サラマンダーは恋に焦がれる

一塚保

サラマンダーは恋に焦がれる。(脚本)

サラマンダーは恋に焦がれる

一塚保

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〇赤レンガ倉庫
亜人:マスター(支配人)「今日こそ貴様との決着をつけてやる!!」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「良いだろう。正義の剣、受けてみよ!!」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「悪を一刀に斬り伏せる!! 秘技-KAITOU ZANMA-!!!!」
亜人:マスター(支配人)「こちらも"魅せて"あげましょう! 絶技-コズミック・パレード-!!!!」
「ブォォォオォォ!!!!シャァァァァ!!!!」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
  ”亜人”と”旧人類”
  世界が二つに分かれ、百年が経とうとしている。
  表向き平和的に対談を続けているが、小さな争いは絶えない。
  亜人組織『解放戦線』は、亜人の力をふるい──
  旧人類組織『世界連合』は、特殊スーツに身を包んだ”ヒーロー”で対抗していた。
亜人:サラマンダー「・・・俺はそんな世界で、」
亜人:サラマンダー「人に恋をしてしまったんだ」
  『サラマンダーは恋に焦がれる』

〇テーブル席
稲田雛「いらっしゃいませ!」
  ここは”エウルーゼ”。
  チーズケーキの美味しい、小さなカフェだ。
稲田雛「良かった田中さん! ケーキ最後の一個ですよ♪」
  そして彼女が、
  僕が憧れる稲田雛さんだ。
田中優一「よかった。 今日もそれで、お願いします」
稲田雛「かしこまりました♪」
稲田雛「ここのところ、毎晩来てくれますね。 ありがとうございます♪」
時田静「田中くん。今日も遅かったね。 仕事、忙しいのかい?」
田中優一「いえ、それほどでも・・・・・・」
  カフェのオーナー時田さんは
  常連客と話すのが生きがいだ。
  仕事の大半は稲田さんが行っている。
  ――そんな手際の良さも、彼女の素敵なところだ。
  僕はこのカフェで過ごす時間が
  一番大切だった。
稲田雛「はーい。 ”NYチーズケーキ”お待たせしました」
稲田雛「ほらオーナー。 早く珈琲淹れてこないと、 田中さん食べ終わっちゃいますよ」
時田静「そうだそうだ。つい話すぎてしまった。 今日は特別なマンダリンが入ってね、 味わって飲んでくれよ」
  僕は亜人であることを隠して、
  このカフェに毎日来ている。
  この時間が一生続けば良い・・・。
  しかし、僕がこの姿でいられるのは
  このわずかな時間だけだった。

〇実験ルーム
  亜人組織:解放戦線
   本部研究施設内
  亜人:ドクトル
  亜人の能力を解析、調整、進化させる。
  しかも解析した能力を、
  自分で少し使えるようになる。
亜人:ドクトル(博士)「”サラマンダー”よ。 調子はいかがかな?」
亜人:ドクトル(博士)「ああ。 少しずつだが、この姿の時間も伸びてきた 感謝するよ」
  ドクトルの薬により、
  自分の炎を抑えられるようになったのは、
  つい半年前のこと。
  いまでは数時間保つが、
  最初は数分しかもたないものだった。
田中優一「初めは死ぬかと思ったが、」
田中優一「いまでは加減もわかってきたよ。 礼を言う」
亜人:ドクトル(博士)「何を言う。 わしこそ、おぬしの発火能力、 そして炎を操る能力で──」
亜人:ドクトル(博士)「こんな上手いパンが焼けるように なったわい!」
田中優一「そうか。 それは良かった」
亜人:ドクトル(博士)「・・・」
亜人:ドクトル(博士)「なんじゃ。つまらん反応じゃのう!」
亜人:ドクトル(博士)「それにしても、 亜人のお前さんが”人間になりたい”」
亜人:ドクトル(博士)「一体、その女子の どこに惚れておるのじゃ?」
田中優一「そういうのは、やめてくれよ──」
亜人:ドクトル(博士)「ハッハッハ! なに、いずれお目にかかるじゃろう。 いまから楽しみだわい!」
田中優一「そうなるように頑張るよ。 ドクトルこれからも頼りにしてるよ」
亜人:ドクトル(博士)「うむ。 ”亜人”と”旧人類”は同じだと、 おぬしが証明してくれるのを楽しみにしておるよ」

〇ボロい倉庫の中
  亜人名”マスター”が、
  ヒーロー”Zanma”を追い詰めた。
亜人:マスター(支配人)「フハハ・・・・・・ ハーッハッハッハ!!」
亜人:マスター(支配人)「散々苦しめられてきたが、 Zanma、ついに追い詰めたぞ!」
亜人:サラマンダー「・・・・・・」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「二対一か・・・・・・ マスター、貴様にしては慎重な動きだと思ったが、誘導されていたとはな」
  マスターの策謀により、
  斬撃の通りにくい路地裏を利用し、
  爆弾を用意した、
  とある倉庫へと誘い込んだのだ。
  何より、
  私が"亜人を引退する"ことで、
  マスターが花道を用意してくれたのだ。
亜人:マスター(支配人)「Zanma!! これで終わりだ!!!!」
  マスターから合図が来る。
  僕は――俺は、その導火線に火を付けたのだ。
  だが、その爆発は聞いていたよりも大きく
  火を付けたらさっさと逃げる予定だった道が、爆発で塞がれてしまった。
亜人:サラマンダー「マスター!? これはどういうことだ!?」
  すると、爆発音の合間から、
  耳を疑うマスターの返答が聞こえてきたのだった。
亜人:マスター(支配人)「大丈夫、予定通りさ!!!! お前さんも、一緒に片づけろとのお達しだからな!!!!」
亜人:マスター(支配人)「ハッハッハッハッハッハ!!」
亜人:サラマンダー「なっ」
  そして、僕の頭に一人の顔がよぎった。
  何に命を狙われた理由は分からない。
  だが、私がわざわざ組織から殺される理由なんて──
  『"亜人"を辞めようとしている』から
  ――それしか推測できなかった。
亜人:サラマンダー「く、くそおおお!」
  脳裏にヒナさんの姿が思い浮かぶ。
  向かい側からZanmaの咆哮も聞こえてきた。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「ぐっ!!!! うおおおおお!!!! こんなところで果てる訳にはいかないのだ!!!!!!」
  激しい爆発の中、
  爆風、そして飛来物を斬撃でしのいでいる。
  Zanmaは僕に気づいたようだ。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「貴様!? 自分で爆発させておいて、 一緒に死ぬ気か!?」
亜人:サラマンダー「そうらしい。 ”自分の炎”は操れても、ここまでの”爆発”は──」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「――裏切られたか」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「ええい!! 生き残りたければ、その炎を我が斬撃に乗せよ!!!!」
亜人:サラマンダー「な、なに??」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「火の海になる前に、この高速の斬撃で、道を作る!!」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「死力を尽くせ!!」
亜人:サラマンダー「くそっ!! やってやるよ!!!!」
  炎をまとった斬撃が飛ぶ。
  Zanmaと俺の正面に、一瞬だけ道ができた。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「行け!!!!」
  駆けだしたと同時に、
  俺たちの背中からひと際大きな爆発が起こる。
  爆風に飛ばされ、
  Zanmaと俺は激しい爆風に背中を押され、
  斬撃でこじあけた穴から吹き飛ばされる。
  その衝撃に、俺は気を失ったのだった――。

〇赤レンガ倉庫
亜人:サラマンダー「ぐ・・・ぅぁ・・・」
  意識が戻ってくる。
  地面に転がっている感触があった。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「生きているか・・・?」
亜人:サラマンダー「ああ・・・」
  倉庫の壁や屋根、
  吹き飛ばされた残骸が周囲に転がっている。
  爆発が大きすぎたためか、
  周囲の建物にも火災が広がっているようだ。
  人々の悲鳴が遠くから聞こえる。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「ぐ・・・」
  その声を聞いてか、
  Zanmaは身体を起こし、そちらへと向かおうとする。
  その背中に僕は思う。
  これがヒーローなのだ、と。
亜人:サラマンダー「俺も行こう・・・」
  Zanmaは足を止め、俺を振り返る。
  一瞬目があったが、特に何も言わず歩き出した。
  しかし、Zanmaはすぐに足を止めた。
  マスターが立ってた
亜人:マスター(支配人)「しぶとい奴らめ」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「フッ 正義は不滅なのだよ」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「卑怯な手でやられるヒーローではない」
亜人:マスター(支配人)「いいだろう」
「ブモォォォォォ!!!!シャァァァァァ!!!!」
  Zanmaと、マスターのしもべ達の、
  激しい戦闘が始まる。
  普段であればZanmaの秘技で蹴散らされていたが、今日は拮抗している。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「くっ・・・」
  爆発の余韻が大きい。
  足元がふらつきながら戦っている。
亜人:サラマンダー「Zanma!! 俺に合わせろ!!」
  爆発の深手がお互いに大きい。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「!!!! 信じるぞ、サラマンダー!!!!」
  先ほど脱出した時のように、
  斬撃と炎が合わさり、二体を蹴散らす。
「ブモォォォォォ・・・シャァァァア・・・」
亜人:マスター(支配人)「ぐぬぬぬ ここまで深手を負って、まだ私の攻撃を受けきるか。死にぞこないめ!」
亜人:マスター(支配人)「・・・・・・ かくなるうえは」
亜人:サラマンダー「なっ それは」
亜人:マスター(支配人)「猶予はやらん!! くらうがいい!!」
  それはドクトルが開発してくれていた
  ”例の薬”だ!!
  噴霧された薬品が俺の身体にかかる。
亜人:サラマンダー「ぐ、ぁああ」
  薬がかかった部分から、発火能力が限界まで引き上げられる。自らの身体も燃やし尽くすほどの熱量。
  普段であれば調整しながら使う薬品。
  使いすぎたらそれだけで死ぬと言われていた。

〇赤レンガ倉庫
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「くっ これは一体!?」
亜人:マスター(支配人)「ハーハッハッハ!! サラマンダーはこれで自ら勝手に燃え尽きるわ、ドクトル様の計画通りよ!!」
亜人:サラマンダー「くっ―― うぉぉぉぉぉ!!!!」
亜人:マスター(支配人)「なっ──」
  俺は効果力の炎を、マスターに向けて放った。
  炎は閃光のようにマスターを貫き、焼き尽くした。
亜人:サラマンダー「しかし・・・」
亜人:サラマンダー「Zanma!! 離れるんだ!! お前も巻き込まれるぞ――ぐおおおおお」
  炎がひと際大きくなり、
  周囲の倉庫にも燃え移ろうとする。
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「サラマンダー・・・ 最期に何か言い残すことはあるか」
  Zanmaが炎の手前に踏み込みながら、剣を構えている。
亜人:サラマンダー「・・・行きつけのカフェで、謝っておいてくれ」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「フッ」
ヒーロー:-Zanma-(ザンマ)「わかった!」

〇テーブル席
  亜人”サラマンダー”そして”マスター”の目撃がなくなって、数か月が経った。
稲田雛「いらっしゃいませ!」
  カフェ”エウルーゼ”に、男性が一人入る。
  鉄柳幸一・・・
  彼は世界連合に属するヒーロー。
  ヒーロー名:-Zanma-だった。
鉄柳幸一「これを頼む」
  珈琲の回数券だった。
稲田雛「はーい、こちらですね♪」
稲田雛「・・・」
  だが、それは端が焦げ、
  裏には田中優一・・・サラマンダーの本名が入っていた。
稲田雛「え!? お客さん、これはどこで・・・」
鉄柳幸一「彼との約束でね」
  雛は何か言おうと口を開きかけたが、複雑に表情を変え、結局何も言わずに受け取った。
  彼女が裏に入ろうとした所で、カフェの入り口で音が鳴る。
稲田雛「いらっしゃいま──」
田中優一「お久しぶりです」
  意識を取り戻すのに一か月。
  焼けただれた皮膚を再生する手術を経て、3か月を要した。
  結果的に、僕は解放戦線の亜人としてではなく、世界連合に個人として助けてもらったのだ。
稲田雛「田中さん!! 本当に久しぶりです!!」
鉄柳幸一「こっちだ」
鉄柳幸一「今日こそ良い返事をもらうぞ」
  Zanmaが機転を利かせ、僕を海に突き落とさなかったら・・・そして亜人であることを隠して手術をしてもらえなければ
  ここにこうして立っていることはなかっただろう。
  交換条件として僕は世界連合に”ヒーロー”として力を貸す──
  だが、その前に。
  雛さんに向き合う。
田中優一「本当に、ここに来るまで”時間がかかりました”」
田中優一「ヒナさん、お仕事のあとお時間良いですか?」
田中優一「今日は、 ”未来の話”をしにきたんです」
稲田雛「・・・」
稲田雛「わかりました」
稲田雛「どんな明るい話か、楽しみにしてますね」

コメント

  • 恋愛や仲間の裏切りを経験してサラマンダーと田中優一の間で揺れ動く心の機微がきめ細やかに描写されていて、最後まで夢中で読みました。炎を自在に操るサラマンダーも、自分の心に燃え盛る恋の炎は操れないんだなあ。

  • 終わり方がすこぐハッピーエンドで良かったです!
    色々ともうだめかと思いましたし、あぁ助からず代わりにカフェに来て…って半ば諦めてました笑

  • 久しぶりにサラマンダーこと田中君が来店して、彼女がどれほど歓喜したか、その雰囲気がすごく伝わり、人種の超えた恋の始まりが切なく美しく感じられました。

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