それぞれの音色と(脚本)
〇女の子の一人部屋
皆で話し合いをしてから約一ヶ月
岡田さんと木下さんから、ある提案があった
岡田さん「みあさんの大切にしていた物、皆で分けてみたら?その方がみあさんも喜ぶと思うよ」
みあの部屋の物は、みあがいなくなってから、ずっとそのままになっていた
岡田さんたちの言う通り、今がそんな頃なのかもしれない
私達はみあの持っていた物を、分け合う事にした
〇女の子の一人部屋
雪乃は洋服が欲しいと言った。耳の聴こえない雪乃は多分、私達を気遣って言い出したのだと思う
アリサ「ミモザ、みあのCDは全部あなたがもらったら」
ミモザ「えっだってアリサさんは?」
私からそう言われた事に、とても驚いていた
アリサ「私はまったく同じCDを、自分で買うことに決めたの。買うたびに思い出を楽しもうかと。だから一応全部ノートにメモらせてね」
私はスマートフォンとイヤホンをもらった。みあが毎日使っていたものだからと言って。
でも本当は違った。他にもらいたいものがあったけど、それは言えなかった
他の筆記用具やらの小物は皆で分けた。キーボードは後日ナナさんに受け取って頂いた
〇二階建てアパート
3週間後、雪乃は一人暮らしをするため、アパートに引っ越した。その少し前、雪乃はカモミールに来た理由を教えてくれた
雪乃はアパートで一人暮らしをしていたが、ある時そのアパートが火事になった
幸い大きな火事にはならなかったが、火元の場所などから、耳の聴こえない雪乃が原因と判断された
そして雪乃はカモミールにやってきたのだ。その後本当は隣の人の不始末が原因だと解った
しかし雪乃は次第にカモミールを好きになり、つい長居をしてしまったのだとか
一人暮らしを始めた雪乃。「春近し」には良く来ていたこともあり、会って話し合う事は多かった
〇中規模マンション
雪乃が引っ越してから、約一ヶ月後、私もカモミールを出た
ケンさんと一緒に暮らし始めたのだ。
二人共仕事が安定してきたため、二人で暮らす方が何かと便利だと考え、結婚式よりも前から一緒に暮らし始めた
〇一軒家
ミモザはそのままカモミールに残っていた。
後から入ってきた3人の後輩の、良いお手本にもなっているようだった
ミモザも「春近し」の常連になっていた
〇レトロ喫茶
私とケンさんももちろん「春近し」の常連だ
マスター達の料理もさることながら、新しく店員になったお姉ちゃんに会うのも目的に
ちなみにナナさんを、最初にお姉ちゃんと言い出したのはミモザだった。それがなんか羨ましくなって私も真似して呼ぶようになった
ピークの時間が過ぎるとオルガンを弾くお姉ちゃん。仕事の仕方はみあと同じ感じ。でもお姉ちゃんはレジ打ちとかもやっている
私は良く、お姉ちゃんのオルガンを聴きながら絵を描いて、ケンさんに見せていた
昔、私が描いた似顔絵を喜んでいたみあを思い出して、自己流で絵の練習をしていた
〇レトロ喫茶
実は私は、雪乃を羨ましく思っていた
雪乃は時々メトロノームを持参して、ナナさんのオルガンとのコラボレーションを楽しんでいたから
聴覚障がいの雪乃が行う「フィンガータット」に時折入れる手話。本人いわくラップなんだとか
動画にも上げていて、少しずつ人気も出始めていた
〇レトロ喫茶
ある日の夕方、お互いの気持ちを交わす時間があった時、私はその事を雪乃に伝えた
雪乃はスマートフォンで文字を打って、私の問いに答えてくれた
アリサ、サンドアートやらない?
前にね、みあがマママスターと楽器を演奏して、楽しかったって教えてくれた時の事って覚えている?
私はね、音が聴こえないから、少し悲しくなっちゃったの。共感が出来ないから
でもね、フィンガータットでコラボレーションをしていると、すごく楽しいの
オルガンの音は聴こえないけど、お姉ちゃんと呼吸が合っているのを感じながらやってると、なんかテンションが上がるんだよね
考えてもみなかった。でもテレビでも見た事のあるサンドアート。私はなんかワクワクした
〇シンプルなワンルーム
私はスーパーでの仕事とは別に、サンドアートを習いたい事を、ケンさんに相談した
ケン「えー絶対見たい。応援するからやってみてよ。オルガンとフィンガータットとサンドアートでしょ。絶対みあちゃん大好物だよ」
あっ・・・3人のコラボレーションか
アリサ「ねぇ、もし私が上手くサンドアートをやれたとして、ミモザはその中に入れないのかなぁ」
私は無理矢理にでも、みあとの出逢いに意味をもたせようと考えていたのかもしれない
ケン「ミモザちゃんってリズム感はどうなの?カスタネットでもトライアングルでも」
ケン「雪乃ちゃん、せっかくお姉さんがオルガン弾いているのに、メトロノームで合わせてるでしょ?なんか寂しいと思うんだ」
確かに・・・ミモザがリズムをとる楽器が使えれば・・・しかもシンプルなもの程、雪乃には伝わりやすいかもしれない
アリサ「ケンさんありがとう。さっそく今度ミモザに会ったら確かめてみる」
式が近づいている中、私はマリッジブルーにはならず、むしろ元気が増えていた
〇シンプルなワンルーム
結婚式が近づいてきた。私達の相談相手はもっぱらお姉ちゃん夫婦。特に演出に伴う音楽は重要と考えていた
みあへの贈り物だから、二人とも、否、4人とも気合が入っていた
でも、気合が入っていたのは他にも沢山。ミモザに雪乃にカモミールのスタッフ。岡田さんや山下さんも
意外だったのはお姉ちゃんのご両親。交流が重なるごとに、私をお姉ちゃんの妹のように接してくれるようになっていった
そのせいか、私達の結婚式の話し合いに二人が参加をする事もあり、話が進まなくなる事もあった
お姉ちゃんは二人を怒っていたが、家族のいない私は、嬉しさで泣いてしまう事もあった。本当に嬉しかったから
〇レトロ喫茶
一週間もしないうちに調度、お姉ちゃん、ミモザ、私が「春近し」にそろった。私はケンさんからの話を二人に伝えた
ミモザは少しピンときていなかったが、さっそくカスタネットで試してみた。
ミモザのテンポは完璧だった。天性の感覚か、みあの影響か。その後もトライアングルやマラカス等を試したが、どれも完璧だった
100円ショップで買ったとはいえ、投資をしたかいがあった
今度は私がサンドアートをマスターする番だ。ゼロからのスタート
プレッシャーはあったが、絵描き歌の得意な母の思い出が、私を支えてくれていた
〇綺麗な教会
そして私とケンさんの結婚式当日
ナナさん達の結婚式を真似をして、スターシップの「NOTHING GONNA STOP US NOW」を入場曲とした
式には、みあが繋いでくれた人達が参加をして、私達を祝ってくれた
友人や親族からの「出し物」は無しにした
代わりに、私、お姉ちゃん、雪乃、ミモザでの演奏を行った。
ピアノ、カスタネット、フィンガータット、サンドアートのコラボレーション
慣れている二人とは違い、私やミモザは緊張していた。
私達が選んだ曲は、スティングの「ENGLISHMAN IN NEWYORK」
みあも含めて、私や雪乃、ミモザは法律では認められている立場なのに、世間の中ではマイノリティー
式の参加者は私達の理解者だけど、最初に聴いてほしかったから。
みんなは最高に良かったと言ってくれた。もちろん私達も大満足だったが
インディゴガールズの「WE GET TO FEEL IT ALL」を式の最後に流して、私達の新しい出発を、みあに届けた
〇シンプルなワンルーム
1年後、私は子供を身ごもった。生まれたのは元気な女の子
ようやくみあからもらえた。子供につけた「ミア」という名前を
カタカナにしたのはリサの名残
これからきっと、バラバラなカルテットにも巻き込まれていくのであろう我が娘のミア。
多様性は、受け止めれば優しさだらけ。きっと優しい人になるだろう
まるで一本の映画を見終えた時のような気持ちです。すごく引き込まれました。名前を貰うって良いですね。みあがずっとそこにいる気がして。