5話 別れ(脚本)
〇城壁
イナルナ「オルジェイはまだ見つからないのか!」
兵士1「は・・・ 探してはいるのですが」
イナルナ「女一人、いまだに首を取れないとは・・・ 何をやっているのか」
兵士1「導者でございますので、 協力者もいるのではと」
兵士1「バルハサの皇子が 同行しているでしょうし・・・」
イナルナ「・・・まあいい。 あの男と一緒ならばバルハサへ向かうはず」
イナルナ「リリから出て行くなら勝手にすればいい」
イナルナ「だが、あの女がリリに来るならば話は別だ」
イナルナ「領内の捜索は続けろ! 見つけたら殺せ!」
兵士1「はっ・・・誓って」
家臣「陛下。 サルカの姫君が到着なさいました!」
イナルナ「そうか、来たか!」
家臣「これだけ奥方様がいれば、 ご安泰でしょうな!」
イナルナ「そうだな。 いずれ我が血を受け継ぐ子もできよう」
イナルナ「導者の指輪の制作は、進んでいるか?」
家臣「はい、間もなくお見せできるかと・・・」
〇岩山
オルジェイ「・・・短い間だったが世話になったな」
村長「どうぞ、お気をつけて。 指輪はここでお預かりします、導者様」
村の女「導者様、旅のご安全を祈っております!」
老婆「落ち着きましたら、 またお立ち寄りくだされ」
オルジェイ「ありがとう。皆、息災で」
〇雪山
ウェンサ「ふもとに村がある。そこに入る」
オルジェイ「わかった」
オルジェイ(この山を降りればバルハサだ)
オルジェイ(リリと長らく敵対してきた国。 ウェンサの故郷・・・)
ウェンサ「蹄の音だ」
オルジェイ「ああ。単騎だな」
ウェンサ「オルジェイ、行けるか?」
ウェンサが剣の柄に手をかける。
オルジェイ「任せろ」
私も、ならって、剣に手をのばす。
オルジェイ(単騎の、追っ手・・・? どういうことだ?)
オルジェイ(だが、こちらは二人。 勝てる)
蹄の音が近づいてくる。
剣の柄を握る手に力を込めた時だった。
〇雪山
クトゥ「オルジェイ! 俺だ!」
〇雪山
オルジェイ「クトゥ!?」
クトゥが馬を止めて、降りる
オルジェイ「一人か?」
クトゥ「ああ、見てのとおりだ」
ウェンサ「よく、来れたな」
クトゥ「お前たちの足跡がなかったからな。 高山へ逃げたんだろうと予想した」
クトゥ「サルカかアルマタか迷ったが・・・」
クトゥ「サルカはリリと、 アルマタはバルハサとつながりが深い」
クトゥ「ウェンサといるなら、 アルマタだろうと思った」
クトゥ「このあたりは何度か来ているからな。 降りるならこのあたりだろうと待っていた」
ウェンサ「・・・たいした奴だ」
クトゥ「そりゃ、どうも」
クトゥ「オルジェイ、 リリについてどこまで知っている?」
オルジェイ「・・・イナルナが父上を殺して 王になったことは知っている」
クトゥ「そうか。お前が、バルハサの皇子と 通じた罪で、謀反者となっていることも?」
オルジェイ「・・・ああ」
クトゥ「なら、十分だ」
クトゥ「戻ったら、お前とウェンサは都を出て、 お前は、不貞を働いた謀反人」
クトゥ「王は、お前のことで憤慨して亡くなられ、宰相殿が王となっていた」
クトゥ「それで追ってきたんだが・・・ お前、バルハサに行くのか?」
オルジェイ「ああ。リリにはもう戻れない」
クトゥ「そうだな。戻ったら殺される」
クトゥ「あいつは、お前がリリの領土に来たら、 必ず見つけて殺すよう、触れを出している」
オルジェイ「そうか・・・」
クトゥ「だから、言ったんだよ。 あいつはやめとけって」
クトゥ「・・・ほら」
クトゥは懐に手を入れると、
小袋を投げてよこす。
ずっしりと重い。
中を開くと、宝石がぎっしりと
詰まっていた
クトゥ「自分のものをかき集めてきた。 どうしてもそれを渡したかったんだ」
オルジェイ「そんな、クトゥ・・・これは」
クトゥ「道中の足しにはなるだろう? 先立つものは金銭だ」
クトゥ「どうせ、もう、指輪はないんだろう?」
ウェンサ「村について早々、人助けに使った。 上の村に預けてある」
クトゥ「はは、やっぱりな!」
クトゥ「受け取ってくれ、オルジェイ。 俺は、もう、このくらいしかしてやれねえ」
オルジェイ「クトゥ・・・」
ウェンサ「オルジェイは、 お前と一緒になるべきだった」
クトゥ「はは、だよなあ。 ま、今となってはどうにもならねえが」
クトゥ「オルジェイ。 俺、さ」
クトゥ「お前のこと、ずっと好きだったよ」
クトゥ「きっと、俺なら、宰相よりは お前を大切にできた」
クトゥ「一人でこんなところに来るくらいなら、 もっと早く行動するべきだったな」
クトゥ「後悔しても、遅いけど」
ウェンサ「お前も来るか?」
クトゥ「いや。あんな国でも義理はある」
クトゥ「それに、導者の味方が 一人でもリリにいたほうがいいだろう?」
クトゥ「ウェンサ、オルジェイを頼む」
ウェンサ「任せろ。導者には恩義がある。 バルハサの者は、必ず恩義は返す」
クトゥ「だってさ」
クトゥ「んじゃ、オルジェイ。 息災でいろよ」
クトゥが馬にまたがる。
言いたいことだけ言って、
クトゥが言ってしまう。
〇雪山
オルジェイ「クトゥ・・・!」
クトゥ「なんだよ?」
オルジェイ「その・・・」
オルジェイ「ありがとう。これまで」
クトゥ「うん」
オルジェイ「それと・・・」
オルジェイ「ごめんなさい」
クトゥ「・・・なんで謝るんだよ」
オルジェイ「だって」
クトゥ「もう、過ぎたことだ。 じゃあな」
そう言うと、クトゥは振り返ることなく
馬を走らせる。
もう、クトゥと会うことはないだろう
私は、本当に何も気づかなかった・・・
〇御殿の廊下
イナルナとの結婚が決まった時、クトゥは
反対したが、私は耳を傾けなかった
あの時、クトゥの言葉に耳を傾けていたら
運命は大きく変わっていただろう
・・・もう、どうしようもできないけれど
〇雪山
オルジェイ「・・・・・・・・・・・・・・・」
涙を流したのは、いつ以来だろう?
私は導者だ。
泣きたいときは、いつも堪えてきたが
今は、堪えきれなかった
だが、留まることはできない。
オルジェイ(早く山を降りて バルハサに行かなくては)
私は拳で涙をぬぐう
ウェンサ「行くぞ」
オルジェイ「ああ」
足を踏み出したとたん、よろめく。
ウェンサが腕を取って、支えてくれる。
ウェンサ「大丈夫か?」
答えずに、その場で呼吸を繰り返す。
軽いめまいがする。
こんなことは、以前はなかったことだ。
それに、少し熱っぽい。
だるさも感じる。
オルジェイ(いろいろあったから、疲れているのだろう)
その時、私は、
月の物が遅れていることに思い至る。
オルジェイ(まさか・・・)
〇宮殿の部屋
イナルナとは頻繁に肌を合わせていた。
〇雪山
オルジェイ(でも、こんな時に・・・)
ウェンサ「オルジェイ、大丈夫か? 休むか?」
オルジェイ「いや、平気だ。行こう」
〇空
今は考えても仕方がない。
私ができることは、前に進むだけだ・・・
さすが澤村さまの作品というところで、一気に読んでしまいました!!
それぞれのキャラクターの続きが、とても気になりますーー!!!!
クトゥの男気が光る回ですね。爽快に、かつ様々な思いを押し殺し飲み込んだ様はカッコイイですね!そんな中のまさかのラスト、逃避行への影響が気になります