ようこそ僕の村へ

白井涼子

エピソード12(脚本)

ようこそ僕の村へ

白井涼子

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〇広い和室
桃井繁蔵「リリーしゃん、わしには孫は一人だけじゃ。太郎だけじゃ。 ルミトなんておらんのじゃ」
桃井太郎「爺ちゃん!」
田中次郎「繁爺!」
奥谷百合「どういう事」
桃井太郎「・・・・・・」
桃井繁蔵「ルミトは太郎のアクセルネームじゃ」
奥谷百合「はい?」
田中次郎「ハンドルネームだよ!」
奥谷百合「ルミト君はいない?」
桃井太郎「すみません!」
桃井繁蔵「あんたの事がそれだけ好きだって事じゃ。 嘘ついてでも振り向いてほしかったんじゃ」
桃井太郎「本当すみません、言い訳なんてできません。 ごめんなさい」
奥谷百合「好きだったら何してもいいの」
田中次郎「あんただって楽しんでたんじゃないのか、ネットの中なんだし、もしかしたら嘘かもとか少しくらいは思ったんじゃないのか?」
奥谷百合「そんな事!」
奥谷百合「・・・・・・」
  部屋を飛び出す百合。
桃井太郎「リリーさん!!」

〇スナック
桃井太郎「うわーん」
運野遊造「バレた?」
田中次郎「繁爺が我慢できず暴走した」
桃井太郎「もう終わりだー、きっと呆れて帰っちゃう。 せっかくの祭りも台無しだ」
運野遊造「今は祭りより二人の事を考えろ」
田中次郎「そうだ、ここからどうやって仲直りするかだ」
桃井太郎「そんな事言われたって」
桃井繁蔵「じたばたしても始まらん。 ここはどんと構えてりゃ良いんじゃ」
桃井太郎「もう、爺ちゃんは黙っててよー」
  ブー・・・ブー・・・
桃井太郎「リリーさんからだ、ルミト宛の」
  『ルミト君、今まで楽しかった。ありがとう、さようなら』
桃井太郎「ありがとう、さようなら・・・?」
「・・・・・・」
マリア「リリーちゃん帰っちゃうの?」
桃井繁蔵「こりゃー大変じゃ、どんと構えてる場合じゃないぞ」
桃井太郎「どうしよう、完全に嫌われた」
運野遊造「そんなことより祭はどうすんだよ」
田中次郎「遊造さんも繁爺も言ってる事めちゃくちゃだぞ」
桃井太郎「止めなきゃ、とにかくリリーさんが帰るのを止めなくちゃ」
田中次郎「止めるったってどうやって」
桃井太郎「遊造さんのタクシーはここにある。 バスは? 次のバスの時間は?」
  壁の時計を見る田中。
  時計の針は11時を指している。
田中次郎「この時間だともう温泉郷は出てるな」
桃井太郎「止めてよ、連絡して止めてよ」
田中次郎「無茶なこと言うなよ、運転中は携帯は見ないし、無線は会社行かないと使えないし、その頃にはもう駅に着いてる」
桃井太郎「駅・・・じゃあ駅員の柴さんに連絡だ。 乗車拒否だ、いやまどろっこしい、電車止めちゃえ!」
運野遊造「タロちゃん、ちょっと落ち着けって」
桃井太郎「これが落ち着いていられますか」
桃井繁蔵「よし、わしが線路に何か置いてこよう」
桃井太郎「爺ちゃん、ありがとう」
田中次郎「ありがとうじゃねーよ」
桃井太郎「じゃあ、どうしろって言うんですか!」
桃井繁蔵「そうか、わしが置けるくらいの物じゃ、簡単にどかせられるか」
田中次郎「そういう問題じゃねーって」
桃井太郎「爺ちゃん」
桃井繁蔵「分かった、可愛い孫のためじゃ、線路の上で昼寝でもしてくるか」
田中次郎「死んじゃうよー」
  外へ出て行こうとする繁蔵と桃井を、田中と運野が必死に止める。
桃井繁蔵「えーい、放せ、放さんか」

〇狭い裏通り
桃井太郎「止めないでくださいよ!」
田中次郎「止めるに決まってるだろ!」
マリア「あー、リリーちゃん」
「えっ?」

〇狭い裏通り
桃井繁蔵「おー、リリーしゃん。 やっぱりどんと構えてれば良かったんじゃ」
奥谷百合「頭に来た。もう帰ろうと思った。 でも途中で投げ出すのは好きじゃない」
桃井太郎「リリーさん・・・」
奥谷百合「祭は成功させるわよ」
奥谷百合「私のフォロワーにももう宣伝してるの。 引き返せないの」

〇スナック
桃井太郎「本当にすみませんでした」
  ソファに座る百合の前で、桃井が土下座をする。
「・・・でした」

〇スナック
奥谷百合「・・・・・・」
桃井繁蔵「ほれ景気付けに一杯」
  繁蔵が百合にビールを注ぐと、百合はそれを一気に飲み干す。
田中次郎「おーーー」
  百合が田中に向かって指を指す。
奥谷百合「あなたの言ってたこと、間違ってはないわ。どこかで思ってた、本当はルミト君なんていないんじゃないかって」
田中次郎「ほらな、言ったろ」
奥谷百合「でもね、楽しかったの。 だから嘘でも良かったの。なのに・・・」
  百合は繁蔵からビールを奪い取ると、勢いよく注ぎ飲み、一息つく。
奥谷百合「何でバラすかなー」
桃井繁蔵「そりゃ、太郎に振り向いて貰うためじゃ」
奥谷百合「私の幸せな時間返してよ」
田中次郎「これからも続けるっていうのは・・・?」
奥谷百合「はあー? 相手、分かっちゃったのよ。 しかも真逆な感じの、こんな——」
桃井太郎「すみません、真逆で」
奥谷百合「もういいわよ。 分かってるの、男運ないって」
奥谷百合「付き合う男はみんなダメ男で、最後に付き合った男なんて——」
田中次郎「男なんて?」
奥谷百合「お酒、お酒が足りない」
マリア「はいよー」

〇狭い裏通り

〇スナック
奥谷百合「バスに乗ってきたお婆ちゃん?」
桃井繁蔵「おー、ありゃわしのあいでぃーあじゃ」

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