いじめられっ子・悠太の戦略

Saphiret

エピソード1(脚本)

いじめられっ子・悠太の戦略

Saphiret

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〇荒れた倉庫
鈴木悠太(すずきゆうた)「開けて! 開けてくれよう!」
  しまった、と思った時にはもう遅かった
  すぐ後ろで閉まったドアの向こうから金丸たちの笑い声が聞こえてくる。
金丸剛史(かなまるつよし)「はっ、鈴木ってばもう泣いてんじゃね? ホントだっせーな」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「しっかりしろよー! ここからが肝試しの本番なんだからな、お前ひ・と・り・の!」
黒木翔平(くろきしょうへい)「呪われてボツラクした地主の幽霊が出るなんてスリル満点だろ?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「そんな、ひどいよ!」
金丸剛史(かなまるつよし)「うるせーぞ! 助けてほしかったら言う通り金持ってこいよ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「・・・わかってるだろ、 じいちゃんにそんなこと言えないよ」
金丸剛史(かなまるつよし)「じゃあ、さっさと部屋の中をひとまわりしてこいよ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「う・・・」
  恐る恐る部屋の奥をふり向いて懐中電灯をかざしてみる
  じいちゃんの食堂と同じくらいの部屋の大きさだ。
  やぶれた壁紙やゴミがちらかっている
鈴木悠太(すずきゆうた)(・・・怖い)
鈴木悠太(すずきゆうた)(でも、あいつらに渡すお金なんかうつにはないし・・・)
  ぼくはなんとか足をふみ出した
鳥飼圭人(とりかいけいと)「なあ、あいつできると思う?」
黒木翔平(くろきしょうへい)「いやあ、むりでしょ」
金丸剛史(かなまるつよし)「ダメなら今までどおり俺たちの家来だし、もしできたら・・・」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「できたら?」
金丸剛史(かなまるつよし)「噂の呪いをかんさつできるぜ」
黒木翔平(くろきしょうへい)「金丸くん、こわっ」
  何歩か歩いたところで、
鈴木悠太(すずきゆうた)「わっ!」
  何かを踏んずけて、あわてて懐中電灯を当てると小さな木箱の蓋が外れていた
鈴木悠太(すずきゆうた)「なんだ、箱か・・・」
「ううう・・・」
  木箱から声がした
鈴木悠太(すずきゆうた)「えっ、なに!?」
  おもわず木箱を見つめると、そこから黒いけむりのようなものがむくむくとあふれてくる
鈴木悠太(すずきゆうた)(えっ、ええっ!)
  けむりの中から大きな怪人があらわれた!
ダーサ「俺を、呼び覚ましたのは・・・誰か?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「うわあああああ!」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「今、なんか声しなかった?」
金丸剛史(かなまるつよし)「鈴木の悲鳴だろ」
黒木翔平(くろきしょうへい)「いや、悲鳴の前に何か・・・」
鈴木悠太(すずきゆうた)「助けて! 何かいる! マジでここ開けて!」
ダーサ「待て小僧、聞きたいことがある」
鈴木悠太(すずきゆうた)「いやだ、こっち来ないで!」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「えっ!」
黒木翔平(くろきしょうへい)「・・・本当におばけがいるのか?」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「金丸、どうする?」
金丸剛史(かなまるつよし)「あんなのきっと鈴木の演技だ」
黒木翔平(くろきしょうへい)「えっ、そんなふうには・・・」
金丸剛史(かなまるつよし)「うるさい、俺がそうだと言ったらそうなんだ」
金丸剛史(かなまるつよし)「帰るぞ。 鈴木の演技になんかにだまされるもんか」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「え・・・このままってまずくね?」
金丸剛史(かなまるつよし)「イヤなら鳥飼は残ってもいいんだぜ」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「いや、それは・・・」
金丸剛史(かなまるつよし)「黒木も気になるなら鈴木に付き合ってやれよ」
黒木翔平(くろきしょうへい)「いや、そこまでの義理ないし」
金丸剛史(かなまるつよし)「行くぞ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「やめて、離して!」
  その怪人はぼくの言うことを全然聞いてくれず、どんどん寄ってきて僕のえりくびをつかんだ
  そしてむりやり向き合わされた。
  怖くてもう声にならない
鈴木悠太(すずきゆうた)「うっ、ううっ・・・」
ダーサ「永きの眠りからよく解き放ってくれたな」
鈴木悠太(すずきゆうた)(えっ?)
  怪人はにいっと笑って
ダーサ「前のあるじの命運が尽きてからほどなく封印されたのよ」
ダーサ「縛りを解いてくれた返礼に貴様の願いをかなえてやろう。 望みはなんだ?」
鈴木悠太(すずきゆうた)(何だろう? 殺されるんじゃないみたい・・・?)
ダーサ「俺を窮屈な封印から解いたのは大手柄だ。 その褒美と思っていいぞ」
  怪人の大きな手が僕の頭に近づいてくる
鈴木悠太(すずきゆうた)(ひっ・・・!? あれ?)
  思わず首をすくめたのに、怪人は意外と優しく頭をなでた
鈴木悠太(すずきゆうた)「あのう・・・」
ダーサ「我が名はダーサ。 呪詛をまとい、最強の悪鬼としてあがめられたもの」
鈴木悠太(すずきゆうた)「ダーサ・・・」
ダーサ「封印を解きし者、お前の名は?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「あ・・・ぼくは鈴木悠太、です。 あの、望みを叶えてくれるって言いました?」
ダーサ「いかにも。 望みを言ってみろ」
  望み、願い事・・・
  思い浮かんだのは1つ
鈴木悠太(すずきゆうた)「あの、金丸たちをやっつけてくれませんか?」
ダーサ「かなまる?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「ぼくをいじめてるいじめっ子です。 ここに無理やりつれてきて、今もそのドアの向こうにいるはず・・・」
  するとダーサは何も言わず人差し指をぼくのおでこに当てた
ダーサ「かなまる、とりかい、くろき・・・だな?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「あっ、はい。そうです! わかるんですか?」
  すごい、超能力みたい!
ダーサ「かなまるらはもうここにはいない」
鈴木悠太(すずきゆうた)「えっ!? そんな、おいていくなんてひどい、ひどすぎるよ!」
ダーサ「安心しろ。 すぐ追いつく」
  するとダーサはぼくを抱えて肩にかついだ
ダーサ「行くぞ。 しっかりつかまっていろ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「わっ!」

〇住宅街
  金丸たちは屋敷を後にして帰り道を急いでいた
金丸剛史(かなまるつよし)「おい、今夜のことは誰にも言うなよ」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「う、うん・・・ 俺たち、怒られないよな?」
黒木翔平(くろきしょうへい)「だってそもそも、あいつが嘘の演技をして俺たちをだまそうとしたのが悪いんだもんな」
金丸剛史(かなまるつよし)「そうだ。鈴木に何かあっても、あいつの悪ふざけのせいだ」
  と、その時、金丸たちの前に一陣の風が吹いた
金丸剛史(かなまるつよし)「な、なんだ!?」
ダーサ「小僧、ここまでだ」
金丸剛史(かなまるつよし)「なんだ、こいつ!?」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「うわああ!」
黒木翔平(くろきしょうへい)「まさか、あの屋敷の幽霊・・・!?」
ダーサ「幽霊ではない 主の命により参上した」
ダーサ「この者らの息の根を止めるので良いのだな?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「・・・うん、そう。 やっつけちゃって」
金丸剛史(かなまるつよし)「鈴木・・・! お前、どうして・・・ってか何だよ、これ」
  ぼくにつかみかかろうとする金丸をダーサがやすやすと突き飛ばす
金丸剛史(かなまるつよし)「・・・ってえ。 ひえっ!」
  金丸が体制を立て直す前に素早くダーサがその首を片手でつかまえる
金丸剛史(かなまるつよし)「ぐええ!」
鳥飼圭人(とりかいけいと)「イヤだ、こんなの! 俺は関係ないからな!」
黒木翔平(くろきしょうへい)「あ・・・あ・・・!」
  ダーサは逃げだそうとする鳥飼に足払いをかける
鳥飼圭人(とりかいけいと)「うわあ!」
  驚いて固まっている黒木に空いている方の手をかざすと、とたんに力が抜けたように傍にひざまづいた
鈴木悠太(すずきゆうた)(すごいや! 金丸も鳥飼も黒木も、上級生でもかなわないのに!)
  ダーサの力は強力で、首を掴まれたまま持ち上げられた金丸の顔が真っ赤になっていく
鈴木悠太(すずきゆうた)(え、ホントに死んじゃいそう・・・)
ダーサ「とどめを刺してよいのだな?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「・・・あ、う、うん・・・」
金丸剛史(かなまるつよし)「す、鈴木、助けて・・・ 助けてくれよう!」
鈴木悠太(すずきゆうた)「・・・い、今までさんざん僕をいじめてきて、今さらなに?」
金丸剛史(かなまるつよし)「わ、悪かった。許してくれ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「信じないよ」
金丸剛史(かなまるつよし)「嘘じゃない、 ほ、本当はただお前がうらやましかっただけなんだ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「えっ? なに・・・それ」
金丸剛史(かなまるつよし)「お前は俺と同じ、親がりこんしてるのに爺ちゃんにあんなに可愛がられていて・・・」
金丸剛史(かなまるつよし)「だからうらやましくって、それで・・・」
鈴木悠太(すずきゆうた)(そんな理由・・・?)
ダーサ「いつまで話している? そろそろ終わりにするぞ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「待って!」
  思わずダーサの腕を掴んでいた
鈴木悠太(すずきゆうた)「金丸」
金丸剛史(かなまるつよし)「・・・な、なんだ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「お前を助けてやってもいい」
金丸剛史(かなまるつよし)「ホントか!? はやく、こいつを止め・・・て、 でないと・・・死・・・」
鈴木悠太(すずきゆうた)「ただし、条件がある」
鈴木悠太(すずきゆうた)「お前には何度もだまされてきた。 だから信じることはできない」
金丸剛史(かなまるつよし)「じ、じゃあ、ど・・・すれば・・・」
鈴木悠太(すずきゆうた)「今後、僕をいじめないのはもちろん、何でも言うことを聞くこと。 守れる」
金丸剛史(かなまるつよし)「・・・な!」
鈴木悠太(すずきゆうた)「ダーサ、やっぱり予定どおり・・・」
金丸剛史(かなまるつよし)「わかった! わかったよ、言うことを聞く」
鈴木悠太(すずきゆうた)「鳥飼や黒木にもしたがわせて」
金丸剛史(かなまるつよし)「もちろんだ お・・・おい、分かったかお前ら!」
  鳥飼も黒木もただ、うんうんと頷いている
鈴木悠太(すずきゆうた)「わかった。じゃあ、ダーサ、助けてやって」
ダーサ「そんな簡単にやめていいのか? こいつらを片付けておいた方がいいんじゃないか?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「いいんだ」
鈴木悠太(すずきゆうた)(本当は金丸が死んだらどうしようって少し怖かったんだ)
ダーサ「ええい、まったく!」
  ダーサはどこか悔しそうに金丸から手を放した
  鳥飼を踏んでいた足をどけ、黒木に向けていた手もおろした
金丸剛史(かなまるつよし)「けほっ、けほっ!」
  3人とも呼吸を整えながら、一目散に駆け出していった
ダーサ「逃して、よかったのか? 話しを聞く限り、片付けておいた方が安心な奴らだぞ」
ダーサ(あるじの望みを叶え、その代償としてあるじの寿命を食らう・・・)
ダーサ(この小僧よりも実は俺にとってせっかくの機会をフイにした)
ダーサ(まあ、こやつの寿命はまだ長かろう。 次の機会を待つか・・・)
鈴木悠太(すずきゆうた)「それはわかってる」
ダーサ「ならなぜ?」
鈴木悠太(すずきゆうた)「ぼく、今日ダーサに出会って気づいたんだ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「最初は怖いと思ったけど強いものを味方につけるっておもしろいなって」
ダーサ「・・・なんと。 意気地なしの小童かと思えば・・・」
鈴木悠太(すずきゆうた)「それは否定できないけど・・・ でもぼく、いくじなしな分、じっくり人を観察するんだ」
鈴木悠太(すずきゆうた)「金丸たちがどんなふうに力を使っているか、そのやり方だけはよくわかってる」
鈴木悠太(すずきゆうた)「ダーサと知り合いになって、いよいよぼくにもその番がきたんだよね」
ダーサ(思ったよりもしたたなガキだ・・・ これは以外と手強いかもしれんわ・・・)
鈴木悠太(すずきゆうた)「これからもよろしくね、ダーサ!」

コメント

  • 思いがけずダークな悠太の思惑にダーサもちょっと怯んでましたね。今まで虐げられてきた人間が反撃に出る時のやり方は、単なるいじめっこたちのやり方とはまた違ってえげつないんじゃないだろうか。今後の展開が楽しみ。

  • 実際死を目の前にすると怖気付くのが人間ですよね。
    にしても子供の年齢でらここまで冷静に考えられるって、本当に末恐ろしい子なのかもしれませんね…。

  • ダーサの登場がなにより嬉しくて頼もしかったです。ダーサの寛大さが鈴木君にも伝わったかのように、簡単に相手を傷つけることをしなかったのはさすがです。

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