エピソード1(脚本)
〇島国の部屋
りん「ただいまー! ・・・・・・うわっ」
快人「いいかげん、慣れなよ」
りん「無理。いつも言ってるでしょ、お客さん来たら困るから、ちゃんと人間の格好してって」
快人「大丈夫だよ」
快人「大概のお客さんはネットで依頼してくるし、もし訪ねてきたって、りんみたいにいきなりドアを開けないから」
りん「それは、ここがわたしの家だから。 大家のわたしの言うことを聞きなさいよ」
快人「大家はキミのおじいちゃんでしょ」
快人「キミはここを貸してもらっているだけ。 しかも家賃はキミの両親が払ってるし」
りん「しょうがないじゃん。 ここに住むのが、一人暮らしで東京の大学に通う条件なんだから」
りん「確かに大家はおじいちゃんだけど、このメゾネットタイプの一階部分を事務所兼寝床として貸してあげてるのは、わたしでしょ」
快人「ぼくを拾ったのは、りんでしょ。飼い主なんだから、それくらい責任持たなきゃ」
快人「それに、ぼくは家賃と生活費をちゃんと払っているよ」
りん「で、仕事はどうなの?」
快人「もちろん、順調。今日も犬3匹、猫5匹、ニワトリ1羽見つけたよ」
快人「そのうち、1匹が体調を崩していたから、いつものように獣医のしずちゃんに預けたけど」
りん「さっすがー! 人間に化けるのもびっくりだけど、その嗅覚もあいかわらずすごいわね」
快人「でしょ。「探し屋」として稼げるのも、この嗅覚のおかげ」
りん「最近は、口コミで依頼が増えてきたものね」
快人「早く人間として戸籍を手に入れて、正式に探偵業をすれば人探しもできて、もっと稼げるんだけどな」
りん「そうだけど、よくお医者さんをだませたよね、人間だって・・・・・・」
快人「記憶がないのは本当だし、ぼくの擬態は完璧だからね。細胞まで同じにできる」
りん「よく言うわ。女の人になろうとしても、犬になろうとしても、顔はその顔にしかならないじゃん」
快人「さて、それじゃ、次はこの子を探しに行くかな」
りん「ごまかしたわね」
りん「わたしも行っていい?」
快人「もちろん」
〇通学路
りん「それ、どうにかならない? 這いつくばって、においを嗅ぐの」
快人「だって、このほうがよくわかるから」
主婦A「やだ、奥さんたら!」
主婦B「だってえ、あはは!」
りん「人が来た!」
快人「りんもしゃがんで」
りん「ないねー、コンタクト」
快人「うん、見つからないね。どこかなー?」
りん「近所の奥さんたち、どうにかスルーできたみたい。こんなときのために、犬に擬態できればいいんだけど・・・・・・」
快人「・・・・・・」
快人「あ、たぶん、あっちの公園にいるよ」
〇公園の砂場
りん「ほんとにいた!」
快人「おいで、ちゃーちゃん。 キミのおうちへ帰ろう」
ちゃーちゃん「あん!」
快人「ちゃーちゃん、いい子だねー。 素直に来てくれて」
りん「それ、快人になついているの? それとも、怖くて命令に従っているの?」
快人「さあ? でも、みんなこんな感じでいい子だよ」
〇島国の部屋
りん「ちゃーちゃん、よかったね。 飼い主さんも、すごく喜んでくれたし」
快人「うん、無事でよかった。亡くなっていた子を届けるのは、やっぱりつらいから」
快人「それにしても、お礼にもらったこのお菓子、おいしいな」
りん「それで晩ごはんにしようとか、思わないでね。体壊したら、元も子もないよ」
ピンポーン!
快人「いらっしゃいませ」
美咲「こちら、探し屋さんですよね?」
りん「はい。何をお探しですか?」
美咲「あの、主人、主人を探していただけますか?」
快人「すみません、探偵業の届出をしていないので、人探しはできないんです」
快人「警察に行かれては・・・・・・」
美咲「・・・・・・」
美咲「警察も事件性を疑って、探してくれてはいるのですが、手がかりがなくて・・・・・・」
りん「ねえ、探してあげたら?」
快人「しかし・・・・・・」
りん「個人的な人探しのお手伝いなら、問題ないんじゃない?」
りん「わたしとお客さんが友達ってことにして、ギャラを受け取らなければ」
美咲「でも、それでは・・・・・・」
りん「もちろん、しっかりいただきますよ」
りん「ご主人が戻られたら、ご主人がなくした物を探したことにして」
快人「うーん、警察が事件性を疑っているとなると・・・・・・、無事に発見できるとは限りませんよ」
快人「それでも・・・・・・?」
美咲「はい、覚悟はできています」
りん「それでは、くわしいお話を聞かせてください。捜索は明日からでいいですか?」
〇島国の部屋
りん「ご主人の拓也さんが失踪したのが、6日前の夕方。X県の得意先に行った帰りだったわね」
りん「で、2日後に車が見つかったのが、X県のこのキャンプ場の近く・・・・・・」
りん「ねえ、ここって・・・・・・」
快人「うん」
快人「半年前、キミがぼくを拾ったところが、ここ」
快人「あそこは都内だし、間に山があるから気づきにくいけど、実はこのキャンプ場と直線距離は近いんだ」
りん「そうか、もう半年たったんだね」
りん「あの日は、車の免許をとって初めての一人ドライブだったんだ」
りん(なんだか放っておけなくて)
快人「どうりで、なかなかスリリングなドライブだったよ。ちょっと酔っちゃったし」
快人「早く、車の免許も取りたいなー」
りん「明日も、わたしの運転だけど、文句ある?」
りん「・・・・・・それにしても、現場が近いのが気になるわね」
りん「この失踪事件、快人と何か関係があるのかな?」
快人「もしかして、ぼくが拓也さんだったりして。で、悪の組織に改造人間にされて・・・・・・」
りん「特撮の見過ぎ! それとも、美咲さんに鼻の下伸びきっちゃった?」
りん「だいたい、いつも同じ顔にしかなれないんだから、万が一快人が人間だったとしても、元の顔はきっとその顔なんじゃないかな」
りん「拓也さんとは別人だよ」
りん「・・・・・・快人?」
快人「いや、なんだかいやな予感がする・・・・・・」
〇林道
美咲「このキャンプ場の駐車場でした、主人の車が見つかったのは」
快人「ご主人の持ち物は?」
美咲「はい、車に残っていたカバンです」
快人「お預かりします」
地元の老人「おまえさんたち、早くかえりなさい。 ここは化け物が出る」
りん「化け物?」
地元の老人「そうじゃ、ここ数日、ここいらのキャンプ場で、キャンパーが襲われとる」
地元の老人「被害にあった連中はみんな、化け物に襲われたと言っておった・・・・・・」
りん「快人・・・・・・」
快人「いや、ぼくじゃない」
美咲「でも、主人がこの近くのどこかに・・・・・・」
地元の老人「あきらめなされ。 おそらく、もうその化け物に・・・・・・」
美咲「ひっ・・・・・・!」
りん「美咲さん、しっかり」
キャンパーA「たすけて!」
キャンパーB「化け物だ!!」
キャンパーC「逃げろ!」
快人「りん、美咲さんとご老人を連れて逃げろ!」
りん「うん! ・・・・・・あっ!」
美咲「きゃあっ!」
化け物「ガルル・・・・・・っ!?」
りん(あれ? 美咲さんを見て、動きが止まった?)
地元の老人「逃げた! ・・・・・・助かったわい」
快人「早く、美咲さんを車へ」
りん「快人は?」
快人「ぼくは、奴を追う」
りん「まさか、さっきの怪人は・・・・・・」
快人「ああ、そうだ。間違いなく、あのにおいだ」
りん「気をつけて」
〇岩山
快人「まて! 拓也さんなんだろ!?」
拓也「そうだ。 早く、美咲を連れて、帰ってくれ!」
快人「何があったんだ?」
拓也「・・・・・・わからない。キャンプ場近くに倒れている人がいて、車を降りたところで意識を失ったんだ」
拓也「何かの研究施設のようなところで気づいたときには、この姿になっていた」
拓也「なんとか、そこから逃げてきたんだが、だんだん意識を保っていられる時間が短くなってきて・・・・・・」
拓也「たぶん、知らない間に人を襲っている。完全に化け物になってしまう前に、美咲を連れて逃げてくれ」
拓也「そして、俺が死んだと伝えて・・・・・・ うっ、ぐぅ・・・・・・、ううう、うおーっ!!!」
快人「意識を飲まれたか?」
快人「!」
快人「生憎だな。ぼくは簡単にはやられないよ。それに、美咲さんのためにキミを諦めるわけにはいかない」
快人(だけど、どうする? 元に戻す方法もわからない。いや、そもそも元に戻れるのか?)
快人「うっ! しかたない」
拓也「ぐっ」
快人「うっ」
拓也「ううっ」
快人「しつかりしろ、拓也さん! 美咲さんが待ってる! あの人を1人にするなよ!」
快人「うおっ」
拓也「グエッ」
快人「ぼくは成功率100%の探し屋だ。 必ず、キミを連れてかえる!」
快人「ううっ」
快人(くっ、ここでやられたら、りんが怒るな・・・・・・、いや、泣く・・・・・・か)
りん「しっかりしなさい、快人! 負けたら承知しないわよ!」
快人「りん、なんで、こんなところに!? 早く逃げろ!」
快人「あうっ」
りん「逃げないわよ! 偉そうに言わないで! 圧されてるくせに!」
快人「やっぱり、怒るだな」
りん「何?」
快人「なんでもない」
快人「・・・・・・うおおっ!」
拓也「グッ、グエッ」
りん「行っけー、快人!」
りん「あっ、でもなるべく怪我はさせないで!」
りん「やった、戻った!」
りん「大丈夫!? 拓也さん!?」
快人「りん、拓也さんは!?」
りん「生きてる! 気絶しているだけみたい」
快人「よかった」
りん「どうして戻ったのかな?」
快人「わからない。 だけど、何かが割れる音がした」
りん「とにかく、キャンプ場のところまで山をおりよう」
りん「美咲さんも心配しているし、ここじゃ救急車も入れないし、ああ、スマホの電波も入らないや」
快人「ああ、そうだな」
りん「快人、大丈夫? 怪我しなかった?」
快人「大したことない」
快人「拓也さんは、ぼくが背負っていくよ」
〇島国の部屋
数日後
りん「拓也さん、今日、退院したって。特に異常はないみたい。お手柄だったね、快人」
快人「ああ」
りん「・・・・・・どうしたの?」
快人「・・・・・・なんでもない」
りん「もしかして、快人も人間なのかな? 拓也さんみたいに改造されてたりして」
快人「さあね」
りん(それで、いつか元に戻って、わたしと・・・・・・。そうなったら、いいな)
りんが「快人を拾った」って比喩表現かと思ったら途中のスチルに吹き出しました。文字どおり拾ったんですね。二人の関係性が読んでいてすごく心地よいので、ずっと一緒にいてほしい。ドラマティックな展開が生まれやすい「探し屋」という設定も👍です。
怪人とリンの会話が微笑ましく和みました。性格の良さが出ていて、仕事の依頼も増えてるんだろうな?
後半は依頼された案件を守ろうする怪人としての怪人の活躍。謎が解明される日はくるのか?
カイジンの特異性をつかったもの探しという設定にとても好感もてました。子の怪人の場合、性格もよさそうなところが余計に仕事の成功率を高めるのでしょうね。