あやめ祭り

MK38

エピソード2(脚本)

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〇病室(椅子無し)
森村冴子「お父様!お父様~!!」
森村冴子「なんで急に・・・昼間はあんなに元気だったのに。なんで」
当直医「体調が急変されて、私が駆け付けたときにはもう・・・!?」
森村照彦「なにがあったんですか?夕方は、安定してたんですよ!」
当直医「夜の回診のときにも、容態は安定していたんですよ。それが急に・・・正直原因は分かりません」
森村冴子「あの女はどこ!?どこにいったの?今日ここに泊まってるはずよ!」
当直医「奥様でしたらもうすぐいらっしゃいます」
森村セツ子「ああ、2人とも来てくれたの・・・ お父さんが、お父さん・・・ううっ」
森村冴子「なにが来てくれたの、よ!一緒にいてなにやってたの!?看護師のくせに気づかなかったの?」
森村照彦「冴子!やめろ!お母さんを責めてもしょうがないだろ!」
森村セツ子「うう、ゴメンサイ。それが私にもなにがなんだか。仮眠をとってて気づいたらもう息が」
森村冴子「仮眠?どういう神経してんのよ!」
森村照彦「お母さんだって、日勤をしてからの付き添いだから疲れてたんだよ。それに、お父さんは末期がんでもう・・・」
森村冴子「そんなこと分かってるわよ。だから、新病棟の建設を急いでたんじゃない!」
森村照彦「でも・・・」
森村冴子「この私から、いったいどれだけのものを奪えば気が済むのよ!」
森村セツ子「そんな・・・」
森村照彦「冴子!落ち着け!ここでそんなこと言ったらお父さんも悲しむだろ!」
森村冴子「あなたまで、この女の肩を」
森村照彦「そういうわけじゃない!ここは、いったん出直そう。 お母さん、一度家に戻って、出直してきます」
森村セツ子「ううっ・・・照彦さん、ありがとう」

〇病室の前
森村冴子「なにする気だ、邪魔しやがって」
森村照彦「そっちこそどういうつもりだよ」
森村冴子「どういうつもりとは?」
森村照彦「よくあんな演技ができるな!僕には、早くトドメをさせとか言っておきながら」
森村冴子「あの場面で、笑えとでも?」
森村照彦「そうじゃなくて」
森村冴子「なくて、なんだ?」
森村照彦「冴子、君って人はいったい・・・」
森村冴子「夫の出世を願い両親の夢を引き継ぐ健気な女だ。違うか?」
森村照彦「・・・僕は院長になる気はないよ」
森村冴子「なぜ?」
森村照彦「僕は、まだまだ未熟だし、人望もない」
森村冴子「フッ、まだ貧乏人の考え方から抜けきれないな。目の前にぶら下がったチャンスは、つかみ取れ」
森村照彦「で、でも」
森村冴子「お前は、院長になるさ。いや、ならせる」
森村照彦「とにかく家に戻ろう」
森村冴子「先に車に乗っていろ。事務所に寄っていく」

〇事務所
事務長「う、ううう」
森村冴子「ご苦労様」
事務長「お嬢様」
森村冴子「病室にいなかったので、ここかと」
事務長「私は、私は・・・」
森村冴子「罪悪感など感じる必要はない。これも運命」
事務長「ですが・・・私は、この手で人を」
森村冴子「これ約束のものよ」
森村冴子「これで、奥さんが作った借金と子供の治療費に不自由することもないでしょう」
事務長「はい・・・」
森村冴子「トロッコ問題ってご存知?」
事務長「いえ」
森村冴子「イギリスの哲学者フィリップ・フットが考えた問題なんだけど」
森村冴子「トロリー問題とも呼ばれているわ。家に帰ったらネットで調べてみて」
森村冴子「あなたは1人の命を引き換えに、あなたの家族を救ったのよ」
事務長「は、はい・・・」
森村冴子「一家の大黒柱として、立派なことをしたと胸を張るべきよ」
森村冴子「あなたも家に戻っていいわ。明日も休んでいいから」
事務長「いえ、明日は出勤いたします、葬儀の段取りともあるでしょうから」
森村冴子「そんなのこっちでやるわよ」
事務長「院長先生は、「あやめ」がお好きでした」
森村冴子「病院の名前にするくらいですものね」
事務長「「あやめ」の花ことばは、「良い便り」「希望」です」
事務長「たとえ、どんな病状の方だろうと「希望」が持てるように、ご家族様に「良い便り」が届けられるようにと、命名されたのです」
森村冴子「そんなこと知ってるわよ」
事務長「申し訳ありません、言葉が過ぎました。院長先生は、自分の葬儀も「あやめ」で飾ってほしいとおっしゃっておりました」
森村冴子「分かったわ。葬儀の段取りは、あなたが中心になって手配して」
事務長「奥様とも相談いたします」
森村冴子「あの女、葬儀にくるのかしら」
事務長「え?」
森村冴子「それじゃ」

〇病室(椅子無し)
  4時間前
事務長「奥様、お疲れでしょう。しばらく私が変わりますので、別室でお休みください」
森村セツ子「事務長さん、ありがとう。私なら大丈夫よ」
事務長「いえ、奥様、疲れが顔にでてらっしゃいますよ。私には、ムリなさらなくて結構です」
森村セツ子「フフフ。なんか懐かしいわね、この3人でいると」
事務長「もう20年以上前になりますか」
森村セツ子「よくここまで大きくなったわね、この病院も」
事務長「前の奥様が急にいなくなられて、そのときはどうなるかと思いましたが、師長に救われました」
森村セツ子「無我夢中で、来てしまったわ」
事務長「それだけに、冴子お嬢様のことが気がかりです」
森村セツ子「まあ、彼女とのことはなるようにしかならないわね。では、お言葉に甘えて休ませてもらうわ」
事務長「はい、ごゆっくり」
事務長「旦那様、私は旦那様の元にお仕えできてとても幸せでした。頂いた御恩は、生涯忘れることはございません」
事務長「ですが、お金のために人工呼吸器のスイッチを切らせていただきます。 御恩を・・・」
事務長「御恩を、仇で返すわたくしめをお許しください。この身が果てたのちは、地獄の業火に焼き尽くされる覚悟でございます」
  カチッ
  30分後
事務長「奥様!奥様!」

〇病院の入口
  翌日
森村セツ子「ちょっと!なにやってるのよ」
森村冴子「決まってるでしょ。院長が変わったんだから、ネームプレート張り替えてるのよ」
森村セツ子「なにを勝手に。理事会にかかってないわ」
森村冴子「他の理事は、私に一任するそうよ。委任状もあるわ」
森村セツ子「私は、委任してないけど」
森村冴子「人事は、過半数の賛成できるわ。アナタ1人が反対したところで、決定は覆らないのよ」
森村セツ子「照彦さんは、まだ早いわ。もう少し経験を積んでから」
森村冴子「経験は、私のサポートで補うわ。 それに」
森村冴子「貧しい家庭で育った少年が、頑張って医学部入学。日本有数の病院の後を受け継いで、院長の壮大な夢をかなえる」
森村冴子「最高のストーリーだと思わない?」
森村セツ子「そんなつくり話聞きたくないわ」
森村冴子「あなたに聞いてもらう必要はない。 それに」
森村セツ子「なに?」
森村冴子「あなたは、今日で解雇するから」
森村セツ子「なんですって!?」
森村冴子「言ったでしょ。人事は、過半数で決まられるのよ」
森村セツ子「理由は!?不当解雇よ」
森村冴子「訴えるの?ご自由にどうぞ」
森村セツ子「私を甘くみないで」
森村冴子「そのセリフ、そのままお返しするわ」
森村セツ子「なんですって!?」
森村冴子「私が、なにも知らないとでも?」
森村セツ子「・・・」
森村冴子「20年前に、私の母が突然いなくなったわ。書置きもなにも残さずに」
森村冴子「しばらくして、あなたが現れた。 新しい母親だといって」
森村セツ子「ええ、そうよ。院長に依頼されてね。そして、私たちは愛し合うようになり夫婦になった」
森村冴子「「そして」?そんな風には、見えなかったけど。私の前に現れたときには、もう「デキて」たんじゃないの?」
森村セツ子「そんなこと・・・」
森村冴子「あやめ病院って、もともと私の「本当の」母親が付けたのよ」
森村セツ子「え?」
森村冴子「あやめが好きだったのも母。森村重三は、その影響を受けただけ」
森村セツ子「お父様になんて言い方を・・・」
森村冴子「総合病院にするのも、最先端医療の病院もすべて彼女の発想だ。そんな夢を描いてる人間が、書置きもなく失踪などするか!」
森村冴子「どこへやった?私の母親をどうした!?」
森村セツ子「うううっ」
森村冴子「これ以上問われたくなければ、いますぐここから立ち去れ。二度と私の前に現れるな!」
森村セツ子「くっ・・・!」

〇個別オフィス
森村冴子「新院長さん、イスの座り心地はどう?」
森村照彦「冴子、やっぱり僕には・・・」
森村冴子「さっそく仕事よ」
森村照彦「え?」
  コンコン
森村冴子「どうぞ」
西村鈴子「し、失礼します」
森村冴子「この看護師さん、私の言うことが聞けないみたいだから注意してほしいのよ。「院長」の口から」
西村鈴子「そ、そんな私・・・」
森村冴子「私が直接手を下してもいいんだけど。これから用があるから。意味分かるわね?」
森村照彦「さ、冴子・・・」
森村冴子「じゃあ、西村鈴子さん「サヨナラ」」
西村鈴子「冴子お嬢様!」
西村鈴子「あの私、ホントに申し訳ありません。 患者さんによかれと思って」
森村照彦「いや、いいんだ。気にしなくていいんだよ」
森村照彦「僕は、君の歌好きだし」
森村照彦「冴子は、辞めろって言わせたいんだろうけど僕は、そんなこと全然思ってなくて、それにその・・・」
西村鈴子「もうちょっと堂々としててくださいよ「院長」フフフ」
西村鈴子「それに、なんですか?」
森村照彦「僕は、君の歌が、いや君のことが」
森村照彦「好きだったんだよ!!」
西村鈴子「え?そんな!」
森村照彦「前から、ずっと前から、君が入ってきてからずっと!!!!」
森村照彦「もう我慢できない!」
西村鈴子「院長ちょっと待ってください!!」
  きゃあああああああ

〇菜の花畑
森村冴子「もうすぐ、もうすぐよ。ママ・・・」
  エピソード3につづく

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