罪  恋―TSUMIKOI―

望月麻衣

エピソード3 囚われた体(脚本)

罪  恋―TSUMIKOI―

望月麻衣

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〇ホテルの部屋
  行為を終えたあと、私は大きなベッドに身を委ね、呆けたように高い天井を見ていた。
  長電灯が剥き出しの照明が目に入る。
  
  
  本当にオフィスの天井のようだ。
  ボゥッとしていると彼のスマホが振動した。
  
  
  彼はスッとスマホを手に取り、耳に当てる。
「ああ、今から? 分かったよ」
  と電話を切り、ゆっくりとこちらを見た。
「悪いな、もう出るから」

〇ホテルの部屋
  その言葉に慌てて身体を起こした。
久弥「シャワー使いたかったらどうぞ」
  私が呆けている間、既にシャワーを浴び終えていた彼は、ジャケットを羽織ながらサラリとそう言う。
「ううん、いい。 家に帰ってから、ゆっくりお風呂に入るから」
  そう言って剥ぎ取られた服を一枚一枚手にした。
  快感に溺れて、重くなった身体。
  罪悪感と後悔で重い心。
  そんなものを抱きながら服を身につける。
  しっかりと制服を着てベッドから降りようとした時、
  
  
  唇が重なった。
  甘さにクラリと目眩がする。
  
  
  彼は唇をそっと離し、覗き込む。
久弥「良かったよ、梓のカラダ。 またシよう」
  “カラダが良かった”
  
  
  そんな言葉
  
  
  喜べるものじゃない。
  それでも、そう思いながらも、
  
  
  嬉しく感じてしまっていた。

〇開けた交差点
  二人でオフィスビルを出る。
  
  
  その姿はきっと、いかがわしさを感じさせはしないだろう。
  それでも人目を気にしていると、彼は「それじゃあ」と言い、そのまま停車していた真っ赤なマセラティの助手席に乗り込んだ。
  運転席には、サングラスをかけた綺麗な巻き髪の女性。
  車に乗り込むなり、
  
  
  二人はキスをしていた。
  この時、気付いた。
  
  
  彼は私の常識の範疇を越えた存在なのだと。
  友達の彼女であるとか、
  
  
  私が何を思っているとか、
  そうしたことに囚われずに、自分の本能のままに動いているのかもしれない。
  私は、そんなタチの悪い男の
  
  
  ほんの気まぐれで目を付けられたのだろう。
  そして、まんまと餌食になってしまったんだ。
  本当に、もう彼には関わらない方がいい。
  
  
  私には危険すぎる。
  走り去ってく車を眺めながら、そう思う。
  それなのに、見知らぬ女性とのキスシーンに胸を痛めていた。
  これから彼は、あの彼女とベッドを共にするんだろうか?
  
  
  そう思うと、胸がチクチクと痛む。
  それと同時にベッドでの彼を思い返して、
  
  
  熱を感じていた。

〇空
  それから、数週間。
  何事もなかったように時が過ぎた。
  彼からの連絡は、もうなかった。
  きっと一度限りのお遊びだったんだろう。

〇女の子の一人部屋
  本当に最低だ。
  
  
  最悪の男。
  そう思いながら、何度も何度も、彼との行為が頭の中で再生される。今まで感じたことがない刺激を思い返して、
  身体が疼いて、熱くなる。
  私は火照る体を鎮めるように、自分のベッドに横たわった。
  覆いかぶさって見下ろしていた久弥の冷たいような目が脳裏に浮かぶ。
  口元には、笑みを湛えていて。
  
  
  翻弄する私を楽しむように、律動するんだ。
  そっと、自分の指を敏感な部分に伸ばした。
  そこはショーツの上からでも分かるほどに湿っていた。
  
  
  恥ずかしい、情けない。
  それでも、その指を動かして、
「――涼太とシてる時の顔を見せて?」
  そう言いながら、強く打ちつけた久弥のことを思い出しながら、
  
  
  
  私は果てた。
  こんな風に自分を慰めたことは初めてのことで、
  
  
  色んな感情がぐちゃぐちゃになって、気が付くと涙を流していた。
「良かったよ、梓のカラダ。またシよう」
  頭の中に響く、あの言葉。
  本当は認めたくない。
  
  
  
  けれど、もう誤魔化せない。
  私は、彼からの連絡を待っていた。
  
  
  
  心も体も泣きたいくらいに、彼を求めていた。

〇空
  それでも、私から電話をかけるなんてことは出来ず、
  『もしかしたら、涼太の家でまた会えるかもしれない』
  
  
  そんな淡い期待を抱きながら、学校帰り涼太に電話をした。
  今日は部活が休みだと聞いていたから、もしかしたら、また友達が集まっているかもしれない。
  その中に、彼が・・・・・・瀬尾久弥がいるかもしれない。
  ドキドキしながら電話を耳に当てていると、
「あ、もしもしー、梓ちゃん?」
  と明るい涼太の声が耳に届いた。
  
  
  それと同時に涼太の背後でワイワイと騒ぐ友人達の声も聞こえて来た。
梓「ねぇ、涼太、今家? 帰りに遊びに行ってもいい?」
  ドキドキしながら尋ねると、
「うん、いいけど、友達いっぱい来てるけどいい?」
  涼太はすまなそうな声を出す。
梓「うん、ぜんぜん。 涼太の顔見たくなっただけだから」
  平然とそんな嘘をつく私は、最低な女だ。
「やだな、梓ちゃん。 マジ浮かれちゃうでしょ」
  そんな私の嘘に、涼太は心底嬉しそうな声を上げていた。
  胸が痛んだけれど、
  
  それでも、彼に会えるかもしれないという期待は拭えずに、足早に涼太の家に向かった。

〇学生の一人部屋
  いつものように涼太の家に上がり、
  
  二階の部屋のドアをノックしてから開けた。
  部屋には、涼太とその友達が3人。
  その中に瀬尾久弥の姿があり、バクンと鼓動が跳ね上がった。
涼太「いらっしゃい、梓ちゃん」
  涼太が嬉しそうな声を上げると、
「涼太、露骨に嬉しそうな声出してんなよ」
  と友達たちが冷やかした。
  
  
  そんな中、瀬尾久弥は壁にもたれて座り、こちらを見て口角を上げ、私を見ている。
涼太「仕方ねーだろ、梓ちゃん、学校や塾が忙しくて、なかなか会えてなかったんだから」
  ムキになった涼太を前に、瀬尾久弥が小さく笑った。
久弥「それなら俺達は遠慮して帰ろうか」
  と皆を見て言う。
  
  
  すると他の友人たちも、そうだな、と頷いて立ち上がった。
涼太「あ、おい、みんないいのに」
梓「私のことは、気にしないで」
  私も慌てて言うも、皆は「いやいや」と笑った。
「俺らは毎日学校で会ってるんで」
「梓ちゃん、今度ガッコーの友達紹介して」
  そんなことを言いながら部屋を出て行く。
  なんだか悪いな、と涼太は言いながら、皆を見送るべく、部屋を出て行った。

〇学生の一人部屋
  また、部屋に残された私と瀬尾久弥。
  壁にもたれて座っていた彼は、ゆっくりと立ち上がり、カバンを手にした。
  着崩した制服のブレザーが悩ましく、
  
  
  何を言っていいか分からずに目をそらしていると、
  彼は、背後から私の首筋に唇を当てた。
  
  
  突然の刺激に「あッ」と声が洩れる。
久弥「感度いいな。欲求不満?」
  ふっ、と笑って、尋ねる。
  
  
  その言葉に頬が熱くなった。
久弥「これから涼太とするんだろ? 盛り上げさせてやろうか?」
  耳元でそう囁いた彼に、言葉の意味が分からず、「えっ?」と私は眉根を寄せる。
  彼はスカートの中に手を入れ、ショーツをつかみ、
  
  
  ほら、脚上げろよ、
  
  
  と、ほぼ強引にショーツを剥ぎ取った。
梓「なっ、なにするの?」
久弥「彼女が何もつけずに部屋に来たとなったら、涼太は大興奮だな」
  彼はクックと楽しげに笑って、そのまま部屋を出て行った。
  し、信じられない。
  私が呆然としていると、
  
  
  涼太が嬉しそうに部屋に戻って来た。
涼太「梓ちゃんっ」
  そう言って強く抱き締めた勢いのまま、私をベッドに押し倒した。

〇学生の一人部屋
  そのまま行為に及ぼうとする涼太に、
梓「りょ、涼太、駄目!あの、私・・・・・・」
  下着を取られて、履いてないの!
  
  
  お願い、気付かないで!
  そう思った時には遅く、
  
  
  捲し上げられたスカートから、何も着けていない下半身が涼太の目に止まり、
  涼太は動きを止めた。
涼太「どうして、なにも履いてないの?」
  心底、純粋に驚きの声を上げる涼太に、バクバクと心臓が音を立てる。
  
  
  どうしよう。
  
  
  どうしよう。
梓「友達とふざけて罰ゲームごっこをしてね、下着を履かずにカレシの家に行ってすぐ帰って来るって罰ゲームをしなきゃならなくて」
梓「だ、だから、今日は本当に顔だけ見て、サッと帰るつもりだったの」
  しどろもどろに、真っ赤になりながら言った。
  
  
  咄嗟に作った嘘にしては、信憑性があるかもしれない。
涼太「梓ちゃん、それは学校でイジメに遭ってるとか、そういうんじゃなくて?」
  と涼太は心配そうに、こちらを見た。
梓「あ、うん、そんなんじゃない。ただの悪ふざけ」
涼太「それなら良かった、何かあったら言ってな。力になるし、絶対に守るから」
  そう言ってギュッと抱き締める。
  
  
  涼太は本当に真っ直ぐで優しい。
  そこが『好き』だと、ずっと思っていた。
  
  
  今も、好き。
  
  
  だからこそ、胸が苦しい。

〇学生の一人部屋
涼太「にしても、野郎ばっか集まってるところに、梓ちゃん、そんな状態で来たりしないでよ。見られたらどうするの?」
  もう安心したのだろう、
  
  
  いつもの明るい口調で、そう言った。
梓「う、うん、だから、すぐ帰るつもりでいたし」
涼太「駄目、すぐなんて帰さない。 こんな梓ちゃん、エロすぎだって」
  そう言って制服を脱がさず、スカートだけをまくしあげる。
涼太「って、梓、こんなに・・・」
梓「りょ、涼太。ほんとにもう帰るから」
涼太「駄目、ベッドに手をついて」
  半ば強引にベッドに手をつかされると、涼太はまるで犬のように後ろから舌を伸ばして舐めた。

〇学生の一人部屋
  久弥とは違う、涼太の少し荒っぽいような舌使い。
  それでも私は、以前よりもずっと感じてしまっていた。
  久弥に身体を変えられてしまったのかもしれない。
  興奮からぎこちなくなっている指も、舌も、荒い息も。
  
  
  久弥と違っていて、
  それが逆に久弥を意識させて、今までになく喘いでしまう。
「梓、もう、我慢できない。ナカ、入るから」
  後ろからグッと入って来た涼太。
  
  
  スカートは身に着けたまま。
  
  
  獣のように、激しく打ち付ける。
「・・・梓ッ、梓!!」
  パンパンと強く打ちつける刺激に、意識が遠くなりそうだった。
  もっと強く突いて。
  こんな最低な私を
  
  
  いっそ、壊して欲しい。

〇学生の一人部屋
  そして、涼太に激しく抱かれながら、
  こうなることを瀬尾久弥は望んでいるのだろうと、切なく胸が締め付けられる。
「梓ッ・・・、も、駄目」
  ビクンと体を震わせて、涼太は果てた。
  思えば涼太の行為は、彼に比べていつも『余裕』がないのかもしれない。
  いつも必死で私を求めて来る。
  
  
  それが嫌だったわけじゃない。
  だけど正直、『早く終わらないかな』と思うことがあった。
  今日のように本気で感じたのは、
  
  
  初めてだった。

〇学生の一人部屋
涼太「・・・なんか、すげー興奮しちゃったかも。梓ちゃんもすごかったし」
  行為を終えたあと、涼太は熱っぽく洩らす。
  
  
  私が何も言わずにいると、
涼太「ごめんね? 嫌じゃなかった?」
  と涼太は心配そうにこちらを見た。
  可愛らしさを感じさせる
  
  
  小犬っぽい男の子。
  そんな涼太の様子に、胸が痛んだ。
梓「嫌じゃなかったよ」
涼太「良かった、梓ちゃん、大好き」
  そう言ってギュッと抱き締めてきた。
  本当に優しくて、温かくて、素敵な彼氏だと思っている。
  
  
  不満なんてないのに・・・。

〇学生の一人部屋
  しばし部屋でまどろんでいると、
  
  
  私のスマホが振動した。
  瀬尾久弥からの着信だ。
  
  
  登録はしていないけれど、番号を覚えてしまっていた。
梓「は、はい」
  と小声で出ると、
「もう、終わった?」
  少し楽しげな声が耳に届く。
  何も言えずにいると、
「下着、返すから、帰りに来てくれよ」
  それだけ言って彼は電話を切った。
  行かなきゃいい。
  
  
  こんなの、無視したらいい。
  それなのに、
  
  
  私は急かされるように帰り支度を始めていた。

〇開けた交差点
  涼太に簡単に、またね、と別れを言って、
  
  
  久弥の住む駅前の大きなビルへと急いだ。
  そこに走り出したいような気持ちを抑えながら、やや早足で歩く。
  近付いてくるビルのシルエットにドキドキと鼓動が早鐘を打つ。
  
  
  更に歩調を速めた時に、
「梓ちゃん?」
  と突然声をかけられた。
  
  
  驚いて顔を上げると、そこには涼太のお母さんの姿があった。
梓「あっ、涼太ママ」
「今帰りなの?」
梓「はい。これから帰るところで・・・」
  バばつの悪さに語尾が小さくなる。
  私を可愛がってくれているカレシのお母さんに嘘をついて、
  
  
  他の男の元に向かっている。
「そう、今度また遊びに来てね」
  私は、はい、と会釈をして、逃げるようにビルに向かった。
  罪悪感に圧し潰されそうなのに、
  
  
  どうしようもなく
  
  
  
  彼に、会いたい。

〇高層ビル群
  目を閉じて、耳を塞ぎたいような気持ちで急ぎ、ビルに入った。
  オフィスビルに女子高生の姿は、違和感がある。逃げるようにエレベータに滑り込んで、すぐに最上階のボタンを押した。
  上昇していくエレベータの中、
  はぁ・・・と息をついて壁にもたれる。
  もうすぐ、彼に会える。
  エレベータの扉が開き、そのまま通路を歩いて、久弥の部屋の前で足を止めた。
  ドキドキしながらインターホンを押すと、
  
  
  少しの間のあとカチャリと扉が開いた。
久弥「いらっしゃい」
  彼はニコリと微笑んで、私を部屋へ入れた。

〇ホテルの部屋
  彼の姿に驚いた。
  
  
  ラフなシャツを着ていて、あらわになった首筋には行為の印の赤い痕がついている。
  ベッドは綺麗に整えられていたけれど、
  
  
  一目で、彼がつい先程まで誰かと寝ていたことが伝わってきた。
久弥「こうして、ちゃんと来て・・・・・・ イイ子だな、梓」

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