Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

剣か?弦か?(1)(脚本)

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山本律磨

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〇暖炉のある小屋
  第五話 剣か?弦か?
義孝「・・・ふん。これが軍服だと?」
義孝「所詮は衣装。遠目には誤魔化せるが似ても似つかぬ」
義孝「まさに道化。貴様も同じだ」
義孝「バロン吉宗よ」

〇謁見の間
  『憲兵中佐、来栖川義孝。前へ』
義孝「はっ!」
  政府元老、山縣有朋
山縣公爵「日比谷焼討事件において暴徒鎮圧の功大なりを認め、勲三等に叙し、光日中勲章を与える」
義孝「謹んでお受け致します」
山縣公爵「貴公の父、来栖川義仁殿は討幕八卿の要として共に戦った間柄」
山縣公爵「まこと武人(もののふ)よりも武人らしい公家であった」
山縣公爵「そなたの爵位を上げられなんだは心残りである」
山縣公爵「斯様な勲章ごときですまぬ」
義孝「とんでもございません!」
義孝「父亡き後、山縣公爵には格別のお引き立てを頂き感謝しております!」
山縣公爵「貴族の末裔が中間の子倅に感謝とは」
義孝「武人の魂を腐らせた徳川幕府が、新たなる武人に滅ぼされたは当然の理!」
義孝「私の役割は維新元勲が作り上げた新たなる武人の世をさらに強化する事にあります!」
義孝「今のこの国が、再び幕府の二の舞とならぬ為に!」
山縣公爵「声が大きい。仮にも御所ぞ」
義孝「も、申し訳ございません」
山縣公爵「来栖川。今度、陣山荘に参れ」
山縣公爵「ワシはもうすぐ死ぬ。伝えておきたい事がある」
義孝「・・・」
山縣公爵「少し長話になるやも知れんからな」
義孝「かしこまりました」

〇宮殿の門
  『来栖川中佐!来栖川中佐はおられますか!』
義孝「なんだ?」
  『奥様が・・・奥様が穢土川の河川敷で・・・』

〇華やかな裏庭
義孝「・・・」
桜子「おとうさま。おはようございます」
義孝「・・・」
桜子「どうしたの?」
義孝「・・・」
女中「お嬢様。こちらへ」
女中「朝ごはんが出来てますよ」
桜子「はーい」
「ねえ芳野~。おかあさまは~?」
「まだ寝てるの~?」
義孝「・・・」

〇暖炉のある小屋
ヒナ「おはようバロン!」
ヒナ「今日は早く起きれたから健康体操するぞ」
ヒナ「最近トラもデンキも付き合い悪くてさ~」
ヒナ「お、どうした?朝から道化の恰好して」
義孝「軍服が道化か・・・」
ヒナ「よく出来てるよな~」
ヒナ「お、その勲章もデンキが作ったのか?」
義孝「触るな!」
ヒナ「・・・え?」
義孝「あ、いや・・・」
義孝「尖っていて危ないだろう・・・」
ヒナ「・・・」
ヒナ「体操・・・一人でやるから」
義孝「・・・」
義孝「俺は・・・どこまで馬鹿になっていくのだ」

〇川沿いの原っぱ
義孝「トマス・モアか」
トラ「ようバロン」
デンキ「そろそろもろもろ思い出した?」
義孝「ああ、忘れかけていたものを思い出しつつある」
トラ「なんだそりゃ?」
義孝「苦戦しているようだな」
トラ「うーん。なんか、みんな平等ってのは分かるけど。俺の求めてるもんとちょっと違うっていうか」
デンキ「まあ、あのクソ工場長も同じように働け!みたいな内容は胸がすくけどね」
義孝「そこだ」
「へ?」
義孝「こんなもの、権力に対する悪口雑言を並べ立て己の場所に引きずり込もうとする弱者の怨念を書き連ねただけの絵空事だ」
義孝「規律と監視で縛り上げ清貧という名の道徳を強要する世界の何が自由か?憲兵隊のやっている事と何が違う?」
デンキ「それはあくまでも過程であって、人の心が成長すればきっと受け入れられる」
義孝「そんな内容は原本では一行も書いてない。根室が都合よく解釈した誤訳だ。読むなら真っ当なものを適正な価格で購入せよ」
義孝「歪んだ知識など無知の方がマシだ」
義孝「そもそもお前達は受け入れらるのか?この本に描かれた『完全なる平等』と、それによってもたらされる『真の自由』とやらを」
トラ「トマス・モアを知ってるのか?」
義孝「・・・」
トラ「なあ、聞いていいか?」
デンキ「と、トラ・・・」
トラ「お前、いやアンタ・・・本当にバロン吉宗なのか」
義孝「いずれはっきりさせる」
「・・・!」
義孝「ただ、あの娘を悲しませたくない気持ちは俺もお前達も同じのはずだ」
義孝「ひとつひとつ片付けていきたい。まずは、根室に会わてほしい」
トラ「どういうことだ?」
義孝「俺の考えが正しければ、あの男はろくでもないペテン師だ」
「・・・!?」
義孝「化けの皮をはがしてやる。協力してくれ」
「・・・」

〇空
「ははは。自主的な勉強会とは感心だね」

〇教会の中
根室「まあ僕も忙しい身ではあるが、どうしてもと言うならご教授しよう」
根室「うん?」
義孝「・・・」
根室「トラ・・・これは一体?」
義孝「二人とも、外で見張っておいてくれ」
トラ「分かった」
トラ「ディベートだそうです。先生・・・」
根室「ちょ、ちょっと待て・・・」
根室「ど、どういうつもりだい?バロン吉宗」
義孝「久しぶりだな。アーティスト君」
義孝「まだ桜子の周りをウロウロしていたのか」
根室「・・・ひ、ひいっ!」
根室「やっぱり何もかも罠だったのか!」
根室「死を装って僕を陥れ捕まえるために・・・」
義孝「寝言をぬかすな!三下めが!」
根室「へ?」
義孝「この有様と貴様に何の関係があろう。図に乗るな」
根室「・・・」
根室(違う・・・気づかれてない・・・)
根室「そ、それは申し訳ありませんでした」
根室「しかし、僕と桜子さんは、誓ってやましい関係などではなく」
義孝「当然だ。何かあったのであれば逮捕どころでは済まさん」
根室「・・・」
義孝「根室。何を考えている?」
義孝「この街の祭りで、よもやよからぬ真似を起こそうと思っているのではないのか!」
根室「とんでもない!僕はアーティストですよ!臣民貧民隔てなく笑顔を与える催しを考えているだけです!」
根室「桜子さんもそのあたりの健全性に賛同して下さり」
義孝「貴様の下らん祭りに桜子を巻き込むな!」
根室「す、すみません!」
義孝「鬱陶しい虫けらめが、面倒事ばかり起こしおって」
義孝「・・・いいだろう」
根室「・・・?」
義孝「祭りに協力してやる」
義孝「反政府活動も今回に限り見逃してやる」
義孝「その代わり、俺の正体は誰にも話すな」
義孝「話せば軍に戻り憲兵隊を総動員してお前を逮捕し、一生獄に繋いでやる」
根室「桜子さんにも黙っていろと」
義孝「・・・」
義孝「・・・ああ」
義孝「斯様な真似をしているのは、特務である。故に他言無用」
根室「・・・特務?憲兵隊のですか?」
義孝「詮索無用!」
根室「は、はい!」
根室(特務だと?)
根室「・・・」
義孝「何がおかしい?」
根室「い、いえ。緊張するとつい」
義孝「祭りが終われば桜子の前から消えろ」
根室「も、勿論です!」
義孝「行っていい」
根室「はい。ご協力感謝いたします」
義孝「チッ・・・」
トラ「終わったか?」
デンキ「先生、今にもゲボ吐きそうな顔して出ていったけど」
義孝「お前達も、あんな下らん男と付き合うのはやめておけ」
義孝「真っ当に働いて結婚して家庭を作り・・・」
トラ「ははっ・・・」
デンキ「トラ・・・」
トラ「ははははは」
義孝「何が可笑しい?」
トラ「あんた、絶対にバロンじゃねえよ」
トラ「あんたが今ほざいた真っ当な人生を、一生手に入れられない奴らの街」
トラ「世間様に弄ばれ蔑ろにされ忘れられた奴らが傷なめ合って生きてる街、それが蓬莱街なんだからよ」
義孝「口を開けば恨み辛み妬み嫉み。その日暮らしの浮かれ人の逆恨みにしか聞こえん」
トラ「悪いか!」
トラ「だからせめて自由くらいは手に入れてやる」
トラ「言っとくが俺は得体の知れねえアンタよりも根室先生を信じてるぜ」
デンキ「まだバロンって呼んでいいんだよね」
義孝「ああ。ある意味、俺もバロンだからな」
デンキ「バロン。ヒナだけは悲しませないでね」
義孝「それは・・・難しいかも知れん」

〇ボロい倉庫
根室「根室です。開けて下さい」
根室「大丈夫です。付けられてはいません」
根室「ひっ!」
根室「いつのまに後ろに・・・ははは」
アラハタサンソン「入れ」

〇兵舎
アラハタサンソン「来栖川が生きていただと?」
根室「はい。バロン吉宗なる道化師と擦り替わり何やら蠢動している様子でした」
サカイトシアキ「その道化師と同じ顔だったと言うのか?」
根室「おそらく火葬されたのはバロンの方かと」
アラハタサンソン「にわかには信じられん」
根室「目的は貧民窟の浄化。その為の下調べなどを行っているのではないでしょうか?」
根室「片っ端からスラムを潰し活動家の潜伏先を壊滅させる」
サカイトシアキ「回りくどいよ」
根室「来栖川ならやりかねません!」
アラハタサンソン「どう思う?オオスギ」
オオスギアマネ「根室君。僕達にそれを伝えてどうしろと?」
根室「これは全革命家の危機です!」
根室「幸い世間では来栖川はすでに死んでいます」
根室「ならば・・・」
根室「ならばその通りにすればいい」
アラハタサンソン「貴様!俺達を手駒にしようと・・・」
根室「とんでもない!」
根室「同志たちにこの話を喧伝すればいい。そうすれば強い志をもつ者がきっと現れます」
根室「英雄の誕生を促すのです」
サカイトシアキ「これを読んだか、根室」
サカイトシアキ「これは軍部の息のかかった新聞だ」
サカイトシアキ「早速、来栖川の死を我々の仕業と吹聴している」
根室「みたことですか!全ては憲兵隊の罠だ!」
オオスギアマネ「事実じゃないのか?」
根室「まだお疑いに・・・」
サカイトシアキ「分からないんだよ。君の本心が・・・」
アラハタサンソン「胸襟を開かぬ者を同志とは呼べんのだ」
根室「一天万乗。この国は一つの天の下全て平等であらねばならない」
根室「なのになぜ無為徒食の貴族が存在するのか」
根室「それは、精神より物質を優先する獣の性が生み出した金銭という名の弱肉強食」
根室「故に全ての階級格差を拒絶し全ての蓄財を拒絶する『美しきけもの』たちに私は賛同したのです」
サカイトシアキ「君は勘違いをしてるよ」
サカイトシアキ「我々の革命はあくまでも労働闘争だ。武力蜂起ではない」
サカイトシアキ「単に人を集めればいいってもんじゃない」
根室「そんなことを言っていては、百年たっても国は変わりません!」
オオスギアマネ「国なんて変わらなくてもいいさ。人々の思いが少しずつでも変わっていけば」
根室「・・・」
オオスギアマネ「僕らは皆が平等に暮せる優しい世界の魁となる。それだけだ」
オオスギアマネ「例えば・・・うん。蓬莱街のお祭り。あれはいいね」
根室「そ、そうですか?」
オオスギアマネ「ああいうものでいいんだ。僕も行ってみようかな」
根室「ありがとうございます!」
アラハタサンソン「貴様ら手配中だろう」
根室「隠れ家は用意します。是非、無知なる貧民達を導いて下さい」
根室「この祭りで貧民達は誇りと尊厳を手に入れるはず。そうすればきっと、我々活動家の尖兵となります」
根室「命を惜しまず前線で戦ってくれますよ」
オオスギアマネ「・・・」
根室「オオスギ先生の言霊をもってすれば・・・」
オオスギアマネ「・・・」
根室「ど、どうしました」
アラハタサンソン「語るに落ちたな」
サカイトシアキ「残念だよ」
根室「え?」
オオスギアマネ「根室清濁。君を同志から除名する」
根室「お、仰ってる意味がよく分かりません」
オオスギアマネ「確かに君はその言葉でその志を蓬莱街に植え付けた。あらゆる階級と私的財産根絶を目指す崇高な志とやらを」
オオスギアマネ「ところでそういう君はどこにいる?」
オオスギアマネ「君の言葉で蜂起し尖兵たらんとする貧民をを語る君はその時どこにいる?」
根室「それは勿論、ともに戦います」
オオスギアマネ「Producerとやらは来栖川桜子女史ではないのか?」
根室「・・・」
オオスギアマネ「君の言葉からは結局最後まで、君の大声は聞こえても君の姿は見えて来なかった」
オオスギアマネ「それを、ラウドマイノリティという。僕が最も忌み嫌う輩だ」
根室「ま、待って下さい先生!誤解です!」
オオスギアマネ「遮るな!」
オオスギアマネ「人の言葉は最後まで受けとめろ!この臆病者め!」

〇雷
オオスギアマネ「我らの闘争は常に同胞と共にあって、その矢面に立つもの」
オオスギアマネ「だがお前は違う」
オオスギアマネ「ここぞの時は影に隠れ、対話でも協議でも教育でもなく、ただ詐術によって労働者の命を軍隊の前に晒そうとする蛮行に他ならない」
オオスギアマネ「それは僕達が生涯を賭けて貫かんとしている思想からもっとも乖離した、それどころか僕達そのものを侮辱するものだ!」

〇兵舎
オオスギアマネ「お前、夜の街で派手に動き刑事どもから目を付けられているそうだな。それのなにが革命運動だ!俗物が!恥を知れ!」
アラハタサンソン「最早貴様がどこの誰と繋がっていようと関係ない。虫けらの蠢動など何するものぞ。美しきけものを侮るな」
サカイトシアキ「どうして君だけが官憲の目をかいくぐれているのか?」
サカイトシアキ「『君の尻拭いをしている連中』が何者か、我々が突き止めてないと思っていたかね?」
アラハタサンソン「『我ら』と『奴ら』を秤にかけていたのだろう」
オオスギアマネ「この場所を密告したければ好きにしろ」
オオスギアマネ「寄生虫を宿すよりはマシだ」
根室「寄生虫だと・・・」
オオスギアマネ「さあ君の番だ。反論したまえ」
根室「・・・失礼じゃないか」
根室「失礼だろ。違うよ。何も分かってないよ。ナンセンスだ。全然違う。違う違う違う。ナンセンスナンセンスナンセンス」
オオスギアマネ「・・・議論は終わりのようだな」
オオスギアマネ「さようなら。根室、いや校倉なにがし君」
根室「ナンセンス!」
アラハタサンソン「・・・とはいったものの。どうする?」
サカイトシアキ「踏み込まれるかも知れんな」
オオスギアマネ「次の獄中では中国語でも覚えようか」
サカイトシアキ「やれやれ・・・」

〇西洋の市街地
根室「愚衆。愚衆。愚衆。愚衆」
根室「この馬鹿だらけの国を列強から守る為にはお前ら全員が誰かに導かれなきゃならないんだ」
根室「その誰かが矢面に立ってどうする。捕まってどうする」
根室「クソが。クソが。クソが」
根室「クソクソクソクソクソクソ糞糞糞糞糞糞!」
根室「・・・」
???「うまく撒けたとでも思っていたか?」
???「増長するな。好きに泳がせていただけだ」
???「きっと古巣と決別する、と」
???「尾行するまでもない。お前は自らの力、で自らを棄てた者ども、に復讐をするだろう」
???「全ては大儀、のため」
???「では始めようか。革命とやらを」
天粕「お前にはもう我々しか、いない」

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