らず積極的な関与を画策する井上かおりのほうがよっぽど変わり者で不気味です。彼女の背景を知りたくなりました。

  • ギャンブル依存症にホームレス。働きたくないから、大穴を狙うってよく聞くフレーズ。夢を追いかけると言えば、良く聞こえるものの、知らない間にどんなストーリーがあったのか知りたいです。

  • 見た目と内面にギャップがある人って、どうしても興味をひきますよね。自分のつけは自分で返しているところ、最終的には恩を忘れずにいるところ、なかなかな女性でした。

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