エピソード1(脚本)
〇暖炉のある小屋
マリー「婚約はしないわ。私達、別れましょう」
月明かりが僅かに窓から差し込む部屋で、マリーは冷たい口調で、婚約者であるニックに背中を向けて目も合わせずに告げた。
ニック「・・・何で、だよ。僕たちあんなに愛し合ってたじゃないか!」
ニック「いきなりそんなこと言われて僕が首を縦に振ると本気で思ってるのか!」
ニックには訳が分からなかった。
一年前に街を散策している時に、花屋で看板娘をしていたマリーに一目惚れして告白した。
マリーはかなりの美貌の持ち主で、ニック以外からの男性からも数多く告白を受けていたが、全員断っていた。
ニックもその例に漏れず、結果は惨敗だったが、諦めずに何度も何度も何かと理由を付けて訪れて、
振られては告白し、振られては告白、を数十回も繰り返して、奇跡的に根負けしたマリーが告白を受け入れて交際はスタートした。
だが、意外と交際が始まってからは予想を遥かに上回って二人の関係は良好だった。
が、それも長くはなかった。
半年もすれば、マリーはニックを避けるようになり始めた。
ニックもそれは分かっていた。
だから、今日しばらくぶりにマリーから「話があるの」と連絡を受けた時は、心が躍り、浮足立って彼女の元に来たが、
まさか婚約破棄の通告をされるなんて――夢にも思わなかった。
ニック「何か理由があるのか? あるなら教えてくれ!」
マリー「・・・・・・」
自分に非があるなら口に出して教えて欲しい。
だが、マリーは相変わらず背を向けたまま、理由を教えてくれようとしない。
ニック「だんまりなんてひどいじゃないか! 僕に不満があるんだろう。はっきり口に出してくれ!」
ニック「・・・そうしてくれないと僕はどうしたらいいか分からないよ!」
そう言って、ニックはマリーに近づこうとしたが、
マリー「・・・こっちに来ないで」
――拒絶。
そう言われれば、ニックは歩み寄る事さえできず、近づくことさえできなくなってしまった。
ニック「――ッ。どう・・・・・・してだよ・・・」
マリー「理由を言ったら、帰ってくれるの?」
ニック「今日は・・・・・・帰るよ。約束する」
ようやく口を開いたマリーの言葉に、ニックは藁をもすがる気持ちで答え──
マリー「・・・私ね。ニックじゃ満足できないの。ニックのような町工場で働くどこにでもいるような普通の男じゃ満足できないの」
ニック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
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最後までマリーには何らかの事情があってニックのためにわざと婚約を破棄したんだと思って読んでいたのに、残念な結果に。デュークの放ったセリフ「君のような魔女」とは、「魔性の女」みたいな意味の比喩なんですよね?ちょっと気になりました。
マリーもニックも可愛そうでたまりません・・・人の気持ちは決して富のようなものでは動かせるはずがないのに。ニックが真相を知っても知らなくても気の毒です。