罪  恋―TSUMIKOI―

望月麻衣

エピソード4 微笑みの向こう側(脚本)

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望月麻衣

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〇空
  数日後、
  
  
  涼太と久々にデートをした。
  突然降り出した雨に驚いてカフェに飛び込み、
  少し苦めのコーヒーにたくさんのミルクを入れて、憂鬱な雨を眺めてボーッとしていると、涼太が心配そうに尋ねてくる。
涼太「梓ちゃん、最近元気ないね」
梓「テストの出来が悪くて・・・」
  咄嗟にそんなことを言った。
  
  
  とはいえ、嘘ではないけれど。
  瀬尾久弥に関わってから勉強に身が入らずに成績が落ちて、親に叱られたのは本当だった。
  だって、いつも考えてしまう。
  久弥が、涼太のお母さんにまで手を出していたことを・・・・・・。
涼太「勉強なら教えてあげるよ?」
梓「涼太はアタマいいもんね」
涼太「ずっと家庭教師ついてたからね。 オヤジがとにかくいい大学行けってうるさくてさ」
梓「涼太のお父さんは大きな会社の社長さんだから、後継いでもらいたいんでしょう?」
涼太「どうだろう? お前は自分の道を探せってよく言ってるけど。 その為に学歴は絶対に無駄にはならないって」
梓「いいこと言うね、お父さん。 で、涼太もクラスでトップなんだから、お父さんも鼻高いんじゃない?」
涼太「いやぁ、それが、クラスのトップじゃなくなったよ。久弥に奪われた」
梓「えっ、そうなんだ、あの人、アタマいいんだ。意外」
  心からそう告げた。
  彼のあの部屋は、勉強するような机も本棚もなく、まるで『行為』の為だけに存在しているようにしか見えない。

〇空
涼太「見えないよな。 大体、うちの学校の編入試験って入試より難しいらしいけど、難なく入って来たから、やっぱアタマいいんだよ」
  参ったなぁ、と涼太はコーヒーを口に運んだ。
梓「・・・その前は、どこの学校にいたの?」
  なるべく自然に尋ねると、涼太は小首を傾げた。
涼太「そういえばどこから来たんだろう?聞いてないな。 あいつにプライベートなことを聞いても、はぐらかして答えてくれないんだよ」
  そうなんだ、
  
  
  と頷いて自分もコーヒーを口に運んだ。

〇空
  涼太の母親と彼女に手をつけているのは、
  
  
  涼太を憎んでいるからと思ったけど、実際はどうなんだろうか?
  もしかしたら、ただの悪趣味で、私達に手を出したのだろうか?
  そんなことを思いながら、また窓の外に目を向ける。
  
  空は灰色のままだが、雨は上がっていた。
  いつか見た真っ赤なマセラティが停車し、巻き髪の女性と、久弥が車から降りる姿が目に入った。
  ばくん、と心臓が強く音を立てた。
  涼太は二人の姿に気付いていないようだった。
梓「あ、あのね、涼太。 私、お母さんに頼まれていたことすっかり忘れてたの」
涼太「えっ?」
梓「あの、だから急いで帰るね。 夜に電話するから、本当にゴメン」
  それだけ言って、席を立った。
  呆然としている涼太の顔が目の端に映ったけれど、その時は彼を見失いたくないと、ただ必死だった。

〇渋谷のスクランブル交差点
  息をひそめて後をつけると、瀬尾久弥は、巻き髪の女性と共に高級ブランドショップに入って行った。
  二人に気付かれぬように自分もそれとなく店内に入る。
  高級感溢れる店内に、
  
  
  制服じゃなくて良かった、
  
  
  と安堵するも、やはり場違いさは否めなかった。
  それでもミーハーな若い女性客も多く、自分だけが店内で浮いているということもなかった。
  そんな中、久弥と彼女は、この高級ブランドショップにおいて、少しも違和感がない。
「ねぇ、これ似合うね」
  そういって店員に腕時計をショーケースから出させて、久弥の手首につけさせた。
「うん、やっぱり似合う。 これ、お願い」
  そう言って彼女は、高額な腕時計を簡単に購入し、久弥にプレゼントしていた。
  ありがと、
  
  
  と久弥は笑顔を見せ、彼女の髪をとくように撫でている。
  なんていうか、
  
  恋人同士というより、ホストと客にしか見えない。
  もしかしたら、瀬尾久弥はホストクラブで働いているのかもしれない。
  そう考えれば、色々なことが合点いくような気がした。
  となると、涼太のお母さんも、久弥の客だったのだろうか?
  陰から様子を伺いながら、そんなことを悶々と考えていると、
  二人が店内を出たので、自分も慌てて外に出た。
  鬱陶しく降っていた雨が上がっていたことにホッとしつつ、久弥と彼女の姿を目で追うと、
  二人は、またね、という様子で軽く手を上げて、互いに背を向けた。
  どうやら、別れたようだった。
  久弥は時間を確認するように、もらったばかりの腕時計を見て、また颯爽と歩き出した。

〇渋谷のスクランブル交差点
  気付かれぬように後を追う。
  この行為はストーカーなんだろうか?
  そう思うと居たたまれないような気持ちになったが、どうしても気になる衝動は抑えられない。
  スタスタ歩く彼は突然ピタリと足を止めた。
  尾行に気付かれたのかと身を堅くしていると、どうやらそうではないらしく、彼を見て停車した車に目を向けていた。
  今度は、黒塗りのベンツ。
  
  
  運転手が素早く降りて、後ろのドアを優雅に開けた。
  その後部座席にはスーツを来た中年の男が座っているようだった。
  瀬尾久弥は何も言わずに、その後部座席に乗り込み、
  
  
  その車はそのまま走り去って行った。

〇空
  アッという間に車を見失い、
  
  
  私は、まるで迷子の子供のように、呆然としながら街を歩いた。
  何もかもが分からなくて、頭の中を駆け巡る様々な憶測がグルグルと回り、目眩を感じていた。
  一体、私は、何をやってるんだろう?
  彼に出会ってから、
  
  
  何かが、どこかが、
  
  
  狂って壊れたままだった。

〇開けた交差点
  彼は一体、何者なのか、
  何を目的としているのか、
  何もかもが分からない。
  放心状態で電車に乗って、いつもの駅に降りた頃には、もう辺りは暗くなっていた。
  そんな中、彼が住むオフィスビルの光が眩しくそびえ立って見える。
  久弥はもう帰っているんだろうか?
  そう思いながら家に帰ろうとした時、
  
  
  ビルの前に停車したままの黒いベンツが目に入り、
  
  
  思わず足を止めた。
  運転席にはあの時、久弥の為にドアを開けた運転手が少し退屈そうな表情を浮かべていた。

〇高層ビル群
  得体の知れない嫌な予感に、
  
  
  踵を返して、ビル内に入った。
  嫌な予感がして、ドキドキと鼓動がうるさい。
  エレベータが最上階に着いた時、
  
  
  扉の前にスーツを着た中年の男が立っていた。
  私の目にも、彼が上等のスーツを身に纏った上流階級の人間であることが見て取れた。
  この人の顔には、見覚えがあった。
  そう、あの時、ベンツの後部座席に乗っていた男だった。
  そんな彼は私に気にも留めず、涼しい顔で私と入れ違いにエレベータに乗り込んでいった。
  久弥の住む部屋のドアまで歩きながら、鼓動の強さに目眩を感じていた。
  喉の奥に何かが詰まったように感じて、息苦しいほどだった。
  部屋の扉に靴が引っかかってあり、ほんの少し開いていた。
  もしかして、何かトラブルがあったのかもしれない。
  思わず扉を大きく開けて、部屋に足を踏み入れる。
  その瞬間、
  
  
  目に飛び込んできた光景に、
  
  
  呼吸が止まる気がした。

〇ホテルの部屋
  薄暗い中、全裸でベッドにうつ伏せに寝ている瀬尾久弥の姿。
  ベッドの上には、まるで巻き散らされたかのようなたくさんの一万円札。
  彼は、突然現れた私の姿に、
  
  
  然程驚いた様子もなく、ゆっくりとガウンを羽織り、微笑んだ。
久弥「突然、訪ねて来るなんて珍しいな」
  肌に残る赤い痕が生々しくて、
  
  
  何も言えずにいると、
久弥「せっかく来てもらったけど、悪い。疲れてるんだ。 抱かれるのは、抱くよりも疲れるな」
  また、なんでもないことのように言って、笑顔を見せる。
  頭に浮かんでは、否定していたことが明るみになった感じだった。
  そう、久弥は、あの男に抱かれたばかりなのだ。
  その理由は、
  このベッドの上に散乱した一万円札が
  
  
  すべてを物語っていた。

〇ホテルの部屋
  彼はその身体を売っていたんだ。
  あの男に。
  
  
  そして、巻き髪のあの女性に。
  
  
  きっと、涼太のお母さんにも。
  だけど、わざわざ涼太の学校に編入して、私にまで近付いたのは一体どういうことだったのだろう?
  やっぱり、
  
  
  涼太に対して、何かあったからなのではないだろうか?
梓「涼太を・・・ 憎んでるの?」
  彼は何も言わずにベッドに座った状態で、こちらを見ていた。
  その視線に耐えられずに目を伏せる。
梓「涼太のお母さんとも、 寝てるんでしょう?」

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