ラスボスを前にして、こんな試練は要らなかったです。(脚本)
〇ヨーロッパの街並み
おっさんA「つ、ついに・・・・・・此処まで来たぞ!」
異世界に強引にお呼ばれしたおっさん三人。
居酒屋で上司の愚痴言いながらべろんべろんに酔っていて、いつの間にかメガミサマに無理やり異世界転移させられていました。
拒否権もなく、ご都合展開のチート能力も与えられず、
ムサいおっさん三人だけの花も色気もへったくれもないパーティでよくぞここまで頑張ったと思う。
ひのき棒しか武器のない、レベル1状態から鍛えに鍛えて早三年。
俺達はついに、ラスボスが潜んでいると思われる最後の町に辿りついていた。
こまで来るのがどれほど大変であったことか。
虎のようなモンスターにひたすら山の中を追い回されたり、その挙句遭難して死にかかったり、
毒キノコをうっかり食べて笑い上戸になったり、女性型のモンスターに突然惚れられてストーカーされたり
――とにかく涙なしではは語れないような苦労が山のように存在したのだ。
それも、全ては魔王を倒し、約束通りメガミサマに元の世界に帰して貰うそのために!
おっさんA「この町のどこかに、魔王様の城への秘密の入口があると思って間違いないんだな?」
おっさんC「ああ、その通りだ」
俺の問いかけに、ものすごーく高い金を出して武器屋に作ってもらった“ダンジョン探知センサー”を持った友人その1が言う。
おっさんC「一見すると、魔物が時折出入りするだけの、普通の町に見える、だが」
〇西洋の市場
八百屋や武器屋などが立ち並ぶ、商店街の奥。
彼の持っているオレンジ色の機械は、明らかにそちらの方向に反応を示している。ぴこんぴこん、と鳴るアラームがいい証拠だ。
おっさんC「間違いない!このセンサーが反応する方向に、魔王の城へ隠された入口がある!行くぞ!」
おっさんB「おう!」
おっさんA「おうよ!」
探し物はこの先にある。俺達三人は、拳を突き合わせて誓い合った。
おっさんB「さっさとこの戦いを終わらせて、三人で美味い酒を浴びるほど飲もうぜ!現世の、いつもの店でな!!」
〇黒背景
いくらなんでも、これはちょっと卑怯すぎやしませんか。
熱い誓いから、僅か三十分後。俺達は完全に固まっていた。
センサーが示した“秘密の地下通路への入口”、それがある場所は。
〇露天風呂
おっさんA「うせやん・・・・・・?」
あの、魔王様。何で出入り口が、二十四時間営業の温泉の女湯の中にあるんでしょうか。
覗きの趣味のためですか、そうですか。
いや、だからって。
おっさんA「・・・・・・この中に突入しろと?社会的に終わるんですけど?」
おっさんB「で、ですよねー」
翌朝の新聞の一面。“勇者トリオ、女湯に不法侵入して牢屋にブチ込まれる”。思いきり想像してしまって、俺達は頭を抱えた。
おっさんA「い、嫌すぎるうううう!」
ここで諦めて一生この世界で暮らすか、それとも変質者の汚名を着てでも女湯の中に突撃するか。
とりあえず、魔王様にもメガミサマにも一言言いたい。
おっさんA「ラスボスを前にして、こんな試練は要らなかったです!」
選びたくもないクソすぎる二択を前にして、俺達はしばし途方に暮れたのだった。
まさに「戦闘なら得意だけど銭湯は苦手」という状況でしたね。これからはすべてのラスボスが入り口に24時間の女風呂を作ったらいいかもですね。
もう大笑いしてしまいました。パーティーメンバーが、男女混成とか、血気盛んな少年パーティーとかではなく、オッサンのみだからの苦悩ですよね。長年培われた社会性やら何やらで、、、
魔王の斬新な戦略がすごくよかったです。おっさんたちに男としての倫理を問い、また人間としての決断を促させるとは、なかなかなアイデアだと思います。