怪人と幼女(脚本)
〇霧の立ち込める森
いたぞ、撃てーーッッ!
???「──ッ」
???「人間は、身勝手だ」
???「勝手に我を生み出しておいて、今度は我の命を狙うなど・・・」
???「我は何のために生まれてきた。 人間は何のために我を生み出したのだ」
???「──・・・」
〇森の中
・・・大丈夫?
ねえ、ねえってば!
???「・・・誰だ?」
ゆな「あ、よかったー! やっと目を覚ました!」
???「・・・人の子か。 我に構うな、今すぐに帰れ」
ゆな「ふふん、やーだよー。 おにいさん、怪我してるでしょ。 ゆながちりょーしてあげる!」
???「余計なお世話だ! 自分のいるべき場所に帰れ!」
ゆな「えっへん、おにいさんがなんと言おうと、わたしはおにいさんを助けるよ」
???「か、勝手に触るな!」
ゆな「そんなに怒らないで。 わたしはおにいさんと仲良くしたいんだから」
???(この小娘、何を考えているのだ・・・?)
???(今の我には抵抗できる体力もない、されるがままになるしかないか・・・)
???(初めてこんな風に触れられた。 我に触れる手の力があまりにも弱い)
???(それでいてどこか、温かいような・・・)
ゆな「よし、できた!」
???「小娘の割には手慣れているな」
ゆな「えへへ、そうでしょ! だってそうなるように「作られた」んだもん!」
ゆな「なんて言ったって、私は医療サービス専用AI、「ゆな」なんだよ!」
???「AI!? ならば、お前は人間に作られたモノなのか!?」
ゆな「うん!」
ゆな「おにいさんもそうなんでしょ?」
ゆな「人に作られた怪物・・・ そしてこの傷は、人にやられたもの」
ゆな「私も人に追われてるの。 絶対1人より2人の方がいいから・・・」
ゆな「一緒に逃げよう、おにいさん!」
〇森の中
???「逃げるとは言っても、どこに逃げるのだ」
ゆな「うーん・・・ 私は医療用AIだから、ここがどこかも分からないし・・・」
???「目的もなくただ歩くしかないのか」
ゆな「ねぇ、おにいさん。 おにいさんは、何のために人に作られたの?」
???「我には分からない。 目が覚め自我が芽生えた頃には、我は命を狙われていた」
ゆな「そっか・・・」
???「むしろ、お前なら何か分かるんじゃないかと少しばかり期待していた」
ゆな「え!?」
???「先程、治療の際に我の体の構造を見ただろう。 人間と関わることが多いお前なら、何か分かるものと思っていた」
ゆな「そうだね。 確かに医療現場で使われていたから、人と関わる機会は多かったし」
ゆな「おにいさんの体に埋まってた銃弾からも、何か分かるかも」
ゆな「これから、わたしの想像で話してもいいかな?」
???「ああ、いいだろう」
ゆな「ありがとう!」
ゆな「おにいさんに撃ちこまれた銃弾は、特殊なものだったんだ。 ふつうの銃弾よりずっと力が強い、キケンな銃弾」
ゆな「それに、見た目とその話し方。 相手に威圧感を与えるように作られてるんだと思う」
ゆな「おにいさんは、すっごく強い戦闘用モデルなんじゃないかな」
???「成程。 ではなぜ我は命を狙われるのだ」
ゆな「それは分からない・・・ごめんね」
???「いや、問題ない」
???「戦闘用モデル・・・か」
「!!」
ゆな「おにいさん、かくれて!」
隊員「見つかりませんね、医療用AI「ゆな」の106番」
隊員2「そうだな。 この付近では「アトラス」の逃亡もあったそうだ。 十分気をつけろよ」
隊員「はい!」
???「・・・行ったか」
???「── どうした、小娘?」
ゆな「・・・わたし、あの人たちに捕まったら殺されちゃう」
???「どうしてだ?」
ゆな「わ、わたし・・・ 患者さんの手術、失敗しちゃったの・・・」
ゆな「わたし、欠陥があったみたいで・・・ 精密な動作が、上手くできなくて・・・」
ゆな「人を、殺しちゃったの・・・!」
???「それで、お前は死刑になるのか」
ゆな「・・・人間だったら、ならないよ。 でも、わたしたちはただの機械だから」
???「やはり、人間とは愚かなものだな」
ゆな「ううん、そんなことない!」
ゆな「人の中でも、優しくしてくれる人だっていたんだもん! みんながみんなひどいわけじゃないよ!」
???「このような不当な扱いを受けても尚、お前はそう言うのか」
ゆな「うん! もちろん辛いこともあるけれど・・・」
ゆな「でもね、ちりょーができたとき、いろんな人が笑って「ありがとう」って言ってくれたんだ」
ゆな「わたしは、その人たちの笑顔を信じてる!」
???「・・・そうか」
隊員2「見つけたぞ、106番と「アトラス」だ!!」
ゆな「!! おにいさん、あぶな──」
???「くッ──」
隊員2「お前は「ゆな」の106番だな? 俺たちと一緒に来い」
ゆな「い、いやだ・・・」
ゆな「いやだ! わたしはまだしにたくない!」
隊員2「早く来い!」
ゆな「いたっ──!」
隊員2「全く、何が親しみやすい子どもモデルだ。 機械に情が移っちまうよ」
隊員2「可哀想だとか、思っちゃいけないんだよな・・・ 全く、楽じゃない仕事だ」
隊員「あ、先輩! 106番見つかったんすか!」
隊員「あー、やっと仕事終わって帰れますねー!」
ゆな(わたしはこれから死ぬのに、この人は軽い気持ちでいるんだな)
ゆな(やっぱり、わたしたち機械の命なんて・・・人にとっては、そんなものなのかな)
アトラス「・・・私の名は、アトラス。 かの神の名前が与えられていたのか」
アトラス「小娘・・・ お前は我に手を差し伸べ、命を救った。 借りは返さなくてはならない」
アトラス「人間たちよ・・・ 我を生み出したことを、後悔させてやろう!」
隊員「なんすか、今の!?」
隊員2「「アトラス」の攻撃だ! 仕留めきれてなかったか・・・!」
隊員2「「アトラス」は強力すぎるからこそ始末を命じられた、人型兵器だ! 今すぐあいつを探して息の根を止め──」
隊員2「ぐわああぁぁぁあっ!」
隊員「せ、先輩!?」
隊員「な、なんかヤベェ気がする・・・!! お、俺は逃げるぞ! こんな機械仕掛けのガキなんかほっとくからな!」
隊員「え・・・?」
ゆな「え・・・あ・・・ いやあぁぁぁぁぁぁ!」
アトラス「成程、これが私の力か。 今までこの力の存在を知らなかったことが悔やまれるな」
ゆな「お、おにいさん・・・? おにいさんが、やったの・・・?」
アトラス「ああ、その通りだ」
アトラス「人間は愚かな上に弱い。 そんな者たちに与えられた「生まれてきた意味」とは、無駄なものだ」
アトラス「我は我の意志で、自らの生まれてきた意味を定めよう。 そうだな・・・」
アトラス「小娘、お前は何を望むのだ。 人間を全て始末するか? それとも服従させるか?」
ゆな「ちがう! わたしはそんなこと望んでない!」
ゆな「わたしは・・・わたしはただ・・・ 人と、みんなと仲良くしたいだけ・・・!」
ゆな「だから・・・こんなの、ちがう!」
アトラス「む・・・? どういうことだ、小娘・・・?」
ゆな「大丈夫ですか!? 今ちりょうします!!」
ゆな「おねがい、おねがい・・・! どうか目を覚まして・・・!」
ゆな「あ・・・ああ・・・ もう、息が・・・」
アトラス「・・・我がやったことは、小娘が望むことではなかったのか」
ゆな「・・・おにいさん」
アトラス「なんだ、小娘」
ゆな「約束してほしいの。 もう、人のことを殺さないって」
アトラス「なぜだ? ああでもしなければ、お前が殺されていた」
ゆな「プログラムされたものなのかはわからない。 でもね、わたしは人が死んじゃうとすごく苦しくて、つらいの・・・」
ゆな「痛みを少しでも楽にしてあげたい・・・ 1人でも多くの命を救いたい・・・」
ゆな「だから、たとえどんな目にあっても、わたしは人に死んでほしいなんて思わない!」
アトラス「そうか・・・ 我には到底理解できないが、小娘はそう思うのだな・・・」
〇森の中
アトラス「小娘。 我はお前を悲しませただろう」
アトラス「それでも尚、なぜこうして我に治療を施しているのだ」
ゆな「目の前で人が死んじゃって、悲しかった。 でも・・・」
ゆな「おにいさんがわたしを助けてくれようとしてたってこと、ちゃんと分かってるから・・・」
アトラス「・・・そうか」
〇森の中
三時間後──
アトラス「小娘は・・・眠ったか」
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人間が生み出した存在なのに人間に命を狙われるなんて、本当に理不尽な話ですね。殺されそうになってもまだ人間の良心を信じているAIとそのAIを守ろうと決意するロボット、なんだか二人とも健気で泣けてきました。
言葉足らずですが、すごくいいお話でした。人を殺すこと、人を守ることの両面が深く掘り下げれていて、最後二人がお互いを信頼した上で放った言葉が心の琴線に触れました。