【第9話】女帝・翠玉(4)(脚本)
〇大きな木のある校舎
トオル「僕らが見た未来では、息子の罪は後ろの席の子になすりつけられた。それがきっかけで、あんな悲劇が起こったけれど・・・」
アベンチュリ「その事件をきっかけに、後ろの席の子はクラスで孤立した存在になり、最終的には女性の息子さんを殺害してしまう」
アベンチュリ「そんな未来でしたね」
トオル「息子さんが非を認め謝罪している」
トオル「ということは・・・」
アベンチュリ「最悪な未来は、ひとまず回避出来たようですね」
トオルはホッと胸を撫で下ろした。
女性は、女の子たちの背中に頭を下げ続けた。そしてその姿が見えなくなった頃、子供の前にしゃがみこみ、子供の顔を撫でた。
女性「貴方がしたことは、たとえ事故だったとしても、間違った行為だった」
女性の息子「・・・はい」
女性「本を投げてしまったこと。何か理由があるんじゃない?ママに聞かせてくれない?」
女性の息子「・・・むしゃくしゃしただけだよ、理由なんか無いもん」
女性「そうなの?じゃあ、どうしてむしゃくしゃしてたのかな?」
女性の息子「・・・」
女性の息子「後ろの席に座ってるやつ・・・田島って言うんだけど、今日のテストであいつに負けたんだ」
女性「テストで田島くんに?」
女性の息子「う・・・うん」
女性の息子「ご、ごめんなさい!僕はいつでも一番じゃないといけないのに!じゃないとママやパパに嫌われちゃうのに・・・!」
女性の息子「参考書を捨てちゃえば、田島はもう勉強出来ない。次は僕が一番になれるって思ったんだ・・・」
女性の息子「まさか下に人がいたなんて・・・」
女性の息子「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい!ママ、僕を嫌いにならないで・・・!」
女性「・・・」
女性「・・・今まで、ごめんね」
女性の息子「・・・え?」
女性「テストで良い成績を取ることは、決して悪いことじゃない。むしろ素晴らしいことよ?貴方はいつも頑張ってる」
女性の息子「・・・」
女性「でもね?」
女性「世の中には、テストで一番を取ることよりも大切なことが、いっぱい、いーっぱいあるの」
女性の息子「そう・・・なの?例えば?」
女性「例えば・・・人を尊敬すること」
女性の息子「尊敬する?」
女性「田島くんもきっと、貴方と同じようにたっくさん努力したのだと思う。そんな彼の努力を認め尊敬する」
女性「人を尊敬することが出来る人間は、人の良いところを見付けることが出来るのよ?」
女性の息子「良い・・・ところ?」
女性「さあ、考えてみて?田島くんの良いところって、何だろう?」
女性の息子「えーっと、えーっと」
女性の息子「田島くんは、僕と違って塾には行ってないんだ」
女性の息子「それなのに、いつも良い点数・・・僕は塾に毎日行ってるのに・・・田島くんは部活ばっかりしてるのに・・・なんで・・・なんで」
女性「あのね、人を尊敬するということは、自分と比べるってこととは少し違うのよ?」
女性の息子「でも・・・だって・・・」
女性「例えば田島くんがおうちでどんなことをしているのか、知らないでしょう?」
女性の息子「え、うん・・・」
女性「もしかして、おうちでしっかり勉強しているのかもしれない」
女性「塾に行ってない、部活をしている。だから努力なんかしてない。なのに点数だけは良くてズルい」
女性「そんな表面的な部分だけを見て、その人の全てを決め付けてしまうのは」
女性「とっても怖いことなのよ?」