少年は灰になる(脚本)
〇学食
大学の食堂─
「次は、エイリアン飛来情報です」
「昨日の東京の飛来件数は3件、ヒーローの迅速な対応で、犠牲者は出ていません。」
「次のニュースです。港頭区の商業施設で火事が・・」
灰谷明人「もぐもぐ・・」
灰谷明人「・・昔さ、火事からヒーローに助けて貰った事があって」
水川健「灰谷おまえ・・・」
水川健「それ聞くの今年で5回目なんだけど、勘弁してくれよ~」
灰谷明人「あぁ、ボーっとしてた」
水川健「さてと、俺はもう食べ終わったし、 3限は別校舎だから行くね」
水川健「お前は今日は2限までで直帰だっけ?」
灰谷明人「おう、新作のインクラッシュ3の試射会が今日だからな!」
水川健「はは、相変わらずゲーム好きだなー」
〇学校の駐輪場
(ガチャガチャ・・・)
灰谷明人「今日は飛ばして帰るぞ~」
〇高級住宅街
住宅街の中を自転車で走っていると、
どこからか救急車と消防車の音が聞こえてきた
灰谷明人「ん?近くで火事が?」
灰谷はきょろきょろと辺りを見回す
灰谷明人「・・!煙だ」
〇一戸建ての庭先
火事現場──
家が燃え、辺りに煙が漂っている。
灰谷明人「燃えてる・・・」
〇炎
ボオオオオ
灰谷「すごい火だ・・・」
家に入ろうとする女性を、消防隊員が止めている
「女性「ああ、卓也が居ないんです!きっとまだ2階に・・」」
灰谷「・・・・」
「消防隊員「ん?」」
「おい君、待て!もう少しでヒーローが来るんだ・・」
「待ちなさい!おーい!」
・・・
その日の夜─
〇病室のベッド
病室─
「灰谷「う・・」」
「灰谷「病院?さっきまで火事を見てて・・」」
「灰谷「身体が動かない」」
全身にガーゼや包帯が巻き付けられている
「目覚めたか」
「灰谷「誰?俺、どうなってんの・・・」」
「君は全身に重度のやけどを負っていた」
「視力も顔も、指の神経も 元には戻らないそうだよ。 灰谷明人くん」
灰谷は自分の手を見ようとするが、力が入らない。
指も動かせない。
灰谷明人「うそだ・・ああ・・」
「君が助け出した子は、ほぼ無傷だったが」
灰谷明人「俺が助けた?」
「君は燃えている家に飛び込み、二階で泣いていた小さい子を、自分の身体で火から守って救出したそうだ」
灰谷明人「覚えが無いんだけど・・」
「ヒーローが駆けつけた頃には 家は崩れ落ちていたそうだ。 英雄だな」
灰谷明人「それでこんな事に・・バカだ俺・・」
「これが現実だ。さて、君には2つの選択がある」
???「後遺症を抱えたまま生きるか、 身体の機能を取り戻すかわりに、怪人となって生きるかだ」
灰谷明人「怪人?よくヒーローと戦って倒されてるあの?」
???「そうだ」
???「ヒーローの訓練と広報のため、 怪人は普段やられ役を演じているが」
???「裏ではともにエイリアンの駆除や人助けをしている」
???「ヒーローだけでは手が回らないからな」
灰谷明人「あんたも怪人ってこと?」
???「そうだ」
ジーク「俺はジーク。この区の怪人をまとめている」
ジーク「怪人になれば、国から衣食住の全てが支給され、給料も出るぞ」
灰谷明人「給料・・」
灰谷明人「わかった、なるよ・・」
ジーク「躊躇がないな」
灰谷明人「このまま後遺症と生きるより・・・」
灰谷明人「人助けする仕事なら、姿が変わっても親も許してくれそうだし」
ジーク「俺達の功績はテレビに取り上げられないが、一緒に社会の役に立とうじゃないか」
灰谷明人「ああ・・」
灰谷は気を失った。
〇施設の廊下
目愚路区・怪人寮─
ジーク「寮長さん。新人が今日からお世話になります」
「え、ここは・・」
ジーク「目が覚めたか、灰谷くん。 もう改造は済んだぞ」
「お・・指が動く・・! 凄い、視力2.0だ。俺・・どんな姿に」
灰谷はガラスを見る
灰谷明人「!!これが、俺の怪人の姿・・」
ジーク「一生その姿だ。馴染んでるみたいだな」
灰谷明人「意外とかっけぇ・・・」
ジーク「・・・・」
灰谷明人「ジークさんそんな姿だったんですね」
ジーク「さあ、寮長さんに挨拶しな」
灰谷明人「あ、ハイ」
窓口には誰も居ないが、
寮長?の気配だけがある
灰谷明人「透明なんすかね・・?よろしくお願いします、灰谷です」
「寮長「君、いい素養を持ってそうだね・・」」
灰谷明人「え?」
ジーク「ふふ、そうでしょう。 さて灰谷君、鍵は貰ってある。503号室だ」
〇本棚のある部屋
怪人寮・503号室─
ジーク「ここが君の部屋だ」
灰谷明人「燃えないか心配なんですが」
ジーク「博士によると、 その炎に見えるものはただの体毛で、 人が触っても安全な温度とのことだ」
灰谷明人「はあ・・」
灰谷明人「俺が契約してた賃貸とか大学とか どうなるんですか?」
ジーク「それは安心していい」
ジーク「大学も賃貸も、関係者に迷惑のかからないように解除される」
灰谷明人「俺の部屋にあった物は捨てられますよね・・」
ジーク「全て回収して倉庫にあるが」
灰谷明人「え!じゃあ」
ジーク「自由に使えるのは一か月後だ。 今は怪人の生活に馴染むことだけに集中しろ」
灰谷明人「はあ・・・」
ジーク「早速明日から訓練がある。 朝7時に広場に集合したまえ」
ジーク「それと、怪人名を考えておくように」
〇基地の広場
怪人寮・運動場─
灰谷明人「ここか・・」
「お前が新入りか!やっとうちの小隊の人数がそろったな!」
灰谷明人「先輩の怪人!」
灰谷明人「よろしくお願いします」
メカック「よろしくな、おいらはメカック。 怪人なりたてだって?怪人名は?」
灰谷明人「アッシュにしました」
メカック「アッシュか・・沢山居そうな名前だな」
ジーク「そこ前を向け! 訓練を始める。新入りは先輩についていくように」
メカック「すいませーん!」
メカック「一つだけ真面目な話しとくぜ・・ 怪人と話す時、過去には触れない方がいいぜ、新人のアッシュ君」
アッシュ「はあ・・」
〇グラウンドのトラック
ジーク「腕立て500回!」
アッシュ「お・・余裕だ!」
ジーク「2000m全力ダッシュ!」
アッシュ「息が切れない・・!」
ジーク「次は飛行訓練だ!飛び方教えてやれ、メカック」
メカック「へい!」
〇基地の広場
30分後──
〇高層ビル群
目愚路区・ビル街の空中─
アッシュ「これが怪人の飛行!」
指定されたルートに沿って
灰谷(怪人名アッシュ)はビル街を滑空している。
アッシュ「思ってたより思い通りに飛べるんだなぁ~」
アッシュ「ん?」
OL「・・・」
ビルの屋上に物憂げな顔をしたOLが立っている
アッシュ「まさか・・」
アッシュ「おーい!OLさーん!早まらないで!」
OL「え?空から声が?」
OL「ぎゃああ怪人!許して!命だけは・・」
アッシュ「死んじゃだめです!生きてればいい事ありますって!」
OL「へ?」
〇高い屋上
OL「もう、思い詰めてなんかないわよ、 タバコ吸いに来ただけ」
アッシュ「本当に危なく見えたんです」
OL「君の顔のせいで心臓止まるかと思ったよ」
アッシュ「すいません・・」
OL「これじゃ仕事が手に付かないわ・・」
アッシュ「すいません・・」
OL「君なんていうの」
アッシュ「灰谷です」
OL「灰谷君?怪人って普通の苗字で名乗るのね」
アッシュ「しまった、いやちが・・」
荒川瑞樹「いい、灰谷君で覚えちゃったから。 私は荒川瑞樹」
荒川瑞樹「なんか君、髪は熱くないみたいだけど・・ 火出せそうね、ほい」
瑞樹はタバコを灰谷の目の前につき出す
アッシュ「そうっすよね・・」
アッシュ「うーん・・・こうかな?」
灰谷は火を出そうとするが、何も起こらない
荒川瑞樹「・・・・」
アッシュ「すいません、昨日なったばかりで 出し方分からないっす・・」
荒川瑞樹「うちの新人ちゃん以上にポンコツね」
アッシュ「力仕事なら任せて貰えると思うんですけど・・」
荒川瑞樹「ええ、その時は任せるわ」
荒川瑞樹「ねえ怪人ってさ、先輩とかいるの?」
アッシュ「なんか、俺を怪人にした人が皆を率いてて、 俺は先輩達と一緒に訓練を受けてます」
荒川瑞樹「へー、体育会系の部活みたいね、知らないけど」
アッシュ「かもしれないです。はは」
荒川瑞樹「ん?待って何あれ・・」
灰谷の背後に何かが落ちてきた
アッシュ「え?」
ギョオオオ!
アッシュ「な、なんだぁ!?」
荒川瑞樹「エイリアン!?」
水もしたたるエイリアンがうねうねと近づいてくる
荒川瑞樹「気持ち悪ぅ」
アッシュ「弱そうだけど・・ でも普通の人じゃ危険だ!」
アッシュ「瑞樹さん、早くビルの中に入って 安全な場所で警察に通報してください!」
荒川瑞樹「わかった!」
背を向けて走り出した瑞樹を、エイリアンが触手で捕まえようとする。
灰谷はそれを弾こうとするが、思ったより重さがある
アッシュ「この・・・」
灰谷はなんとかエイリアンの攻撃を食い止めた。
エイリアン「ギョオ・・・」
アッシュ「どうすりゃいいんだ!俺! 怪人パワーで炎とか出せないのか!」
エイリアン「ギョアー!」
灰谷は壁に叩きつけられた!
アッシュ「ぐあっ」
アッシュ「くそ・・何か・・」
アッシュ「ん・・手首に宝石が・・中で何かが揺らいでる・・」
〇炎
アッシュ「この宝石の中、山火事だ・・」
アッシュ「小さい時、ヒーローに助けて貰った時の景色・・」
アッシュ「火遊びしてて、気づいたら火に囲まれてたんだっけ」
アッシュ「小さい火だったのに、1時間以上も見つめてて、気づいたら・・」
アッシュ「そうだ、昨日子供を助けようとしたときも」
アッシュ「家に入って子供部屋に着くまでの間、壁が燃えてるのを眺めてたせいで」
アッシュ「子供部屋に到着する頃には既に俺は手遅れ・・」
アッシュ「子供部屋は燃えてなかったから、直行してたら問題なかったんだ」
アッシュ「火をみるといつも意識飛ぶけど、火が好きなんだな俺・・」
アッシュ「もっと燃えろ・・」
アッシュ「もっと・・」
〇高い屋上
エイリアン「ギョ!」
うずくまっている灰谷を排除しようと、
エイリアンは触手で掴みにかかる
その時、灰谷の身体が突然燃え出した!
アッシュ「燃えろ・・もっと・・!」
アッシュ「燃え広がれ!」
アッシュ「あちち!俺の身体が燃えるのか! じいちゃん家の風呂ぐらい熱い!」
アッシュ「いいや、覚悟しろエイリアン!」
アッシュ「ファ・・ファイアタックル!」
エイリアン「ギョワ!」
エイリアンは回避したが、灰谷の炎を嫌がっている
アッシュ「怖がってる動きだ! これならヒーローが来るまで時間が稼げるぞ!」
アッシュ「おらぁー!逃がすか」
プシュー
アッシュ「あ、あれ!?急に体が・・燃料切れか・・」
灰谷はその場で立ったまま気を失った
30分後──
アッシュ「う・・」
荒川瑞樹「あ!起きた!」
アッシュ「よかった無事で・・どうなりました?」
荒川瑞樹「ヒーローが来て駆除してくれたよ。 君は・・立ったまま気絶してたね・・」
アッシュ「・・・」
荒川瑞樹「でもヒーローが来た時、エイリアンはしわしわになって動けなくなってたって」
荒川瑞樹「火が出せたんじゃないの?」
アッシュ「確かに火は出せました・・身体が燃えただけですけど」
荒川瑞樹「まあ一歩ずつスキルを上げればいいのよ。 はあ、新人ちゃんのことも怒らず見守らないと・・」
アッシュ「先輩も大変なんすね・・」
メカック「おおーい!アッシュー!」
荒川瑞樹「え?また空から声が?」
メカック「おおっ!カワイ子ちゃ」
荒川瑞樹「うええー!ごめんあんたは無理!」
メカック「そ、そんな・・」
メカック「とにかく、ジーク隊長が呼んでるぞ!」
アッシュ「えっ!もしかしてサボってると思われてる・・?」
荒川瑞樹「そりゃヤバイね。ここはもう大丈夫だから、帰りなよ」
荒川瑞樹「ありがとね、アシュ谷くん」
アッシュ「う、、次はアッシュって呼んでください!また!」
〇魔王城の部屋
ジーク「来たか」
メカック「あの隊長・・」
ジーク「エイリアンの件は知っている」
メカック「よかったっす!失礼します」
ジーク「・・・」
ジーク「初日からエイリアンと戦うとは運がいいじゃないか」
アッシュ「はあ・・」
ジーク「さて、君に人探しを手伝ってもらいたい」
アッシュ「これは・・怪人のプロフィール? 名前は、バーナードさん」
アッシュ「・・!このマント、このぼさぼさ頭!」
アッシュ「小さい頃俺を助けた・・ヒーローだと思ってた、怪人だったんですか!?」
ジーク「そうだ。俺の同期だ。数年前に失踪した」
ジーク「バーナードも君と同じく、火を見るのが好きな奴だった・・」
ジーク「怪人は、人間の時の本能に関連する力が手に入る。 火を求めるお前は、火を操れるし、火の熱さをものともしない」
ジーク「一度捕まえる寸前までいった事がある。 その時逃したのは、あいつが火の海の奥深くに逃げたからだ」
ジーク「だが君の力があれば・・」
ジーク「バーナードの功績は大きい。 再改造を施して復帰させたいんだ。協力してくれるか」
アッシュ「・・・」
その日から、命の恩人を探すミッションが始まった。
〇炎
少年は灰になる
完
灰谷が子供の頃の火事の話を繰り返していた伏線が見事に回収されてスッキリ。彼が炎の怪人になるのはある意味運命だったんですね。給料とか寮とか先輩とか、生活感のある怪人の描き方も親近感があって面白い。メカックのキャラがいい人でほっこりしました。
灰屋さんの記憶にあったヒーローが実は怪人だったということにびっくり!
火を操れる怪人でないと恩人探しが出来ないとは…あった時アッシュは何を思うのでしょう?
子供の頃に怪人に助けられた記憶が、彼の人生を左右させたかのような展開がとても興味をひきました。灰谷君はそのヒーローのような怪人を見つけられた時どうなってしまうのか楽しみです。